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介護難民、2050年に400万人 団塊ジュニアの老後厳しく

1億人の未来図

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【この記事のポイント】
・高齢化社会で「老々家族介護」がさらに進む
・海外人材は世界的な獲得競争が不可避な情勢
・介護維持にはAIやロボットの活用が重要に

人口が1億人を割る2056年の日本は、3750万人が65歳以上になる。成人の18歳から64歳までは5046万人で、1.3人の現役が1人の高齢者を支える未曽有の高齢化社会がやってくる。介護が必要な人は50年度に941万人に膨らみ、介護をする人は4割も足りない。今よりさらに「老々家族介護」の時代がくる。

団塊ジュニア。バブル経済が崩壊したころに社会に出て、デフレの25年間に働き続けたこの世代の老後は厳しい。日本では85歳以上の高齢者のうち6割は介護が必要と認定されている。団塊ジュニアの多くが80代となる30年後に介護をしてくれる人は、少ない。

第一生命経済研究所の星野卓也氏の試算では、50年度に介護保険で「要介護」か「要支援」となる人は941万人と20年度から4割近く増える。施設や訪問で介護を手掛ける「介護職員」は302万人必要だが、今の就業構造を前提にすると6割の180万人しか確保できず、122万人も足りない。

介護の認定状況を見ると、自力での歩行や入浴が難しくなってくる「要介護2」以上が5割を占める。必要数の6割にとどまる人員で対応できるのはおそらく要介護のみ。要支援を中心に4割程度、400万人近くはケアを受けられないだろう。

介護保険にかかるお金も莫大だ。18年の試算によると、国が見込む40年度の介護費用は25.8兆円になる。社会保障給付費に占める割合は1割強と、18年度時点の9%より上がる。

50年に半世紀の節目を迎える介護保険制度の厳しい未来図は、すでに見えつつある。

「人手不足がダメ押し。若い人は高齢者と一対一で向き合うのも嫌がる」。群馬県の東吾妻町社会福祉協議会は22年10月、訪問介護を廃止した。今はデイサービスの提供が中心だ。

人件費や光熱費が上がり、事業者の経営は厳しい。東京商工リサーチによると介護事業者の倒産は22年に143件と、00年に介護保険制度が始まってから最も多かった。特別養護老人ホームは、22年時点で25万人以上が申し込んでも入所できない。

介護保険が行き詰まれば「老々家族介護」になる。19年時点でも75歳以上を同居して介護している人の33%は75歳以上で、比率は01年から14ポイント上がった。経済産業省の試算によると仕事をしながら介護をする「ビジネスケアラー」は30年時点で318万人になり、経済的な損失は9兆円超に達するという。

海外人材を受け入れたいところだが、40年には経済協力開発機構(OECD)全体で介護職員を1350万人追加する必要があるとの試算がある。ニッセイ基礎研究所の三原岳氏は「世界的な獲得競争になる」とみる。

人口減で働き手が足りず、海外からの受け入れも難しい社会でどうすれば介護を維持できるか。淑徳大の結城康博教授は「現役世代が安心して働けるように投資すべきだ」と話す。解決策の一つが人工知能(AI)やロボットだ。

藤田医科大は愛知県豊明市の拠点で研究を進めている。部屋のセンサーで高齢者の活動量を測って運動不足を把握し、天井のレールから下がる装置で歩行をサポートする。同大の大高洋平教授は「在宅で長く普通に過ごすなら、テクノロジーで支える必要がある」と語る。

東京都大田区の社会福祉法人善光会は歩行を助けるロボットなどを導入した。先端技術を使う機器の採用数は20〜30種類と多い。善光総合研究所の宮本隆史社長は「新しい技術を前提とした教育投資が重要」と話す。

厚生労働省の研究では、就寝状況などの見守りセンサーをすべての入所者で導入すると職員の業務時間が26.2%減り、対応できる利用者数が1.3倍に増えた。しかし22年に約1万カ所の高齢者施設を調べたところ、センサーの導入は3割にとどまる。介護のIT(情報技術)投資は遅れている。

ITやロボットへの投資が進めば、少ない人手で多くの人を介護できる。三菱総合研究所は将来の介護はロボットとの共生が当たり前になると見る。ロボットが動きやすいように設計された施設や住居で、入浴や食事などを助けてもらう。

全国老人保健施設協会は将来、コンシェルジュロボットが介護士の人員基準として認められる姿を想定したリポートをまとめた。人間は心のケアに専念するようになる。

AIやロボットが介護の主力になるまでは、働き方改革で人手を確保する必要がある。埼玉県川口市の介護老人福祉施設「春輝苑」は21年8月から、週休3日制を本格導入した。半年間議論し、シフトの見直しや引き継ぎ作業の動画活用などで無駄な業務を減らした。1日の勤務時間は延びたが連休を取りやすくし、人材をひき付ける。

それでも介護の担い手が足りなければどうするか。

56年の1億人社会には65〜74歳が1276万人いる。高齢者も支える側に回らなければ、乗り切れない。

(中村結、中川竹美)

制度持続へ、1年単位で改革を 吉川洋・東大名誉教授


介護で人材を集めるためには、持続的に所得が上がる仕組みにしなければならない。生産性の向上が不可欠だ。
ロボットやIT(情報技術)の導入が1つの解だが、活用法は明確でない。全国のいくつかの施設が先進的な取り組みをしていても、介護現場の人は忙しくて見学に行けない。まずは政府がベストプラクティスを示すべきだ。東京・霞が関にモデルルームを作っても良い。導入のインセンティブも必要だろう。
高齢化が進む中、介護サービスの縮小は現実的ではない。持続性を高めるため経済的に余裕がある人にもう少し負担してもらう必要がある。
医療は少額のうちは自己負担が高いが、高額になると負担が抑えられる仕組みがある。介護はメリハリのある制度設計が不十分ではないか。こうした改革は10年単位では間に合わない。せめて1年単位で進めるべきだ。
外国人の働き手はもっと受け入れる方向に変わらざるを得ない。日本語や介護の能力が少しでも規定に満たないと帰国させるようでは、選んでもらえない。子どもの教育環境なども含め、外国人労働者に来てもらえる国にしなければならない。
人口減は危機的で、あらゆる政策を講じて少子化を抑えていかなければならない。ただ、人口減だから経済成長しないというのは誤解がある。1人当たりの所得が伸びれば人口減を凌駕(りょうが)できる。それが先進国のパターンだ。イノベーションにより成長へと転換することは可能だ。
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