Ralph Peterson's Fo'tet / Ornettology
Label: Somethin’ Else
Rec. Date: Aug. 1990
Personnel: Don Byron (cl, bcl), Bryan Carrott (vib), Melissa Slocum (b), Ralph Peterson (ds, cor)


1. Ornettology [Peterson]
2. The Substance of Things Hoped For [Carrott]
3. Nemesis [Slocum]
4. Iris [Wayne Shorter]
5. Status Flux [Peterson]
6. I Mean You [Thelonious Monk]
7. Sneak Attack [Peterson]
8. Congeniality [Ornette Coleman]
9. There is No Greater Love [Isham Jones, Marty Symes]
前回記事の『George Colligan / Ultimatum』でドラムを叩いていたRalph Peterson(ラルフ・ピーターソン、他に『Craig Handy / introducing Three for All + One』で既出)のリーダーアルバムです。
1980年代後半から東芝系レーベルのSomethin’ Elseが立て続けにリリースしたアルバムで、私(を含む多くの日本のリスナー)はラルフ・ピーターソンのことを知りました。すなわち順番に『V』(88年録音)、『Triangular』(88年)、『Volition』(89年)、『Presents the Fo'tet』(89年)、そして90年に録音された本作『Ornettology』の五枚。恥知らずな企画モノをお家芸とする我が国のレコード会社にしては、珍しいくらいストレートに当時のNYジャズシーンの空気を伝えてくれたアルバムでした。
本作『Ornettology』は、上記『Presents the Fo'tet』に続くフォテット名義としては二作目にあたり、前作に引き続いてクラリネットのDon Byron(ドン・バイロン)、ヴァイブのBryan Carrott(ブライアン・キャロット)、女流ベーシストMelissa Slocum(メリッサ・スローカム)との四人編成です。そしてこのフォテットは、私がドン・バイロンを強く意識するきっかけとなったユニットでもあります。
演奏される楽曲はオーネット・コールマンに捧げられたタイトル・チューンなどメンバーのオリジナルに加えて、オーネット自身のオリジナルの8曲目”Congeniality”(『The Shape of Jazz to Come(1959年録音、Atlantic)』収録)、ウェイン・ショーターの4曲目、モンクの6曲目、そしてスタンダードの9曲目というラインアップです。
まず、クラリネット、ヴァイブ、ベースにドラムという編成ですが、五十年遡れば(ベニー・グッドマンの時代だったら)当たり前だった編成が、このアルバムが録音された1990年という時代には逆に新鮮に響きます。前作『Presents the Fo'tet』ではデビッド・マレイ(テナー、バスクラ)とフランク・レイシー(トロンボーン)が3曲にゲスト参加する編成でしたが、前作で手応えを得たのでしょう、今回は全曲この4人のみのメンバーでモダンな、まさに当時のNYコンテンポラリーなサウンドを聴かせてくれます。このことは、ブライアン・キャロットのハーモニー感覚に負うところも大きいと思います。まるでエリック・ドルフィー『Out to Lunch』でのボビー・ハッチャーソン・・・ちょっと違うかな。
そしてクラリネットのドン・バイロン。
彼の最初のリーダーアルバムは本作の二か月後に録音された『Tuskegee Experiments』(Nonesuch)、その後Blue Noteなどから次々にリーダーアルバムを発表し、独特な、と言うか独善的な世界を築いていくことになるのですが、その前夜に発表されたこのフォテットでのプレイは、一人のクラリネット奏者としての大きな可能性を強く感じたものです。
例えば冒頭の”Ornettology”ですが、高速4ビートに乗って細かく上下するフレーズをあれよあれよと吹き切ってしまう潔さ、これを聴いて得られる爽快感は何とも言えません。クラリネットってこんなにモダンで面白いことが表現できるんだ、といった感じです。メリッサ・スローカムのオリジナル3曲目、ドラムとクラリネットのデュオがフィーチャーされる7曲目、そしてオーネットの8曲目”Congeniality”も同じようにアップテンポの演奏で、ドン・バイロンの高速吹奏はどこまでも快調です。一方で、ショーターの4曲目”Iris”(初出は『Miles Davis / E.S.P.』)では、オリジナルのムードそのままにスローテンポで広い音域のフレーズをバスクラでしっとりと吹き、これもなかなか聴かせます。
リーダーのオリジナル5曲目は、ミディアム・テンポの変拍子ですが、ステディにバンドを支えるベースに乗って、ドン・バイロン、ブライアン・キャロット、リーダーの三人がそれぞれに見せ場を作るこのユニットらしさがよく出た演奏で、このアルバムのベストトラックでしょう。再び申し上げますが、特にこのトラックは『Out to Lunch』に通じるものを感じます。
最後にリーダーのプレイですが、ここでも全編にわたって手数の多いドラミングが冴えわたっています。考えてみれば、この人は亡くなる(昨年58歳の若さで死去)までずっとこの饒舌な語法をやり通しました。ややもするとうるさく感じたり、一本調子に響きがちではありますが、デビュー当時の本作を含む一連のSomethin’ Elseのアルバムでのプレイには有無を言わせぬような「旬」の勢いがあって、今なお輝かしさを放っているように感じられます。
リーダーのコルネットとベースのデュオで演奏されるラストのスタンダード”There is No Greater Love”は無くてもよかったとは思いますが、それはさておいても、ユニークな編成による刺激的なサウンドとドン・バイロンの大きな可能性を予感させたプレイが聴きどころのこれは力作です。
『Volition』(1989年録音)
1980年代後半から東芝系レーベルのSomethin’ Elseが立て続けにリリースしたアルバムで、私(を含む多くの日本のリスナー)はラルフ・ピーターソンのことを知りました。すなわち順番に『V』(88年録音)、『Triangular』(88年)、『Volition』(89年)、『Presents the Fo'tet』(89年)、そして90年に録音された本作『Ornettology』の五枚。恥知らずな企画モノをお家芸とする我が国のレコード会社にしては、珍しいくらいストレートに当時のNYジャズシーンの空気を伝えてくれたアルバムでした。
本作『Ornettology』は、上記『Presents the Fo'tet』に続くフォテット名義としては二作目にあたり、前作に引き続いてクラリネットのDon Byron(ドン・バイロン)、ヴァイブのBryan Carrott(ブライアン・キャロット)、女流ベーシストMelissa Slocum(メリッサ・スローカム)との四人編成です。そしてこのフォテットは、私がドン・バイロンを強く意識するきっかけとなったユニットでもあります。
演奏される楽曲はオーネット・コールマンに捧げられたタイトル・チューンなどメンバーのオリジナルに加えて、オーネット自身のオリジナルの8曲目”Congeniality”(『The Shape of Jazz to Come(1959年録音、Atlantic)』収録)、ウェイン・ショーターの4曲目、モンクの6曲目、そしてスタンダードの9曲目というラインアップです。
まず、クラリネット、ヴァイブ、ベースにドラムという編成ですが、五十年遡れば(ベニー・グッドマンの時代だったら)当たり前だった編成が、このアルバムが録音された1990年という時代には逆に新鮮に響きます。前作『Presents the Fo'tet』ではデビッド・マレイ(テナー、バスクラ)とフランク・レイシー(トロンボーン)が3曲にゲスト参加する編成でしたが、前作で手応えを得たのでしょう、今回は全曲この4人のみのメンバーでモダンな、まさに当時のNYコンテンポラリーなサウンドを聴かせてくれます。このことは、ブライアン・キャロットのハーモニー感覚に負うところも大きいと思います。まるでエリック・ドルフィー『Out to Lunch』でのボビー・ハッチャーソン・・・ちょっと違うかな。
そしてクラリネットのドン・バイロン。
彼の最初のリーダーアルバムは本作の二か月後に録音された『Tuskegee Experiments』(Nonesuch)、その後Blue Noteなどから次々にリーダーアルバムを発表し、独特な、と言うか独善的な世界を築いていくことになるのですが、その前夜に発表されたこのフォテットでのプレイは、一人のクラリネット奏者としての大きな可能性を強く感じたものです。
例えば冒頭の”Ornettology”ですが、高速4ビートに乗って細かく上下するフレーズをあれよあれよと吹き切ってしまう潔さ、これを聴いて得られる爽快感は何とも言えません。クラリネットってこんなにモダンで面白いことが表現できるんだ、といった感じです。メリッサ・スローカムのオリジナル3曲目、ドラムとクラリネットのデュオがフィーチャーされる7曲目、そしてオーネットの8曲目”Congeniality”も同じようにアップテンポの演奏で、ドン・バイロンの高速吹奏はどこまでも快調です。一方で、ショーターの4曲目”Iris”(初出は『Miles Davis / E.S.P.』)では、オリジナルのムードそのままにスローテンポで広い音域のフレーズをバスクラでしっとりと吹き、これもなかなか聴かせます。
リーダーのオリジナル5曲目は、ミディアム・テンポの変拍子ですが、ステディにバンドを支えるベースに乗って、ドン・バイロン、ブライアン・キャロット、リーダーの三人がそれぞれに見せ場を作るこのユニットらしさがよく出た演奏で、このアルバムのベストトラックでしょう。再び申し上げますが、特にこのトラックは『Out to Lunch』に通じるものを感じます。
最後にリーダーのプレイですが、ここでも全編にわたって手数の多いドラミングが冴えわたっています。考えてみれば、この人は亡くなる(昨年58歳の若さで死去)までずっとこの饒舌な語法をやり通しました。ややもするとうるさく感じたり、一本調子に響きがちではありますが、デビュー当時の本作を含む一連のSomethin’ Elseのアルバムでのプレイには有無を言わせぬような「旬」の勢いがあって、今なお輝かしさを放っているように感じられます。
リーダーのコルネットとベースのデュオで演奏されるラストのスタンダード”There is No Greater Love”は無くてもよかったとは思いますが、それはさておいても、ユニークな編成による刺激的なサウンドとドン・バイロンの大きな可能性を予感させたプレイが聴きどころのこれは力作です。
『Volition』(1989年録音)