The Ray Anderson-Marty Ehrlich Quartet / Hear You Say
メンバーはこのフロント二人に、ベースBrad Jones(ブラッド・ジョーンズ、『Michele Rosewoman / The In Side Out』、『Dave Douglas / Keystone』で既出)、ドラムMatt Wilson(マット・ウィルソン、『追悼:Mario Pavone / Remembering Thomas』で既出)が加わるピアノレス・カルテットの編成です。
レイ・アンダーソンが高度なテクニックに裏打ちされた優れたトロンボーン奏者であることに異論はないのですが、ともするとそのテクニックをひけらかして(ふざけて、オチャラケて)いるように聴こえるアルバムがあってどうにも鼻につきます。このあたりは『Ray Anderson, Han Bennink, Christy Doran / Cheer Up』や『Don Byron / No-Vibe Zone』の記事にも書いたところですが、この人はこんなに才能があるのに損しているなぁと思ってしまうのです。そういう意味でレイ・アンダーソンを聴くときはつい及び腰になるのですが、幸いにして本作はそのあたりがほとんど気にならないアルバムであるということをまず申し上げておきたいと思います。
このピアノレス・カルテットは、ライブということもあって、比較的緩いアレンジでテーマ部が提示された後に、二人のソロに繋がれ、或いはメンバー相互がかなり自由に絡み合いながら演奏が進んでいきます。ここでのレイ・アンダーソンは相変わらずの技巧的なプレイを披露してはいるものの、そのテクニシャンぶりが突出するというよりも、四人の生々しい反応の応酬の方がサウンドを支配しているという感じです。レイ・アンダーソンの参加アルバムにあって、こういう方向性は大歓迎です。例えば彼のオリジナル6曲目はいかにも彼がやりそうな少しユーモラスな楽曲ですが、これを自身のリーダーアルバム(しかもスタジオ録音)で演奏すれば、もっと「ひけらかし系」のサウンドになってしまったのではないかと思ってしまうくらいです。
一方のマーティですが、1, 5曲目クラリネット、2, 4, 6, 7曲目アルト、3曲目ソプラノをそれぞれ吹いています。どの楽器も力強くも良く鳴っていて文句はないのですが、前回記事でも申し上げましたように、私は彼が吹くクラリネット(及びバスクラリネット)が大好物で、こういうモダンジャズ(と言うか何と言うか)のセットでクラリネットとトロンボーンの2フロントというのは実に新鮮に響きます。このクラとボントロという一風変わった組み合わせでこのような(モダンでコンテンポラリーな)演奏を展開したこの2曲のパフォーマンスが、ひょっとすると本作の最大の価値かもしれない・・・それくらい刺激的なクラリネット(とボントロの組み合わせ)です。
最後にベースとドラムついてですが二人とも全く問題ありません、と言うよりも頑張っています。どちらかと言えばベースの自在なプレイ(終曲のベースがフィーチャーされるシーンはなかなか聴かせます)に惹かれますが、全編にわたってパワフルなプレイを聴かせるドラムも全く悪くありません。
こういうレイ・アンダーソンだったら(私を含め多くのリスナーに)まずまず受け入れられるでしょうし、敢えてもう一度申し上げますとやはりマーティ・アーリックのクラリネットには痺れます。全体的にケチのつけどころのない、個性的なピアノレス・カルテットの力作だと思います。