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The Ray Anderson-Marty Ehrlich Quartet / Hear You Say

Label: Intuition
Rec. Date: Aug. 2009
Personnel: Ray Anderson (tb), Marty Ehrlich (cl, as, ss), Brad Jones (b), Matt Wilson (ds)
Anderson Ray_200908_Hear You Say
1. Portrait of Leroy Jenkins [Ehrlich]
2. Hot Crab Pot [Anderson]
3. My Wish [Anderson]
4. The Lion's Tanz [Ehrlich]
5. The Git Go [Ehrlich]
6. Alligatory Rhumba [Anderson]
7. Hear You Say [Ehrlich]

 前回のアンソニー・ブラクストン盤と同じようにMarty Ehrlich(マーティ・アーリック)が参加するライブ・アルバムですが、今回は「マトモ度」がグッと上がりまして、彼とトロンボーン奏者Ray Anderson(レイ・アンダーソン)とのコ・リーダー・バンドによるスイスのジャズ・フェスティバルでのステージを収録した『Hear You Say』です。
 メンバーはこのフロント二人に、ベースBrad Jones(ブラッド・ジョーンズ、『Michele Rosewoman / The In Side Out』『Dave Douglas / Keystone』で既出)、ドラムMatt Wilson(マット・ウィルソン、『追悼:Mario Pavone / Remembering Thomas』で既出)が加わるピアノレス・カルテットの編成です。

 レイ・アンダーソンが高度なテクニックに裏打ちされた優れたトロンボーン奏者であることに異論はないのですが、ともするとそのテクニックをひけらかして(ふざけて、オチャラケて)いるように聴こえるアルバムがあってどうにも鼻につきます。このあたりは『Ray Anderson, Han Bennink, Christy Doran / Cheer Up』『Don Byron / No-Vibe Zone』の記事にも書いたところですが、この人はこんなに才能があるのに損しているなぁと思ってしまうのです。そういう意味でレイ・アンダーソンを聴くときはつい及び腰になるのですが、幸いにして本作はそのあたりがほとんど気にならないアルバムであるということをまず申し上げておきたいと思います。

 このピアノレス・カルテットは、ライブということもあって、比較的緩いアレンジでテーマ部が提示された後に、二人のソロに繋がれ、或いはメンバー相互がかなり自由に絡み合いながら演奏が進んでいきます。ここでのレイ・アンダーソンは相変わらずの技巧的なプレイを披露してはいるものの、そのテクニシャンぶりが突出するというよりも、四人の生々しい反応の応酬の方がサウンドを支配しているという感じです。レイ・アンダーソンの参加アルバムにあって、こういう方向性は大歓迎です。例えば彼のオリジナル6曲目はいかにも彼がやりそうな少しユーモラスな楽曲ですが、これを自身のリーダーアルバム(しかもスタジオ録音)で演奏すれば、もっと「ひけらかし系」のサウンドになってしまったのではないかと思ってしまうくらいです。
 一方のマーティですが、1, 5曲目クラリネット、2, 4, 6, 7曲目アルト、3曲目ソプラノをそれぞれ吹いています。どの楽器も力強くも良く鳴っていて文句はないのですが、前回記事でも申し上げましたように、私は彼が吹くクラリネット(及びバスクラリネット)が大好物で、こういうモダンジャズ(と言うか何と言うか)のセットでクラリネットとトロンボーンの2フロントというのは実に新鮮に響きます。このクラとボントロという一風変わった組み合わせでこのような(モダンでコンテンポラリーな)演奏を展開したこの2曲のパフォーマンスが、ひょっとすると本作の最大の価値かもしれない・・・それくらい刺激的なクラリネット(とボントロの組み合わせ)です。
 最後にベースとドラムついてですが二人とも全く問題ありません、と言うよりも頑張っています。どちらかと言えばベースの自在なプレイ(終曲のベースがフィーチャーされるシーンはなかなか聴かせます)に惹かれますが、全編にわたってパワフルなプレイを聴かせるドラムも全く悪くありません。

 こういうレイ・アンダーソンだったら(私を含め多くのリスナーに)まずまず受け入れられるでしょうし、敢えてもう一度申し上げますとやはりマーティ・アーリックのクラリネットには痺れます。全体的にケチのつけどころのない、個性的なピアノレス・カルテットの力作だと思います。

Ray Anderson, Han Bennink, Christy Doran / Cheer Up

Label: HAT HUT Records (hat ART)
Rec. Date: Mar. 1995
Personnel: Ray Anderson (tb, tuba), Christy Doran (g), Han Bennink (ds)
Anderson Ray_199503_Cheer Up 
1. No Return [Doran]
2. My Children are the Reason Why I Need to Own My Publishing [Anderson]
3. Tabacco Cart [Anderson, Bennink, Doran]
4. Like Silver [Anderson]
5. Cheer Up [Doran]
6. Buckethead [Anderson, Bennink, Doran]
7. Melancholy Moods [Horace Silver]
8. New H. G. [Doran]
9. Hence the Reason (for G. H.) [Anderson]

 前回記事「Steven Bernstein / Tattoos and Mushrooms」に続いて、今回も少し変わったトリオ編成のアルバムです。

 メンバーはRay Anderson(1952年シカゴ産)のトロンボーン(一部チューバに持ち替え)、Christy Doran(1949年アイルランド産)のギター、Han Bennink(1942年オランダ産)のドラムの三人という、これまた他ではちょっとお目にかからない編成です。
 なお本作と全く同じメンバーで本作の1年前に録音された「Azurety(1994年録音、HAT HUT Records)」というアルバムも出ています・・・私は聴いていませんが、ご参考まで。

 Ray Andersonは並外れたテクニックの持ち主であることは間違いないのですが、彼の「斜に構えたスタンス」「真摯にフリージャズしてない」みたいなところが鼻につき、100%彼のプレイに入り込めないというのが正直なところで、このアルバムを目にした時も少々腰が引けたのですが、Christy DoranとHan Benninkとのトリオって一体どんな音が出てくるんだろうか、そう思って入手した次第です。

 意表を突く16ビートのリズムが躍動する冒頭曲でアルバムはスタートします。この曲ではRayはチューバを吹いています。
 基本的にいわゆる「フリージャズ」にカテゴライズされるサウンドでしょうが、決してゴニャゴニャしたフリージャズではなく、カラッとしていて聴き手に対してオープンなサウンドという印象を受けます。いつものようなRayのキャラクターなのでしょうが、他の二人のメンバーもいわゆるテクニシャンなので、技術的に難しいことをサラッとやってのけてしまう・・・これがカラッとドライな印象を与える要因にもなっているのではないかと思います。
 10分超の3曲目やタイトルチューンの5曲目あたりでは、三者が組んず解れつのカオスに突入し、このようなシーンでのHan Benninkはさすがに「貫禄のフリージャズ」をしていますが、他は総じて曲のストラクチャーやリズムが明快で、Han Benninkもわりと素直にリズムを刻んでいますし、それなりに「わかりやすいメロディ」も出てきたりします。例えば4曲目なんかは、これもRayのキャラなんでしょうが、チューバとギターが絡み合う、少しとぼけた擬似オールドスタイル(?)の2ビートの曲ですし、7曲目は「Further Explorations」に入っていたHorace Silver曲"Melancholy Moods"をしっとりと演奏しています。
 Ray Andersonのトロンボーン(チューバも)の上手さ、超絶技巧と言うかいわゆるバカテクぶりはこのアルバムでも健在で、いつもこの人のプレイを聴いて感心するのですが、このアルバムでは、Rayに合わせるかのようにこれでもかと技巧的なフレーズを繰り出す(或いは「茶目っ気」すら感じさせる)Christy Doranのギターとの絡み合い・コンビネーションが絶妙で、これがこのアルバムの最大の特徴になっています。Rayは気のせいかいつもよりも「本気度」がアップしているようにも聴こえます。それにChristy Doranというギタリストはこんなに面白かったっけ、という感じで、これは間違いなくRayとの組み合わせの妙によるものと思います。

 上に書きましたように、このアルバムでもRay Andersonの斜に構えたスタンスが見え隠れすることは事実ですが、Christy DoranとHan Benninkとのコンビネーションがスリリングな局面を数多く創り出しており、(超)技巧派三人だからこそ成立する一風変わったフリージャズとして印象に残るアルバムになりました。

Christophe Schweizer / Physique

Label: Omni Tone
Rec. Date: May 1999
Personnel: Christophe Schweizer (tb), Alex Sipiagin (tp, flh), Donny McCaslin (ts, ss), Eric Rasmussen (as), Ethan Iverson (p), Johannes Weidenmueller (b), Billy Hart (ds)
Schweizer Christophe_199905_Physique 
1. Atlas
2. Oscillation
3. Rain
4. Translucence
5. Pentagram

 Christophe Schweizer(クリストフ・シュヴァイツァー)は1968年スイス生まれ、ドイツ・ハンブルグをベースにするトロンボーン奏者・アレンジャーです。私は本作しか聴いていませんが、既に本作を含め6枚のリーダーアルバムを出しているようで、ライナーノーツにはMingus Big Band、Maria Schneider Jazz Orchestra、George Gruntz Concert Jazz Bandに参加、Joe Loveno、Dave Holland、Dave Douglasなどと共演との記載があります。

 「Physique」(体格のことでしょう)と題された本アルバムは、4管フロントにピアノ・ベース・ドラムのセプテット編成で、リーダーのトロンボーン、Alex Sipiaginのトランペット・フリューゲルホルン、Donny McCaslinのテナー・ソプラノに初対面Eric Rasmussen(プロフィールは調べきれませんでした。Steeple Chaseからトリスターノ集を出しているようです。)のアルト、リズムは馴染みのピアノEthan Iverson、ベースJohannes Weidenmueller(Ethan Iverson / School WorkでEthanと共演)、ベテラン・ドラムBilly Hart(Billy Hart / QuartetでEthanと共演)というメンバーです。

 上に書いたようなリーダーのビッグバンド経歴から見てまさに「いかにも」といったサウンドです。彼のペンはかなり屈折していて、神経質で複雑かつ技巧的な4管の分厚いアレンジが施され、しかもメンバーのアドリブ・ソロのバックでも、これまた綿密にアレンジされた「伴奏」がついていて、ビッグバンドの演奏をセプテットの編成に置き換えたようなサウンドです。やはりNYコンテンポラリーのサウンドとは一味違うテイストです・・・特にヨーロッパ臭が強いという風味でもないですが。さらにEthan Iversonの例によっての超個性的かつ独善的と言ってもよいようなプレイ(ソロもバッキングも)によって、サウンドがより多彩にと言うか複雑な味付けが加えられているといった感じです。
 10分前後のトラックが5曲(全てリーダーのオリジナル)収録されており、こういう長尺モノですと、セプテットの大きな編成でも、メンバー全員の持ち場がそれぞれにあって、各人のプレイをじっくりと聴くことができます。
 そういう中で、やはりAlex SipiaginとDonny McCaslinの二人は光っています。そういえば二人ともビッグバンドでの活動歴も豊富ですよね。リーダーのボントロとEric Rasmussenのアルトはソロを聴く限り、正直申し上げて「過不足なしの及第点」といったところだと思いますが、それに対してSipiaginとMcCaslinの二人には、聴き手をグッと引き寄せる鋭さがあり、格の違いを見せつけています・・・他の二人には申し訳ないようですが。

 初対面のトロンボーン奏者・アレンジャーによるサウンドは、充分魅力的かどうかはさておいても、Alex SipiaginとDonny McCaslinのクオリティの高いプレイを楽しめる場面はたっぷりありますし、しかもEthan Iverson、Johannes Weidenmueller、Billy Hartという個性的なリズムがバックを務めているのですから、このことこそが本アルバムの最大の聴きどころ或いは価値と言ってよいでしょう。

Conrad Herwig / New York Breed

Label: Double-Time Records
Rec. Date: Jan. 1996
Personnel: Conrad Herwig (tb), David Liebman (ss, ts) [except 2, 3, 8], Richie Beirach (p), Rufus Reid (b), Adam Nussbaum (ds)
Herwig Conrad_199601_New York
1. Code Mode [Herwig]
2. Search for Peace [McCoy Tyner]
3. Cousin Mary [John Coltrane]
4. For Heaven's Sake [Don Meyer, Elise Bretton, Sherman Edwards]
5. The Gatekeeper [Herwig]
6. 40 bars [Beirach]
7. Deluge [Wayne Shorter]
8. Wee Small Hours [Dave Mann]
9. New Breed [Liebman]
10. I'll Take Romance [Ben Oakland]

 Walfgang Reisinger / Refusionに続いて、早くも2度目のDavid Liebman登場です。
 リーダーのConrad Herwigは1959年オクラホマ生まれで、本作は彼の5枚目のリーダーアルバムです。David Liebmanの長年のパートナーであるRichie Beirachのピアノ、やはりLiebmanとは共演の多いAdam Nussbaumのドラム、Rufus Reidのベースというメンバーです。

 メンバーから容易に想像できるようにストレートな演奏で、リーダーやメンバーのオリジナル、ジャズメン・オリジナル、スタンダードが良い塩梅に配置された選曲です。
 リーダーアルバムを出すようなトロンボーン奏者は、おしなべて皆さん楽器が非常に「お上手」ですが、Conrad氏も御多分に漏れずテクニックは極めて確かで、しかもそれだけでなく、McCoy Tynerの"Search for Peace"やスタンダードの"Wee Small Hours"での歌心溢れるバラード吹奏も見事です。

 と、ここまで書いたことは私にとっては言わばオマケみたいなもので、このアルバムの宝は、なんといっても我らがDavid Liebmanのテナーサックスです。1、5、6曲目のソプラノも充実した演奏ですが、4、7、9、10のテナーが実に素晴らしいのです。

 少々マニアック・ネタの寄り道をします。
 1970年代半ばにキャリアをスタートしたDavid Liebmanは、当初テナーとソプラノを交互に演奏していましたが、手元の彼のリーダーアルバムを追っていきますと、1980年録音の「If They Only Knew(Timeless)」を最後に、ソプラノサックス(プラス時々フルート)に専念することになります。1989年録音の「The Blessing of the Old, Long Sound(Neuva)」と1990年録音「West-Side Story (Today)(Owl)」でチョロっとテナーを吹きますが、「If They Only Knew」から15年後の1995年録音「John Coltrane's Meditation(Arkadia Jazz)」、そして本作と同年同月の1996年1月にその名も「Return of the Tenor(Double-Time)」を録音し、本格的にテナーに復帰することになります。(彼のレコーディングを完全に把握しているわけではないので事実誤認があるかもしれませんが、ほぼ「合っている」と思います。)
 くどくど書きましたが、おそらく思うところあってテナーサックスから離れていたLiebmanが、十余年を経て、これまたおそらく万全の準備をしてテナーに復帰したちょうどその頃のアルバムがこの「New York Breed」なのです。

 スタンダードの"For Heaven's Sake"後半でのリーダーとLiebmanのソロ交換とカラミの素晴らしいこと、Shorterの"Deluge"をLiebmanのテナーで聴ける幸せ、Liebman作の"New Breed"はElvin Jonesの「Live at Lighthouse(Blue Note)」の再演でこれまた幸せ、ラスト"I'll Take Romance"は「新主流派」っぽいアレンジでここでもテナーはキレキレ・・・「素晴らしい」「幸せ」「キレキレ」・・・書いていて恥ずかしくなります。

 十余年ぶりに復活したDavid Liebmanのテナーの素晴らしさを実感できる、ファンにとっては実に嬉しいアルバムです。

プロフィール

sin-sky

Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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