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2人で月20万円でも十分 長い老後、小さな稼ぎで豊かに

長く働いて安心老後(1)

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資産運用とともに、老後の生活資金を増やす有力な手段が長く働くことだ。実際、シニアの力を必要としている職場は増えている。無理せず健康に仕事を続けることが、心と体の幸せにもつながる。シニアの仕事とお金について考える本シリーズ。初回は著書『ほんとうの定年後』で、「小さな仕事」に満足しながら充実した定年後生活を送るシニアたちの姿を描いたリクルートワークス研究所の坂本貴志さんに、老後を豊かにするための秘訣を聞いた。

定年までに老後資金の3000万円を順調に貯められるといいが、貯められない人も少なくないかもしれない。不安に駆られる人も多いだろう。「貯められなくても過度な心配は不要」と強調するのはリクルートワークス研究所の研究員・アナリストの坂本貴志さんだ。

「確かに、年金世帯の家計が厳しいのは事実」

坂本さんはこう前置きして、総務省の家計調査(2021年版)のデータを例示する。2人以上の無職世帯では65~69歳の間に1カ月当たり約8万円、70~74歳の間には同5万円、75歳以上では同2~3万円の赤字が出ている。しかし、それはあくまで無職の場合だ。「定年後、月10万円程度の収入を確保すれば、赤字が大きい65~69歳の間も楽に乗り切れ、貯蓄を続けることも可能」と続ける。

60代の過ごし方で差が付く

「定年後も働く」と聞くと、抵抗を感じる読者も多いかもしれない。しかし、住宅ローンの返済や教育費の支出が終われば支出額は減る。たくさん稼ぐ必要はなくなる。個人差はあるが、坂本さんが提案する「月10万円程度の小さな仕事」で十分なケースが多い。

「60歳から月10万円稼げば、70歳までに1200万円、72歳までなら1500万円近い収入になる。夫婦2人で月20万円稼げば10年で2400万円。小さく稼ぐだけで、生活の余裕ができるだけでなく、老後資金を補充することもできる」(坂本さん)

働くことで、その間は年金を受け取らずに受給を繰り下げる道も選べる。「受給を5年遅らせて70歳から開始すれば、受給額は約1.4倍に増える。厚生年金に加入して働けば厚生年金部分がプラスされ、不安が募る人生の後半に手厚い収入を獲得できる」

さらに、シニアの短時間労働には追い風も吹いている。

「正規労働者の賃金は長年横ばいだが、短時間労働者の平均時給は10年前と比べて20%以上も上昇している。20年は1263円だったので、月10万円を稼ぐなら1日7時間、週3日ほど働けば十分」

だが、シニアに仕事はあるのか。坂本さんはこう解説する。

「働くシニアの割合は急増している。60歳の男性は78.9%、65歳の男性は62.9%、70歳の男性でも45.7%が働いている。その背景には退職金が減り、生活のために働く人が増えたこともあるが、働き口がそれだけあるということも意味している。社会的な人手不足もあり、仕事に困ることはまずない」

実は稼げるシニア世代

では、現在のシニアは実際にどのぐらい稼いでいるのか。リクルートワークス研究所が2019年に行った調査の結果によると、65~69歳で働いている人の平均年収は256万円。極端に稼ぐ人に引っ張られない中央値では180万円だ。70~74歳でも中央値で170万円を稼いでいる。賃金は上昇傾向で仕事もあり、収入を得る市場は整っていると言える。働ける体さえあれば、むしろ60代は絶好の稼ぎ時なのだ。

実際、シニア世代は渋々働いているわけではなく、仕事の満足度は現役時代よりも高いことがデータで示されている。リクルートワークス研究所の調査によると、45~54歳の正社員で仕事に満足している人は34.1%だが、65歳以上では56.4%。非正規社員の満足度は、45~54歳の41.4%に対し65歳以上は56.5%だ。

その理由としては、定年後は大きな責任を持つ必要がなく、好きな仕事や時間で働けることだ。「調査対象者には、ほどほどに働くことで生活にリズムが生まれ、健康にもよいと満足する声が多かった。70~80代で体力が衰えていくことを考えると、小さな仕事は多くの人にとって無理なく手堅い収入を確保できる有効な手段」

60代をどう過ごすかで老後資産の最終金額は大きく変わる。できるだけ細く長く働くことが資産だけでなく生活をも豊かにする。定年後に小さく長く働けるプランを練ることが、資産形成の仕上げとして大切な準備になりそうだ。

坂本貴志(さかもと・たかし)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト。1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院修了。厚生労働省の社会保障制度の企画立案業務を担当、内閣府の官庁エコノミスト、三菱総合研究所を経て現職。著書に『ほんとうの定年後』(講談社現代新書)。

(ライター 上田ミカコ)

[日経マネー2023年1月号の記事を再構成]

日経マネー 2023年1月号 今こそ始め時! じっくりつくる老後資金1億円
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2022/11/21)
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