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Cindy Blackman / Code Red

Label: Muse Records
Rec. Date: Oct. 1990
Personnel: Wallace Roney (tp), Steve Coleman (as), Kenny Barron (p), Lonnie Plaxico (b), Cindy Blackman (ds)
Blackman Cindy_199010_Code Red 
1. Code Red [Blackman]
2. Anxiety [Blackman]
3. Next Time Forever [Blackman]
4. Something for Art (drum solo) [Blackman]
5. 'Round Midnight [Thelonious Monk, Cootie Williams, Bernard D. Hanighen]
6. Circles [Blackman]
7. Face in the Dark [Blackman]
8. Green [Blackman]

 だいぶ前にこのblogで「In the Now」を取り上げたドラマーCindy Blackmanの1990年録音のリーダーアルバムです。
 「In the Now」の記事の主眼は贔屓のRavi Coltraneでしたし、今回もCindy姐さんの微笑ましい(或いは「お下品」な)ドラムのことを書きたいというわけではなく、私の好きなSteve Colemanの比較的初期の力強いプレイが聴けるアルバムであるということがポイントです。

 プロデューサーDon Sicklerが選んだメンバーは、フロントにWallace RoneyのラッパとSteve Colemanのアルト、リズム陣はKenny Barron、Lonnie Plaxicoというクインテット編成で、"'Round Midnight"以外はCindy本人のオリジナルが演奏されています。
 Wallace RoneyとSteve Colemanは、ドラマーMarvin "Smitty" Smithの2枚のリーダーアルバム(「Keeper of the Drums」と「The Lord Less Traveled」、前者1987年、後者1989年録音、いずれもConcord)で共演していますが、Steve ColemanとCindy姐さん或いはSteveとKenny Barron(そしてもしかするとKenny BarronとLonnie Plaxico)の組み合わせは、おそらく本作のみではないかと思われます。

 「In the Now」の記事で軽口を叩いたように、Tony Williamsの後継者を(おそらく)自認している姐さん~「Another Lifetime」なんてアルバムも出している~ですが、Wallace Roneyのラッパのバックで姐さんのイキっぱなしの「バタバタ」ドラムが鳴り響く光景は、ほとんど後期Tony Williamsクインテットのサウンド(のまずまず良く出来たレプリカ)です・・・別に「本家」Tonyが「お下品」と言っているわけでは決してありませんので念のため。
 一方「デュオ三題」の「Phase Space」の項で書きましたように、私は1990年代前半くらい(リーダーアルバムですと「Def Trance Beat(1994年録音)」あたり)までのSteve Colemanをとりわけ好みとしているところであり、「Phase Space」の3ヶ月ほど前、リーダーアルバムでは「Rhythm People(1990年2月録音)」と「Black Science(1990年12月録音)」の間に録音された本作は、アルトサックス奏者としての当時の彼の魅力が凝縮されている~共演者が理想的かどうかはさておいても~と思っているものです。
 ドラム・ソロで演奏される4曲目(私はいつも飛ばしてますが、こういうトラックって本当に要るんでしょうか?)を除くどの曲でも、マウスピースをギュッと噛み太い音色でアドリブ・ラインが上下する鋭角的なフレーズを無心に吹く彼の力強いプレイを聴くことができます。
 自身のリーダーアルバムでは、彼の「一派」による個性的でメカニカルなリズムに乗って独自のサウンドを構築していくのですが、本作のような「他流試合」で、それも比較的(あくまでも「比較的」ですが)オーソドックスなリズムをバックにWallace Roneyと渡り合う~6曲目ではWallaceとSteveの激しい4バース交換もあります~シーンは非常に印象的です。特に5曲目"'Round Midnight"では、Wallaceのミュートが例によってマイルスの世界をトレースしながらテーマを吹き、お馴染みのブレイクの後にSteveのアルトが鋭く切り込んでくる、しかもバックはKenny Barronのピアノ・・・こういう展開というのは、今となっては極めて貴重でしょう。

 Steve Colemanの力強いアルトを目一杯浴びる・・・私にとってこのアルバムの楽しみ方はこれに尽きますが、相方のWallace Roneyの力演やKenny Barronのそつのないプレイも光っていますし、これだけ良いところがあればCindy姐さんのプレイも許してしまおう・・・そんな気にさせる愛すべきアルバムです。

Walter Beltrami / Paroxysmal Postural Vertigo

Lebel: Auand
Rec. Date: July 2010
Personnel: Walter Beltrami (g), Francesco Bearzatti (ts, cl), Vincent Courtois (cello), Stomu Takeishi (elb), Jim Black (ds)
Beltrami Walter_201007_Paroxysmal 
1. BPPV Intro
2. BPPV
3. Mind the Mind!
4. You See
5. #2
6. Lilienthal
7. What is
8. Seamont's Manoeuvre
9. Unexpected Visit (collective impro)
10. Verbal Realities

 リーダーのWalter Beltramiは1974年イタリア産のギタリストです。jazzyellによりますと「現代イタリア・ジャズ・シーンで、最も独創的なギタリストで作曲家と評されているひとりがウォルター・ベルトラミです。アメリカ・ボストンのバークリー音楽学校でミック・グッドリックに師事、その後はクリスティ・ドラン、カート・ローゼンウィンケルらの指導も受けました。2004年にはイタリアの名誉あるルカ・フローレス賞を受賞、モントルーで行われたギブソン・ギター・コンペティションの最終選考にも残りました」・・・らしいです。
 テナーとクラリネットを吹くFrancesco Bearzattiも1966年イタリア生まれで、リーダーとともに私には初対面。チェロのVincent Courtois(1968年フランス産)は贔屓の異才ギタリストMarc Ducretが参加した「The Fitting Room(2000、Enja)」で知っていました。ベースStomu Takeishi(武石務)とドラムJim Blackは「Cuong Vu / Bound」のコンビ。私にとっては、贔屓のクレイジー・ドラマーJim Blackが参加していなければ間違いなく聴いていないアルバムです。なお列記はしませんが、このblogでJim Blackを扱うのは今回で9回目になります。

 上にプロフィールを引用しましたが、Walter Beltramiはギタリスト・作曲家として評されているようで、このアルバムでも楽曲タイトルに"collective impro"とある9曲目以外は全てリーダーのオリジナルが演奏されています。
 これらの楽曲を乱暴に分類すると、8ないし16ビートが躍動する言わば「ロック系」(1,2,3,5,8曲目)、ノンビートで静かに演奏される「室内楽系」(4,7曲目)、少々アブストラクトな展開になる「フリー系」(6,9,10曲目)の三つのタイプになるでしょうか・・・分類の名称はなんとも稚拙ですが。
 例えば「ロック系」の1~3曲目ですが、ギターとドラムによる静かなイントロ(1曲目)から間断なく16ビートの2曲目に突入し、続く3曲目は8ビートの変拍子ですが、いずれもカッチリと作り込まれた楽曲です。こういうヤクザなビートでも、否ヤクザなビートだからこそStomu TakeishiとJim Blackが叩き出すリズムはどこまでも鋭く、時にヤンチャで、リーダーも確かに面白い(危険と言うか変態と言うか)ギターを弾くのですが、ついついベースとドラムに耳が行ってしまいます。
 例えば「室内楽系」の4曲目では、クラリネットとエコーのかかった生ギターが絡むノンビートの演奏で、そこにチェロも絡んだりして、いかにもヨーロッパの連中がやりそうな作り込まれた「室内楽」なのですが、Jim Blackの切れ味鋭いシンバルの音が実に美しく録られていて、ヨーロッパ苦手の私でもダレずに聴いていられます。
 「フリー系」の楽曲は、"collective impro"の9曲目を含めて、フリーとは言っても「枠組みを維持したたフリー」という感じで、全面的なカオスには突入せず、このあたりはリーダーの個性なのでしょう。終曲の10曲目では、このアルバムの中ではギターが最大限弾けるシーンで、このバックで暴れるJim Blackのドラミングもキレキレで、私にとっては間違いなく本アルバムのベストトラックです。

 言うまでもなく、このアルバムの最大の魅力はJim Blackのいつものようにクレイジーでキレキレのドラミングが、タイプの異なる楽曲の様々なシーンで楽しめる・・・このことに尽きると思います。さらに付け加えるならば、彼のドラムをかなりフォーカスした(と私には聴こえる)良好な録音も嬉しい限りです。

Ray Anderson, Han Bennink, Christy Doran / Cheer Up

Label: HAT HUT Records (hat ART)
Rec. Date: Mar. 1995
Personnel: Ray Anderson (tb, tuba), Christy Doran (g), Han Bennink (ds)
Anderson Ray_199503_Cheer Up 
1. No Return [Doran]
2. My Children are the Reason Why I Need to Own My Publishing [Anderson]
3. Tabacco Cart [Anderson, Bennink, Doran]
4. Like Silver [Anderson]
5. Cheer Up [Doran]
6. Buckethead [Anderson, Bennink, Doran]
7. Melancholy Moods [Horace Silver]
8. New H. G. [Doran]
9. Hence the Reason (for G. H.) [Anderson]

 前回記事「Steven Bernstein / Tattoos and Mushrooms」に続いて、今回も少し変わったトリオ編成のアルバムです。

 メンバーはRay Anderson(1952年シカゴ産)のトロンボーン(一部チューバに持ち替え)、Christy Doran(1949年アイルランド産)のギター、Han Bennink(1942年オランダ産)のドラムの三人という、これまた他ではちょっとお目にかからない編成です。
 なお本作と全く同じメンバーで本作の1年前に録音された「Azurety(1994年録音、HAT HUT Records)」というアルバムも出ています・・・私は聴いていませんが、ご参考まで。

 Ray Andersonは並外れたテクニックの持ち主であることは間違いないのですが、彼の「斜に構えたスタンス」「真摯にフリージャズしてない」みたいなところが鼻につき、100%彼のプレイに入り込めないというのが正直なところで、このアルバムを目にした時も少々腰が引けたのですが、Christy DoranとHan Benninkとのトリオって一体どんな音が出てくるんだろうか、そう思って入手した次第です。

 意表を突く16ビートのリズムが躍動する冒頭曲でアルバムはスタートします。この曲ではRayはチューバを吹いています。
 基本的にいわゆる「フリージャズ」にカテゴライズされるサウンドでしょうが、決してゴニャゴニャしたフリージャズではなく、カラッとしていて聴き手に対してオープンなサウンドという印象を受けます。いつものようなRayのキャラクターなのでしょうが、他の二人のメンバーもいわゆるテクニシャンなので、技術的に難しいことをサラッとやってのけてしまう・・・これがカラッとドライな印象を与える要因にもなっているのではないかと思います。
 10分超の3曲目やタイトルチューンの5曲目あたりでは、三者が組んず解れつのカオスに突入し、このようなシーンでのHan Benninkはさすがに「貫禄のフリージャズ」をしていますが、他は総じて曲のストラクチャーやリズムが明快で、Han Benninkもわりと素直にリズムを刻んでいますし、それなりに「わかりやすいメロディ」も出てきたりします。例えば4曲目なんかは、これもRayのキャラなんでしょうが、チューバとギターが絡み合う、少しとぼけた擬似オールドスタイル(?)の2ビートの曲ですし、7曲目は「Further Explorations」に入っていたHorace Silver曲"Melancholy Moods"をしっとりと演奏しています。
 Ray Andersonのトロンボーン(チューバも)の上手さ、超絶技巧と言うかいわゆるバカテクぶりはこのアルバムでも健在で、いつもこの人のプレイを聴いて感心するのですが、このアルバムでは、Rayに合わせるかのようにこれでもかと技巧的なフレーズを繰り出す(或いは「茶目っ気」すら感じさせる)Christy Doranのギターとの絡み合い・コンビネーションが絶妙で、これがこのアルバムの最大の特徴になっています。Rayは気のせいかいつもよりも「本気度」がアップしているようにも聴こえます。それにChristy Doranというギタリストはこんなに面白かったっけ、という感じで、これは間違いなくRayとの組み合わせの妙によるものと思います。

 上に書きましたように、このアルバムでもRay Andersonの斜に構えたスタンスが見え隠れすることは事実ですが、Christy DoranとHan Benninkとのコンビネーションがスリリングな局面を数多く創り出しており、(超)技巧派三人だからこそ成立する一風変わったフリージャズとして印象に残るアルバムになりました。
プロフィール

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Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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