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Massimo Manzi Project / Identita'

Label: Wide Sound Jazz Production
Rec. Date: Sept. 2006
Personnel: David Liebman (ts, ss, fl, p) [except on 6], Paolino Della Porta (b) [except on 4, 9], Massimo Manzi (ds), Andrea Dulbecco (vib) [2, 6, 7, 10]
Manzi Massimo_200609_Identita
1. Bemsha Swing [Thelonious Monk]
2. Nightbreath [Della Porta]
3. All the Things That… [Liebman]
4. David and Massimo Say… [Liebman, Manzi]
5. Canguri Urbani [Della Porta]
6. You Don't Know What Love is [Gene de Paul, Don Raye]
7. Grape or Orange [Liebman]
8. Doppia Sequenza [Della Porta]
9 Last Warning [Liebman, Manzi]
10. Nardis [Miles Davis]

 今回も懲りずにDavid Liebman(デビッド・リーブマン)の欧州「単身赴任」アルバムから、再びイタリアに戻って当地のミュージシャンと共演した『Identita'』というアルバムを取り上げたいと思います。
 リーダーのドラマーMassimo Manzi(マッシモ・マンジ)とベースPaolino Della Porta(パオリーノ・デラ・ポルタ)とのピアノレス・トリオを基本に、4曲にバイブのAndrea Dulbecco(アンドレア・ダルベッコ)が加わる編成で、演奏される楽曲はメンバーのオリジナルに混ざって、モンクの”Bemsha Swing”、スタンダードの”You Don’t Know What Love is”、マイルスの”Nardis”が選ばれています。

 まず鬱陶しいところから。
 ラスト10曲目の”Nardis”は、前回と同じくよせばいいのに(?)リーブマンがピアノを弾くバイブ、ベース、ドラムとのカルテットの演奏で、言うまでもなくこれは無くてもよかったでしょう。さらに6曲目のスタンダードはリーブマンはお休みでバイブ、ベース、ドラムのトリオによる演奏(ただしこれは全く悪くありません)ですので、6, 10曲目以外の8曲を対象に進めたいと思います。

 このベース、ドラム、バイブの三人は初対面でしたが、なかなかに好感の持てるプレイを披露してくれます。このリズムセクションは、同じイタリアンの前々回Quarteのサウンドよりもガッツがある、と言うか、特にベース・ドラムとリーブマンとの自発性に富んだ絡みは刺激的です。まずこのことを申し上げておきたいと思います。

 オープナーのモンクの”Bemsha Swing”は、リーブマンがテナーを吹き、ベース、ドラムとのトリオでど真ん中直球勝負の快演を披露します。曲が進むにつれて切れ味がどんどん鋭くなっていくリーブマンのテナー、そしてバックの二人もハードにブロウするリーブマンにしっかり「ついていっている」という感じでやり合っています。ドラムはスペースを活かしつつ気の利いたプレイですし、ベースはなかなかのテクニシャンぶり・・・上に書いたとおりです。
 2曲目は、ベーシストのオリジナルをバイブが加わるカルテット編成で演奏しています。木製フルートを使ったイントロから、ゆったりとした6拍子のリズムがオンになってソプラノによるマイナー美メロのテーマの後に、バイブのメロディアスなソロ(これはなかなか良い感じです)、ソプラノの心を尽くしたソロと続き、ベースとドラムもソロイストに丁寧に寄り添っているのが伝わってくるプレイです。
 3曲目は、リーブマンがしばしば取り上げるスタンダード”All the Things You are”のコード進行を借りた自身のオリジナルです。意識的に力を抑えて静かに絞り出すようなソプラノのソロが印象的ですし、リーブマンに丁寧に呼応、反応するドラムにも悪くありません。ここまでの3曲の流れはアルバムの印象を決定づける好演の連続で、間違いなく本作のハイライトでしょう。

 というわけで最初の3曲で充分「元は取った」感が得られるのですが、その他のトラックについても少々。
 4, 9曲目は、リーブマンのテナーとリーダーのドラムとのフリー・インプロ。ドラムが頑張っていることもあり、アルバムの中にこういうトラックがあってもそれほど違和感はありません。
 5曲目は、アップテンポに乗って細かい技巧的なパッセージの応酬となるトリオでリーブマンはソプラノ。三人の技量の品評会といった感じの演奏で、特にベースのテクニシャンぶりが際立ちます。
 7曲目は、コルトレーンの”ジャイアント・ステップス”のように目まぐるしくコードチェンジするアップテンポのリーブマン・オリジナル、8曲目はノンビートでテナーとベースが絡み合うベーシストのオリジナル。前者ではドラムが、後者ではベースが頑張っています。

 リーブマンの参加アルバムを追っていると、時々こういう当たり盤(全トラックではありませんが)にぶつかります。イタリアのミュージシャン達は期待以上のパフォーマンスですし、とりわけ最初の3曲は、聴き手を一気に引きずり込んでしまうようなパワーがあります。

Andreas Schmidt / In Berlin

Label: Jazz Haus Musik
Rec. Date: June 2003
Personnel: David Liebman (ss, ts, fl, p), Andreas Schmidt (p) [except on 6, 7, 10], Slike Eberhard (bcl) [2, 4, 7], Peter Weniger (ts) [9], Volker Kottenhahn (p) [6], Andreas Willers (g) [5, 8], Andreas Henze (b) [3], Dirk Strakhof (b) [6], Kay Lubke (ds, per) [2, 4], Kai Bussenius (ds) [3], Sebastian Schmidt (ds, per) [5, 8], Johannes Bockholt (ds, per) [6]
Schmidt Andreas_200306_Berlin
1. All the Thinx Witches are [Schmidt]
2. Omerta [Richie Beirack]
3. Pages [Schmidt]
4. Et Chupanebre [Eberhard]
5. Guided Dream [Liebman]
6. Aguas Azules [Kottenhahn]
7. Missing Persons [Liebman]
8. The Code's Secret Code [Liebman]
9. Gentle Warrior [Liebman]

 前回に引き続いてDavid Liebman(デビッド・リーブマン)「単身赴任」アルバムから、今度はリーブマンがドイツに渡って(一人ひとり調べたわけではありませんがおそらく全員)当地のミュージシャン達と共演したライブ盤『In Berlin』を取り上げます。
 演奏される楽曲はメンバーのオリジナルの他に、リッチー・バイラークの2曲目”Omerta”、そしてリーブマンのオリジナルが4曲選ばれています。

 リーダーのピアニストAndreas Schmidt(アンドレアス・シュミット?)を筆頭に知っている名前は誰一人なく、しかもなんとも情けないこのジャケットですので、普通だったら(そしてリーブマンの名前がなければ)手が出ないアルバムでしょう。ところがどっこい、これがなかなか良いのです・・・なんてことを本当は書きたいところなのですが、そう簡単にはいきません。

 まずはその「簡単にはいかない」ところから。
 全体的に、(欧州)フリージャズの香りが色濃く漂うサウンドで、ワクワク感が希薄というか、それほどスリリングな展開にはなりません。また曲によって入れ替わるドラマーがいずれも力量不足に感じられるのも残念なところです。
 例えば4, 7曲目はどちらもオール・インプロのトラックで、フリージャズに全く抵抗のない私の耳でも聴きどころが掴めない演奏で困ったものです。
 さらにラスト9曲目(『Flashpoint』でやっています)は、リーブマンのピアノとPeter Wenigerというテナーとのデュオで、以前どこかの記事にも書きましたが「リーブマンさん、あんたにピアノを弾いてくれと頼んだ覚えはないんだけど」ということです。

 このように「ちょっとなぁ」というところがある反面、以下に述べますようになかなか聴かせるトラックがあって、これらがどうにも捨てがたく、「陽の当たらない」を絵に描いたようなこのアルバムを敢えて取り上げた次第です。
 例えば冒頭曲、タイトルからわかるようにスタンダード”All the Things You are”のコード進行を借りて、ゴニョゴニョとソプラノとリーダーのピアノが絡み合うデュオです。出だしはどうなることかと思ったのですが、進むにつれて徐々に演奏は深化し、温度が上昇していき耳を惹きます。断片的にピアノに切り込んでくるソプラノは深みと鋭さを感じさせ、さすがのプレイです。
 例えば3曲目、80年代にリーブマンとバイラークが結成した”クエスト”をそのまま持ってきたようなゴリゴリのサウンドです。2曲目でもバイラークを取り上げていますがリーダーはこのあたりが好きなのでしょう。頑張っているのはわかるものの少々ヘタれ気味のドラムをものともせずにリーブマンのテナーがブチ切れます。こんなトラックが続けば間違いなく強く印象に残るアルバムになっただろうと思うのですが、ともかくこの曲がベストトラックでしょう。
 例えば6曲目、バイラークの”エルム”にちょっと似ているバラードで、これまた80年代クエストの世界です。この曲も出だしはどうなることかと思うくらいゴニャゴニャと始まりましたが、徐々にリーブマンのソプラノがパワーアップしてバンドが熱くなってくる、これも印象に残るトラックです。
 いずれもリーブマン・オリジナルの5, 8曲目は基本フリージャズなのですが、曲が進むにつれ全体像が具体化していき、本領を発揮し始めるリーブマンのソプラノを取り出せば全く悪くはありません。

 このように無条件でお勧めということにはなりませんが、ところどころでリーブマンのキラッと光るプレイを聴くことができるのは確かで、中古屋のエサ箱に500円くらいで叩き売られているのを見かけましたら手に取ってみてはいかがでしょうか・・・と申し上げても叱られないくらいの価値はあると思います。

Quarte / Ringin’ Bells

Label: Via Veneto Jazz
Released in 2003
Personnel: David Liebman (ss, fl), Alessandro Galati (p), Ares Tavolazzi (b), Alessandro Fabbri (ds)
Quarte_200299_Ringin Bells
1. Dreszda [Galati]
2. Neptune [Fabbri]
3. Magoo [Fabbri]
4. Amaxonia [Galati]
5. My Own Blues [Galati]
6. Ringin' Bells [Fabbri]
7. Bye Bye Blackbird [Mort Dixon, Ray Henderson]

 前回記事に引き続いてDavid Liebman(デビッド・リーブマン)がサイドマンとして参加したアルバム、そして今まで幾度か取り上げてきた彼が単身渡欧して当地のミュージシャンと共演した数ある「単身赴任」アルバムからのチョイスです。

 Quarteと名付けられたリーブマンを含むカルテットがイタリアで録音したアルバムで、当然ながら他の三人はイタリアのミュージシャン、ピアノのAlessandro Galati(アレッサンドロ・ガラティ)はこのところ吉祥寺方面のご老人とつるんで商売をしているようですが、私は三人とも馴染みがありません。
 演奏される楽曲はピアニストとドラマーのオリジナルが3曲ずつ、そしてラスト7曲目のみライブ録音でスタンダード・ナンバーが選ばれています。

 いかにもヨーロッパのエバンス系ピアニストがやりそうなお上品で嫌味はないけれど刺激的(或いは個性的)でもない・・・別に貶しているわけではありませんが、私にとって充分に魅力的とまでは言えないこのカルテット、というかピアノトリオのサウンドにあって、本作をここに取り上げた最大にして唯一の理由はリーブマンのソプラノの素晴らしさです。
 6曲目のイントロ部分で木製フルートを少し使う他は全曲ソプラノを吹いており、ミディアム・テンポの1, 2曲目、バラード系の4, 6曲目では腹八分目くらいの力の入れ具合で彼のソプラノの「深み」がしみじみと伝わってくる演奏、一方テンポが少々上がる3, 5曲目では気合の入ったブチ切れのブロウ、といった具合でダイナミック・レンジの広い、表現豊かなソプラノのプレイを全編にわたって味わうことができる、これが上に書いた本作を取り上げた理由です。
 さらに最初の6つのトラックはかなりデッドな録音で、マイクを通さずに間近で聴いているような臨場感もあり、このこともリーブマンのソプラノの魅力をさらに押し上げているように思えます。
 一方、ライブ録音の7曲目は18分を超える”Bye Bye Blackbird”ですが、おそらくアンコールとして演奏されたものと思われ、ここまでのスタジオ・トラックでの緊張感が一気に緩んだかのような演奏で冗長に響いてしまいます。CD制作にあたって様々な事情や思惑があったのでしょうが、このトラックは無くてもよかったかなと思います。

 という訳で手放しにお勧めということにはなりませんが、オーソドックスな(そしてまずまず無難な)現代ハードバップのリズム陣をバックにしたリーブマンのソプラノがどこまでも深く、力強く、美しいことに間違いはありません。
プロフィール

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Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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