SaxEmble
Label: Qwest Records
Rec. Date: May 1995
Personnel: James Carter (as, ts, bs), Frank Lowe (ts), Michael Marcus (manzello, bass sax), Cassius Richmond (as), Alex Harding (bs), Bobby LaVell (ts), Cindy Blackman (ds)
1. Hard Times [Paul F. Mitchell]
2. Freedom Jazz Dance [Eddie Harris] / Rhythm-a-ning [Thelonious Monk]
3. War of the World [Marcus]
4. Monk’s Mood [Thelonious Monk]
5. In Walked J.C. [Lowe]
6. Honkin’ Fats [Marcus]
7. Lowe Down & Blue [Lowe]
8. Tribute [Richmond]
9. Ghosts [Albert Ayler]
前回記事の「ROOTS」がSam Rivers(サム・リバース)の「キワモノ」盤だとすれば、今回取り上げる「Saxemble」はJames Carter(ジェームス・カーター、以下「JC」という)の「キワモノ」盤です・・・もっとも極言すればJCというミュージシャンそのものが「キワモノ」的存在と言えないこともないですが(別に貶している訳ではありませんので念のため)。
なお、JCは「Odean Pope / Odean's List」、「The Julius Hemphill Sextet / Fat Man and the Hard Blues, Five Chord Stud」、「James Carter / Present Tense」に次いでこのblogでは4回目の登場です。
“Sax”と”Ensemble”(アンサンブル)を合体させたこの「SaxEmble」は、メンバー最年長のFrank Lowe(フランク・ロウ、1943-2003)の声掛けで結成されたようで、JCの他には、(「垂れ流し系フリー・サックス奏者」と私は呼んでいる)Michael Marcus(マイケル・マーカス)、本作の後にJCのアルバムに参加することになるCassius Richmond(カシアス・リッチモンド)、Alex Harding(アレックス・ハーディング、「Julius Hemphill Sextet / At Dr. King's Table、The Hard Blues Live in Lisbon」に参加)、Bobby LaVell(ボビー・ラヴェル?)という6人のサックス奏者(曲によって出入りがあります)に、ドラムのCindy Blackman(シンディ・ブラックマン)が加わる変則的な編成です。
なおCindy姐さんは、これまでさんざん悪口を叩いてきたにもかかわらず自身のリーダーアルバム「In the Now」、「Code Red」に続いて3度目の登場になります。
こういうサックスのアンサンブルというとWorld Saxophone Quartet(ドラムが参加したアルバムもあります)や上記Julius Hemphill Sextetを思い浮かべるわけですが、Cindy姐さんの参加を反映してか、これらサックス・アンサンブルのサウンドに比べて、もう一歩二歩「親しみやすく」(或いは「ポップに」)なっているという印象です。
かつてクルセイダーズがアルバム「Scratch」(1974年リリース、Blue Thumb Records)で取り上げ、私たち世代にとっては実に懐かしい”Hard Times”でアルバムがスタートします。一時代前のR&Bの雰囲気が漂う2ビートで演奏され、JCのアルトが脂っこいブロウを披露します。こういうビートのCindy姐さんのノリノリのドラムは「悪くないねえ」と言う感じで、アルバム1曲目から聴き手をグッと惹きつけてしまうトラックです。
続いて2曲目は、有名なジャズメン・オリジナルの2曲(エディ・ハリスの”Freedom Jazz Dance”とモンクの”Rhythm-a-ning”)がメドレー、と言うか2曲を合体したように演奏されるトラックです。Michael Marcusの例によっての垂れ流し気味のマンゼロ(本体がカーブしてベルが上に向いているソプラノ・サックス、かつてローランド・カークが吹いていた)のソロと4人のサックス奏者がグシャグシャになってインプロを繰り広げます。
3曲目はMarcusオリジナルで、彼のバス・サックスが「ベースライン」を受け持つゴキゲンな8ビートです。Cindy姐さんのちょっとお下品なドラムが曲想にピッタリ、と言うか、もはやこのアンサンブルのサウンドを支配していると言ってもよいような役割を果たしています。Cassius RichmondのアルトとJCのバリサクがイヤらしく絡むバックで、Marcusは終始「ベースライン」を提示し続けます。ここでのJCのバリサクのブロウは変態度全開です。
トラックごとにダラダラと書いてしまいそうなのでまとめますと、ここまでに書いた冒頭3曲の演奏形態に、このアンサンブルの特徴がハッキリと表れています。すなわち、テーマ部アレンジは比較的明快かつポップで、バックではCindy姐さんがわかりやすいビートを刻みながら、アンサンブルやメンバーのソロを支え、最も「脂ぎっている」JCを筆頭に、各サックス奏者がそれぞれに個性的なブロウを披露しながら演奏が進んでいく・・・これがこの「SaxEmble」の基本的なやり方です。
そんな中で、ラス前の8曲目 Cassius Richmondオリジナルは、このアルバムでは唯一の4ビートが躍動するトラックです。バラードで演奏されるテーマ部からアドリブ・コーラスに入って一気にテンポが上がって4ビートになるのですが、バックのCindy姐さんは高速4ビートでも実に張り切ってバンドを支えいてあっぱれです。メンバーのソロでは、Bobby LaVellの次に登場するJCのテナーはさすが「役者が一枚上」の力強い変態ソロ、一方4番目登場のFrank Loweは「貫禄のフリー・ジャズ」といった味わいのソロで、二人の対比が際立っています。
そして終曲はAlbert Ayler(アルバート・アイラー)の”Ghosts”。JCのテナーとバックのアンサンブルがくんずほぐれつの(或いは「グシャグシャ」の)コレクティブ・インプロを繰り広げ、このアンサンブルらしい大団円を迎えてアルバムを閉じます。
実に賑やかで「わかりやすく」、そんな中にもフリージャズの隠し味がたっぷり効いていて、私にとっては文句なしに楽しめたアルバムです。そして何よりも、Cindy Blackmanのミュージシャン・シップがこのアンサンブルにピタッとハマっていて、彼女の起用は大成功だったと思います。