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David Liebman / Monk's Mood

Label: Double-Time Records
Rec. Date: Jan. 1999
Personnel: David Liebman (ss, ts, p), Eddie Gomez (b), Adam Nussbaum (ds)
Liebman David_199901_Monks Mood 
1. Monk's Mood
2. Teo
3. Pannonica
4. Nutty
5. Reflections
6. Gallop's Gallop
7. Ugly Beauty
8. Monk's Dream
9. Introspection
10. Skippy
11. Monk's Mood

 我らがDavid Liebmanのリーダーアルバムで、このblogでは、以下に列記するアルバムに続いて5枚目のThelonious Monk(モンク)集ということになります。
 ①Bill Holman Big Band / Brilliant Corners
 ②Hred Hersch / Thelonious(ピアノソロ 三題)
 ③John Tchicai / In Monk's Mood
 ④Peter Bernstein / Monk

 モダンジャズの世界では、それこそ無数のモンク集が録音されていて、例えば古いところで「Bud Powell / A Portrait of Thelonious(1961年録音、Columbia」や「Chick Corea / Trio Music(1981、ECM)」(2枚組LPの2枚目)などが頭に浮かびますし、例えばソプラノ・サックスのSteve Lacy(スティーブ・レイシー)はそのキャリアを通じて愚直なまでにモンクの曲を演奏し続けました。このようにモンクのオリジナルには、多くのミュージシャンを惹きつける魅力が間違いなくあるようですが、聴き専の私もモンク集というとつい手が出てしまいます。

 さて本作「Monk's Mood」ですが、Eddie Gomez(エディー・ゴメス)のベースとAdam Nussbaum(アダム・ナスバウム)のドラムというお馴染みのメンバーとのピアノレス・トリオの編成で、タイトルのとおり全曲モンクのオリジナルが演奏されています。
 CDのクレジットにはただsaxとしか書かれていませんが、このアルバムでリーブマンはソプラノが1,3,6,9,10曲目、テナーが2,4,5,7,8曲目、終曲の"Monk's Mood"ではピアノを弾いています。

 アルバム全体として、実にリラックスしたモンク集という印象です。モンクの素材を、ピアノレス・トリオというミニマム・シンプルな編成で、目立った仕掛けもなく、ストレートに演奏しています(終曲はピアノとベースのデュオですが、これはご愛敬といったところで)。
 今までにこのblogでは、リーブマンの力いっぱいのプレイを「キレキレ」とか「ブチ切れ」なんて言葉を使って表現してきましたが、ここではその対極とまではいかないにしても、どのトラックも腹八分目ならぬ「チカラ八分目」で吹いていて、ベースとドラムの二人もリーブマンに合わせて優しく支えている・・・これが本作でのこのトリオの演奏の特徴でしょう。まるで三人が「今日はしっとりといこうぜ」と申し合わせてレコーディングに入ったかのような演奏です。
 特に7曲目"Ugly Beauty"では、アルコのイントロからテナーが加わって例のテーマを実に懇ろに吹き、ベースとドラムが心憎いくらいのサポートでリーブマンの気持ちの入ったテナーソロに寄り添うところはこのアルバムの典型的なシーンで、この曲が個人的にはベストトラックですが、他の曲も同じようなしっとりペースで演奏されています。

 全編にわたって、このようなリーブマンの優しい吹奏が聴けるというのは、彼としてはある意味異色作と言ってもよいと思いますが、それゆえに、味わい深いモンク集として記憶に残るアルバムになりました。

Tony Williams / Tokyo Live

Label: Blue Note
Rec. Date: March 1992
Personnel: Wallace Roney (tp), Bill Pierce (ts, ss), Mulgrew Miller (p), Ira Coleman (b), Tony Williams (ds)
Williams Tony_199203_Tokyo Live 
Disc 1:
1-1 Geo Rose
1-2 Blackbird [Lennon, McCartney]
1-3 Ancient Eyes
1-4 Citadel
1-5 Warriors
1-6 Angel Street

Disc 2:
2-1 Sister Cheryl
2-2 The Slump
2-3 Mutants of the Beach
2-4 Civilization
2-5 Crystal Palace
2-6 Life of the Party
2-7 The Announcements

 このblogで扱うにはいささかメジャーすぎるし「今さら」といったアルバムではありますが、今回の記事はTony Williams(1945-1997)が1992年に録音した私の大好きな「Tokyo Live」を取り上げます。過去の記事「Powerhouse / In an Ambient Way」「Cindy Blackman / Code Red」「The Wallace Roney Quintet」で触れた「後期Tony Williams クインテット」の最後のアルバムです。

 Tony Williamsは1969年録音の「In a Silent Way」あたりを最後にマイルスのバンドを離れるわけですが、その後の15年くらいのTonyは私にとっては言わば「暗黒時代」です。と言うのも、1970年代のLife TimeやNew Life Time名義のアルバムはいずれもピンときませんでしたし、例の「ぐれいと・じゃず・とりお」やハンコックのVSOPなどでの彼のプレイだって、マイルスのもとにいた頃のバンドに緊張感を与え続けたあの天才ドラマーはどこに行っちゃったんだろう、という感じで、そういう意味での「暗黒時代」でした。

 「オレももう四十だし、いつまでもこんなことやってちゃいかんな」と彼が思ったかどうか知りませんが、1985年録音のリーダーアルバム「Foreign Intrigue」から新生ブルーノートに籍を移し、その次作「Civilization(1986年録音)」を皮切りに、彼にとっては「最後のレギュラー・バンド」となったクインテットによる快作を次々に発表します。
 この新生ブルーノートに吹き込まれたアルバムは、これまで(暗黒時代)のTonyのモヤモヤを吹っ切るようなストレートな(現代)ハードバップで、彼自身のプレイの切れ味がマイルスのバンドにいた頃に戻ったとは決して思いませんが、こういうストレートなサウンドでの彼のプレイを聴くと、聴き手の方がTonyのプレイとの「付き合い方」を修正する、と言うのでしょうか、誤解を恐れずに言えば「天才」から「普通」のパワフルなドラマーに変わった姿を、率直に受け入れられるようになってきた・・・上手く表現できませんが、そのような内の変化が起こってきて、私はこれらのアルバムでのTonyのプレイ、少々ドタバタしているようにも聴こえる彼のドラミングを含めて、ほぼ100%受け入れられるようになっていったわけです。

 回りくどいことを書いてしまいました。
 さてこのTony最後のレギュラー・バンドですが、メンバーはフロントにWallace Roney(ウォレス・ルーニー)のラッパとBill Pierce(ビル・ピアース)のサックス、Mulgrew Miller(マルグリュー・ミラー)のピアノ、ベースはアルバムによって入れ替わりましたが、最後の二組のアルバムはIra Coleman(アイラ・コールマン)に固定され、2管フロントによるクインテット編成です。(本記事の末尾に、このクインテットによるアルバムのジャケット写真を掲載します。)

 本作「Tokyo Live」は冒頭に書いたようにTonyのレギュラー・クインテットの最後のアルバムにあたり、タイトルのとおりブルーノート東京でのライブ録音で、演奏される楽曲は、全てこのクインテットによるここまでの4枚のアルバムから選ばれています。
 フロントに「マイルスのように吹くことが俺の幸せ」が信条のWallace Roney(「The Wallace Roney Quintet」の記事より)がいることで、当然マイルスのバンドが思い浮かびますが、このクインテットのサウンドを聴いてマイルス・クインテットを連想するリスナーはいないでしょうし、Tony自身もマイルスにいた頃のサウンドをここに再現しようという思いは全くなかったと思います。何回も書きますが、もっとストレートで明快な1990年代前半当時のコンテンポラリー・ハードバップの王道を行くサウンドです。

 ライブということで少々粗いながらも高いテンションの演奏ですが、そのサウンドはあくまでも「ステディ」で、Tony本人もマイルスのバンドでのメンバーを常に触発する変幻自在なドラミングで次々と局面を切り替えていくプレイではなく、バスドラがズドズドと鳴り響いてパワフルに、そしてストレートにバンドを鼓舞するスタイルは、マイルス・クインテットのTonyではなく、喩えが適切ではないかもしれませんが、まるでジャズ・メッセンジャーズのブレイキーのような・・・ちょっと違うかな?
 いずれにしても、Mulgrew MillerとIra Colemanが一緒になって叩き出すリズムは、「枠組み」を維持しながら熱くなっていく~そういう意味でのブレイキー~のですが、このクインテットはTonyがこれまで積み重ねてきたキャリアを背景に、熱いながらも実に洗練された趣味の良いサウンドを聴かせてくれます。

 「洗練された趣味の良い」と聴こえるのは、言うまでもなくTony自身のオリジナル(ビートルズの1-2"Blackbird"以外は全てTonyのオリジナル)の魅力に負うところが大きいと思います。Tonyのオリジナルと言えば彼自身の二枚目のリーダーアルバム「Spring(1965年録音、Blue Note)」収録の"Love Song"は(おそらく)多くのジャズファンに強い印象を残した佳曲ですが、本作で取り上げられた楽曲も2-1"Sister Cheryl"を筆頭に彼のペンは冴えわたっていて、本当にこの人は良い曲を書きます。そして、複雑ではないけれどよく考えられたアレンジによるテーマ部から、各人の熱いソロに繋がれる(ちょっと「アレ」な長いドラムソロもあったりします)のですが、これがまた彼らのベスト・パフォーマンスと言ってもよいほどの出来なのです。
 このblogでは何度も書いてきたことですが、本作が録音された頃のWallace Roneyは私の非常に好みとするところで、ここではライブということもあってずいぶん力が入ったプレイで、この時代の彼をずっと追いかけていた私にとってはむしろほほえましいとさえ思えるくらいですが、力強さという点では彼の最右翼に位置するパフォーマンスです。もう一人のBill Pierceは、Wallaceに比べれば「クールに燃えている」というのでしょうか、テナー、ソプラノともに折り目正しさの中にも熱さを感じさせるプレイで、Wallaceとの対比・コンビネーションが絶妙です。一方ピアノのMulgrew Millerですが、よく言われるようにマッコイ・タイナーの影響を感じさせる70年代ジャズの香り漂う彼のピアノがこのバンドのサウンドに良い塩梅にマッチしていて、今さらながらではありますが、Wallace - Bill - Mulgrewの組み合わせは大成功だったという以外ありません。

 後期Tony Williamsクインテット自体が、Tony Williamsというミュージシャンの最後の「傑作」としか言いようのないバンドで、本作はこのクインテットの集大成となった最後の「力作」であり、このblogの中では少数派の「聴き手を選ばない」胸のすくような現代ハードバップのアルバムです。

「Civilization(1986年録音)」 ※ベースはCharnette Moffett
Williams Tony_01_Civilization 

「Angel Street(1988年録音)」 ※ベースはCharnett Moffett
Williams Tony_02_Angel Street 

「Native Heart(1989年録音)」 ※ベースはIra Coleman又はRobert Hurst
Williams Tony_03_Native Heart 

「The Story of Neptune(1991年録音)」 ※ベースはIra Coleman
Williams Tony_04_Neptune

James Carter / Present Tense

Label: EmArcy
Rec. Date: Sept. 2007
Personnel: James Carter (fl, bcl, ss, ts, bs), Dwight Adams (tp. flh), D.D. Jackson (p), James Genus (b), Victor Lewis (ds), Rodney Jones (g) [4, 6, 9], Eli Fountain (per) [4, 7, 9]
Carter James_200709_Present Tense 
1. Rapid Shave [Dave Burns]
2. Bro. Dolphy [Carter]
3. Pour Que Ma Vie Demeure [Django Reinhardt]
4. Sussa Nita [Carter]
5. Song of Delilah [Victor Young, Livingston, Ray Evans]
6. Dodo's Bounce [Dodo Marmarosa]
7. Shadowy Sands [Jimmy Jones]
8. Hymn of the Orient [Gigi Gryce]
9. Bossa J.C. [Carter]
10. Tenderly [Walter Gross, Jack Lawrence]

 マルチ・リード奏者James Carter(「Odean Pope / Odean's List」特集記事『The Julius Hemphill Sextet』の「Fat Man and the Hard Blues」と「Five Chord Stud」に参加、以下「JC」と記す)が2007年に録音したアルバムです。

 JCはデビュー前にはR&Bのバンドでも活動していたそうですが、例えばエディー・ロックジョー・デイビス、ドン・バイアスらのコンベンショナルでどちらかと言えばR&B方面に傾いた先輩たちからの影響を受けた、或いは軸足を置いたプレイをベースに、一瞬にして「フリー」の次元に移動(アウト)してしまう変幻自在でパワフルなプレイが持ち味・・・なんとも上手く表現できませんが、ジャズシーンのメイン・ストリーマーかどうかは別にしても、或いは「そこまでやるか」的な脂ぎったプレイを受け入れられるかどうかは別にしても、際立つ個性を持つサックス・プレイヤーの一人であることは間違いないでしょう。
 つい先だって久しぶりにリーダーアルバムを発表したJCを私はデビュー当時からずっと聴いていますが、なんだかんだ言っても当時のレギュラー・バンドを従えて一切の迷いなく吹き切った最初の二作(「JC on the Set(1993年録音)」と「Jurassic Classics(1994年録音)」、いずれもDIWレーベル)がベストだよね、と私は思っていますし、同じ意見のリスナーも多いのではないかと思います。

 本作「Present Tense」は、JCの12枚目のリーダーアルバムで、このように彼の最良作という訳ではありませんが、『ピアノソロ 三題』の「So Far」と「Peace-Song」の2枚のアルバムを取り上げたピアニストD.D. Jacksonが全面参加ということで選んだアルバムです。
 JCとD.D.は1990年代のD.D.のリーダーアルバムで既に共演していますが、アルバム全曲で共演したというのは本作のみですし、以前にも書きましたが、2007年録音の本作が手元では現時点で最新の(と言うか最後の)D.D.の録音です。
 他のメンバーは、JCとは共演歴のあるDwight Adamsのラッパとの2管フロント、リズムは中堅どころのJames GenusのベースにVictor Lewisのドラム、曲によってRodney JonesのギターとEli Fountainという人のパーカッションが入る編成です。
 JCはどのアルバムも選曲に拘りがあって、本作でも自身のオリジナルやスタンダードの他に、トランぺッター・デイブ・バーンズの1曲目、JCの大事な素材であるジャンゴ・ラインハルトの3曲目、ピアニスト・ドド・マーマローザの6曲目など、相当マニアックな楽曲が選ばれています。

 オルガンのShirley Scott(シャーリー・スコット)の「Queen of the Organ(1964年録音、Impulse!)」で取り上げられたアップテンポの変則ブルーズ"Raphid Shave"でアルバムはスタートします。テーマ部はわりとまともに始まり、最初のラッパソロまではそのペースで演奏が進められますが、二番目のD.D.のソロになると、ドン・ピューレンばりに鍵盤を叩きつけながらの弾けた変態プレイが全開となり、その勢いは続くJCのソロに引き継がれ、続くベースソロからバンドの温度は徐々に下がってきて、最初のテーマに戻ります。
 2曲目のJCオリジナル"Bro. Dolphy"はその名のとおり、JCがEric Dolphyをイメージさせるバスクラでしっとり始まり・・・と思ったら、D.D.のソロになると案の定どんどん変態度が高くなっていき、テンポがグッと上がる後半では、ラッパと絡むバスクラは一気に「アチラ」の世界に突入していきます。
 この冒頭2曲のような「まとも」と「変態」が行き来するやり方は、JCが初期のリーダーアルバムからやってきた彼の得意技で、堅実でオーソドックスなプレイが持ち味のベースとドラムも、彼のやり方にキッチリと合わせているという印象を受けます。このほかでは、ブラウン・ローチのレパートリーだった5曲目(このトラックはサックスのいやらしいオーバーダブ)、スタン・ゲッツが「Plays(1952年録音、Verve)」で取り上げたジジ・グライスの8曲目なども同様で、一見(一聴?)ストレートな現代ハードバップがJCとD.D.がアドリブを始めるや変態の隠し味が一気に表に出てくる、そういった感じのサウンドです。
 一方でジャンゴの3曲目、生ギターが入るJCオリジナルのボッサ・ビートの4、9曲目、珍しくJCのフルートが聴ける6曲目、かつてエリントン・バンドのバリサク奏者ハリー・カーネイが自身のバンドで演奏したバラードの7曲目などは、彼らなりに「牙を隠した」オーソドックスな演奏で、最後のスタンダードのバラード"Tenderly"もJCがしっとりとバリサクを吹き、D.D.は神妙なバッキングに徹し、実に穏やかな演奏でアルバムを閉じます。

 D.D.以下のリズム(特にベースとドラムは健闘)に支えられて自信たっぷりに吹くJCのプレイは健在ですし、3,4,10曲目などで聴ける彼の「まとも」な、或いはしっとりとした吹奏には、確かに初期のころから比べれば一定の熟成も感じられて、私は好ましくこのアルバムを聴きました。
 欲を言えばD.D.にはもっと弾けてもらいたかったところですし、若干魅力薄のラッパは必要だったのかな、という気がしないでもないですが、JCのリーダーアルバムとしては最初の二枚の「次」あたりにくる出来にはなっていると思います。
プロフィール

sin-sky

Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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