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Don Byron, Aruán Ortiz / Random Dances and (A)Tonalities

Label: Intakt Records
Rec. Date: Dec. 2017
Personnel: Don Byron (cl, ts), Aruán Ortiz (p)
Byron Don_201712_Random Dances
1. Tete's Blues [Ortiz]
2. Black and Tan Fantasy [Duke Ellington]
3. Musica Callada: Book 1, V. ([M.M.] crochet = 54) [Federico Mompou]
4. Joe Btfsplk [Byron]
5. Numbers [Ortiz]
6. Dolphy's Dance [Geri Allen]
7. Violin Partita No. 1 in B minor, BWV 1002, II. Double [J. S. Bach/arr. Byron]
8. Delphian Nuptials [Byron]
9. Arabesques of a Geometrical Rose (Spring) [Ortiz]
10. Impressions on a Golden Theme [Byron, Ortiz]

 前々回前回と続いたDon Byron(ドン・バイロン)リーダーアルバム・シリーズの最終回は、ピアニストAruán Ortiz(アルアン・オルティス、『The Aruán Ortiz and Michael Janisch Quintet / Banned in London』で既出)と全編デュオで演奏した『Random Dances and (A)Tonalities』です。
 本作は2017年に録音されたもので、ここ10年くらいレコーディングがめっきり減ったドン・バイロンのおそらく最新の録音になると思います。そして全編デュオは本作が唯一ということで、ドン・バイロンとしてはありそうでなかったアルバムです。

 二人のオリジナルを中心に、エリントン(2曲目)、スペインの作曲家フェデリコ・モンポウ(3曲目)、ジェリ・アレン(6曲目)、それにドン・バイロンが一人で吹くバッハ(7曲目)の楽曲というラインナップで、2, 4, 5曲目はテナー、それ以外はクラリネットを吹いています。

 浮遊感漂うアルアンのオリジナルからアルバムがスタートします。
 まず最初に、左右に適度に広がるピアノと中央のクラリネットの深みを感じさせる音色が実にクリアに捉えられた良好な録音ということを申し上げておきます。
 この曲を含め、本アルバムで演奏されるアルアンのオリジナル、さらにはモンボウの3曲目あたりは「ジャズ臭」が極めて希薄で、正しい言い方かどうか自信がありませんが「現代音楽風」(私のそれほど豊かではないクラシック体験からするとバルトーク風?違うかな?)なムードが支配し、そのような楽曲の味わいに寄り添うようにしっとりと、そして丁寧に(さらに言うならば「おちゃらけ」なしで)ドン・バイロンが吹いている姿には好感を覚えます。

 2曲目はエリントンの「ブラック・アンド・タン・ファンタジー」。ドン・バイロンはテナーを吹いていますが、これがなかなか良い雰囲気なのです。ピアノはちょっとジェイソン・モランを連想させるような不愛想な語り口でテナーに寄り添い、彼らなりの無骨なムードのエリントンを表現しています。やはりテナーを吹く4, 5曲目も同様で、これらを聴いてこのテナーがドン・バイロンと分かるリスナーは私を含めてそう多くはないと思いますが、もうすぐ還暦を迎えようとしていた彼としては、改めてテナーに向き合って新しい展開を目指しているのかもしれない、そんなことを想像させるような新鮮さ(或いはひたむきさ)を私は感じます。
 一方、ドン・バイロンのオリジナル4曲目、ジェリ・アレンの6曲目あたりは、本アルバムの中では最も「ジャズっぽい」トラックで、二人が現代音楽風ではなく「フリージャズ風」に絡んでいくさまにはスリリングな響きを感じます。個人的には、この調子で全曲を揃えればずいぶん印象が変わったのではないかとも思います。

 という訳で、色々な要素・曲想が混ざっているというのはドン・バイロンのアルバムの常ではありますが、デュオというミニマムな編成で通した本作は、プレイヤーとしてのドン・バイロンの「素」の姿が現れているパフォーマンスと言ってよいでしょう。手放しでお勧めとまではいかないとしても、不思議な魅力を確かに感じさせるアルバムです。

Don Byron / Ivey-Divey

Label: Blue Note
Rec. Date: May 2004
Personnel: Don Byron (cl, bcl, ts), Jason Moran (p), Jack DeJohnette (ds) [except on 5], Ralph Alessi (tp) [6, 9], Lonnie Plaxico (b) [6, 7, 8, 9, 11]
Byron Don_200405_Ivey Divey
1. I Want to be Happy [Vincent Youmans, Irving Caesar]
2. Somebody Loves Me [George Gershwin, Ballard MacDonald, Buddy DeSylva]
3. I Cover the Waterfront [Johnny Green, Edward Heyman]
4. I've Found a New Baby [Jack Palmer, Spencer Williams]
5. Himn (for Our Lord and Kirk Franklin) [Byron]
6. The Goon Drag [Sammy Price]
7. Abie the Fishman [Byron]
8. Lefty Teachers at Home [Byron]
9. "Leopold, Leopold…" [Byron]
10. Freddie Freeloader [Miles Davis]
11. In a Silent Way [Joe Zawinul]
12. Somebody Loves Me (alt. take)

 前回記事に続いてDon Byron(ドン・バイロン)のリーダーアルバムの二回目は、2004年録音の『Ivey-Divey』(通算10枚目のリーダーアルバム)です。
 お馴染みJason Moran(ジェイソン・モラン)のピアノとJack DeJohnette(ジャック・ディジョネット)のドラムとの(ベースの居ない)トリオを基本に、曲によってトランペットのRalph Alessi(ラルフ・アレッシ)とベースLonnie Plaxico(ロニー・プラキシコ)が加わるというメンバー構成です。

 演奏される楽曲は自身のオリジナル、マイルスのレパートリー(10, 11曲目)などのほかに、ドン・バイロンのアルバムにしては珍しく、スタンダード・ナンバーが4曲(別テイクを含め5つのトラック)選ばれています。これには少々事情があります。

 このCDには五名の人物に対する献辞が記載されており、その最初に登場するのがLester Young(レスター・ヤング)です。そして上記4曲はいずれも、レスター・ヤングがナット・キング・コールのピアノとバディ・リッチのドラムとのトリオ(やはりベースは居ません)で1946年に録音した『Lester Young Trio』(Verve)に収録されたスタンダード・ナンバーです。すなわち「本家」からおよそ六十年後に、ドン・バイロンがジェイソン・モランとディジョネットという強者とともに、同じベースレスの編成でこれらの曲を再演する、というのが上に述べた「事情」です。

 その再演トラックから見ていきます。
 原曲のコード進行からそれほど大きく逸脱することはないものの、ジェイソン・モランとディジョネットが提示するハーモニー・リズムに緊張感、逆説的に言えば「不安定さ」や「座りの悪さ」みたいなものが感じられ(ジェイソン・モランは当然ながらモロ「ストライド」な弾き方はしません)、これはスタンダードを素材にしながらも、ドン・バイロンが表現したかった二十一世紀の「再演のありよう」といったところではないでしょうか。
 ドン・バイロンは1, 3曲目ではバスクラ、2, 4, 12曲目ではクラリネットをそれぞれ吹きますが、いずれのトラックも曲の前半では隠していた牙が徐々に姿を現すような盛り上げ方に彼らしさが出ていて、この再演を完全に彼のモノにしています。
 さらにジェイソン・モランの尖った個性はこういう変則的なフォーマットでも(或いはそのようなフォーマットだからこそ)突出しており、ディジョネットとの(ベースが居ない中での)コンビネーションも面白い効果を上げていると思います。
 ついでに同じ三人で演奏される10曲目” Freddie Freeloader”。言うまでもなくマイルスの「カインド・オブ・ブルー」収録のブルーズですが、上記の「不安定さ」「座りの悪さ」が後退して、逆に「普通」に聴こえてしまいます。別に悪いと言っているわけではなく、三人のプレイも本領発揮でキレていて文句はありません。

 ベースのロニー・プラキシコが加わる5つのトラックについてですが、面白さという点では上記のトラックに譲るとしても、やはり演奏としては安定感(それこそ「座りの良さ」)があってシックリきます。中でもマイルスの11曲目でのドンのクラリネット・バスクラは新鮮に響きます。ただし、全てがこのフォーマットの演奏だったら印象に残るアルバムになったかなぁ、という感じがしないでもありません。

 ドン・バイロンのアルバムに時折顔を出す「おちゃらけ」感は希薄で、ここでの彼の真摯なプレイには好感が持てますが、何と言ってもジェイソン・モランとディジョネットとのベースレス・トリオの面白さがこのアルバムのポイントでしょう。


『Lester Young Trio』(1946年録音、Verve)
Lester Young Trio

Don Byron / No-Vibe Zone

Label: Knitting Factory Works
Rec. Date: Jan. 1996
Personnel: Don Byron (cl), David Gilmore (g), Uri Caine (p), Kenny Davis (b), Marvin “Smitty” Smith (ds)
Byron Don_199601_No Vibe Zone
1. WRU [Ornette Coleman]
2. Sex/Work (Clarence/Anita) [Byron]
3. Next Love [Byron].
4. The Allure of Entanglement [Byron]
5. Tangerine [Johnny Mercer, Victor Schertinger]
6. Tuskegee Strutter’s Ball [Byron]

 前回記事『Ralph Peterson / Ornettology』で「大きな可能性を感じた」と記したクラリネット奏者Don Byron(ドン・バイロン)を、私はその後追いかけることになるわけですが、残念ながら好アルバムの連続という展開にはなりません。
 彼のプレイそのものに文句はないとしても、私には「余計」(或いは「おふざけ」「おちゃらけ」)に映ってしまう「サービス過剰」なサウンドが鼻につき100%入り込めない・・・彼にはそういうアルバムがあるのです。楽器奏者としてのセンスは言うことないんだから「普通」にやってくれればよいのになんだか勿体ないなぁ、と思うのです。これは例えばトロンボーンのRay Anderson(レイ・アンダーソン)とかサックスのJames Carter(ジェームス・カーター)のアルバムを聴いて時々感じるものに似ているところがあります。
 そこでそんな「鼻につく」アルバムは放っておくことにして、ここから三回に分けて、手放しでお勧めとまではいかないにしても、ほぼ違和感なく受け入れられた彼のリーダーアルバムを一枚ずつ取り上げたいと思います。

 最初は1996年に録音された『No-Vibe Zone』です。
 ギターのDavid Gilmore(デビッド・ギルモア、『Energies of Change』で既出)以下、いわゆる「M-Base」一派、しかも「手数多め」のテクニシャンで固めたNYニッティング・ファクトリーでのライブ・アルバムです。おそらく、当時一緒に演奏する機会の多かった連中と、勝手知ったる地元クラブで日常的に行われていたライブの模様を記録したアルバムということになるのでしょう。ドン・バイロンのこういう「普通」のライブは歓迎です。

 オーネット・コールマンのオリジナル”WRU”(『Ornette!(1961年録音、Atlantic)』収録)でこのステージが始まります。
 オリジナルよりもだいぶ早いテンポでぶっ飛ばすドンのテーマ提示に続いてユリ・ケイン、デビッド・ギルモアのこれでもかと畳みかける熱いソロの連続で、バックではスミッティが終始空間を埋め尽くします。特にデビッド・ギルモアのヤクザなギターソロには痺れますし、終盤でフォーカスされるドンのソロに「こういうのを聴きたかったんだ」と思うリスナーは多いんではないでしょうか。

 2~4, 6曲目は、本作に先立つドンのリーダーアルバム『Tuskegee Experiments』、『Music for Six Musicians』(いずれもNonesuch)の二枚に収録されたドンのオリジナルです。一方、唯一のスタンダードの5曲目"Tangerine”は、至って普通の4ビートで演奏される「トラディショナル」を装ったトラックで、ドンはこういうのを得意としている、というかアチコチのアルバムでやっています。
 どれもドンらしい少しとぼけた(或いは人を食った)ようなテイストを感じさせる演奏ですが、当然のことながらライブならではの自発性が前面に出ていて、上に述べたような「おふざけ・おちゃらけ」感はあまり気にならない程度に薄まっています。

 いずれの楽曲でもスタジオ録音盤にはあまり感じられないようなドンの「力いっぱい」さが伝わってきて、これがこのアルバムを違和感なく受け入れた最大の理由です。
 また、全体にユリ・ケインの攻撃的なピアノソロが印象に残りますし、ケニー・デイビスとスミッティの元気なリズムも熱く、二人の持ち味が充分に発揮されています。そして、上記冒頭曲やラスト6曲目でのデビッド・ギルモアの弾けるギター(6曲目も好き放題やっています)は私の好みにど真ん中で、結果として個人的にはここが最大の聴きどころでした。
プロフィール

sin-sky

Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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