日本一の地下通路、大手町から階段なしで歩けるのは
2011年4月から連載を始めた「東京ふしぎ探検隊」。第1回のテーマは「日本一長い地下通路、歩いてみたら…」だった。東京・大手町から地下だけでどこまで歩けるかを検証した。東銀座まで約4キロがつながっていた。あれから3年。東京駅周辺は再開発が進み、地下空間も変化した。再開発でどれだけ便利になったのか。再び地下を歩いてみた。
大手町、3年で地下空間も激変
大手町タワー、JPタワー、丸の内永楽ビルディング……。東京駅の丸の内側ではこの3年で新しいビルが続々完成した。地下には「OOTEMORI(オーテモリ)」「KITTE(キッテ)」「iiyo!!(イーヨ!!)」などの商業施設が生まれ、地下空間は大きく変わった。
地下のスペシャリストで「都市地下空間活用研究会」(略称USJ、事務局東京都文京区)の主任研究員、粕谷太郎さんによると、一連の再開発に伴い大手町から有楽町方面に抜ける新たなルートが生まれたという。それも段差の少ない「バリアフリールート」だとか。さっそく階段なしでどこまで歩けるか、試してみた。
出発地点は日経ビルなどがある大手町カンファレンスセンターの地下。C2a出口を過ぎると日比谷通りの下に出る。地下鉄千代田線の改札を左手に見ながらまっすぐ進む。
東京駅方面に向かうには、どこかで左に曲がる必要がある。しかしバリアフリーにこだわるなら、意外にルートは少ない。
C1出口から直進すると、左手に半蔵門線改札に向かう通路がある。そこを曲がっても突き当たりは階段だ。すぐ隣にある大手町ビルを通り抜けようとしても、出入り口は階段になっている。
もう少し先まで歩くと千代田線の改札があり、右手にはナチュラルローソンがあった。そこを左折すると「↓東京駅」と書いてあるが、そこには階段が3つも連なっていた。
ではどこを歩けばいいのか。実は東京駅周辺では、新しくできたビルの地下を通り抜けるのが一番歩きやすいのだ。
バリアフリーマップを作製 エスカレーターはOKに
まず目指すのはC8出口。大手町ファーストスクエアの中へと入っていく。ビルの手前には段差があるものの、昇りエスカレーターが設置されていた。
今回バリアフリーマップを作製するに当たって、上下エスカレーターもしくはエレベーターがある場所は○、昇りエスカレーターのみは△とした。フラットに歩ける場所には印はつけず、スロープも無印とした。基本的に通り抜けが可能な場所のみ印をつけたので、場所によっては「階段があるのに×になっていない」ケースもある。
ちなみに階段は「上る」が、エスカレーターは「昇る」。単に「のぼり」の場合はどうするか迷ったが、校閲担当者と相談してエスカレーターは「昇り」とした。
地図は三菱地所が運営する大手町・丸の内・有楽町の情報コミュニティーサイト「丸の内ドットコム」の「地下アクセスマップ」を使用。一部、通路の形が違うなど地図表記が正確ではない場所もあったが、ルートを検討するには問題ないレベルだった。
ファーストスクエア→オーテモリ→イーヨ!!→三菱UFJ信託銀行本店ビルが黄金ルート
ファーストスクエアの飲食店街を左方向に歩くと出口があり、中庭のような場所に出た。吹き抜けになっていて空が見えるが、一応、屋根があり地下ではある。ここも地下通路と考えて進む。
次のビルは大手町タワー。ビル内に入ってエスカレーターのマークを探して進むと広場があり、上下のエスカレーターが設置されている。そこを降りて後方にある商業施設に向かう。オーテモリだ。
オーテモリの飲食店街を抜けると、また上下のエスカレーターがあった。降りると目の前の工事中の壁に、「←JR東京駅」と書いてある。指示に従い左に歩くと、そこは階段だった。
オーテモリからのバリアフリールートは、実は表示とは反対方向。右に進んだ方がいい。少し遠回りになってしまうが、B1出口方面からエスカレーターを昇って丸の内永楽ビルに入るのが正解だ。
永楽ビルの地下飲食店街「イーヨ!!」を出ると、また空が見えた。今度は屋根もない。ただし地上から見ると十分地下といえる深さにあるので、これも地下にカウントしよう。
広場を抜け、隣にある「三菱UFJ信託銀行本店ビル」に入る。ビルを抜けるとそこは東京駅の丸の内地下広場だ。
「カンファレンスセンター」→「ファーストスクエア」→「オーテモリ」→「イーヨ!!」→「三菱UFJ信託銀行本店ビル」
これが大手町から東京駅まで段差なしで歩く新ルートだ。
2013年10月にオーテモリがオープンしたことで一気につながった。エスカレーター中心の移動になるため車いすだと厳しいが、疲れたときや足を痛めたときなどには活用できそうだ。ただし遠回りになるので、急ぐ場合は階段を使った方がいい。
大手町から階段なしで歩けるのは有楽町か日比谷まで
では、東京駅から先も階段を使わず歩いてみよう。
まずはJPタワー。東京駅の広い地下広場を丸の内南口方面に歩くと見えてくる。13年3月、旧東京中央郵便局跡地に完成した高層ビルで、地下1階から6階までは商業施設キッテとなっている。
キッテを通り抜け、そのまま東京ビルTOKIAを通過。JR京葉線東京駅を横切り、東京国際フォーラムへ。同フォーラムを出るところは階段だったが、脇に小さなエレベーターがあった。
地下通路はそこから銀座方面へと続いている。どこまで行けるかわくわくしていたら、旅は突然、終わりを告げた。東京交通会館につながる通路には、階段しかなかったのだ。
結局、大手町から階段を使わず歩けるのは、有楽町までだった。
大手町からのバリアフリールートは、単純に遠くまでという観点だったらもう一つある。日比谷通りの地下をひたすら直線に進むルートだ。この道なら日比谷交差点の下までスムーズに歩ける。ただし東京駅を経由しないため、実用性はあまりないかもしれない。
二重橋前駅で降りると、左右どちらにもD1出口がある
網の目のように張り巡らされた東京駅周辺の地下通路。階段も含めて歩くことだけを考えると、大手町から東銀座までつながっている。距離にして約4キロ。日本で最も長い地下通路だ。
今回、膨大な地下通路を歩いてみて、いくつか気になったことがある。
まず、エスカレーターの多くが昇りだけだったこと。階段は上る方がきついようにも思えるが、足をけがしたときに下りの方がつらかった記憶がある。場所の制約があり難しいのかもしれないが、再開発の際には改善してほしい点だ。
次に、「行きはよいよい」的な通路がいくつもあった。例えば大手町野村ビルの地下通路。ビルの入り口には昇りエスカレーターがあるのに、出るときには階段しかない。入り口には「←大手町野村ビル経由 丸ノ内線 半蔵門線」という表示があるため、近道だと思って通る人もいるだろう。残念な構造だ。
意外なことに、丸ビルと新丸ビルでも片側の出入り口だけ階段という場所があった。比較的新しいビルでもエスカレーターすらない場所は多い。
もう一つ。千代田線二重橋前駅で降りたとき、D1~D5出口が左右、どちらにも存在することをご存じだろうか。
実は、大手町付近と有楽町付近、どちらにもD1~D5出口がある。大手町方面のD1は行幸通りにあり、有楽町方面のD1は帝国劇場の裏。「D1出口で待ち合わせ」と言われても、どちらを指すか、確認しないと間違える可能性があるのだ。
USJの粕谷さんは「東京駅の地下は広範囲につながっているので、全体を通した番号の再編成が必要」と訴える。関係者に検討を促しているという。
呉服橋交差点の地下に「封鎖された地下空間」があった
東京駅周辺の地下網をよく見てみると、1カ所、「もう少しで隣とつながるのに」という惜しい場所がある。呉服橋交差点付近だ。
永代通りの下を大手町方面から延びてきた地下通路は、呉服橋交差点の手前でいったん途切れる。交差点の先から再び始まり、日本橋交差点の下からさらに茅場町まで通じている。
つまり、呉服橋交差点の地下に通路ができれば、地下網は一気に茅場町まで延びるのだ。これは惜しい。残念に思っていたら、USJの粕谷さんが教えてくれた。
「実は、呉服橋交差点の地下には既に地下通路があるんです。整備はされていませんが、空間としては存在しています」
どういうことか。「東西線を建設するとき、同時に地下空間を確保しました。当時、自動車専用道路を地下に造る構想があり、そのための空間と考えていたようです。場所は東西線の上です」
「東京地下鉄道東西線建設史」(帝都高速度交通営団)で確かめた。
「電電公社ビル前から東京ガスビル前までの道路は、都で地下自動車道路をつくる計画があった」「地下1階は将来計画の自動車道路の空間とし……」
確かに記述があった。電電公社ビルというと、今の大手町ファーストスクエアのあたり。C12出口付近だ。東京ガスビルは日本橋にあるTGビルで、ちょうど日本橋駅から延びてきた地下通路が終わる地点だ。大手町から日本橋は、既に地下でつながっているのだ。
粕谷さんによると、空間は高さが3メートル前後。呉服橋交差点の下は首都高があるため、1メートル50センチと天井が低くなっているという。現在は完全に封鎖され、中を見ることはできない。
USJでは中央区に対し、この空間を整備して地下網を広げる提案をしている。ただし呉服橋交差点では通路の高さをもう少し高くするため、首都高の天井を下げる工事が必要だという。
さらには地下通路を北に延ばして三越前駅方面へとつなげる構想も提案中だ。首都高の地下化とセットでの実現を目指している。
ますます広がる東京駅の地下空間。今後の展開から目が離せない。(河尻定)
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