資産寿命、長持ちの秘訣は「賢く働き、賢く使う」
1億円達成の黄金律(11)
充実したシニアライフを送るためには①公的年金②退職金③運用や貯蓄によってつくった蓄え――の3本柱で資金を準備することが、これまでの王道だった。しかし近年、「シニアになっても働き続けて収入を得る」という、4本目の柱が注目されている。
背景にあるのが、昔に比べて健康状態の良い高齢者が増加していることだ。いつまでも社会との繋がりを保ちたいと、就労意欲の高い高齢者が年々増えている。
2019年に世間を騒がせた「老後2000万円問題」を受け、長生きリスクに備えたいというニーズの高まりも関係している。働ける間は働いて生活費を得ることができれば、公的年金の繰り下げ受給ができるし、資産の取り崩しを始める時期も遅らせることができる。ひいては、蓄えてきた金融資産の寿命そのものを伸ばすことにつながる。「老後」のイメージはこの20年で大きく様変わりしたと言えるだろう。
上の表は、国の法令により企業の定年がどのように変化してきたかを記したものだ。1990代には60歳未満定年が禁止され、2000年代になると65歳までの①定年引き上げ②継続雇用制度の導入③定年の廃止――のいずれかの措置を講じることが求められるようになった。その後、65歳までの雇用が義務化され、希望すれば全員が65歳まで働けるようになった。20年にはさらに一歩進める形で、70歳までの就労機会の確保が求められるようになった。
企業の定年制度と年金制度
シニアの就労を後押しする制度の背景には、年金制度の改正も関係している。上の表を見ても分かるように、年金の受給開始年齢引き上げに合わせて、定年年齢が引き上げられてきた。高齢者雇用に詳しい労働政策研究・研修機構の研究員、森山智彦さんは「年金制度とつじつまを合わせるように定年制度が変わってきた」と話す。
65歳で働き方が大きく変化
定年年齢の引き上げを受け、企業の定年制度はどう変化しているのか。その詳細が上のグラフだ。定年を65歳以上に定める企業は徐々に増加しているが、現在でも60歳定年が約66%で最も多い。つまり一旦は60歳で定年、希望者は65歳まで再雇用制度を利用して働くという例が多いと推察できる。また70歳までの雇用機会確保に向け、何かしらのアクションをとる企業は31.4%にとどまる(厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」)。
「企業にヒアリングすると、65歳を過ぎて70歳まで継続して働こうとする場合、60代での仕事の成果がどうだったのか、健康面での不安はないかなどの基準をクリアしなくては雇用されない場合が多いようだ。誰でも無条件で65歳以降も働けるというわけではない。」(森山さん)
そもそも、70歳まで働けるような措置を取る企業の比率が高くない上、その対象になる社員は全員ではない。65歳以降も同じ企業で働けるのは、少ない例だと推察できる。つまり65歳という年齢を境に、働きたい高齢者の環境は大きく変わるということだ。
次回は65歳以上のシニアは、どうやって働き、どれくらいの収入を得ているのかを見ていく。
(佐藤由紀子)
[日経マネー2025年1月号の記事を再構成]
【連載「1億円達成の黄金律」過去記事】
著者 : 日経マネー
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