宇都宮でライトレール、専門家が体験 走行音・勾配は?
鉄道の達人 鉄道ジャーナリスト 梅原淳
栃木県内で宇都宮市と芳賀町とを結ぶ新しい路面電車「宇都宮芳賀ライトレール線(以下ライトレール線)」が8月26日に開業した。宇都宮駅東口停留場と芳賀・高根沢工業団地停留場との間の14.6キロメートルを走る。運行するのは宇都宮ライトレールという鉄道会社で、車両はライトラインと呼ぶ。
このライトレール線のあらましは2022年2月7日公開の記事で紹介したとおりだ。
社名、線名、車両名にいずれも「ライト」と付けられていることからもわかるとおり、鉄道のなかでも軽量で軽快な部類の乗り物で、LRT(Light Rail Transit=ライト・レール・トランジット)とも呼ばれる。路面電車の進化形と位置づけられていて、気軽に利用できる路面電車の長所はそのままに、乗り降りをよりしやすく改め、定時性や速達性、快適性が高められているのが特徴だ。
ライトレール線には開業と同時に多くの利用者が押し寄せ、連日うれしい悲鳴を上げているという。すべての線路を新設したのは日本初だというこのLRTを筆者も体験すべく、9月6日に乗車してきた。その体験をもとにこの鉄道の様子を紹介したい。
何もかも新しい広場として整備された宇都宮駅東口の1番線から筆者を乗せたライトラインは午前11時58分に出発した。動き出してすぐに左への急カーブを曲がっていく。半径は25メートルとライトレール線では最も半径の小さな曲線である。通常の鉄道ではこのような急カーブで車輪がキーキーと音を立てながら通過するのがしばしばだ。ところが、ライトラインは少々ゴーッと音を立てるものの、静かに通っていく。レールに水をまいたり、油を塗ったり、といった対策が考えられるが、どちらも行われている気配がない。詳細をご存じの方、教えていただければ幸いだ。
3車体で1組となる定員160人のライトラインのうち、50人分が用意された座席は宇都宮駅東口を出発する時点ですべて埋まっていた。立っていた客は筆者を含めて20人ほどであろうか。通路は狭いので多くは乗降口の前を占めていた。
宇都宮駅前の急カーブを曲がり終え、最初の交差点を渡ると鬼怒通りに乗り入れ、ライトラインは道路上を走っていく。道路を200メートルほど走行し、東宿郷(ひがししゅくごう)交差点を渡り終えると、交差点と同名の停留場・東宿郷となる。早くも降りる人がいて、空席が現れた。
ライトラインは引き続き鬼怒通りを東に進み、駅東公園前停留場に停車する。出発するとすぐに上り坂となり、道路と併用のまま高架橋となって国道4号を越えていく。
駅東公園前停留場から3つ目の宇都宮大学陽東(ようとう)キャンパスは停留場名となった宇都宮大学が近いほか、大規模なショッピングモールである「ベルモール」もあることから、多くの旅客が乗り降りする。
ライトラインはここからさらに500メートルほど東に進んだ後、再び高架へと向かって上っていく。ただし、先ほどとは異なり、ライトレール線単独で、軌道も道路上に敷かれた併用軌道ではなく、バラスト(砂利、砕石)が敷かれた一般的な鉄道の姿を見せる。東から南、そして東へと向きを変え、ライトラインは高架を降りてきた。ほどなく平石停留場だ。ホームの両側に線路が敷かれた大規模な停留場で、将来運転が予想される快速が各駅停車と待ち合わせを行うらしい。
先ほどの高架橋以降、ライトレール線は道路とは独立した場所に線路が敷かれている。ただし、軌道の姿を見ると、一般的な鉄道のようにバラストが露出したものもある一方、路面電車然、つまり道路上に敷かれた場所も多い。将来は自動車と一緒に走行するのであろうか。
平石停留場から4つ目の清原地区市民センター前停留場では珍しく進行方向右側の扉が開く。ライトラインでは2車体目と3車体目の前方の右側に乗降口がない。乗降口の位置は前後対称だが、左右対称ではないのだ。進行方向右側の扉が開くと知った乗客が目の前に扉がないと一瞬慌てる光景が見られた。
ライトラインが清原地区市民センター前停留場を出発した直後、左に大きく曲がり、清原中央通りを北進する。線路はこの通りとは独立して敷かれていて、複線の線路が通りの東側に寄せられた。カーブを曲がってこの通りに入る際、横断歩道を渡る歩行者がいないかどうか確かめるため、ライトラインは一時停止して通過している。
清原地区市民センター前停留場の次のグリーンスタジアム前停留場を出発した後、ライトラインは三たび高架橋へと上り、野高谷町(のごやまち)交差点を右に曲がりながら越えていく。長時間の信号待ちを避けるため、交通量の多い交差点を立体交差で通過できるのも新規開業のLRTの利点であろう。
高架橋を降りると線路は再び道路上に敷かれている。ゆいの杜(もり)と呼ばれる新興住宅地で、道路沿いにはホームセンターやファミリーレストランなどが立ち並ぶ。
東に進んできたライトラインはゆいの杜東停留場から2つ目の芳賀町工業団地管理センター前停留場で左に曲がり、北に向かう。そのライトラインの目の前に大きな谷が現れる。急坂を下った後にすぐにほぼ同じだけ上る様子が運転席越しにも見て取れ、線路はまるでジェットコースターのようだ。線路の最大勾配は鉄道車両にとっては過酷な60パーミル(水平方向に1000メートル進んだとき60メートルの高低差が生じる勾配)だそうで、ライトレール最大の難所のひとつといってよい。
終点のひとつ前のかしの森公園前停留場で旅客の多くが降りていく。人がまばらとなった車内の雰囲気を感じる間もなく、ライトラインは終点芳賀・高根沢工業団地停留場に到着した。時刻は定刻通りの午後0時46分。あっという間に着いた印象が強く、48分も乗っていたとは思えない。
開業したばかりなので宇都宮ライトレールの車両も線路も当然新しく、乗り心地はよいし、美しく整備されている。この先、何年かたってもこの状態が維持され、多くの利用者でにぎわっていることを願いたい。
1965年(昭和40年)生まれ。大学卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。「JR貨物の魅力を探る本」(河出書房新社)、「新幹線を運行する技術」(SBクリエイティブ)、「JRは生き残れるのか」(洋泉社)など著書多数。雑誌やWeb媒体への寄稿、テレビ・ラジオ・新聞等で解説する。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
【宇都宮LRTに関する連載はこちら】
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