Matt Brewer / Ganymede
Label: Criss Cross
Rec. Date: Sept. 2018
Personnel: Mark Shim (ts), Matt Brewer (b), Damion Reid (ds)
1. Ganymede [Brewer]
2. Don't Wake the Violent Baby [Shim]
3. RJ [Ron Carter]
4. Triton [Brewer]
5. Afro Centric [Joe Henderson]
6. Io [Brewer]
7. Eos [Ornette Coleman]
8. Psalm [Brewer]
9. Willisee [Dewey Redman]
10. When Sunny Gets Blue [Marvin Fisher, Jack Segal]
今年最初の記事は、昨年2019年に聴いた新譜の中から選んだベーシストMatt Brewer(マット・ブリュワー)のリーダーアルバム「Ganymede」(ガニメデ、「木星の第三惑星」の意)です。
リーダーのMattは1983年オクラホマ州・エドモンド出身で、ニューメキシコ州アルバカーキで育ったそうです。Criss Crossレーベルから既に三枚のリーダーアルバムを発表しており、「Ganymede」はその三作目、最新作にあたります。
リーダーアルバム以外にも、例えば手元ではピアノのJohn Escreet(ジョン・エスクリート)、Gonzalo Rubalcaba(ゴンサロ・ルバルカバ)、ラッパのAlex Sipiagin(アレックス・シピアジン)、ドラムのAntonio Sánchez(アントニオ・サンチェス)らのアルバムに参加しており、NYでのレコーディングに度々声のかかる売れっ子のベーシストと言ってよいでしょう。
本作「Ganymede」は、贔屓のサックス奏者Mark Shim(マーク・シム、1973年ジャマイカ産)のピアノレス・トリオの編成で、「Rudresh Mahanthappa / Apex」に参加していたDamion Reid(ダミオン・リード、1979年カリフォルニア産)がドラムを叩いています。なお、このblogでMark Shimを扱うのは「Michele Rosewoman / The In Side Out」、「Carlos De Rosa's Cross-Fade / Brain Dance」、「Rez Abbasi & Junction / Behind the Vibration」に続いて4回目になります。
Mark Shimのピアノレス・トリオ編成のアルバムは本作が今のところ唯一ではないかと思いますし、アルバムの中のトラック単位でも記憶の限りではなかったように思います。という訳で、届いたCDをワクワクしながらターンテーブルに載せた次第です。
サックスのピアノレス・トリオということでシンプルでストレートなサウンドではありますが、NYの一線で活躍するベースとドラムに支えられたこのトリオは、ルーズなセッション風演奏とは対極にあるカチッと隙のないサウンドを聴かせてくれます。
Mark Shimらしい(と言うかやはりジョー・ヘンダーソンの影が色濃く映る)「ダーク」なトーンのソロを、上下に激しく動いてズンズンと響くベースラインと、とにかく手数の多いドラムがスペースを埋めながら支えていく・・・これがこのトリオの基本的なやり方なのですが、その典型がタイトルチューンの冒頭曲からはっきりと表れています。
上に列記したMark Shim参加の三作で彼は、かなり作り込まれているサウンドを構成する一つの要素としての役割を担いながら、キラッと光るソロを披露していましたが、このアルバムでは、三人が対等に存在感を顕在化してトリオのサウンドを形づくっている、と言ったところでしょうか。
三人の楽器がかなりデッドに捉えられた見事な録音で、「卵か鶏」ではないですが、このサウンドにピッタリとフィットしています。スピーカー中央にずっしりと構えたリーダーのベース、スピーカーやや左よりのテナー、やや右寄りを中心に置かれたドラムという音像配置で、この録音バランスがサウンドの舌触りとバッチリ調和しています。
なおこのアルバムでは、リーダーのオリジナル(おそらく本アルバムのために作られた曲だと思います)の他に、ロン・カーターのお馴染み”RJ”やジョー・ヘンダーソン、オーネット・コールマンのオリジナルなどが取り上げられていますが、Mark Shim作の2曲目”Don’t Wake the Violent Baby”は彼のリーダーアルバム2作目「Turbulent Flow(1999年録音、Blue Note)」収録曲、Dewey Redmanオリジナルの9曲目”Willisee”は、「Dewey Redman, Ed Blackwell / Red and Black in Willisau(1980年録音、Black Saint)」(ベテラン二人によるなんとも味のあるデュオのライブです)に収録された楽曲であることを申し添えておきます。ご興味のある向きには、ぜひ併せてお聴きいただきたいと思います。
2010年代に入って録音された参加アルバムを聴くと、明らかにパワーアップしていると感じさせるMark Shimですが、本作でもキャリアのピークとさえ思えるくらいの好調(或いは「絶好調」)を維持していると言ってよいのではないでしょうか。
昨年2019年も「ずいぶん」とは言わないまでも「ソコソコ」新譜を聴いてきましたが、このblogで取り上げた「Mark Turner Meets Gary Foster」(2003年録音の2019年リリースですが)と並んで、とりわけ印象に残ったアルバムです。