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第4回日経アジアアワードにミャンマーのHousing NOW

竹製住宅「スマホ価格」で 避難民も参画、地域に活力

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日本経済新聞社は第4回「日経アジアアワード」の受賞者を、ミャンマーで竹製住宅を建設する新興企業ハウジングナウ(Housing NOW)に決めた。環境配慮型で安価な竹を使い、1棟およそ1千ドル(約15万円)からの低価格で避難民の施設や診療所を築く。貧しい人々をつくり手として取り込み地域の活力にも寄与する。

政変後に設立

ミャンマー中部マンダレーの慈善団体の敷地で11月、竹製住宅の建設が始まった。ハウジングナウが手掛ける最新の物件で、まず8棟の避難民用住居をおよそ2カ月で完成させる。延べ約140平方メートルに40人が暮らせる。

同国では少数民族武装勢力などが各地で国軍への攻勢を強め、衝突のあおりで多くの避難民が生じている。この慈善団体へも約500人流入したが住居に限りがある。白羽の矢が立ったのが、スマートフォン並みの低価格で建つハウジングナウの住宅だ。

同社の設立は2021年10月。ミャンマー在住のフランス人建築家ラファエル・アスコリ氏とミャンマー人の竹加工技術者チョージンラット氏が共同創業者に名を連ねる。設立以前からアスコリ氏は別の建築デザイン会社を、チョージンラット氏は竹製住宅の建設会社を運営していた。

21年2月1日、クーデターが勃発し、チョージンラット氏の顧客である非政府組織(NGO)などの多くがミャンマーを去った。アスコリ氏は避難民向けの住居や診療所といった新たなニーズへの対応に駆られた。混沌とする政情下で2人は出会い、ハウジングナウが誕生した。

「竹製住宅づくりはダイバーシティー(多様性)のショーケースだ」。アスコリ氏は言う。モノとしては簡素な製品かもしれないが、建築に「エコロジーや地域社会との共生、様々なニーズを映す」ことで、後発新興国流のイノベーションを追求する。

家づくりの起点は最大都市ヤンゴンから北へ70キロメートルの町、バゴーの工房だ。約1千坪の敷地の一角に大小5〜6種の竹が横たわる。形状や用途に応じた仕分けや洗浄、防虫処理を施し、プレハブ化する。ここが竹製住宅の耐久性やコスト競争力を支える。

竹は周辺の村々から購入することで地域と共生する。チョージンラット氏は「竹は木というよりは草。刈っても素早く再生し、住民に持続的な収入をもたらす」と唱える。

地元住民に貢献

世界銀行によると、22年以降のミャンマーの物価上昇率は年25%を上回る。貧困層の生活が厳しさを増すことも、ハウジングナウが地元住民への貢献を重視するゆえんだ。

建設現場では避難民にも作業に加わってもらう。短期間ながら就労を通じて本人のやりがいやノウハウの伝承につなげる。

マンダレーの現場を訪ねた日は3人の避難民が活動していた。成人男性の避難民は妻子を伴うケースが多い。細長い竹を束ねる作業に汗を流す男性(43)は妻と2人の子供と、6月に故郷を追われた。家づくりは初めての経験だが「作業は難しくない。長く働きたい」とはにかんだ。

建設の財源は慈善団体の寄付やクラウドファンディングなど様々だ。ハウジングナウは個別の交渉のほか入札を通じて事業を受注する。

ヤンゴン郊外でまもなく完成する180平方メートルの診療所は入札案件だ。耐久年数が7年前後である「1千ドル住宅」よりも頑丈な造りで、同15〜20年の建物を1万7千ドルで落札した。2カ月強という短納期や品質、コストが総合的に評価された証しだ。

受注能力高める

国連機関によると、政変後に生じた国内避難民は320万人を超えた。反国軍の攻撃が拡大した23年10月からだけで約150万人も増えた。ハウジングナウの活動は当面、軍事政権の支配地域に限られる。だからといって軍政の統治に資するといった見方は早計だ。同社が寄り添う避難民一人ひとりはむしろ他の地域からの流入が多い。

ハウジングナウは逆境をよそに「受注能力を毎年高めていく」(アスコリ氏)。混乱下の創業ながらなぜ果敢に前進できるのか。同氏の答えは「他の事業者が去るなか、我々自身がニーズに合わせて(課題解決型に)変革したからだ」と明快だ。

ハウジングナウは国際的な評価も着々と高めた。22年に米マサチューセッツ工科大学が世界の課題解決に貢献する団体を支援する枠組み「MIT Solve」に選抜された。23年にはアスコリ氏が国連児童基金(ユニセフ)から「未来を形作る若きイノベーター」の一人に選ばれた。

ミャンマーは1人当たり国内総生産(GDP)が1千ドル強で日本の30分の1程度。若年層が厚い5千万超の人口を擁する成長の「伸びしろ大国」だ。アスコリ氏は「国の再建に竹を使って参画したい」と名乗りを上げる。ミャンマーでは人材の国外流出に歯止めがかからない。「日本を含む海外の若手エンジニアにも来てほしい」と合流を呼びかける。

(ヤンゴン=渡辺禎央)

フランス国籍、13歳で中国移住


ハウジングナウ共同創業者のラファエル・アスコリ氏はフランス国籍だが同国に住んだことはほとんどない。幼少期に育った米国から13歳で中国に移住し、その後は「アジア人」を地で行く。

ソフトウエアエンジニアだった父の都合で中国に越すなり「フランス人学校が嫌で現地校に入った」(同氏)。高校卒業までに中国語も習得した。名前の響きが似ていると言って莫海峰を"中国名"と決め、今も署名などで愛用する。


カナダ・マギル大学で建築学を修め、東京の建築デザイン事務所で2年ほど活動した。しかし、業界の商業主義に息苦しさを感じる。「建築はコマーシャルでなくソーシャルであるべきだ」。社会や人々とのつながりを模索し、2017年、ミャンマーに転がり込んだ。

その頃、同じく共同創業者でミャンマー人のチョージンラット氏も竹加工の技術者として頭角を現していた。きっかけは12年、一般的な労働者だった同氏がSNSで告知されていた竹製住宅建設の講習に応募したことだ。

同氏はハウジングナウ設立以前から自身の会社で多くの建設実績を収めた。アスコリ氏は「竹のことは彼から全て学んだ」と全幅の信頼を寄せる。

審査を終えて アドバイザリーボード委員長 御手洗冨士夫氏

第4回日経アジアアワードはミャンマーで竹製住宅の建設を手掛ける「ハウジングナウ」がアジア各国・地域から寄せられた107件の推薦の中から受賞団体に選ばれた。

同国では2021年2月の軍事クーデター以降、自宅を失った国内避難民が300万人を超えたとされる。そんな窮状に手を差し伸べたのが同年10月創設のハウジングナウだ。

容易に手に入る竹を主材料に用い、プレハブとコミュニティーによる作業参加を組み合わせたハイブリッドな建設手法を用いる。フランス人建築家のラファエル・アスコリ氏が地元の伝統工芸である竹加工の技術者であるミャンマー人のチョージンラット氏らを共同創業者に迎え、労働力は国内避難民キャンプからも採用。洗練された建築意匠と優れた実用性、そして避難民への技術伝承という多様な特性を持つこの事業はイノベーティブな要素に満ちている。

現在の世界を見渡せば、残念ながら紛争や自然災害などで住宅難に直面する人々は増えている状況にある。竹はアジア、アフリカ、南北米大陸などに広く自生しており、この技術が各地で問題解決に資する可能性は大いにある。実際、ハウジングナウはマダガスカルなどへの技術輸出を検討している。人間の尊厳を守るこうした取り組みが広がることを願ってやまない。

日経アジアアワードは今回で4回を数え、初回のエビ培養肉ベンチャーから、生理用品の企画・製造・販売のスタートアップ、地方の女性を支援する電子商取引プラットフォーム、そしてハウジングナウと多彩な顔ぶれがそろった。受賞団体の拠点国もシンガポール、インド、インドネシア、ミャンマーへとさらに広がった。

回を重ねるごとに推薦で寄せられる団体や個人の活動の質が上がっていると実感する。このアワードの存在が広くアジア地域に浸透し始めていることの証左とも言えるのではないか。

最終候補はどれも甲乙つけがたく、普遍的な価値を感じた。今後も日経アジアアワードのアドバイザリーボードの委員長として、勢いあふれるイノベーションの新星たちに出会えることを楽しみにしている。

日経アジアアワード 地域の発展を支援

日本経済新聞社が2021年に創設した表彰事業。アジアの多様な価値観を踏まえた「アジアの視点」で、アジアや世界の変革を促して自由で豊かな経済社会の実現を後押しする活動の担い手を年1回選び、毎年12月に発表する。

対象分野はビジネス、調査・研究、技術開発、社会・芸術活動などで、内外からの推薦(他薦のみ)を日経の選考委員会やアジア地域の有識者でつくるアドバイザリーボードが審査して「アジア発のイノベーション」を選ぶ。

東・東南・南西アジア、太平洋地域で活動を開始し、同地域を拠点に置く個人や団体を対象とし、日本人の個人および日本人のみの団体は除く。受賞者への副賞は500万円。

アドバイザリーボードの顔触れ

委員長=御手洗冨士夫・キヤノン会長兼社長最高経営責任者(CEO)

メンバー=ブラーマ・チェラニー・インド政策研究センター名誉教授▽林佳世子・東京外国語大学長▽飯島彰己・三井物産顧問▽木谷哲夫・京都大学イノベーション・マネジメント・サイエンス特定教授▽北岡伸一・国際協力機構(JICA)特別顧問▽中尾武彦・前アジア開発銀行(ADB)総裁▽ソムギャット・タンキットワニッチ・タイ開発研究所所長▽ジョン・ピゴット・豪ニューサウスウェールズ大学教授▽兪明希(ユ・ミョンヒ)・元韓国通商交渉本部長▽ジュン・ヤン・ナンヤン・ビジネス・スクール(シンガポール)学長

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