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Mark Shim / Turbulent Flow

Label: Blue Note
Rec. Date: Feb. 1999
Personnel: Mark Shim (ts, ss), Edward Simon (p, elp), Drew Gress (b), Eric Harland (ds), Stefon Harris (vib, marimba) [on 2, 6, 9]
Shim Mark_199902_Turbulent Flow 
1. Turbulent Flow [Shim]
2. Recorda Me [Joe Henderson]
3. Christel Gazing [Shim]
4. Survival Tactics [Shim]
5. Don’t Wake the Violent Baby [Shim]
6. Dirty Bird [Shim]
7. Scorpio [Shim]
8. Jive Ones [Shim]
9. Eminence (for Betty Carter) [Harland]

 前回記事に引き続いて「いまさら」のアルバムではありますが、贔屓のサックス奏者Mark Shim(マーク・シム、1973年ジャマイカ産)の1999年に録音されたリーダーアルバム「Turbulent Flow」を取り上げます。
 これまでこのblogでは、いずれも彼がサイドメンとして参加した以下の5枚のアルバムを取り上げてきました(blog掲載順、カッコ内の数字は録音年)。

・Michele Rosewoman / The In Side Out(2005、Advance Dance Disques)
・Carlos De Rosa's Cross-Fade / Brain Dance(2009、Cuneiform Records)
・Rez Abbasi & Junction / Behind the Vibration(2015、Cuneiform Records)
・Matt Brewer / Ganymede(2018、Criss Cross)
・Greg Osby / Further Ado(1997、Blue Note)

 一方、彼のリーダーアルバムはと言うと、90年代後半に録音された第一作「Mind over Matter」(1997年録音、Blue Note、アルバムジャケットを本記事末尾に掲載)と本作「Turbulent Flow」の2枚のみということで、もう20年以上もリーダーアルバムを出していません。上記Greg Osby盤を除く4枚のアルバムに聴かれるように、今世紀に入ってからの彼のプレイが不調ということは決してなく、特に現時点最新の「Matt Brewer / Ganymede」でのプレイは絶好調でしたので、そろそろ久しぶりのリーダーアルバムを聴きたいところです。

 本作「Turbulent Flow」は、ピアノEdward Simon(エドワード・サイモン)、ベースDrew Gress(ドリュー・グレス)、ドラムEric Harland(エリック・ハーランド)のリズム陣と、3曲にヴァイブ・マリンバのStefon Harris(ステフォン・ハリス)が加わるなかなかのメンバーです。
 演奏される楽曲は自身のオリジナルに混ざって、彼のアイドルJoe Henderson(ジョー・ヘンダーソン)の”Recorda Me”(「Joe Henderson / Page One(1963年録音、Blue Note)」が初出)が選ばれています。

 Mark Shimの(特にテナーの)くすんだ音色を反映して、アルバム全体の基調としてもダークな(或いは「錆色」の)雰囲気が漂いますが、後に述べますようにEric Harlandを中心とした躍動するリズム陣のおかげで、一定の高揚感とパワーを感じさせるサウンドになっています。
 リーダーは最初のリーダーアルバムの前作に比べてみると、肩の力を抜きリラックスして吹いているような印象を受ける反面、フレーズはよりリズミカルに「細分化・高度化」され技巧的になっていると言えばよいのでしょうか・・・間違いなくこの2年間で「成長している」ということなのでしょう。アルバム前半で言えば、2、4曲目のアップテンポでハードな曲でも、3曲目のように少し温度が下がる場面でも、かつてのM-Baseサウンドを再現したような趣きの5曲目でも、曲想に合わせながらも強く個性を主張する彼のテナーは冴えわたっています。
 なかでも2曲目”Recorda Me”では、さすがに(アイドル、或いは師匠?への)思い入れがあるのでしょう、バックのEric Harlandのビートに煽られてのMarkのフレーズの鋭さは際立っており、実に印象的なトラックに仕上がっています。
 一方、アルバム後半の6、9曲目でMarkはソプラノを吹きますが、Stefonのマリンバが参加する6曲目はこのアルバムでは最もハードな展開になるトラック、ラスト9曲目はEric Harlandオリジナルの8ビートのしっとりした演奏で、いずれもテナーとは一味違う鋭さをソプラノで表現していて、サックス奏者としての表現の幅の広がりも感じさせます。

 最後にリズム陣についてですが、的確なバッキングと個性的で尖ったソロを随所に聴かせるピアノEdward Simon、それにバンドを煽りまくるドラムEric Harlandの存在が実に効いています。特にEricについては、前作「Mind over Matter」にも参加していた彼の比較的初期の録音に当たりますが、前作では全面開花にもう一歩という印象だったのに対して、ここでのプレイを聴くと、もう私たちがよく知っている手数の多いパワフルなドラムを叩く「あの」Eric Harlandが完成しているように思えます。いずれにしてもこのリズム陣は「花を添える」以上の貢献をしていることに間違いありません。

 前回記事のGreg Osby盤と同じように、Mark Shimファンとしては触れておかなければならないと思ったアルバムです。Osby盤もそうですが、安価な中古盤がゴロゴロしていますので、興味をお持ちの向きにはぜひお聴きいただきたいものです。

『Mark Shim / Mind over Matter』(1997年録音、Blue Note)
Shim Mark_199702_Mind

Greg Osby / Further Ado

Label: Blue Note
Rec. Date: Mar. 1997
Personnel: Greg Osby (as), Jason Moran (p), Calvin Jones (b) [8], Lonnie Plaxico (b) [except on 8], Eric Harland (ds), Tim Hagans (tp) [4, 6, 8, 10], Mark Shim (ts) [4, 6, 8, 10], Cleave Guyton (fl, alto-fl, cl) [2, 7], Jeff Haynes (per) [4, 9, 10]
Osby Greg_199703_Further Ado 
1. Six of One [Osby]
2. Transparency [Osby]
3. Mentor's Prose [Osby]
4. Heard [Osby]
5. The 13th Floor [Osby]
6. Soldan [Osby]
7. Of Sound Mind [Osby]
8. The Mental [Osby]
9. Tenderly [Walter Gross, Jack Lawrence]
10. Vixen's Vance [Osby]

 「Gary Thomas / Pariah's Pariah」の記事で触れましたように、アルトサックス奏者Greg Osby(グレッグ・オズビー)は、Blue Note移籍第一弾となった「Man-Talk for Moderns Vol. X(1990年録音)」に続いて発表した「ヒップホップ血迷い盤」の2枚、すなわち「3-D Lifestyles(1992年録音)」と「Black Book(1994年録音)」で私を含む多くのリスナーを失望させた(?)ところですが、「こんなことやってちゃいかん!」と本人が思ったかどうかは知りませんが、「血迷い後」第一弾の「Art Forum」(1996年録音、本記事の最下段にジャケット写真を掲載)を皮切りに「The Invisible Hand」(1999年録音)に至る力作6枚を次々に発表・・・このようにいま振り返ってみますと、彼のキャリアのピーク真っただ中と言ってもよい1997年に、今回取り上げる「Further Ado」は録音されました。
 いまさらという気もしますが、やはりGreg Osbyのファンとしては触れておかなければならない一枚であり、さらに、このふざけたジャケットによって多くのリスナーにきっとシカトされているんだろうなと思い、今回ここに取り上げる次第です。

 コアとなるリズム陣は、ピアノJason Moran(ジェイソン・モラン)、ベースLonnie Plaxico(ロニー・プラキシコ)、ドラムEric Harland(エリック・ハーランド)のお馴染みの三人、4曲にラッパTim Hagans(ティム・ヘイゲンス)やテナーMark Shim(マーク・シム)らが加わるメンバーです。

 前作「Art Forum」もそうなのですが、このアルバムでのGregもとにかく脂が乗っていると言うか、彼の持ち味である深く艶やかな音色でウネウネと上下に動くフレーズを「吹き切っているな」と感じさせるプレイです。彼のキャリアのピーク云々ということを上に述べましたが、彼のアルトサックス奏者(このアルバムでは全編アルトで通しています)としての正にピークを捉えた演奏の一つと断言できる快演です。彼のアドリブ・ラインと表裏一体のような自身のオリジナルを中心とした選曲で、例えばアップテンポでブロウする冒頭曲、グッとテンポを落としてかなり屈折したバラードの2、3、5曲目、M-Baseライクなホーンとパーカスが入るラテン・ビートの4、10曲目、拍子が掴みにくい不思議チューンの8曲目などなど・・・どのような場面でも、Gregのアルトはキレています。唯一のスタンダードの9曲目”Tenderly”での、前後の流れとはちょっと変わって素直な(とは言っても「それなりの素直さ」ではありますが)バラード吹奏もしんみりと聴かせます。

 そしてもう一つ特筆すべきは、リズム陣のクオリティの高さ、中でもJason Moranの存在です。私の手元では、本作がJasonの最も古い録音(おそらく彼の最初のレコーディングと思われます)で、この後Gregと共演を重ねる二人の初顔合わせとなるセッションですが、ソロ、バッキングともにGregの「屈折感」にピタリと呼応するJasonのプレイで、初顔合わせにして二人の相性はバッチリです。そして、各曲でフィーチャーされるピアノソロは、短いながらも自信に満ちた風格さえ感じさせるようなプレイです。このレコーディングでスタートしたGregとJasonのコンビは、私が大好きなMark Turner(マーク・ターナー)とEthan Iverson(イーサン・アイバーソン)とのそれと同レベルの高み・深みを感じます。

 最後にもう一点、6、10曲目ではMark Shimが短いながらも彼らしいソロをGregと交換する場面があり、贔屓の二人のサックス奏者を同時に味わえるというのも、個人的には嬉しい限りです。

 トホホなジャケットからは想像できないようなシビアな演奏が繰り広げられる力作で、何度も申し上げますように、Greg Osbyのピークを捉えた会心のアルバムです。

「Art Forum」(1996年録音、Blue Note)
Osby Greg_199602_Art Forum

Kenny Werner / Live at Visiones

Label: Concord
Rec. Date: Aug. 1995
Personnel: Kenny Werner (p), Ratzo Harris (b), Tom Rainey (ds)
Werner Kenny_199508_Visiones 
1. Stella by Starlight [Victor Young, Ned Washington]
2. Fall [Wayne Shorter]
3. All the Things You are [Jerome Kern, Oscar Hammerstein II]
4. Blue in Green [Miles Davis]
5. There Will Never be Another You [Harry Warren, Mack Gordon]
6. Blue Train [John Coltrane]
7. Windows [Chick Corea]
8. Soul Eyes [Mal Waldron]
9. I Hear a Rhapsody [George Frajos, Jack Baker, Dick Gasparre]

 今回の記事は、ピアニストKenny Werner(ケニー・ワーナー)のトリオによる「Live at Visiones」です。
 Kennyは1951年NY産で、ネット情報によりますと1977年に既に最初のリーダーアルバムを録音しているようですが、私が彼と付き合い始めたのは1989年録音の「Introducing the Trio(Sunnyside)」からということになります。
 本作「Live at Visiones」は、この「Introducing the Trio」録音時からレギュラー活動をしていた彼のトリオの最後のアルバムで、ベースRatzo Harris(ラッツォ・ハリス)とTom Rainey(トム・レイニー、Tim Berneの三つのユニットなどに参加)とのトリオによるNYのジャズ・クラブでのライブアルバムです。

 アルバムのサブタイトル「Standards」のとおり、トラックリストにはスタンダードやジャズメン・オリジナルの有名どころがズラッと並んでいます。本作でこのトリオに初めて接するリスナーは、手慣れた楽曲を選んでのリラックスしたライブ・セッションだろうと期待するわけですが、冒頭のスタンダード” Stella by Starlight”が始まった途端、それを大きく裏切る展開になっていきます。
 その冒頭曲は、アブストラクトなピアノのイントロからリズムが入ってきますが、原曲からはかなり離れたコード・チェンジで、トラックリストを見なければあの”ステラ”にはとても聴こえないくらい大胆な解釈でアルバムがスタートします。
 2曲目ショーターの”Fall”は、上記”ステラ”に比べれば幾分か「素直に」演奏されます。ず~んと腹に響くベースに淡々とリズムを刻むベースに支えられて、Kennyの指が上下に動き回り硬質なタッチでフレーズを叩き出し、このあたりで、リスナーは「このトリオはなかなか良いじゃん」といった感触を掴んでいきます。
 全体的に、1, 3, 5, 9曲目のスタンダードは、かなり原曲から離れた彼ら流を貫く独善的解釈で押し通し、その他のジャズメン・オリジナルは、比較的素直な解釈で原曲に寄り添いつつ、自分たちの個性を主張している、といったところでしょうか。
 そして、どのトラックでも聴き手の耳を惹きつけるRatzo Harrisのベースの圧倒的な存在感が、このトリオの特徴の一つでしょう。なかでも、マイルス作の4曲目”Blue in Green”では、 広い音域を使った粘っこくて技巧的なベースが「これでもか」或いは「ここまでやるか」と大フィーチャーされ、出色のプレイを聴かせてくれます。

 Kenny Wernerというピアニストは、1960、70年代の少しフリーに傾いた頃のチック・コリアあたりを「源流」として、よく指が動いて、時に大きくアウトする強面のフレーズを一気に弾いてしまう技巧派のピアニストで、本作でのプレイにも、その彼の特徴がハッキリと表れていると思います。
 本作の後にも、新たなトリオで意欲的なアルバムを出したり、リーブマン、デイブ・ホランド、ジャック・ディジョネットとフリージャズのアルバム(「David Liebman / Fire(2016年録音、Jazzline)」)を出したり、一方で我が国のレコード会社に付き合って「ちょっとなぁ」というアルバムを出したりと、精力的な活動を続けているわけですが、彼が最初に取り組んだこのレギュラートリオでの演奏には、他にはない圧倒的な勢いを感じます・・・すなわち、これが「旬」ということなのでしょう。

 このトリオの三作目(その他にこのトリオにゲストが参加するアルバムが2枚あります)にして最終作となったこの「Live at Visiones」は、有名曲を素材にしながらも彼らがやりたいことを徹底してやり切っているということが聴き手に伝わってくる力作です。さらに、このトリオでのRatzo Harrisの素晴らしいプレイゆえに、彼の名前は強く記憶に残ることになりました。

プロフィール

sin-sky

Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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