2016/12/18

国際会議での完全敗北後の水産庁

今年の7月3日に境港を訪れた。面と向かい合い、建設的な意見交換ができたと思っている。

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まき網関係者と水産庁は産卵期のまき網を強く擁護するが、俺はこれこそが資源崩壊の主因だと考えている。

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まき網関係者「まき網は産卵期しか獲れないんです」
水産庁職員「まき網は産卵期しか獲れないので、その邪魔をしないでください」
水産庁トップ「産卵期に獲ろうが、産卵後に獲ろうが、同じ1匹である。資源への影響は同じ」


俺「境港に水揚げされるクロマグロのほとんどが初産卵。1回も産まずに獲るのと、1回産ませてから獲るのでは資源への影響は当然ある」

そして、産卵期しか獲れないと言っていたのだが、9月以降、12月上旬にかけて、何度もまき網による大量の水揚げが確認されている。

6月から7月は産卵期なので、キロ単価は激安(境港の最安値はキロ200円)だが、12月でもまき網のマグロは1000円前後だった。
一本釣りや、定置、はえ縄で獲ればキロ5000円以上するのだが。


7月下旬は青森県一のクロマグロ水揚げを誇る深浦漁港を訪れた。マグロ釣り界の第一人者佐藤イチローと深浦組合長に会い、2時間ほどお話を聞かせていただいた。わかったことは深浦と言えども、経営は苦しく、組合員も漁船数も減少の一途であるということ。
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さて、ここからが本題である。

言い訳も逃げるのも見苦しい。

水産庁の国際会議(WCPFC西部太平洋マグロ類保存委員会)で孤立、敗北したことに関しての自己弁護です。

太田審議官「未成魚500尾を獲っても500倍の重さの成魚を1尾獲っても漁獲高は同じ」

未成魚の500倍のマグロって、いったい日本近海に何匹いるのか?
未成魚=30キロ未満

例えがぶっ飛びすぎて理解できない。


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太田審議官「2034年に親魚を初期資源量の20%水準、直近の7.7倍へ回復を疑問視」

アメリカ、EU、太平洋諸国は太平洋クロマグロの資源量を初期資源量の20パーセント(約13万トン)まで回復させるべきだと言ってるだけ。どこが疑問視(高い設定)なのか?
ところがカツオは60パーセントまで回復させるべきだと日本は主張している。ダブルスタンダードではないか。
太平洋クロマグロ=産卵場がほとんど日本のEEZ内で日本の漁獲が世界一。
カツオ=産卵場はほとんど日本のEEZ外で太平洋諸国の漁獲が多い。


太田審議官「当時の大西洋では科学者の勧告をEUが無視し、生物学的許容漁獲量(ABC)の倍ほどの漁獲量を設定。しかも違法漁業が横行し、実漁獲量はさらに倍近い値だった。一方、太平洋は科学者の勧告に従っており、大西洋のような違反操業はない。一緒くたにするなら乱暴だ」

大西洋は2008年ごろまで無報告の漁獲が多かったが、その後、大幅に漁獲枠を削減、まき網船や定置網の船にオブザーバーを乗せることを義務付け、マグロ一匹一匹に標識タグ(産地がわかるように)を付けるなど、徹底した管理で違法漁獲、違法密輸ルートを根絶させた。
その違法で獲ったマグロのほとんどが日本に入っていたことも調査でわかっている。
現在のウナギと同じように、違法マグロは簡単に日本に入っていた。ところが、ICCAT(大西洋マグロ類保存国際委員会)はその違法ルートを断つことに成功した。

そんな違法なマグロを買っていた日本に何が言えるのか?
泥棒が盗んだ金をさらに金を払って受け取っているのと同じである。


なんで日本はウナギの違法ルートを規制できない。
なんで日本は産卵期のマグロを獲り続ける。
なんで日本はまき網船、定置網にオブザーバーを乗せない。

さらに、まき網が蓄養いけすに種苗を移すとき数を確認するのだが、その確認方法がなんと目視。しかもオブザーバーはいない。さらに蓄養中に死んだマグロの無報告海上投棄も業界では知れ渡っている。

大西洋は初期資源量の7パーセントまで減少したのを50パーセント以上まで資源量を回復するのに成功した(現在の親魚資源量は60万トン以上)
太平洋は初期資源量の2.6パーセント、1.7万トンしかいないのに、まき網に対しては実質獲り放題の規制しかやらない。
まき網の成魚の枠は3098トンだが、この10年間達したことがない。これは規制とは言わない。

漁業者をかばうような表向き発言は綺麗に聞こえるが、現実は漁業者をどんどん追い詰めている。
その言葉に騙されてはいけない。よく考えれば誰でもわかる。この言い訳はすべて天下りと境港のまき網擁護に繋がっている。

水産庁は会議では一度アメリカ案(2034年までに初期資源量の20パーセントまで増やす)を拒否したが、その後、大本営からの指示を受けて(たぶん)アメリカ案を受け入れた。あまりに強く非難され孤立したので、その場しのぎの受け入れだった。帰国後、言い訳とアメリカ案を否定するような発言を繰り返している。海外でどんだけ袋叩きにされても、日本に戻れば怖いものなしなんだろう。
こんなことでは、日本の未来は真っ暗である。

その場しのぎの日本。それが今の衰退した水産業に繋がっているのだ。

国際会議ではこんな発言があった。そのとき会場の拍手が最高潮だった。※音声は確認済み。

「日本の資源管理は赤ちゃんのよちよち歩き(baby steps)」
「日本は進んでいるというけど、カニと同じで横に進んでいる(Crab Step)」
「日本は科学を操作(Manipulate)するな」



世界は日本が失敗の連続だということをよくわかっているのである。



赤い太い線が今回要請されたアメリカ案。当初激しく反対していたが、袋叩きに遭い最終的に日本も賛成した。緑の線が日本案だが、世界は日本の失敗を見続けているのでまったく相手にされない。

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ICCAT(大西洋マグロ類保存国際委員会)は2008年から厳しく資源管理を開始した。

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その結果、2010年ごろから急激に資源が回復。現在の親魚資源量は60万トン以上と推定されている。
ちなみに太平洋クロマグロの親魚資源量は17000トン。大西洋の40分の1である。


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我が国の成魚(30キロ以上)の漁獲枠は4882トンだが、2009年以降達したことがない。これで規制していると言っても誰も信じない。

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さらに大中まき網の成魚の漁獲枠は3099トンだが、10年間一度も到達してない。頑張っても獲れない数字は規制とは言わない。

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さらに一番美味しくない産卵期に大量に獲るので、値崩れ、売れ残りとなる。

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最後に参考資料として、クロマグロの成長スピード。
この成長の早さを見ると3年も禁漁にしたら、資源は一気に回復すると思うのだが。せめて産卵期くらいは禁漁にできないものか。
いまのままではクロマグロに限らず、サンマもサバもスルメもホッケもタラも、ほとんどの魚に明るい未来はない。


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我が国には一度資源を増やしたあとに、持続性を考えた漁業をやるという考えはないのだろうか?

日本以外のほとんどの国の漁業は成長産業なのである。

その違いだが、資源管理の差であることは間違いない。

世界の笑われ者になりつつある我が国水産業。

水産庁は、それを会議で身をもって感じたはずなのだ。

今からでも遅くない。



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Re: No title

水産庁は未成魚の規制には積極的です。ですからあえて俺がいう必要もありません。
産卵期に関しては、まったくやる気のない規制です。ですから言わせていただいてます。

> 巻網の規制、漁業界の反対もあって遅れてきましたからね…腹立たしいものです。
>
> ただ、遅いなりに規制が前進しているのも事実じゃないですかね。
>
> 新聞記事で水産庁も「未成魚の保護強化をすべきは巻網」と言っていますし
> そもそも「大西洋のマグロを守れ」なんてセリフは「日本の水産業界の輸入分は減って構わない」という覚悟があってこそ言えるものですし。
>
> あとは「未成魚を守る」という方策がどこまで強まるか、「産卵親魚も守る」という方策がどの程度まで乗っかってくるか、だと思います。
>
> 産卵親魚ばかりでなく、未成魚保護の大切さもクローズアップしていただけると、資源のためになるのでは。

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Re: No title

科学的根拠を常々おっしゃっている水産庁が500倍というのは、科学的でなく感情的だと思います。
未成魚(30キロ未満)の500倍ですからね。3キロだとしても1500キロです。太平洋クロマグロはどんなに大きくても500キロに届きません。0.6キロなら500倍で300キロですが。300キロオーバーをなると太平洋全体で何匹?おそらく1000匹いないと思います。太平洋全体で年に5匹くらいしか漁獲されません。境港では今年300キロオーバーは1匹だけです。36000匹のうち1匹だけです。
未成魚(30キロ未満)に関してはTACを50パーセント削減しています。ただし、これも2002年から2004年の漁獲の平均に対しての50パーセント削減です。メキシコ、アメリカは2年間の合計が3300トンを超えないこととなってます。これらは義務規定なのでオーバーすれば違反です。
成魚(30キロ以上)に関しては2002~2004年の平均の漁獲を超えないと定められてます。2002年から2004年のころは現在の倍くらいの漁獲がありました。ということは規制とは言えないと思います。まして、まき網の枠は3098トンですが、この10年間一度も達したことがありません。頑張っても獲れない量というのは漁獲枠ではなくて、漁獲目標だと思います。しかも努力規定なので違反しても訴えることができません。
そのようなことから、成魚に対してもっと厳しく規制すべきだと言ってます。
まして産卵期の漁獲は大幅に資源が減って、絶滅危惧種にまでなったのですから避けるべきです。

> ご返事ありがとうございます。
> たしかに、あえて仰る必要はないかも知れませんね。
>
> ですが、水産庁が未成魚の保護の必要性を訴えているのに
> 「ぶっ飛びすぎて理解できない」「産卵親魚巻こそが資源崩壊の主因」というのはいかがなものでしょうか。
>
> 読み手によっては「未成魚保護は要らない」と解釈しかねません。
>
> 日本は、クロマグロに限らず、未成魚保護の意識に欠けた国です。
> 今でも、水研機構の資源評価を見ると、多くの魚種に「未成魚を獲り過ぎ」と書いてあります(巻網の対象魚種に限らず、沿岸漁業の魚でもです)。
>
> 漁業関係団体が客観的な根拠もなく「日本の資源管理は今のままで良い」と触れ回っている現状、
> 近年の水産庁のように未成魚保護の必要性を訴える人も必要です。
>
> そこで、茂木様のようなカリスマ性と情熱をお持ちの方には、未成魚保護の必要性を、せめて否定しないでいただきたいのです。