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株高に「乗り遅れた」と思った時、思い出す心得

知っ得・お金のトリセツ(141)

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バブル崩壊後の低迷を経て、最高値更新を指呼の間に捉えた日本株。もろ手を挙げて喜ぶ人と同じくらい、悔しがっている人も多いだろう。「買い遅れた」「早めに売ってしまった」……。大丈夫、あなただけではない。投資の真理に通じる先人の言葉に耳を傾けよう。

投資家人口わずか2割の国

そもそも今時点では指をくわえて株価上昇を横目で見ている人の方が圧倒的に多いはずだ。日本証券業協会の2022年のデータによると、株式や投資信託、債券といった有価証券を保有する人は日本の成人人口のわずか2割。

残り8割は投資未経験者たちの国で「貯蓄から投資」の大号令とともに年初からNISA(少額投資非課税制度)が新しくなり、脚光を浴びているのが足元の状況だ。「もう遅い」どころか地殻変動は始まったばかり。今やることは淡々とNISA口座を開設し、まず投資の海原にこぎ出すことだ。

「でも最近急上昇した後だから、買った途端下がりそう」。そう思う人はいわゆる「ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)」と呼ばれる心理のワナにとらわれている。過去の値動きで未来を占うのはナンセンス。コイン投げで次に裏が出る確率は、どんなに表が続いた後でも2分の1だ。

株価の動きはランダム・ウオーク

短期では上がるかもしれないし、下がるかもしれない。投資の神髄とされる「安く買って、高く売る」のタイミングをピンポイントで当てることなど、どだい不可能。かの名著「ウォール街のランダム・ウォーカー」(バートン・マルキール著)は株価の動きは短期的にはランダム・ウオーク(千鳥足)で予測不可能だと説く。

その傍証として市場全体に連動するインデックス型の投信に勝つ運用成績を上げるアクティブ投信は少ない。米S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社のデータによると、22年までの10年間で指数に勝ったアクティブ型投信は米国で1割弱、日本でも2割弱だという。プロでさえタイミングを見極めるのは至難だ。

最も大事な市場への「参加」

だから相場が上がろうと、下がろうと最も大事なことは「市場に居続けることだ」と力説するのが、米有名投資コンサルタント、チャールズ・エリス氏だ。投資のプロがしのぎを削る現代の株式市場で行われているのはいわば「敗者のゲーム」。個人投資家は早耳情報やお宝株発掘にいそしむより、市場に居続けて平均的リターンを得ることが結果的に「勝ち」につながるという。

エリス氏によれば、1980年から2008年の米国株(S&P500種株価指数)年平均リターンは約11%だったが、その29年の間で、上昇率が高い日をわずか30日逃すだけで上昇率は5.5%に半減してしまうという。事前に分かりようがない「稲妻が走る瞬間」は当てるより、待ち受けるのが正解。市場参加が欠かせない。

「それでも株式が最高の投資先」

「株式が最高の投資先だ」という主張を豊富なデータと共に展開するのが「株式投資(ストックス・フォー・ザ・ロング・ラン)」(ジェレミー・シーゲル著)だ。「データをアートに変えた」と評される著書では、200年を超える米国のデータを分析。米国株の年平均実質リターンは7%弱だとし、株式をインフレに強い「最高の資産」と位置づける。

不確実性の高い世界でインフレに負けない資産運用を考える時、利回りは過去よりも低下するかもしれないが、日本株を含めた株式投資は投資の王道に違いない。

自分でコントロールできるものは?

……と長期保有の効用を説きつつ、我が身を振り返れば、昨年末にNISA(旧一般NISA)で運用していた世界株連動の投信を売却した。相当値上がりしたことに加え、旧一般NISAの場合、非課税期間が5年と短かったことが決め手だ。万一、今後急落して損失を抱えればNISAの非課税メリットは帳消しになる。損をしたら税金をとられないのは当たり前で、NISA以外の口座に許される損益通算や損失繰り越しといった「損して得取れ」戦略も機能しない。

安全をとって利益確定したものの、その後もグングン上がる相場を横目に「早まった。今まで持っていたら……」と皮算用し、後悔したことも正直ある。書くのと実行するのは大違い。つくづく投資は心との闘いだ。

米カリスマ投資家、ハワード・マークスの名著「投資で一番大切な20の教え」を読んで心を落ち着けた。彼が強調するのは不確実なリターンよりも、リスクをコントロールする重要性。自分でコントロールできるリスクを低減させたのだ、機関投資家と違って個人の投資に唯一の「正解」などないのだ、と自分に言い聞かせている。

山本由里(やまもと・ゆり)
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年からマネー・エディター、23年から編集委員兼マネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。
日本株大解剖

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