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Patricia Brennan / Breaking Stretch

Label: Pyroclastic Records
Rec. Date: Sept. 2023
Personnel: Adam O’Farrill (tp), Jon Irabagon (as, ss), Mark Shim (ts), Patricia Brennan (vib, marimba), Kim Cass (b), Marcus Gilmore (ds), Mauricio Herrera (per)
Brennan Patricia_202309_Breaking Stretch
1. Los Otros Yo (The Other Selves)
2. Breaking Stretch
3. 555
4. Palo de Oros (Suit of Coins)
5. Sueños de Coral Azul (Blue Coral Dreams)
6. Five Suns
7. Mudanza (States of Change)
8. Manufacturers Trust Company Building
9. Earendel
[all compositions by Brennan]

 昨年聴いた新譜からもう一枚、メキシコに生まれNYで活動する女流ヴァイブラフォン・マリンバ奏者Patricia Brennan(パトリシア・ブレナン)の『Breaking Stretch』というアルバムを取り上げます。
 リーダーは初対面だったのですが、アダム・オファリルとジョン・イラバゴンに贔屓のマーク・シムの三管フロントということで迷わず入手したアルバムです。他のメンバーはベースKim Cass(キム・キャス)、ドラムMarcus Gilmore(マーカス・ギルモア)、そしてパーカッションMauricio Herrera(マウリシオ・エレーラ)が加わるセプテット編成です。

 全曲リーダーのオリジナルが演奏されていますが、作り込まれたテーマ部に導かれるバンドのサウンドはエレクトリックを取り入れながらメカニカルな印象(M-Baseの雰囲気も漂う)を受け、さらに手数の多いドラムとパーカスが終始賑やか(ラテンの風も漂う)に使われていて、こういうサウンドはこの初対面のリーダーの意図したものなのでしょう。そしてそのようなサウンドに乗って、フロント三人がどのトラックも持ち味を活かしたソロを展開し、スリリングに演奏が進んでいきます。
 アダム・オファリルのエレクトロニクスも取り入れた力強いラッパ・ソロは破壊力を感じますし、ここではソプラノとアルトを吹くイラバゴンは(テナーではなくても)変態臭がプンプン、そして目当てのマーク・シムは期待どおりの彼らしさ全開の錆色のテナー・ソロといった具合で、このフロント三人のプレイは充分に満足いくものになっています。
 そして、リーダーのバイブ、マリンバも実に個性的で、さらに新しい感覚・センスを感じさせ面白く聴くことができました。参加メンバーによっては次作も聴いてみたいと思わせる魅力があります。

 敢えて欠点を挙げるとすれば、彼女がプロデュースするサウンドは強い意図は感じられるものの、それがやや空回りしている、「こなれていない」という印象を受けてしまいます。もうちょっと工夫が必要だったのではないか・・・このあたりも次作以降に期待したいところです。それはさておいても、アダム・オファリル、ジョン・イラバゴン、マーク・シムの弾けるプレイが聴きものとなったこれは快作と言ってよいでしょう。

John Escreet / The Epicenter of Your Dreams

Label: Blue Room Music
Rec. Date: May 2023
Personnel: Mark Turner (ts), John Escreet (p), Eric Revis (b), Damion Reid (ds)
Escreet John_202305_Epicenter
1. Call It What It is [Escreet]
2. The Epicenter of Your Dream [Escreet]
3. Departure No. 1 [Stanley Cowell]
4. Meltdown [Escreet, Turner, Revis, Reid]
5. Trouble and Activity [Escreet]
6. Erato [Andrew Hill]
7. Lifeline [Escreet]
8. Other Side [Escreet]

 前回に引き続き昨年聴いた新譜から、このblogではお馴染みジョン・エスクリートの十枚目のリーダーアルバムとなる『The Epicenter of Your Dreams』を取り上げます。
 メンバーは、前作『Seismic Shift』と同じベースのエリック・レヴィスとドラムのダミオン・リードとのトリオにマーク・ターナーが加わるカルテット編成です。

 リーダーのオリジナルが5曲、メンバー四人の共作の4曲目はインプロのトラック、3曲目のスタンリー・カウエル作”Departure No.1”は、”Departure”というタイトルでカウエル自身の初リーダーアルバム『Blues for the Viet Cong』(1969年録音、Polydor、後に『Travellin' Man』のタイトルでも再発)やチャールズ・トリバーの『Music Inc.』(1970年録音、Strata East)に収録された楽曲です。また6曲目”Erato”は、1965年に録音され2006年になってリリースされた『Andrew Hill / Pax』というアルバムに収録された楽曲です。前作でもスタンリー・カウエルのオリジナルを取り上げたジョン・エスクリートですが、この二曲もマニアックですね。

 非4ビート主体の比較的オーソドックスなサウンドで、カルテット編成ということもあって前作トリオ盤よりはやや穏当に響くような気がします。とは言っても、いかにもジョン・エスクリートらしい屈折と尖りは充分に感じられます。さらにリーダーのオリジナルがしっかりと作り込まれているというのも彼らしいところです。
 そして、ダミオン・リードが手数多く暴れて、エリック・レヴィスが堅実に支えるという構図は前作トリオ盤と同じです。特に5曲目でのマーク・ターナーが退きピアトリオになる場面(この曲に限ったことではありませんが)は、一気に前作のような「リズミカルなピアノトリオによるフリージャズ」になります。ジョン・エスクリートの、或いはこのトリオの本領発揮というところでしょう。

 マーク・ターナーについてですが、ここでのプレイが殊更優れているという訳では決してありませんし、まあ言ってみれば「いつもの調子」(私は決して嫌いではありません、念のため)なのですが、リーダーと彼の屈折感がうまい具合にシンクロしていて、おそらく初共演と思われる本作を聴く限り、この個性的な二人の相性の良さが伝わってきます。

 一方、スタンリー・カウエルとアンドリュー・ヒルの上記二曲(3, 6曲目)ですが、どちらかと言えば無機質、或いはメカニカルに響くリーダーのオリジナルの中にあって、絶妙なアクセントになっています。
 オリジナルよりもやや早いテンポで演奏される(私には耳タコの)3曲目も悪くありませんが、アンドリュー・ヒルの6曲目は、(ピアノトリオで演奏された)オリジナルのムードを尊重しながら、マーク・ターナーが(彼なりに)優しいソロを聴かせ、本作中最も情緒的でしっとりとした演奏に仕上げていて印象的です。

 ほぼほぼ予想したとおりの音が出てきて、新たな感動みたいなものはやや希薄ですが、それでもこの「ジョン・エスクリート・ピアノトリオ」は二作目にしてグッと熟してきた感がありますし、マーク・ターナーの参加、さらに2曲の非オリジナルも強く印象に残る私には嬉しい新譜になりました。

『Sunny Five / Candid』, 『Berne, Formanek / Parlour Games』

 今年最初の記事は例年どおり昨年(2024年)に聴いた新譜から、ティム・バーンがらみの二枚のアルバムを一緒に取り上げたいと思います。

① Sunny Five / Candid
Label: Intakt Records
Rec. Date: Sept. 2022
Personnel: Tim Berne (as), Marc Ducret (Vendramini guitars, table guitar), David Torn (g, live multi-looping), Devin Hoff (elb), Ches Smith (ds, electronics)
Sunny Five_202209_Candid
1. Piper
2. Scratch
3. Craw
4. Floored

 最初はティム・バーン、マルク・デュクレ、デビッド・トーン、チェス・スミスという馴染みのティム人脈四人にベースのデビン・ホフが加わる五人組ユニットSunny Fiveの『Candid』というアルバムです。
 ティム・バーンはアルトに専念、記載はありませんが二人のギターは左マルク・デュクレ、右デビッド・トーンで間違いないでしょう。
 作曲者(?)のクレジットはなく、聴く前から予想されていたとおり(と言うのもデビッド・トーンが入るとそのような傾向になりがちなので)、具体像がなかなか掴めない、かなりアブストラクトなインプロ主体の演奏が続きます。

 左チャンネルから不気味なギターがティム・バーンのアルトに絡み、右チャンネルからは終始不協和音(あまりギターに聴こえない)が響き、ベースとドラムは他のメンバーのことはお構いなしに聴こえるようなビートを刻む・・・なんとも不穏なムードが支配するオープナーです。
 2曲目に入ってもこのような不穏なムードは変わりませんが、ティム・バーンが彼らしい艶っぽい音色で延々とブロウし、しばしの電子楽器入り乱れる混沌を経て、後半には左からマルク・デュクレの(例の)変態アコギが聴こえてきてやっとホッとするという感じのトラック(演奏時間19分)です。
 3曲目は一転してベース・ドラムが16ビートを刻み、出だしではマルク・デュクレのエレキギターが弾け、そしてデビッド・トーンはフレーズにならないようなちょっかいを出し続けます。徐々にビートが崩れてアブストラクトな混沌方面へと突入しますが、ここでもティムのアルト(の美しさ)とマルク・デュクレの危険なギターに救われるトラックです。
 ラストの演奏時間はなんと35分。ただし10分過ぎくらいからのティムとマルク・デュクレの絡み、それに続くマルクのソロなど、スリリングな場面やリズムが(このアルバムにしては)躍動する場面が連続して出現し、さらにティムは緊張感を切らせることなく鋭いブロウを展開してくれますので、好き者にとっては(それなりに)聴かせるトラックになっています。

 ここまでアブストラクトに走るかという場面が多く、聴き手を選ぶ、或いは聴き手に忍耐力を要求するようなサウンドですが、上に書いたように刺激的なシーンは間違いなく存在しますし、ティム・バーンとマルク・デュクレのコラボレーションはここにきても高いレベルにあることは確かです。「かったるい」で切り捨てるには忍びない、困ったアルバムです。


② Tim Berne, Michael Formanek / Parlour Games
Label: Relative Pitch Records
Rec. Date: June 1991 (released in 2024)
Personnel: Tim Berne (as, bs), Michael Formanek (b)
Berne Tim_199106_Parlour Games
1. Beam Me Up [Formanek]
2. Ho' Time [Berne]
3. Quicksand [Formanek]
4. Not What You Think [Berne]
5. O My Bitter Hen [Formanek]
6. Bass Voodoo [Berne]

 二枚目は新録音ではありませんが、1991年に録音され昨年になって初めてリリースされたティム・バーンとマイケル・フォーマネクとのデュオによる『Parlour Games』というアルバムです。この二人のデュオというと以前『Ornery People』を取り上げたところですが、その六年前に録音されたものです。

 この手の発掘音源によくあるように、録音は必ずしも良くはありません。ややエコーがかかり、中央に音像が集中(左寄りにサックス、右寄りにベースだけど)したモノラルに近い録音ですが、これはこれで臨場感のある、特にベースの生々しさが迫ってくる録音で、つまり充分に許容範囲ということです。

 しっかりと作り込まれたコンポジションは『Ornery People』と同じ、と言うかティムのアルバムの(上記『Candid』などの例外を除けば)多くに共通することでしょう。マイケル・フォーマネクがずっしりと下支えし、その上部空間(当然ながらたっぷりしたスペース)をティムが美しく、力強くブロウする・・・このアルバムで書くべきことは極端に言えば全てこれで事足りるくらいです。

 録音当時三十六歳のティムのアルトはどこまでも鋭いのは言わずもがなですが、1, 5曲目で吹くバリサクも違う味わいがあって悪くありません。また、マイケル・フォーマネクは音が流れないと言うか、しっかりと一音一音が粒だって聴こえ、確かなテクニックに裏打ちされたこれは彼の際立つ個性でしょう。

 今から三十年以上前の(マニアックな)音源をリリースしてくれたRelative Pitch Recordsには心より感謝したいと思います。
プロフィール

sin-sky

Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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