NASAの論文要旨
米航空宇宙局(NASA)の論文要旨は以下の通り。
米航空宇宙局(NASA)などの研究チームは、リンの代わりにヒ素を使って増殖できる細菌を米国の湖で発見した。研究には、NASA宇宙生物学研究所、米地質調査所、米アリゾナ州立大、米ローレンスリバモア国立研究所、米デュケイン大、スタンフォード放射光施設の研究者らが参加した。
生命を構成する重要な元素は、炭素、水素、窒素、酸素、硫黄、リンの6つ。核酸やたんぱく質、脂質など生体の大部分を作っている。
米カリフォルニア州にある塩水湖「モノ湖」から取ったプロテオバクテリアのハロモナス科の一種「GFAJ-1」は、リンの代わりにヒ素を使って生きる。ヒ素は細菌のDNA(デオキシリボ核酸)や、細菌が作るたんぱく質の分子内にも取り込まれていた。
生命を構成する基本元素がほかの元素で代替できるとの報告はこれまでにない。しかし今回、ヒ素がリンに替わり得る証拠を細菌で見つけた。基本元素の1つであるリンを別の元素で置き換えられる生命の発見は、進化学や地球化学において重要な意味を持つ。
元素の周期律表で言えば、ヒ素はリンのすぐ下にある。原子半径が近い。リンはふつう生体内でリン酸イオン(PO43-)になっている。その振る舞いはヒ酸イオン(AsO43-)でも似ている。今回、リン酸がヒ素に置き換えられるとの仮説を立て、実験で確かめることにした。
モノ湖は、強アルカリで塩分が濃い。ヒ素も高濃度だ。GFAJ-1は、湖の沈殿物から分離した。人工培地でリンの代わりにヒ素で育てた。この種の細菌がヒ素を体内にためることは知られていたが、GFAJ-1は培養6日後に細胞の数が20倍以上に増えた。リン酸がある方が増殖は速かったが、ヒ素とリンの両方がないと育たなかった。ヒ素があるとほとんどない場合に比べ、細胞が1.5倍に大きくなった。こうした結果から、ヒ素で育っていることが明らかになった。リンが極端に少ないにもかかわらず、GFAJ-1は生命を維持し分裂・増殖を繰り返すことができた。
放射線を出すヒ素を使い、細菌の細胞内にヒ素がどのように取り込まれたかを調べた。ヒ素は細菌のDNAやたんぱく質の中にも組み込まれていた。
「ICP-MS」や「NanoSIMS」と呼ぶ装置を使って分析した。ヒ素に富んだ環境で育つとリンが豊富な場合に比べ、細菌のDNAに含まれるヒ素が多かった。これらの結果は、細胞内に取り込まれたヒ酸のヒ素がDNAなどに組み込まれたことを示していた。「μXANES」という放射光分析も試した。リンの働きを代替していることが確認できた。
しかしヒ素がDNAなどの生体分子の一部と置き換わる仕組みや働きはよく分からない。