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追悼 Geri Allen

 このblogでGeri Allen & Timelile / LiveDavid Weiss / Endangered Species: The Music of Wayne Shorterを取り上げたピアニストGeri Allenですが、つい先日、彼女が今年6月27日に癌で亡くなったことを知りました・・・享年60歳。
 1957年6月生まれの彼女は私の「同級生」で、年齢とともに少しふっくらした近年の写真からは、病に倒れるというようなこととは全く無縁の人生を送っているものと勝手に思っていたところですが、突然の訃報に接しとても残念な気持ちです。
 そこで、今回はこのblogでは初めての「特集記事」として、私が好んで聴いてきた彼女のアルバム(リーダーアルバム3枚、サイドマンとして参加したアルバム3枚)を選んで取り上げることとしました。

①Geri Allen / The Printmakers
Label: Minor Music
Rec. Date: Feb. 1984
Personnel: Geri Allen (p), Anthony Cox (b), Andrew Cyrille (ds, mouth percussion, tympany)
Printmakers.jpg
1. A Celebration of All Life
2. Eric
3. Running as Fast as You Can...TGTH
4. M's Heart
5. Printmakers
6. Andrew
7. When Kabuya Dances
8. D and V 

 Geri Allenが26歳の時にドイツで録音された記念すべきファースト・リーダーアルバムで、Anthony CoxのベースにベテランドラマーAndrew Cyrilleというある意味理想的なメンバーによるピアノトリオです。
 さすがにリーダーアルバム第一作ということでGeriのやる気が漲るアルバムで、Andrew Cyrilleのフリーの香り強く漂うドラムがこのトリオを強力にリードしています。3、5曲目あたりはほとんどフリーと言ってもよいアブストラクトな展開になり、1、4、7曲目などは、アクの強いリフを繰り返して畳み掛けるGeriの特徴が既によく現れています。才女Geri Allenのデビュー作にして文句なしの傑作ピアノトリオです。


②Geri Allen / Open on All Sides in the Middle
Label: Minor Music
Rec. Date: Dec. 1986
Personnel: Geri Allen (p, kyb, vo), Shahita Nurallah (lead vocal), David Murray (ss, fl), Racy Biggs (tp, flh), Robin Eubanks (tb), Steve Coleman (as), Tani Tabbal (ds), Jaribu Shahid (b), Mino Cinelu (per), Lloyd Storey (tap dancer), Marcus Belgrave (flh, 8 only)
Open On All Sides In the Middle
1.  Open on All Sides / The Glide was in the Ride...
2. Forbidden Place
3. The Dancer
4. In the Middle
5. Ray
6. I Sang a Bright Green Tear for All of Us This Year...
7. Drummer's Song
8. In the Morning (for Milton Nascimento)
9. Dancer pt. 2

 上記「The Printmakers」の後に、ピアノ・ソロによるリーダーアルバム第二作「Home Grown(1985、Minor Music)」を発表、第三作である本アルバムは、ホーン、ボーカル、タップダンサー、パーカッションなどが加わる比較的大きな編成で、彼女はピアノだけでなくシンセサイザーなども弾いています。
 第一作のトリオ、第二作のソロではピアニストとして、そして本作ではコンポーザー・アレンジャー・バンドリーダーとしても優れた能力を持っていることを我々に示してくれました。
 いわゆるM-Base系のサウンドではありますが、アルバムを一気に聴かせてしまう「勢い」がこのバンドにはあり、彼女のペン(アレンジ)は実に冴えています。Steve Coleman、Robin Eubanksがキラッと光るソロを聴かせますし、やはり名手Mino Cineluの「技」が効いていて、彼らに負うところも大きいと思います。
 デビューからわずか3年足らずの間に発表された3枚のアルバムを聴くと、当時のGeri Allenがいかに充実していたかがよくわかります。

③Geri Allen / The Life of a Song
Label: Telarc Jazz
Rec. Date: Jan. 2004
Personnel: Geri Allen (p), Dave Holland (b), Jack DeJohnette (ds), on 11 only: Marcus Belgrave (flh), Dwight Andrews (sax), Clifton Anderson (tb)
The Life of a Song 
1. LWB's House
2. Mounts and Mountains
3. Lush Life
4. In Appreciation: A Celebration Song
5. The Experimental Movement
6. Holdin' Court
7. Dance of Infidels
8. Unconditional Love
9. The Life of a Song
10. Black Bottom
11. Soul Eyes

 上記の初期のアルバムから約20年後の録音で、Dave HollandとJack DeJohnetteとは「Betty Carter / Feed the Fire(1993、Verve)」以来の共演となります。
 デビューから20年を経ても、Geriは決して「丸く」はならず、ちゃんと彼女の「文法」でしっかり自己主張している、そういう思いを強く持ったアルバムです。Bud Powell作の7曲目"Dance of Infidels"も完全にGeri風に料理しており、彼女の強い意志を感じさせるプレイ、二人の名手のサポート、良好な録音という条件の揃った極めてクオリティの高いピアノトリオだと思います、ラストの"Soul Eyes"のみホーンセクションが入り、彼女の地元デトロイトのベテラン・ラッパMarcus Belgrave(録音当時67歳)のちょっと「危なっかしい」フリューゲルのソロが良い味を出しています。


④Woody Shaw / Bemsha Swing
Label: Blue Note
Rec. Date: Feb. 1986
Personnel: Woody Shaw (tp), Geri Allen (p), Robert Hurst (b), Roy Brooks (ds)
Bemsha Swing
Disc 1:
 1. Bemsha Swing
 2. Ginseng People
 3. Well You Needn't
 4. Eric
 5. United
Disc 2:
 1. Nutty
 2. In a Capricornian Way
 3. Star Eyes
 4. Theloniously Speaking

 ②「Open on All Sides in the Middle」の10ヶ月ほど前の1986年2月、地元デトロイトのクラブでの熱気に満ちたライブで、やはり当地で活動するRoy Brooksがドラムを叩いています。
 大先輩を前に若干の緊張感或いは「手探り」感がないわけではありませんが、初期Geri Allenの瑞々しいプレイをこのようなメンバー構成で聴くことができるというのは嬉しい限りです。
 ハッタリ皆無の生真面目で力強いWoody Shawのラッパが素晴らしいのは言うまでもありあせんが、テクニシャンというタイプではないものの、ここで聴かれるような「熱さ」が身上のRoy Brooksのドラムも大活躍です。


⑤Ornette Coleman / Sound Museum Three Women
Label: Harmolodic / Verve
Rec. Date: 1996
Personnel: Ornette Coleman (as, tp, vln), Geri Allen (p), Charnett Moffett (b), Denardo Coleman (ds), on 7 only: Lauren Kinhan (vo), Chris Walker (vo)
Sound Museum Three Women
1. Sound Museum
2. Monsieur Allard
3. City Living
4. What Reason
5. Home Grown
6. Stopwatch
7. Don't You Know By Now
8. P.P. (Picolo Pesos)
9. Women of the Veil
10. Yesterday, Today & Tomorrow
11. Biosphere
12. European Echoes
13. Mob Job
14. Macho Woman

 ピアニストとの共演が少ないOrnette Colemanとしては、ピアノトリオをバックにしたカルテット編成の極めて珍しいアルバムです。
 このアルバムが録音された前年にOrnetteとGeriは日本制作盤「Eyes...In the Back of Your Head(1995、Somethin' Else)」で2曲のみ共演していましたが、本作は二人ががっぷりと組んだフルアルバムです(同ロケーションの録音の「Sound Museum Hidden Man」と対になったアルバムですが、ここでは私が最初に聴いた本作を取り上げます)。
 Geriが参加したアルバムの中では最もアブストラクトな部類のセッションだと思いますが、いつものOrnetteのアルバムのように、テーマ部は「ちゃんと作曲」されていて、続くアドリブ・コーラスもやはり全面的カオスには突入しません。
 無心に力強く吹くOrnette・・・これはアルトだけでなく、ラッパを吹いてもバイオリンを弾いても同じスタンスです。四人の絡みが実に「生々しく」、「手作り」感に溢れる「素朴」な(打算のない)フリージャズと言ったらよいのでしょうか。いつものように、或いはいつも以上に「攻める」Geriは御大と互角に「渡り合って」おり、刺激的でアブストラクトなサウンドではありますが、Ornetteらしい味わいのあるアルバムです。


⑥Ravi Coltrane / From the Round Box
Label: BMG France
Rec. Date: Sept. Dec. 1999
Personnel: Ravi Coltrane (ts, ss), Ralph Alessi (tp, flh), Geri Allen (p), James Genus (b), Eric Harland (ds), Andy Milne (p, 9 only)
From the Round Box
1. Social Drones
2. The Chartreuse Mean
3. Word Order
4. Blues a la Carte
5. Monk's Mood
6. Irony
7. The Blessing
8. Consequence
9. Between Lines

 「Mooving Pictures(1997、BMG France)」に続くRavi Coltraneのリーダーアルバム第二作にあたり、バックはGeri Allen、James Genus、Eric Harlandという強力メンバーです。
 手数の多いEric Harlandがやはりバンドのサウンドを支配しますが、それでもわりとルーズでスペースのあるリズムを背景に、各人がそれぞれの持ち味を発揮して個性的なソロを聴かせる・・・そういったアルバムで、リーダーアルバム第二作にして、贔屓のRaviは風格すら感じさせる堂々としたプレイです。
 Geri Allenも持ち味全開で、8歳年下のRaviを少し怖い姐さんといった役回りで支えている・・・そんな感じでしょうか。Raviのテナーのワンホーンで演奏されるモンクの"Monk's Mood"では、RaviのソロでのGeriのバッキング、テナーソロに続くピアノソロは、実にしみじみとしていて、ずっと聴いていたいという気分にさせます。


 以上6枚のアルバムの他にも、リーダーアルバムはもちろんですが、例えばOliver Lake、Dewey Redman、Charles Lloydのアルバムなど、私が好きなGeri Allenの参加アルバムを挙げればきりがありません。
 たくさんの素晴らしい演奏を残してくれた彼女に感謝し、心よりご冥福をお祈りする次第です。

Bennie Wallace / Moodsville

Label: Groove Note
Rec. Date: May 2001
Personnel: Bennie Wallace (ts), Mulgrew Miller (p), Peter Washington (b), Lewis Nash (ds)
Wallace Bennie_200105_Moodsville
1. I'll Never Smile Again [Ruth Lowe]
2. Con Alma [Dizzy Gillespie]
3. April in Paris [Vernon Duke, Yip Harburg]
4. Milestones [Miles Davis]
5. When a Man Loves a Woman [Calvin Lewis, Andrew Wright]
6. Love for Sale [Cole Porter]
8. My Little Brown Book [Billy Strayhorn]
9. I Concentrate on You [Cole Porter]
10. A Flower is a Lovesome Thing [Billy Strayhorn]

 1946年テネシー州生まれのテナー奏者Bennie Wallaceのアルバムです。
 1978年録音の「Fourteen Bar Blues」「Live at the Public Theatre」(いずれもEnjaレーベルでEddie Gomezがベースのピアノレストリオ)あたりが彼の最初期のリーダーアルバムだと思いますが、当時(1980年前後)ジャズ喫茶などで先輩ジャズファン達がよく彼のことを話題にしていたのを覚えています。その後、現時点で最新(最後?)の「Disorder at the Border(2004年録音、Enja)」に至るまで多くのリーダーアルバムを発表していますが、一方でサイドマンとしてのレコーディングの極めて少ないミュージシャンでもあります。

 初リーダーアルバムの頃から、Bennie Wallaceのプレイ・スタイルはほとんど変わりがありません。彼はしばしばモンクの曲を演奏しますが、モンクの音楽のように束縛されない自由なプレイで、彼の源流はやはりロリンズのように思えるのですが、コードに沿ったフレーズから逸脱(アウト)するその独特のプレイ・スタイルに、私はドルフィーとの「近さ」も感じるものです。

 Bennie Wallaceは1990年代に入って、比較的「穏当」なリズムセクションをバックに、以下に列記する主にスタンダードを素材とした(「バラード集」と言ってもよい)アルバムを発表します。

①「The Old Songs(1993、Audioquest)」
  Lou Levy (p), Bill Huntington (b), Alvin Queen (ds)
②「The Talk of the Town(1993、Enja)」
  Jerry Hahn (g), Bill Huntington (b), Alvin Queen (ds)
③「Bennie Wallace(1998、Audioquest)」
  Tommy Flanagan (p), Eddie Gomez (b), Alvin Queen (ds)
④「Someone to Watch Over Me(1998、Enja)」
  Mulgrew Miller (p), Peter Washington (b), Yoron Israel (ds)
⑤本作
⑥「The Nearness of You(2003、Enja)」
  Kenny Barron (p), Eddie Gomez (b)

 いかにも日本のレコード会社が作りそうな安易な企画に見えますが、バックがどのようなメンバーであっても、デビュー当時から一貫するBennie Wallaceの「アウト」ぶりが冴えていて、これらのアルバムを私は好んで聴いています。しかしながら、もっと攻撃的なサウンドを志向するファンは、こういうアルバムを連発する彼から、もしかすると遠ざかっていったかもしれません。

 ここに取り上げる「Moodsville」は、上記④「Someone to Watch Over Me」と同じピアノのMulgrew MillerとベースのPeter Washingtonに、ドラムのLewis Nashが加わったカルテットによるアルバムです。
 演奏される楽曲はスタンダード、ジャズメン・オリジナルで固められ、おまけにパーシー・スレッジの「男が女を愛するとき"When a Man Loves a Women"」なんてのも入っています・・・ただし例のメロディは出てきませんが。
 バックのメンバーの名前を見れば容易に想像できる穏当で趣味の良いサウンドです。そういうリズム陣をバックに、馴染みの曲を気持ち良さそうに「アウト」するBennie Wallace・・・このアルバムを説明するには、このくらいの言葉で事足りてしまいます。さらに録音が極めて良好なので、彼の独特の(そして少々緩くなってきた)個性・演奏スタイルを「よしとする」ことができる私を含むリスナーであれば、これ以上に最適なアルバムはないでしょう。
 なお4曲目のMiles Davisの"Milestones"は例の"Milestones"ではなくて、1947年に若き日のMilesがCharlie ParkerのもとSavoyレーベルに吹き込んだ方の"Milestones"ですので念のため。

 前述のように1990年代に入ってBannie Wallaceが吹き込んだ言わば「バラード集」は、少なくとも私にとってはどれも受け入れ可能で、さすがにたびたび聴くと「もういいな」にはなりますが、聴きたいときを選んでCDをかければ、この上なく気持ち良くなれることは間違いありません。中でもメンバーが理想的な~というのもEddie GomezとAlvin Queenは少々苦手なので~上記④と本作の2枚は、年に一回くらいであれば私にとっては思考停止になって聴き呆けてしまうアルバムです。

Rob Price / I Really Do Not See the Signal

label: Gutbrain Records
Rec. Date: Oct. 2006
Personnel: Ellery Eskelin (ts), Rob Price (g), Trevor Dunn (b), Jim Black (ds)
Price Rob_200610_Signal 
1. I Really Do Not See the Signal
2. Girasol
3. Modern Mongoose
4. Dashiell Hammett & Barbara Pym
5. Viae Ferae
6. Chambara
7. Mango
8. H.P. Lovecraft Slept Here

 贔屓のクレイジー・ドラマーJim Blackが参加したRob Priceというギタリストのアルバムです。リーダーのRob Priceはマサチューセッツ出身・・・私の情報収集能力ではこれしかわかりませんでしたが、本作を含めて4枚ほどのリーダーアルバムを既に発表しているようです。

 メンバーはリーダーのギターとJim Blackのドラムに、Jim BlackやDavid Liebman、Marc Ducretらとの忘れられない共演アルバムがあるテナーのEllery Eskelin、ベースはJohn Zornとの共演が多かったTrevor Dunnという4人編成で、全てリーダーのオリジナルが演奏されています。
 本作の数年前にドラムがJoey Baron、ほかは本作と同じメンバーで「At Sunset(2004年録音、Gutbrain Records)」(※この記事の最下段の写真参照)というアルバムを出しています。Joey Baronのドラムはキレキレなのですが、真面目なのかふざけているのかわからないような「ごちゃまぜ感」満載のサウンドに少々戸惑いを感じたところですが、本作はドラムがクレイジーJim Blackに替わったせいか「的が絞られ」て、グッとパワーアップしたサウンドになっています。

 前作「At Sunset」も変テコなジャケットでしたが、このアルバムのジャケットを見ればまともな、と言うか「ど真ん中直球」の音は出てこないだろうな・・・そういう予感が的中する癖の強いサウンドです。
 誤解を恐れずに言えば、フリーのスパイスがたっぷりと効いた「ジャズ・ロック」といったところでしょうか。「ジャズ・ロック」なんて言葉は今どき使いませんが、このアルバムのサウンドを説明するのに「フリーなジャズ・ロック」という言葉はあながち的はずれではないと思っています。
 リーダーのエレキギター、Trevor Dunnのウッド・ベースとJim Blackのドラムが創り出す生々しいリズムが特徴です。例によってJim Blackのヤケクソで引っぱたく8ビートのショットは快感以外の何ものでもありませんし、とりわけTrevor Dunnのゴツゴツとしたウッド・ベースとドラムとの組み合わせが絶妙で、このバンドのリズムの最大の特徴になっています。
 リーダーのギターですが、う~む、正体不明だなあ・・・ついJim Blackに耳を惹かれて、彼のギターの鑑賞が疎かになってしまいますが、彼の個性或いはやりたいことが今ひとつ掴めなかった・・・正直そういう印象です・・・決して悪くはないのですが。
 一方Ellery Eskelinは、上にも少し書きましたが、Jim Blackと謎の女流キーボード奏者Andrea Parkinsとのトリオ、David Liebmanとの2テナー・ピアノレスカルテット、さらにMarc Ducretが参加したベテラン・ドラマーDaniel Humairのアルバムで、これでもかというくらいの強い自己主張で「アウト」する変態ブロウが印象に残っています。このアルバムでは、バンドのサウンドにはある意味お構いなしに「我が道を行く」的に気持ち良さそうにブロウしますが、彼にしてはいつもよりもずっと「わかりやすい」プレイだと思います・・・とは言っても好き嫌いがはっきり分かれるところではありますが。

 このバンドのサウンドは基本「フリー」ではありますが、Jim BlackとTrevor Dunnが叩き出すリズムはどこまでも「陽」で、Ellery Eskelinのプレイも含めて聴き手に対して「オープン」なサウンドと言ってよいと思います。
 リーダーのギタリストが充分魅力的かどうかはさておいても、このようなオープンなサウンドの中にJim Blackのやんちゃでクレイジーなショットが随所に溢れ、Jim Black絡みで入手したアルバムの中では「楽しんで聴ける」という点では上位にランクする作品でした。

※「Rob Price / At Sunset(2004、Gutbrain Records)」
Price Rob_200403_Sunset

Powerhouse / In an Ambient Way

Label: Chesky Records
Rec. Date: Dec. 2014
Personnel: Wallace Roney (tp), Bob Belden (ss, fl, arr), Oz Noy (g), Kevin Hays (el-p), Daryl Johns (b), Lenny White (ds)
Powerhouse_201412_Ambient Way
1. Shhh / Peaceful [Miles Davis]
2. In a Silent Way [Joe Zawinul]
3. It's About That Time [Miles Davis]
4. Early Minor [Joe Zawinul]
5. Mademoiselle Mabry [Miles Davis]
6. In a Silent Way (outro) [Joe Zawinul]

 2015年に亡くなったBob BeldenがMiles Davisの「In a Silent Way」関連の曲を素材にアレンジした・・・どちらかと言えば「キワモノ」のアルバムです。オリジナルをモザイクをかけたように表現したジャケットも「キワモノ」感が出ていますね。

 本アルバムで取り上げられた1、2、3、6曲目は「In a Silent Way」収録曲、4曲目"Early Minor"は2004年に発表された「The Complete In a Silent Way Sessions」(3枚組ボックスセット)収録曲で、以上5曲のオリジナルは1969年2月録音、残る5曲目"Mademoiselle Mabry"は「Filles de Kilimanjaro」(キリマンジャロの娘、1968年9月録音)に収録されたものです。
 少々脱線しますが、上記3枚組ボックスセットの他にも、「Bitches Brew」と「Jack Johnson」の関連音源(当時のスタジオでのアウトテイク)を寄せ集めたボックスセットが確か今世紀に入って相次いで発表されましたが、オリジナルを「耳タコ」で聴いてそれで満足していましたので、どうも「いまさら」感が半端なくどれもスルーしています。それにしてもあんな重量級のボックスセット、いったいどれくらい売れたのでしょうかね。

 本ユニットのリーダーBob Beldenは、過去にもマイルス絡みで「Miles from India(2006、2007年録音、Foue Quarter Entertainment)」と「Miles Español(2010年録音、Entertainment One Music)」の2組のアルバムを発表しています(他にもあるかもしれませんが)。特に前者は、1970年代にマイルスのバンドに在籍していた変態ギターのPete Coseyと我らがDavid Liebmanの久々の共演トラックが含まれており、私には思わぬプレゼントとなったアルバムです。
 ドラムのLenny whiteは「Bitches Brew」に参加していましたが、他のメンバーはマイルスよりもひと世代、ふた世代も若い連中で、この手のアルバムのファーストコール(?)Wallace Roneyがラッパを吹き、イスラエル出身のギタリストOz Noy、キーボードKevin Hays、ベースDaryl Johns(1980年代マイルスに参加したベーシストDarryl Jonesとは別人のようです・・・紛らわしい)という6人編成です。

 Bob Beldenがプロデュースするサウンドは、オリジナルをわりとシンプルにストレートに再現したものです。なんといってもオリジナルの方は、Herbie Hancock、Chick Corea、Joe Zawinulの三人のキーボードにJohn McLaughlinのギターによる分厚いハーモニーがベースとなっていました。一方ここにいるのはKevin HaysとOz Noyの二人ですので、「最小限」の編成でオリジナルの雰囲気を再現する・・・そういうBob Beldenの意図だったのではないでしょうか。

 順不同で、参加している各プレイヤーに着目して印象を述べていきますと・・・。

 ギターのOz Noyはけっこう器用なところを見せています。2002年録音のリーダーアルバム第一作「Oz Live(Magnatude)」以降、2年おきくらいに発表している彼のアルバムは全て聴いています。これらのアルバムは誤解を恐れずに言えば、どれも同じジャムバンド風の金太郎飴のようなサウンドですが、彼の「元気」でそして少し「不良っぽい」ギタープレイを私は好んで聴いているものです。彼にとって本作のような言わば「他流試合」はそうたくさんないと思いますし、彼自身のリーダーアルバムのサウンドとはかなり様相が違いますが、それでも彼本来の(そして少しマンネリ気味の)個性を主張しつつも、Bob Beldenの意図するサウンドに器用に合わせています。

 キーボードのKevin Haysも良い塩梅で雰囲気を出しています。本アルバムではエレピに専念しており、ここでのプレイは、本人にとっては不本意かもしれませんが、皮肉にもこれまで聴いた中では最もアイディア豊かなプレイを聴かせていると私には思えます。

 Wallace Roneyは想像していたとおりで、彼の永遠のアイドルであるマイルスを、こういう趣旨のアルバムですので少しも遠慮せずに彼なりに「トレース」したプレイです。1980年代(だったと思いますが)にデビューした当時「マイルスそっくり」と言われたWallaceではありますが、1980年代後半から90年代前半にかけて録音されたMuseレーベルへのリーダーアルバムや、後期Tony WilliamsクインテットでのWallaceのラッパは、私の非常に好みとするところです。ただし今世紀に入ってからくらいでしょうか、生来の「バンドリーダーとしての力不足」から、凡作を連発してしばらく遠ざかっていたところですが、このアルバムでのWallaceは、彼の「心のふるさと」であるマイルスの世界を意外に力強く表現しており、久しぶりに楽しく(実際ニヤニヤしながら)聴くことができました。現役のラッパで、こういう(擬似マイルスの)世界を描けるのは、やはりWallace Roneyただひとりでしょう。

 最後にLenny Whiteですが、正直「ちょっと重いなあ」という印象です。オリジナルのドラマーはもちろんTony Williamsですが、Tonyの切れ味鋭いドラミングとはだいぶ違う印象です。まあこれもこのドラマーの個性でしょう。

 オリジナルから45年後にBob Beldenが再現した「In a Silent Way」の世界は、正直それほど深みのある再構築ではありませんが、Wallace Roney、Kevin Hays、Oz Noyの好演は拾い物ですし、ハードなアルバムを立て続けに聴いたあとのコーヒー・ブレイク或いはティー・タイムのお供に・・・そんな感じの楽しいアルバムです。


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Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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