研究費は「薄く広く」が効果的 筑波大学、科研費を分析
筑波大学と弘前大学の研究チームが研究費と研究成果の関係を調べたところ、高額を少人数に集中して配るより、少額を多くの研究者に配る方が画期的な成果を出せることがわかった。国は「選択と集中」を進めてきたが、基礎研究では「薄く広く配った方が効果的だ」としている。
政府が優れた研究テーマを公募する競争的資金の中で、主要な事業である科学研究費助成事業(科研費)を分析した。科研費は文部科学省所管の日本学術振興会が交付する研究助成金で、大学や研究機関、企業の研究者から研究を提案してもらい、将来性のあるテーマに支給する。基礎研究が多く、採択率は約3割だ。
1991年以降の科研費のうち、分析するためのデータが豊富な生命科学・医学関連分野の18万件以上を対象に分析した。それぞれの金額や研究代表者の論文数を調べた。
さらに科研費を受け取った研究者が出した論文に、その後、重要な研究分野に発展する可能性のあるキーワードがどれだけ入っていたかを調べた。
重要なキーワードを絞り込むため、米国立医学図書館が運営する生命科学・医学分野で世界最大の論文検索エンジン「パブメド」を活用した。パブメドではそれぞれの論文に複数の関連キーワードが割り振られている。
世界で発表された論文に含まれるキーワードのうち、年間増加率がトップ5%の23万キーワードを選んだ。さらに、そのなかで、10年後に関連論文数が10倍以上に増えるなどの条件を満たした約3600をノーベル賞級の成果につながったキーワードと位置づけた。
例えば、細胞が自ら壊れる仕組み「アポトーシス」や「iPS細胞」など、ノーベル賞につながったキーワードを多く含む。
そのうえで、科研費の1件あたりの額を「100万〜200万円」「2000万〜5000万円」「1億円以上」などと区分して、それぞれの区分に対して、政府が配った総額とノーベル賞級のキーワードが入っていた論文の数を比較した。
その結果、1件あたりの研究費が500万円以下の場合の方が、それ以上の金額を配るより、投資効率が高かった。
政府が5年ごとに定める科学技術基本計画(現在は科学技術・イノベーション基本計画)では、第2期の2001年度以降、「選択と集中」が打ち出されている。
筑波大学の大庭良介准教授は、「選択と集中よりも少額を多くの研究者に配った方が影響力の高い研究成果が出てくる」と話す。そのうえで「今回は生命科学医学に絞って分析したが、ほかの自然科学でも同様の傾向がみられるだろう」とみる。
(藤井寛子)
論文、資金、人材などのデータをもとに国、大学、企業、研究機関の研究力を分析します。