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Quest (David Liebman) / Circular Dreaming

Label: Enja / P-Vine
Rec. Date: Feb. 2011 [except 10.], Dec. 2009 [10.]
Personnel: David Liebman (ss, ts), Richie Beirach (p), Ron McClure (b) [except 10.], Billy Hart (ds) [except 10.]
Liebman David_201102_Circular
1. Pinocchio [Wayne Shorter]
2. Prince of Darkness [Shorter]
3. Footprints [Shorter]
4. M.D. [Liebman]
5. Hand Jive [Tony Williams]
6. Vonetta [Shorter]
7. Nefertitti [Shorter]
8. Circular Dreaming [Beirach]
9. Paraphernalia [Shorter]
10. Footprints [Shorter]

 今年最後の記事は、80年代に結成された我らがDavid Liebman(デビッド・リーブマン)とピアノRichie Beirach(リッチー・バイラーク)の双頭(?)ユニットQuest(クエスト)が、2011年に再会し録音した『Circular Dreaming』というアルバムです。なお本作は便宜上リーブマンのリーダーアルバム、すなわちカテゴリーはsaxとして取り扱うこととします。

 クエストの第一作『Quest』(1981年録音、Trio Records)ではベースがGeorge Mraz(ジョージ・ムラツ)、ドラムがAl Foster(アル・フォスター)でしたが、その後のクエスト名義のアルバムでは本作参加のRon McClure(ロン・マクルーア)、Billy Hart(ビリー・ハート)の二人(プラス・リーブマン、バイラーク)に固定されていったようです。前回記事でもクエストについて少し触れましたが、バイラーク、マクルーアの連続登場ということになります。

 4曲目”M.D.”はリーブマン最初期のリーダーアルバム『Lookout Farm』(1973年録音、ECM)に収録されその後もしばしば演奏されたリーブマンのオリジナル、8曲目は(おそらく)このアルバムのために書かれたバイラークのオリジナル、その他はアルバムのサブタイトル”Quest plays the music of Miles’ 60s”のとおりで、いずれも60年代にマイルスのアルバムに収録された楽曲が選ばれています。なお、私の手元にあるCDはP-Vineがリリースした国内盤で、リーブマンとバイラークのデュオで演奏される10曲目(二つ目の”Footprints”)のみドイツ(ケルン)で2009年にライブ録音されたオリジナル盤未収録のトラックです。

 以上、このアルバムについての事実関係(?)を述べたところですが、さて内容は、ということになると、書くべきことがそう多くはありません。2011年のクエストも、予想どおり彼らの全盛期(?)のそれと変わらない音が出てきますし、しかも「よく知っている曲ばかり」。でもそれだけではblogになりませんので、少しばかりトラックを拾ってみましょう。

 例えば冒頭曲、アルバム『Nefertitti』に収録された”Pinocchio”でアルバムがスタートします。ミディアム・アップテンポで原曲に比較的忠実、ストレートに演奏されリーブマンのソプラノも快調なオープナーです。
 例えばリーブマン・オリジナルの4曲目、70年代の香り色濃く漂うピアノのイントロからテナー、そしてベース、ドラムが加わり、ノンビート~緩い8ビートの思索的な演奏が展開されていきます。きっとリーブマンはこの曲(”M.D.”・・・マイルス・デイビス)が大のお気に入りで、ぜひとも「マイルス集」の中に入れたかったのでしょう。力強くも味のあるテナーの咆哮に痺れるトラックです。
 続く5曲目” Hand Jive”は、前曲のテナーからムードが一変しソプラノの素晴らしさが味わえるトラックで、4~5曲目の流れ、すなわち4曲目のテナーの咆哮と5曲目のソプラノの鋭さ、この「変化の妙」は痺れます。
 例えば6曲目”Vonetta”は『Sorcerer』収録のバラード。当然ながら私たちリスナーはウェイン・ショーターのプレイが頭に浮かんでくるわけですが、ここでのリーブマンのテナーも(ショーターに負けないくらいとは申しませんが)相当に純度の高いバラード吹奏を聴かせてくれます。
 例えば9曲目”Paraphernalia”は『Miles in the Sky』に収録され、私にはどうもピンとこなかった一曲ですが、こうやって「クエスト流ゴリゴリ」に料理するとそれこそピントが合って、四人が一丸となって突っ走る力演はなかなか聴かせます。このアルバムは、リーブマンの楽器の使い分けの妙だけでなく、このような演奏の緩急(或いは寒暖)の差を際立たせる楽曲を良い塩梅に配置していると思います。

 60年代マイルス集という少々安易な企画モノではありますが、2011年のクエストは(いやリーブマンは、と言うべきでしょうか)、輝きを失っていないことが伝わってくるアルバムで、難しいことを考えずにリーブマン~クエストによるマイルス・サウンドに身を任せればそれでいいのでしょう。

 最後に大雪の舞う広島市内から、恒例の年末ご挨拶です。
 『同時代のジャズ』の数少ない読者の方々へ・・・
 どうぞ良いお年をお迎えくださいませ。

Ron McClure / Inspiration

Label: Ken Music
Rec. Date: April 1991
Personnel: Richie Beirach (p), Ron McClure (b), Adam Nussbaum (ds)
McClure Ron_199104_Inspiration
1. Inspiration [McClure]
2. On Green Dolphin Street [Bronislaw Kaper, Ned Washington]
3. Last Rhapsody [Beirach]
4. Dream Tigers [Beirach]
5. Goodbye [Gordon Jenkins]
6. Night and Day [Cole Porter]
7. Fairy Tale Visions [McClure]
8. What are the Rules? [Beirach]
9. Flamenco Sketches [Miles Davis]
10. Footprints [Wayne Shorter]

 Ron McClure(ロン・マクルーア)のベースに、Richie Beirach(リッチー・バイラーク)のピアノとAdam Nussbaum(アダム・ナッスバウム)のドラムが加わるピアノトリオで、ベーシスト・マクルーアのリーダー名義の『Inspiration』というアルバムです。

 実はこの記事の最下段に掲げた二枚のアルバムと一緒に『ベース・ドラムがリーダーのピアノトリオ』という三題噺に最初はしようかなと思ったのですが、特に下記二枚はさんざん話題になったアルバムなのでこれは止めにして、今回は小細工なしにマクルーア盤を単独で取り上げることにしました・・・どーでもよい話ですが。

 話を『Inspiration』に戻します。
 リッチー・バイラークはもちろんのことロン・マクルーア、アダム・ナッスバウムともに我らがDavid Liebman(デビッド・リーブマン)とはしばしば共演してきた私にとってはお馴染みの面々ですが、この三人によるピアノトリオは本作のみと思われます。
 演奏される楽曲は、バイラークとマクルーアのオリジナルの他に、よく知られたスタンダード・ナンバーやジャズメン・オリジナルが選ばれています。

 このように馴染みの三人によるピアノトリオですので、出てくる音は全くの予想どおり、すなわちバイラークの他のアルバムと同じように、硬質な現代ピアノトリオといった感じのサウンドです。この人(バイラーク)は70年代からずっと「ゴリゴリ」を引き継いで(或いは引きずって?)いますね。ただし本アルバムのポイントは、やはりリーダーのマクルーアのプレイでしょう。
 例えばマクルーア・オリジナルの冒頭曲、ほとんどリーブマンのユニットQuest(クエスト、マクルーアも参加)の(ゴリゴリの)世界ですが、さすがに自身のリーダアルバムだけあって、中央部に置かれたベースが細かいパッセージを繰り出して存在感を示すとともに、高い緊張感を演出しています。
 例えば2曲目のグリーン・ドルフィン、バイラークやリーブマンのアルバムでしばしば用いられたアレンジを踏襲した演奏で、ここでも後半にマクルーアの品の良いソロがフィーチャーされます。
 続く3曲目はいかにもバイラークらしいオリジナル・・・あの”Elm”の世界です。ここでのマクルーアの懇ろなソロも見事で、このように曲を追っていくうちにリスナーの耳がどんどんベースに引き寄せられていくという感じでアルバムが進んでいきます。
 ラス前マイルスの” Flamenco Sketches”では大きくベースをフィーチャーしながらのしっとりとした演奏、ラストのショーター” Footprints”ではバイラークがゴリゴリと畳みかけるバックでベースとドラムが力強くサポートする力演でアルバムを閉じます。

 目新しさはあまりないものの、平均点を間違いなく上回るクオリティのピアノトリオで、この三人であればこれくらいの出来はある意味当然でしょうが、アルバム全体を通して光るマクルーアのプレイのおかげで、バイラーク(やリーブマン)の他のアルバムとは少し別の匂いもするトリオになったと思います。


『Tom Cohen Trio』(1995, 96年録音、Cadence Jazz)
Ron Thomas (p), Mike Richmond or Bill Zinno (b), Tom Cohen (ds)
Cohen Tom_199502_Trio

『Victor Jones C.A.F.E. Trio / Live at Bradley's in New York City』(1996年録音、Satellites)
David Kikoski (p), Essiet Essiet (b), Victor Jones (ds)
Jones Victor_199605_Bradley

Jack DeJohnette / In Movement

Label: ECM Records
Rec. Date: Oct. 2015
Personnel: Ravi Coltrane (ts, ss, sopranino sax), Matthew Garrison (b, electronics), Jack DeJohnette (ds, p, electronic percussion)
DeJohnette Jack_201510_Movement
1. Alabama [John Coltrane]
2. In Movement [DeJohnette, Ravi, Garrison]
3. Two Jimmys [DeJohnette, Ravi, Garrison]
4. Blue in Green [Miles Davis, Bill Evans]
5. Serpentine Fire [Maurice White, Verdine White, Reginald Burke]
6. Lydia [DeJohnette]
7. Rashied [DeJohnette, Ravi]
8. Soulful Ballad [DeJohnette]

 前回記事のSteve Swallow(スティーブ・スワロウ)に続いて今回もベテラン・ミュージシャンで、ドラマーのJack DeJohnette(ジャック・ディジョネット)が2015年、73歳の時に録音したアルバムです。

 (言うまでもなく)ジョン・コルトレーンを父に持つRavi Coltrane(ラビ・コルトレーン)のサックスと、コルトレーン・カルテットのベーシストJimmy Garrison(ジミー・ギャリソン)の息子Matthew Garrison(マシュー・ギャリソン、『Wolfgang Reisinger / Refusion』で既出)のベースとの三人編成で、マシューの名付け親(だそうです)ディジョネットは「二人が子供のころからよく知っていて、自分の息子のような存在だ」というような趣旨のコメントを寄せています。
 余談ですが、本アルバムの二十年以上前に、やはり「父親繋がり」でコルトレーン晩年のドラマーRashied Ali(ラシード・アリ)の『No One in Particular』(1992年録音、Survival Records)というアルバムでこの二人(ラビとマシュー)は共演しています。ご参考まで。

 コルトレーンの1曲目、マイルスの4曲目、なんとアース・ウィンド・アンド・ファイアーの70年代ヒット曲の5曲目(邦題”太陽の戦士”、アルバム『太陽神』収録、トホホ)、その他はメンバーのオリジナルというラインアップです。

 ジョン・コルトレーンの愛すべきメロディを三人が噛み締めるようにしんみりと演奏される”Alabama”からアルバムがスタートします。ここでのラビのテナーを聴いて父親のプレイを思い出すなというのは(曲が曲だけに)無理な注文というものでしょう。ディジョネットのドラムだって、やっぱりエルビンがちらついてしまいます。もちろん二人ともジョン・コルトレーンやエルビンからは独立した個性の持ち主ですが。
 この”Alabama”は本アルバムの中では比較的「素直な」サックスフロントのピアノレストリオという感じですが、2曲目以降は、いつものディジョネットのアルバムのようにストレートで「普通な」音はなかなか出てきません。
 続く2曲目、3曲目は、ディジョネットとマシューが淡々と刻むリズムをベースに、ラビのソプラノ(2曲目)、テナー(3曲目)が「宙を舞う」という展開です。ディジョネットやマシューが操る様々な電子音も効果的に響き、あのマイルスの『In a Silent Way』をより抽象化したような何ともシュールな雰囲気です。
 4曲目”Blue in Green”はディジョネットのピアノとラビのソプラノのデュオで、原曲に束縛されない自由な演奏です。その原曲からの「離れ具合」がピリッと張り詰めた緊張感を生んでいると言ったらよいのでしょうか。
 アース・ウィンド・アンド・ファイアーの5曲目とそれに続く6曲目は、ゆったりとした8ビートに乗って、ラビのソプラノが力強くそして美しく響きます。なんでアースの曲を取り上げたのかわかりませんが、「原曲なんて全く関係なし」と言わんばかりで、前後の楽曲の流れの中でも全く違和感がないディジョネットのサウンドになっています。付け足しのようですが、ディジョネット・オリジナルの6曲目は美メロの佳曲で、この人は時々びっくりするくらい良い曲を書きます。
 7曲目はディジョネットがパルスを出し続け、それにRaviのソプラノ(これはソプラニーノかな?)が絡む激しいデュオで、まるでジョン・コルトレーン不動のカルテット後半期でのジョンとエルビンとの殴り合いのようなインタープレイをディジョネット流に再現したかのような演奏です。
 ラストの8曲目はディジョネットの懇ろなピアノのイントロから、ラビの今度は優しいソプラノが美しく響くまさに「ソウルフルなバラード」で、しっとりとアルバムを閉じます。この曲だけでなく、このアルバムでのラビのソプラノは、より力強く、より美しい表現力を手に入れたと思わせるような好演揃いです・・・テナーだって決して悪くはありませんが。

 曲ごとにダラダラと書いてしまいましたが、アルバム全体を通じて、ピリッと張り詰めた緊張感が持続する中で、多重録音も取り入れながらのサウンドづくりと極めて高いレベルでの三人のインタープレイが違和感なく調和しています。これはまさにディジョネットの手腕ということなのでしょう。


『Rashied Ali / No One in Patticuler』(1992年録音、Survival Records)
Ali Rashied_199206_Perticular
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sin-sky

Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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