「わたし、逃げられん」 ひとりっ子ママが背負う家族の十字架
「私、逃げられん」
そう腹をくくり、防護服のつもりで自宅のごみ袋を全身にかぶった。マスク姿で消毒液を塗りたくり、両手にはゴム手袋をはめた。
<スクープ>子育てと介護重なる「ダブルケア」29万人 9割が働く世代
育児と介護の負担がいっぺんに重なる「ダブルケア」。少なくとも子育て中の38人に1人が直面しているとの推計が明らかになりました。家庭で今、何が起きているのでしょうか。実情や背景、課題を検証しました。(全4回の1回)
第1回・「わたし、逃げられん」 ひとりっ子ママが背負う家族の十字架
第2回・ジェンダー格差、離職、貧困…ダブルケアに潜む影 国調査を独自検証
第3回・ダブルケアは「現代日本の縮図」 立ちはだかる縦割り行政
第4回・「38人に1人」の衝撃 ダブルケアの名づけ親はどう見る?
<写真特集>ダブルケアに直面 48歳女性の日常
コロナでも…
広島県呉市の大谷佳代さん(48)は、寝たきりの母親(80)と物忘れが進む父親(81)が暮らす隣の実家へ介護に向かった。
3年前の夏、大谷さんは新型コロナウイルスに小学生の子とともに感染していた。39度を超える高熱も出たが、ジェットコースターのような目まぐるしい日常は変わらなかった。
食事や掃除、トイレの介助……。家族の療養中を含め約1カ月間はデイサービスやショートステイも頼れなかった。
自宅に戻れば、長女(12)と長男(10)の子育てが待っている。旅行会社で働く夫(49)も助けてくれたが、大谷さんには重い負担がのしかかった。
子育てと介護を同時に迫られるダブルケアは、いつからその日を迎えるか分からない。高齢化や晩婚・晩産化が進む今、誰もが直面する可能性がある。
「『なぜ私だけこんな目に遭うん?』って、涙がよく出ちゃいます」。大谷さんに負担が偏るのは、多くの人たちと共通する家族のある事情が潜んでいる。
7年前からダブルケア
なかなか良縁に巡りあわず、結婚は35歳だった。それでも間もなく2人の子宝に恵まれ、4人家族になった。当時は夫の仕事の関係で東京で暮らしていた。
「私しかいませんから。特別な感覚はなく、自然な流れでした」
ダブルケアが本格的に始まったのは7年前の2017年からだ。母親が難病で足が不自由になり、医師から「近い将来、寝たきりになってしまう」と告げられた。後に自…
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