個人所得、3割の自治体がバブル超え 東北・九州で多く
データで読む地域再生
個人所得が増えている。2022年度の個人住民税の課税対象所得は9年連続で増加し、全国の約3割にあたる494市区町村がバブル期を上回った。賃金上昇に加えて株式や不動産の売却益も寄与した。都道府県で上昇率トップの山形県は、道路網の整備などで工場進出や特産の農産物の高付加価値化が進み、住民の所得を押し上げる。
総務省が公表している個人住民税(所得割)の課税対象所得を納税義務者数で割って1人あたりの所得を算出。直近の22年度と過去最高だった1992年度を比較した。個人住民税は前年の1〜12月の所得に課税するため、22年度の課税対象所得は21年の収入を示している。
全国平均の個人所得は前年度より10万円多い361万円と、92年度より5%少ない水準まで回復した。東北や九州など地方圏の回復が先行し、バブル期に土地高騰などで所得が大幅に上がった大都市圏が遅れる。30年前を上回ったのは8都県だった。
都道府県別で伸び率トップの山形県は、全体の8割の28市町村でバブル期を上回った。県内陸部を縦断する東北中央自動車道が順次開通。酒田港(酒田市)で国際ターミナルが整備されるなど物流インフラの充実もあって、企業立地や農産物の高付加価値化が進んだ。
東北中央道を活用することで、農産物をより鮮度が高い状態で東京などの大消費地に届けられるようになった。特産品の販売量や単価の上昇につながるケースも多く、山形県の2021年の果実産出額は694億円と30年で22%増えた。
沿線の山形県尾花沢市は所得がバブル期を15%上回った。夏場のスイカ生産量は日本一で、「尾花沢すいか」としてブランド化に成功。地元農産物を扱う「道の駅尾花沢」の利用者は年30万人を超える。寒河江市でも「訪日客を含めて関東圏から特産のサクランボを目当てに訪れる人が増えている」(JAさがえ西村山)という。
新たな工場進出も進む。山形県などによると、東北中央道の沿線市町村における工場新増設数は11年から21年までで110件、設備投資は累計821億円に達した。
2位の秋田県も製造業の進出が広がった。個人所得が4.7%増えた横手市では自動車関連企業などの立地が進む。同県内では道路網の整備もあって、宮城県など他県にある生産工場に部品を供給するメーカーも増えつつある。「さらに道路整備などが進めば、自動車関係の工場立地がいっそう進む」(県産業集積課)と期待する。
22年度の都道府県別の課税所得が全国一だった東京都もバブル期を0.9%上回った。港区は全国トップの1471万円で、バブル期より60.6%増加。千代田区は11.0%、渋谷区も38.3%増えた。課税対象となる株式や不動産の譲渡所得などの増加も影響しているとみられる。
一方、市区町村別の伸び率上位には北海道の自治体が多く並んだ。51.6%増の枝幸町、51.5%増の猿払村は特産のホタテなど漁業関連の収入拡大がけん引した。ただ、足元では中国の輸入規制の影響を受けている。
多くの自治体で個人所得はバブル期に近づくが、物価の上昇も続く。経済産業研究所の近藤恵介上席研究員は、「所得の上昇傾向は当面は続く」としたうえで、「自治体には住民の所得引き上げだけでなく、広い意味での住み心地を充実させるなど『実質所得』を拡大する工夫が重要になるだろう」と話している。
(地域再生エディター 桜井佑介、増渕稔、グラフィックス 佐藤綾香)
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