2021/09/14

連載2 太平洋クロマグロは増えているか(前編)

漁業が無かった時代にどれだけ資源があったのかを科学機関が計算して弾き出した推定資源量のことを初期資源量と言う。太平洋クロマグロの成魚の初期資源量は推定65万トンである。その初期資源量だが長年続く乱獲が原因で2010年代には11,000トン(1.8パーセント)にまで減少する。資源管理先進国ならとうの昔に禁漁のレベルである。

日本のクロマグロ漁は縄文時代初期には始まっていた。おそらく湾内に入ってきたところを浅瀬に追い込んで銛で突き刺して獲っていたと思うが証拠はない。三陸海岸では今から5500年前の縄文時代中期の遺跡からクロマグロの骨が大量に出土している。その中には300キロを超すような大型の骨もたくさんあった。
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鉄もナイロンもエンジンも無い時代にたくさん獲れていたということは海が今よりもはるかに豊かだったのだろう。
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三陸海岸の縄文時代の遺跡は東日本大震災後に海抜30メートル前後のところで次々と発見された。おそらく縄文時代の人は津波が来ることを知っていたのだろう。
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三陸海岸はリアス式海岸となっていて入り江が多い複雑な地形となっている。資源が現在よりはるかに多かった縄文時代はこの入り江の中にまでクロマグロが入ってきたのだろう。
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これは唐津城に展示されていた江戸時代のマグロ漁。当時は岸近くを回遊するクロマグロも多く、このよう囲んで浅瀬に追い込む漁もあった。
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これは駿河湾の沼津のマグロ漁。明治40年ころもまだまだクロマグロは多かったらしい。
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日本漁業史(東大出版会)には明治30年ころから乱獲が進み、漁場は沿岸から沖合へ移っていったと書かれている。明治24年は520万貫(約2万トン)の漁獲があった。これは主にクロマグロとキハダの漁獲らしい。
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明治40年ころには動力付きの船が現れはじめ、さらに大型のまき網が現れるとクロマグロの資源は急激に減少していった。

1982年の日本海のまき網漁では、わずか18回の出漁、しかも山陰沖の一部だけで1637トンのクロマグロを水揚げしている。平均サイズも121キロと驚くことばかりだった。しかし5年も経たないうちに日本海からクロマグロはほとんど姿を消した。そして漁場は太平洋側へと移っていった。
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その太平洋もまき網の乱獲が進み、2000年代に入ると漁獲は急激に減少していき、2008年にはついに漁獲は0トンとなった。これは群れが見つからないので出漁そのものを取りやめたらしい。

そしてまき網は再び日本海側を狙い始める。その漁獲は2004年から一気に増えている。すると壱岐や萩のマグロ漁師の漁獲がどんどん減っていった。主要な産卵場でもあった八里ヶ瀬や七里ヶ曽根などをまき網が狙い撃ちした結果だった。

かつては東の大間、西の勝本(壱岐)と言われたが、まき網が日本海に現れるようになると壱岐の漁獲は急激に減っていった。
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和歌山の那智勝浦の延縄も2000年代に入り、漁獲は急激に減っていった。
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日本海側のまき網はほとんど境港に運んで水揚げする。その境港の成熟(大型)クロマグロの漁獲も減少していった。平均サイズも100キロ台から30キロ台にまで小型化した。
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まき網は産卵期を集中的に狙った。その理由は産卵期は群れが濃くなり、もっとも効率よく獲れるからだ。産卵行動中はさらにまとまるので最も簡単に巻くことができた。
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ただし、産卵期は一番美味しくない時期である。卵や白子に養分を取られるので脂は少ない。さらに血抜きも〆もしないので、身には血が残り、血栓が多かった。そのため数日で色変わりしてしまう。
市場ではまき網のクロマグロが並ぶ床はいつも血で真っ赤になった。
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まき網の漁獲は6月7月に集中するため、値崩れを起こし、さらにセリでは大半が売れ残る。このような資源の無駄遣いはいまだに続いている。
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産地の境港では2016年7月に安値キロ200円、平均単価キロ384円を記録した。

太平洋側のまき網は2008年には群れが見つからず漁獲は0トンとなった。その後、しばらく狙わなかったことが幸いして資源は回復へと転じる。
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日本海は2004年からまき網の漁獲が急激に増えていき、山陰から九州西沖は2010年ごろにはクロマグロはほとんど姿を消した。しかし2013年ごろに山形と新潟にかけての沖に3歳前後のマグロが集まる漁場を発見して、再び漁獲は増加するが、2015年から自主規制を開始する。最初1800トンとして、2018年から1500トンに自主規制している。

そして釣り人にとっては、2008年ころから青森や玄界灘へ行っても坊主で帰るのが当たり前の暗黒時代に突入した。

そんなとき、海外へ行く釣り人が現れた。日本で100キロのクロマグロを釣ろうと思えば数百万円以上かかる時代だった。釣りに使ったお金をキロ単価にすると軽く5万円以上になった。ところが海外(アメリカ、カナダ、アイルランドなど)へ行けばキロ5000円以下だった。
※タックル代、交通費、宿泊費等を合計した金額をマグロの重量で割る。

アメリカのノースカロライナは150キロ前後が多かった。出船すれば5割以上の確率でヒットした。3日間の釣りで400キロ以上釣る人もいた。
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カナダのプリンスエドワード島はアベレージが300キロ以上もあり、1釣行で1トンを超える人も出た。これだとキロ500円である。
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どんどん釣れなくなる日本と違って、海外はどこも期待を裏切らなかった。ニュージーランドは毎年8月に4年連続で行き、200キロから400キロを31匹釣った。ノースカロライナは2011年から毎年3月に10年連続で行き、100匹以上キャッチした。カナダのプリンスエドワードも2011年から毎年8月と9月に行き、300キロオーバーを100匹以上キャッチした。海外では9割以上をリリースした。レギュレーションがあり、監視と罰則も厳しく複数キープは絶対にできない。それでも夢のような大物が釣れるので世界中から釣り人が押し寄せている。キャッチアンドリリースは資源を減らさずに換金できるという夢のような商売でもある。

そんな夢のような海外での釣りを経験するうちに日本の遊漁に対する疑問がどんどん湧いてきた。「釣れない」「小さい」などなど。レギュレーション、ライセンス制、スポーツフィッシング、キャッチアンドリリース、資源保護、海外のそんな取り組みを知れば知るほど、日本の問題がたくさん見えてきた。

そして2013年からクロマグロの資源保護活動を本格的に開始。
絶滅危惧種のクロマグロを守れ!」「産卵期は禁漁に!」

2013年から国内クロマグロ釣りにレギュレーションを設けた(茂木ツアー、SFPCメンバー)
1.シングルフックのバーブレスを使用
2.30キロ未満はリリース
3.1日1人1匹まで
4.6月と7月はマグロ釣りを自粛(これは2020年に解除)

2015年からクロマグロに関する会議やシンポジウムなどに片っ端から参加した。
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2015年から2018年まで4年連続水産庁前でデモをやった。1回目90人、2回目105人、3回目120人、4回目115人が参加した。
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参加者はニュージーランド、タイ、台湾、沖縄、九州、北海道などから集まった。全員が交通費等自腹。
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テレビ、新聞、雑誌など多くの取材を受けた。
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チラシは2万部。街頭で配ったり、釣具店に送ったりした。
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署名は13270人、コメント1228人分を農林水産大臣と水産庁長官に届けた。
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そして資源は回復へ(続く)



2021/09/06

連載1「クロマグロの一生」

日本人とクロマグロの関係は今から11,000年前の縄文時代初期まで遡ることができる。そんな昔から日本人はクロマグロを食していたのだ。


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クロマグロの寿命は25年くらいだが、そこまで生存できるのはごく一部。一番の天敵は人間である。




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2019年5月、国際水産資源研究所を訪問した。クロマグロなどの広域回遊魚の調査、研究を水産庁の委託を受けてやっている。



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クロマグロの研究に関して、最先端のお話を聞かせていただいた。



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これが標準サイズのアーカイバルタグ。内部にデータを蓄積できる電子タグの一種で1本19万円くらい。




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最近はさらに小型のアーカイバルタグも開発されている。これだと0歳魚、200グラムくらいのマグロに使うことができる。



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生まれて1~2年以内にかなりの個体がアメリカ西海岸まで移動する。西海岸で数年(3年前後)を過ごす。西海岸は餌となるサバやアジなどが豊富なのでクロマグロも食事に困らない。ただし、餌環境が良いのが原因なのか、近年は5年以上西海岸で過ごすクロマグロも増えている。

2018年までで1064本の電子タグがクロマグロに埋め込まれてリリースされた。そして2018年までに277本が再捕されている。なんと26パーセントも再捕されているのだ。これからもクロマグロのリリース後の生存率の高さがわかる。

さらに、アメリカ側からリリースされたクロマグロの再捕率は、日本側より高いというお話だった。



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成熟すると日本近海に戻り、その後は台湾、沖縄あたりから、東北、北海道、千島列島あたりまでを往復しながら成長し産卵を繰り返す。7年で100キロ、11年で200キロ、15年で300キロに達する。3歳で20パーセント、4歳で50パーセント、5歳で100パーセントが成熟する。卵の数は250キロくらいのマグロで1000万個くらいである。

産卵場は主に沖縄近海と、日本海の若狭湾周辺。24℃が産卵の適水温。産卵は一度で終わらず、数回に分けて行う。

クロマグロは低水温に強く、水温2℃でも心臓は動き続ける。キハダは7℃で心臓が停止する。



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クロマグロの仔魚を採取する。



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採取された仔魚。1週間で3ミリまで成長する。



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2019年7月に海洋生物の調査研究では世界トップクラスと言われているモントレーベイ水族館を表敬訪問する。中央の女性がパッカード館長。周りは研究者。左側は通訳をお願いした富田さん(シリコンバレー在住)。



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マグロ、カメ、クジラ、サメなど、多くの大型海洋動物の研究では世界最先端を行く。



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アメリカ西海岸で衛星タグを付けられたクロマグロの回遊経路。最後が北朝鮮と韓国の中間くらいの沖になっている。



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アメリカは日本より10年以上も前からタグによる調査を始めている。そのデータは莫大である。



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アメリカ西海岸沖でのクロマグロの釣果。アメリカのバッグリミットは1日1人2匹である。一つの船が1日に1トン以上釣ることもある。そして近年は大型化している。



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そして日本。2010年ごろから青森、九州まで遠征しても坊主で帰るのが当たり前だった。



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ところが2018年ころから目に見えて資源が回復。魚が減れば釣り人も減る。魚が増えれば釣り人も増える。



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釣り船もプレジャーボートも増え、旅館も予約でいっぱい、地元の居酒屋は毎日満員御礼となった。



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釣り人による生態調査も始まった。サイズを測り、電子タグを埋め込む。



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3年くらい前からリリースする人も増えている。資源が増えれば釣り人の気持ちも豊かになる。




20~25年で繁殖能力がなくなると、かなりの個体が赤道を通り越して南半球に移動する。ニュージーランド南島はそのクロマグロの終焉の場の一つである。

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ニュージーランドではホキの大型トロール船の周りにクロマグロが近づく。



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網からこぼれるホキをクロマグロが狙っているのだ。


アメリカの若い研究者ジョージ・シリンガーが2007年から2011年まで、毎年夏になると訪れて、釣り船に乗ってポップアップタグ(電子タグの一つ)を200本以上打ったが、日本に戻るクロマグロは1匹もいなかった。おそらくニュージーランド近海で一生を終えたのだろう。



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我々日本チームもニュージーランドで22匹のクロマグロにタグを打った。


2007年から2010年までニュージーランドにマグロ釣りに行ったのでこの若い研究者の話は聞いていた。餌の豊富な北大西洋で余生を過ごさず、環境の厳しい南半球で一生を終える。子孫たちと争いたくないのかもしれない。


その後、ジョージシリンガーに会うことはなかったが、彼が所属していたモントレーベイ水族館を表敬訪問をし、その後の研究結果などを教えていただいた。
https://tagagiant.blogspot.com/2008/08/new-zealand-giant-pacific-bluefin-tuna.html
2018/06/13

今年もまき網漁が始まった😢

世界中でクロマグロの水揚げを見てきたが、100キロ未満の水揚げを海外では見たことが無い。アメリカ・ノースカロライナでは小さくても100キロ以上(なぜなら叉長72インチ未満は漁獲できない)、カナダのプリンスエドワード州では小さくても250キロ以上ある。スペインのまき網も平均サイズが133キロもある。
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ところが6月3日から日本海で始まったまき網の平均サイズは30キロ台と大西洋に比べてはるかに小さい。これはほとんどが初産卵、もしくは未成魚(子供)である。多くのマグロが一度も産卵をしないで殺されていくのだ。

しかもこの写真を見るように、魚体がとんでもなく汚い。これは生きているうちに狭い冷蔵庫に放り込まれ、苦しみもがき、大暴れしながら死んでいくからだ。当然身質も悪く、市場では最も安く取引される。
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これは同じ日に並んでいた一本釣りクロマグロ。一目瞭然の綺麗なマグロである。生きているうちに大切に扱い、血抜きをして神経締めをしたので身質も良く、高値で取引される。しかし、この日は大量にまき網のマグロが入り、市場は大暴落、そしてまき網物は約7割の売れ残り。そんな運の悪い日に当たったので、直前までは7000~8000円付いていた一本釣りマグロもセリ値が2500円まで下がってしまった。マグロに限らず、常に沿岸漁師はまき網に泣かされている。
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そのまき網だが、現在はこの辺りで漁を続けている。すぐ近くの佐渡や粟島の定置網などの漁師は自粛が続いている。その沖で初産卵に来た小さなマグロを連日大量に巻いているのだ。
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佐渡、粟島沖で漁獲したマグロは約18時間かけて鳥取の境港に運ばれる。そして卵や白子を抜かれてセリにかけられるのだ。その卵と白子のほとんどが養殖の餌に回される。
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そしてスーパーに並ぶ。血栓があちこちに残り、すぐに色変わりする。取り柄は安いというだけ。
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最後は5割引きとなる。それでも売れ残る。まったく資源の無駄使いである。海は国民共有の財産であり、一部企業のものではない。国民の財産の一部を獲らせていただいてることに感謝のかの字も感じない。
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これは2015年6月24日の築地でのセリ値。なんと安値は300円。冷凍のキハダやメバチより安い。
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これは今年初入荷である5日の相場。毎年初日は高値が付くが、今年は243本中207本が売れ残った。売れ残ったマグロは相対に回され、ただ同然に買い叩かれると聞く。これが黒いダイヤと呼ばれる魚の終焉。
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そして12日の相場。日に日に安くなって小サイズ(40キロ以下)は高値が1200円、84本中67本が売れ残り。中サイズは12本中10本が売れ残り。
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この公開されている安値だが、一般の国民はこれしか知らされない。売れ残りを市場は公開してないのだ。2016年ころから安値が上がりだし、売れ残りが目立つようになった。こんな安値ではまき網の評判がさらに下がる。それを危惧したまき網団体が行政に下値(それ以下ではセリでは売らない)を設けるよう要請したのかもしれない。


クロマグロが減ったのはまき網だけの原因ではない。沿岸漁師にも責任はある。しかし、圧倒的に漁獲能力があるまき網が資源を減らした一番の犯人であることは間違いない。そしてさらに責任が重いのがそのような大型漁業を野放しにしてきた行政である。マグロのような広域回遊魚は一カ国だけで管理はできない。各国が協力して管理しなければならない。初期資源量比3.3パーセントまで激減したクロマグロ資源管理に関しては、その産卵場のほとんどをEEZ内に持つ日本の責任は重い。当然国際合意は守らなければならない。そうしなければ産卵場が日本のEEZ外にあるキハダやカツオに対して何も言えない。
マグロが少し増えたから枠を増やせと言うのは国際間では通らない話なのだ。ではどうしたらいいのか?
国内の配分を調整するしかない。資本力のある大型漁業の枠を減らし、零細漁民の枠を守るのは資源管理先進国なら常識なのである。FAOの行動規範にもWCPFCの条約にもそう記されている。


欧米などの資源管理先進国のほとんどが水産業は成長産業である。
こんな話を海外の科学者などから聞いた。

「早期に手を打ち、早期に回復させる」このように管理すれば漁業者も少ない我慢で済むが、手遅れになったら長期苦しむか、廃業するしかない。今の日本はまさに手遅れの状態。

資源管理は人間を管理すること。そうすれば魚は勝手に増える」

「日本はそんなにまき網が政治力を持っているのですか?」

「3.3パーセントは即禁漁のレベル。そんなときに産卵期の産卵場に漁船がいること自体おかしなことだ」


しかも太平洋クロマグロは現在絶滅危惧種に指定されている。

そんな日本は国際会議で全国から来た漁業代表者に水産庁は作文を作って読ませている。読ませる方もだが、言いなりの漁業代表者にも大きく失望した。


全国の沿岸漁師は1月23日から操業を自粛している。そんな目の前で連日大量にまき網が漁獲しているのだ。
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水産庁はまき網も規制しているが、俺から見れば野放しに近いと言わざるを得ない。
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まき網の部分を拡大すると

水産庁は2002年から2004年の漁獲を基準にそれ以上獲らないと決めたと言うが、日本海側の2002年から2004年の漁獲(赤)の平均は1090トンである。なのに2014年からは2000トンと自主規制している。しかも漁獲規制の始まった直近の5年間(青)は一度も2000トンに達してない。これは規制と言うより漁獲目標と言うべきだろう。
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太平洋側(緑)は2004年までは大量に漁獲していたが、2005年から激減する。これはマグロの群れが見つからず、操業をやめたまき網船が増えたからと聞く。2008年にはついに0トンになった。そしてしばらく獲らなかったことで、2014年ころから資源はどんどん回復している。ようするに獲らなければすぐに増えるのがマグロなのだ。
まき網全体の大型魚の漁獲は3098トンが与えられているが、この全体(ピンク)を見ると直近の8年間は一度も3098トンに達してない。2002年から2004年を基準にしたのはそのような理由からだろう。


これは最近発表された第4管理機関の配分案。まき網が優遇されているのが誰が見てもわかるだろう。

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大型クロマグロのうち、知事管理というところが沿岸漁業の枠である。たったの732トンしかない。これを全国の定置、はえ縄、一本釣りなどが分け合う。対してまき網の枠は3063トンもある。
まき網の産卵期を禁漁、もしくは枠を半減などして、沿岸に500トン以上回したらどうだろう。沿岸と言えども資源が安定状態(初期資源量比20パーセント)に回復するまでは産卵期は厳しく規制すべきである。水産庁のシミュレーションでは3年禁漁すれば回復するらしい。長く苦しむより、3年我慢すれば豊かな未来が訪れるのだが・・・



6月11日は緊急沿岸漁師フォーラムに参加した。ところが5月のコロンビア遠征から下痢が止まらず、思考能力も体力も激減。直前に病院に行き、先生から「疲れからの下痢」と言われ、点滴を打ってから会場へと向かった。
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20分ほど遅刻して会場に入ると釣りが趣味の坂口先生の講演が始まっていた。水産庁の漁獲枠配分の矛盾するところを次々と突いていく。海外の事例などもふまえた国際感覚の講演は沿岸漁師にはとても勉強になっただろう。日本の水産学者は漁師のために動く人はほとんどいない。天下りのお話もあった。専門は法学部なのにクロマグロの資源管理に関心を持った理由、そして放っておけなくなった話など何度も聞いてるが(笑)やはり面白い。
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先生の講演はここで見られます。とても勉強になります。合わせて全国の沿岸漁師の叫びも是非聞いていただきたい。




残念だったのは自民党議員が一人も来なかったことだ。会場は衆議院第2議員会館である。
他の会合などには多数集まるのだが。
戦後7分の1にまで激減した漁師のために動いても何の得にもならないからだろう。

108人も自民党議員が集まった全漁連と大日本水産会(天下り団体)の集会。
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漁業補助金と言っても、その多くは土建屋と天下り団体に払われている。沿岸漁師に回るのはわずかであり、資源管理関係の予算はたったの3パーセントである。儲かっているはずのまき網会社にも多くが回っている。
漁港漁場漁村整備促進議員連盟の会員(国会議員)は137人もいる。利権だろう。




水産庁前のデモの翌日5月31日は横浜で開催された太平洋クロマグロMSE(管理戦略評価)ワークショップに参加した。海外の科学者がたくさん参加する会議であり、先進国の考え方がよくわかる、とても勉強になる会議だ。ところが言葉はすべて英語。俺には同時通訳でも理解できないチンプンカンプンの会議だった(最後まで寝ないように頑張った)。
その会議がそろそろ終わろうとしているとき、隣にいた森君(JGFA所属)が質問をした。すべて英語で。隣で聞いてる俺はやはりチンプンカンプン。毎年海外に数え切れないほど行ってるのに・・・

その会議が終わって驚いたのはISCの前議長であるジェラルドさん、現議長であるジョンさん、他数名の科学者が次々と森君に近づいてきたことだ。ジェラルドさんは昨年俺も会っているので覚えていてくれてニコニコしながら挨拶された。森君には「良い質問だったよ」「これからも思ったことはどんどん言いなさい」と。
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その森君の報告。長文だが目を通す価値は有り余るほどあります。

管理戦略評価のワークショップと言う事で、各国から科学者等が集まり、かなり専門的な内容で管理のガイドライン的なモノを議論しながら煮詰めていました。当然会議は英語。同時通訳よりは自分の耳を信じて、必死でついて行きました。

私が気になった内容としては、資源が予想以上の早さで回復した際に、資源量に応じて素早く枠を増やす主張が日本の水産庁から出ていました。2年に一回の資源評価、そして出るデータも1年前のモノなので、なかなかタイムリーにならない事から、どうにか増えたらすぐに捕れないか?と言う主張です。

2%が3%に増えたから、よし捕ろう!とは、バカげた話です。魚は絶滅しない限りはどこかに居ます。どんなに少なくても、居る場所に出くわしたら、魚が居るのに捕るなと言うのか!と言う事になってしまいます。幸か不幸か、日本は太平洋クロマグロの好漁場です。残り2%や3%と言われる絶滅危惧の状態になっても尚、マグロは日本近海にそこそこ居ます。そして、マグロは群れを成す魚ですので、居る場所に出くわせば、こんなに居るのに!!と言う主張が漁業者から出るのは当然で、それをそのまま日本の主張としてしまっているのは仮にも大勢の科学者を抱え、科学的な根拠に基づく資源管理を話合う場において、恥ずかしい話です。

あと、水産庁サイドから耳を疑う様な発言がありました。親子関係が無いのなら、初期資源量比20%以上を目指す意味はどこにあるのか?と。親魚が増えても、ある一定レベルからは加入は増えない。加入があった分だけ捕るのが持続可能な漁業だとすれば、目標値を上に設定する意味はあるのか?という主張。

私は水産庁の資源管理者としての資質を疑う内容の質問であった様に思います。クロマグロは自然の一部で、野生生物です。我々人間は、自然からの恵みによって生かされています。これは誰にも否定出来ない事実です。初期資源量比20%以上を目指さなくてもいいではないか・・・とは、元々100居た自然の恵みを乱獲によって絶滅危惧と言われる程までに激減させてしまった事に対する反省が全く無い、自然や野生生物を慈しむ心の無い、魚を商品としてしか見れない組織の発言です。資源管理は、野生の生き物の命を有り難く頂くと言う心すら持てない組織にやらせるべきでは無いと個人的に感じました。その様な体質の組織(水産庁)が現時点で日本を代表して国際会議で発言しているのは残念でなりません。

会議の内容の中に、資源を最大限経済的に活かしていくと言う内容も盛り込まれていました。産卵期のまき網でクロマグロを大量漁獲して二束三文で売り飛ばす事は、この取り決めに違反している様ですので、今後の改善に期待したい所です。

ワークショップの最後に最新のクロマグロの資源の現状に関するプレゼンテーションがありました。

最新の科学的分析によれば、現在太平洋クロマグロの資源量は初期資源量比で3.3%との事。96.7%が依然失われたままで、資源は極めて危機的な状態にあります。ただし、過去2年、僅かながらに回復の兆しを見せている様ですが、私に言わせれば誤差程度の回復傾向です。そして、このプレゼンテーションでも再確認していましたが、実際の資源量と、データ分析で出てきた資源量は異なる可能性があり、実際の資源量はわからないとの事です。海の中の魚を残らず全て計量する事等不可能ですので、漁獲データに基づく推測値との事です。ただし、幸か不幸か、大西洋と比べて依然として圧倒的に漁獲量、つまりデータが多いので、データの信ぴょう性は大西洋と比較すると高いとの事。こんなに減っても捕り続けているからデータがあるとは、褒められた事ではありませんが。

このプレゼンテーションでは、太平洋クロマグロは依然として乱獲された状態にあり、乱獲が続いていると結論づけていました。そして、その科学的分析に対し、水産庁は資源管理を開始し、資源は回復の兆しを見せているので、乱獲された事は事実であっても、乱獲が続いていると言う言い方は大変な誤解を招くから止めて欲しいと主張しておりました。しかし、データがそう示していて、このデータに基づく分析ではそう言わざるを得ないとの科学者からの回答に、何度も食い下がる水産庁職員。

管理者という立場にある水産庁が、現状でも乱獲が続いていると科学者に指摘される事は、我慢のならない事なのでしょう。

私も最後に発言させて頂きました。大きく2点。

一点目は遊漁が無視され続けている事を指摘し、今後は遊漁の別枠管理も求めました。別枠管理ならば、漁業者が枠に達したからと言って、遊漁が自粛という事が防げます。遊漁は例えば枠の8割に達した時点で全てリリースという手を使えば、釣りは続けられる可能性があります。漁業者の乱獲のせいで遊漁船(業)が迷惑を被るという構図を今後は変えていくべきだと思います。

回答としては、遊漁はデータが無いし管理もしていないとの事。

水産庁はやる気無いので、今後は遊漁団体等が独自で釣果データ(操業時間、捕獲匹数、リリース匹数)集めをし、提出するのが腰の重い水産庁相手にはスムーズだと思われます。

2点目は、現在の資源量が初期資源量比で3.3%という極めて低い数字である事から、これは加入乱獲(親魚が減り過ぎて加入が悪くなっている状態)の状態である事の確認。水産庁サイドの科学者が書いた学術論文でも、加入乱獲の目処として5%という数字が仮に使われている等、(それでも仮定が低いのだが)、常識的にも、科学的にも加入乱獲の状態である事は間違い無いので、その確認。
そして加入乱獲の状態にあるのならば、何故未だに産卵期の巻き網漁を許しているのか?という質問をしました。

この質問を投げかけた所、複数の海外からの科学者がニッコリと笑顔で振り返ってくれました。水産庁が牛耳る日本の会議において、水産庁に遠慮してなかなか言えない様な事も多いのでしょう。

この質問に対し、水産庁サイドは回答できずにいた所、ISCチェアのジョンホームズ博士が助け舟でこう回答して下さいました。

科学者サイドはデータ分析から現状を資源管理者に知らせるのが仕事で、実際にその現状を理解してどの様な管理をするのは、管理者の判断だと言う事。

つまり、科学が何を証明しても、最終的には管理者(水産庁)が判断を誤ってしまう可能性がある・・・と。

捕る事が仕事の水産庁に資源管理は出来ないと、再確認した次第でした。これは、現職の水産庁職員が悪いのではなく、組織の役割と構造に問題があるからです。

資源管理は自然環境の一部として豊かな状態を環境省が守り、与えられた枠の中で水産庁がその資源を利用する様な構造にしなければならないと再確認しました。

加入乱獲か否かについては、太平洋クロマグロについては、ここからが加入乱獲ですよと言うラインが決められていない(決めていない)ので、現時点では太平洋クロマグロはどの時点で加入乱獲という定義が無いとの回答が日本の研究者からありました。

線引きをしない、出来ない理由は、既に常識的には禁漁にすべきラインを大きく割ってしまっている事。通常資源管理は資源が豊富な内に、ここまで下がったら、この規制、ここまで下がったら更に規制強化、ここまで下がったら禁漁という数値を決めて管理するのですが、太平洋クロマグロの場合、日本が断固禁漁を受け入れない姿勢ですので、その線引きすら出来ない状態にあります。

会議終了後、場の空気が多少凍り付く様な質問を投げかけてしまった私ですが、閉会後にはISCの現職のチェアマン、前チェアマン含め、色々な方々が、よくぞ言ったと激励しに来て下さいました。

私の質問に答えて下さったISCのチェアマンであるジョンホームズ博士は、あの質問は水産庁は非常に答えにくい内容だったので私が助け舟で答えさせて貰ったよとの事。非常にいい質問で、次回もどんどん発言して下さいと激励して下さいました。

追加で、茂木さんからの質問で、産卵期のまき網漁は実際はどう思うのか?と質問したところ、そもそも、産卵期の産卵場所にその様な船が居る事自体、おかしな話だ。この資源量は我が国(カナダ)だったら即時禁漁となる数字だとの事。未成魚の管理が始まっている事は良い事だが、まだまだ長い道のりだとおっしゃっていました。現状、資源管理を進めたい諸外国と、自国の漁業優先で資源管理を阻む日本という構図が問題解決の足あかせになってしまっています。

同じくISCの元チェアマン、現米国NOAAのFisheries Resources Divisionのディレクターを務めるジェラルドディナードさんともお話ししました。前回のステークホルダー会議の時にも(当時はISCチェアマン)お話しさせて頂き、私の事も覚えていて下さいました。やはり、開口一番、いい質問だったよと激励して下さいました。

ジェラルドさんには、日本の産卵期の巻き網漁をやめた場合の資源動向の推定はしているのか?と質問したところ、年間通して全ての漁業を完全禁漁した場合の推測はしているが、産卵期のまき網に限った推測はしていないとの事。産卵場所は毎年変わる上に、特定の漁法をターゲットにした推測はしないとの事ですが、例えば産卵期を漁法に限らず禁漁にする等の推測をして欲しいというリクエストがあり、承認されればやる用意はある。是非その様なリクエストを出して欲しいとの事でした。勿論、私が個人的にリクエストしても通らないので、各団体を通じてリクエストしてくれとの事。必ずリクエストを送るので、実現させて欲しいという事で硬く握手してきました。NPO、NGO、漁業者団体等に掛け合い、実現させたいと思います。

勿論、水産庁は産卵期のまき網漁を擁護している立場なので、産卵期のまき網漁をやめると言う資源管理方法は、デモや様々な会議で問題を指摘されてきたにも関わらず、選択肢の一つとして考慮すらしていませんでした。今後はISCを通じて太平洋クロマグロの産卵期の禁漁をしたら資源がどの様に回復するのかの推測をして頂き、選択肢の一つに入れて貰えればと思います。

今回のワークショップでも、資源管理をもっと厳しく進めたい諸外国と、現状行われているクロマグロ漁を続けたい水産庁との間に、かなりの温度差を感じたのですが、私が思うに水産庁サイドが一方的に悪者で滅茶苦茶な事を言っている訳ではありません。彼らは日本の漁獲枠を出来るだけ多く獲得し、水産物を国民に供給する、そして漁業者の漁を続ける権利を守ると言う職責に対し、真面目に仕事をしているだけです。

ただし、その仕事の内容が現状では資源管理に対し後ろ向きと言わざるを得ない事になっていて、資源状態が低位のままなかなか回復せずに、特に沿岸の小規模漁業者の首を絞めてしまっています。

もし仮に、産卵期のまき網漁をやめれば資源がより早く回復するのならば、そうする事で沿岸漁業者への規制が緩和に向かう可能性も高く、一部の大規模漁業のせいで数多くの小規模漁業者が我慢を強いられると言う今の構図もより早く解消されるでしょう。勿論、遊漁者が海外に行かなければ魚が満足に釣れないという現状も、いち早く解消に向かいます。




大西洋はまき網の漁獲枠と漁期を大幅に規制して資源を一気に回復させた。この図を見ればまき網(緑)が大幅に削減されているのがよくわかる。ところが日本は前途したように漁獲を減らすような規制は全くやってない。
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公的機関の報告では2028年に漁業者は4万人にまで減ると予想している。

マグロに限らず多くの魚が減っている。

そのうち魚も漁師も消え、立派な漁港だけが残ったという時代が来るだろう


そうなったら水産庁も天下りもいらない。