子供持たない人が急増 安全網と財源、早急に議論を
「#生涯子供なし」識者はどう見る① 一橋大学・小塩隆士教授
生涯無子率の上昇は、社会保障制度の観点からはどう位置づけられるだろう。一橋大学の小塩隆士教授(公共経済学)は、子供を持たない人が増えるのは「当然の帰結」とした上で、「その人たちの高齢期をどう支えるかの議論は手つかず」と警鐘を鳴らす。

――子供を持たない人が増えています。
「社会保障制度は主に若い世代が高齢者を支えることを想定していて、子供が増えていかないとうまく維持できない。一方で、年金や介護保険などが充実して自分の老後を社会が支えてくれるとなると、子供を作る必要性が薄れていく。一番極端な例が、子供がいない人の増加だ。これは当然の帰結といえる」
――それでいいのでしょうか。
「冷たい言い方をすれば、子供を持たない人は次世代が支える社会保障にフリーライド(ただ乗り)していることになる。だが、これは人間の自然な姿じゃないかと思う。制度があれば自分にとって最も良い形で使うというのは合理的だ。その人が悪いわけではない。社会保障制度は、自分で自分の首を絞める仕組みを内包しているということだ」
――どうしたら維持していけますか。
「政府が介入する必要がある。保育サービスや児童手当の拡充、教育費の無償化などで、子供を持つ負担を減らすことがその代表例になる。シングルマザーでもシングルファーザーでも事実婚でも里親でも、ライフスタイルにかかわらず次世代を育成している人は支援するようにする」
――独身税を取ればいいという議論も時々出ます。
「独身かどうかは議論の対象にすべきではない。あくまでも子供の有無で考えるべきだろう。むしろ今の日本には、年金では会社員の妻は保険料を納めなくてよい『第3号被保険者』制度があったり、税では年収が一定以下の妻がいると『配偶者控除』を受けられたりする。こうした結婚しているだけで負担を軽くするような制度はなくしていくべきだ。そこで出た財源を次世代の支援に回せればなおよい」
――子供を持たないまま高齢期を迎えて、本人は心配ないでしょうか。
「今のままでは危ういと思う。例えば介護では、配偶者も子供もいない単身者は早期に施設に入る必要がある。しかし厚生労働省は『施設から在宅へ』を掲げて、介護施設をほとんど増やしていない。医療機関や介護事業者、自治体などが連携して高齢者を地域で支える『地域包括ケア』を進めるというが、それは家族が中心となって支えることを前提としていないか。単身者の急増に対応できるのか疑問がある」
――対策は進んでいないのですね。
「今はまだ子供を持たない人の多くが元気だったり、親と同居していたりして、問題が発生していないから役所はあまり対応する気がない。しかし、今40〜50代の就職氷河期世代で、安定した雇用につけず、年金保険料を十分に払ってこなかった単身者が高齢になったとき、様々な問題が顕在化するはずだ。ある程度の収入を得て働いてきた人でも、一度けがや病気で働けなくなれば、突如不安定な生活に落ち込むリスクもある」
――金銭面に限れば、最後のセーフティーネットとして生活保護があります。
「生活保護は本来、緊急避難的に生活を支援する制度だ。自立が難しくなる高齢期の生活を、長期にわたって支援する仕組みとしてどこまで期待できるか。財源も税金で、毎年予算折衝して総額を決める不安定な制度だ。受給したいという人が急増したときに、対応できるのか。今、子育て予算を巡っても、消費税率を上げるのは避けようとなっている。生活保護のために増税できるのか。結局、国債を発行して負担を次世代につけ回すという対応になるのではないか」
――どうしたらよいでしょうか。
「年金では、非正規で短時間労働している人にも被用者保険に入ってもらう方向の改革が進んでいる。これは単身で比較的不安定な働き方をしている人が、年金を増やすことができる良い考えだと思う。それでも抜け落ちる人はたくさんいるだろう。年金、医療、介護、生活支援など全ての分野で、家族がいない場合でも不利にならないように、どのようなセーフティーネットを築いていくか。財源と共に早急に議論を進めるべきだ」
家族に頼らない制度が必要
ほとんどの子供が結婚制度内で生まれる日本では、未婚率が高まるにつれ、無子率も上昇している。1970年に生まれた女性の3割程度が、50歳時点で子供がいない。男性は4割程度とみられる。
未婚、無子、少子高齢化、人口減少は複雑に絡み合うテーマでありながら、無子の問題や背景は日本ではあまり注目されてこなかった。子供がいない人の中には経済的に困難を抱えている人もいる。例えば非正規で働く女性の単身者で、不安定な生活の人は少なくないが、支援は手薄だ。
間もなく子供がいない高齢者が急増する社会がやってくる。それまでに我々は、家族に頼らない社会保障制度を作っていけるだろうか。
(福山絵里子)
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