fc2ブログ

Billy Martin / For No One in Particular

Label: Amulet Records
Rec. Date; May 2003
Personnel: Billy Martin (ds, per), Grant Calvin Weston (ds, per, tp), DJ Logic (turntables)
Martin Billy_200305_Particular
1. Far Away
2. Landing
3. Rice Glue
4. Hungry Ghosts
5. Ylang Ylang
6. Flashing Sword
7. Xyloids
8. Heart Blood
9. Co-op City
10. Starlight
11. Hustling Raindrops
12. Starry Night
[composed spontaneously by Bill Martin, Grant Calvin Weston, Jason Kilber]

 『同時代のジャズ』の通常運転に戻ります。
 今回取り上げるのは、メデスキ・マーティン・ウッド(MMW)のBilly Martyn(ビリー・マーティン)と、オーネット・コールマン(プライム・タイム)やジェームス・ブラッド・ウルマーらと共演歴のあるGrant Calvin Weston(グラント・カルビン・ウェストン)の二人のドラマー(後者はトランペットも吹いています)に、ターンテーブルを操るDJ Logic(本名?Jason Kilber)が加わる三人による『For No One in Particular』というアルバムです。
 二人のドラムにDJという組み合わせのアルバムですので善良なリスナーであれば普通は手が出ないところですが、モノ好きの私は「怖いもの見たさ」で入手してみました。

 2003年5月NYのTonicでのライブで、Tonicはwiki(安易ですね)によりますと『ニューヨークのノーフォーク・ストリート107番地にあった音楽施設。1998年春にオープンし、2007年4月に閉館したが、「前衛的、創造的、実験的な音楽」をサポートすることを謳っており、音楽的な誠実さへのコミットメントで知られている。』とあり、この三人組のライブは正にこのようなTonicのコンセプトに合致する音が出てきます。

 こういう編成ですので当然ですが、スピーカーの左右から様々なパーカッション、ドラム、そして電子音(電気仕掛けの効果音?)が飛び出してくる賑やかなセッショです。
 ライブでありながら、各楽器の(音像の)配置がきちんとデザインされていて(録音も比較的良好)、こういうアルバムは可能な限り大きな音量で楽しみたいものです。DJ Logicによるものと思われますが、スピーカー中央からは不気味な語りや雄叫びなんかも聴こえてきて、全体に不穏でシュールな雰囲気が支配しています。ただし二人のドラマーが叩き出すテクニカルなショットがタイトに決まっていて、不穏でシュールな雰囲気ながらダラダラと流れない引き締まったセッションが実現しています。
 トラックリストには12曲のタイトルが並んでいますが、1~6曲目までは曲の切れ目なく演奏され、短いMCを挟んで再び7曲目からラス前の11曲目までも間断なく進んでいきます。そしてメンバー紹介などのMCの後に、当夜のアンコールと思われる終曲がこれまた賑やかにそして目一杯パワフルに演奏されてステージを閉じます。

 一時間弱のCD収録時間はやや持て余すとしても、モロ実験音楽というような独りよがりなところがなく、様々な楽器(と言うか「音」)を駆使して、聴衆を楽しませようとする熱意や工夫が伝わってきて、聴かせるサウンドとしてちゃんと成立していると私は思います。恐る恐る入手したアルバムが正解だったというのは気持ちが良いものです。

音盤クロノロジー 1959: Lee Konitz Meets Jimmy Giuffre

Label: Verve
Rec. Date; May 1959
Personnel: Lee Konitz (as), Hal McKusik (as), Warne Marsh (ts), Ted Brown (ts). Jimmy Giuffre (bs, arr), Bill Evans (p), Buddy Clark (b), Ronnie Free (ds)
Konitz Lee_195905_Meets Giuffre
1. Palo Alto [Konitz]
2. Darn That Dream [Eddie DeLange, Jimmy Van Heusen]
3. When Your Lover Has Gone [Einar Aaron Swan]
4. Cork'n Bib [Konitz]
5. Somp'm Outa' Nothin' [Giuffre]
6. Someone to Watch Over Me [Ira Gershwin, George Gershwin]
7. Uncharted [Giuffre]
8. Moonlight in Vermont [John Blackburn, Karl Suessdorf]
9. The Song is You [Oscar Hammernstein II, Jerome Kern]

 音盤クロノロジーの第二弾1959(昭和34)年は、リー・コニッツがジミー・ジュフリーのアレンジによるアンサンブルをバックに演奏したアルバム『Lee Konitz Meets Jimmy Giuffre』です。
 バーブ・レコードはこの年にジミー・ジュフリーがアレンジを提供したアルバムをこのコニッツ盤を含め五枚リリースしています。

① Sonny Stitt Plays Jimmy Giuffre Arrangements
② Herb Ellis Meets Jimmy Giuffre
③ Anita O'Day Sings Jimmy Giuffre Arrangements - Cool Heat
④ 本作
⑤ Lee Konitz / You and Lee

 残念ながら②ハーブ・エリス盤と③アニタ・オデイ盤は聴いていませんが、①と⑤はブラスとリズム・セクションからなるラージ・アンサンブル、一方本作は五本のサックスとリズム・セクションからなる八人編成のアンサンブルによるアルバムです。その五本のサックス・セクションにはコニッツとジュフリーの他にハル・マクシック、ウォーン・マーシュ、テッド・ブラウンというその筋の好き者には嬉しい面々が参加、さらにピアノを弾いているのはビル・エバンスということでなかなかに豪華なメンバーです。

 手元の国内盤CD に添付されている岡崎正通氏の解説を引用しますと『クールなトーンをもつアルト・サックス奏者、リー・コニッツのバックを、ビロードのようにソフトで暖かなサックスのアンサンブル・ハーモニーが美しく彩ってゆく。その精緻を極めたアンサンブル・サウンドの中から、個性的なコニッツのプレイがくっきりと浮かび上がってくる。そんなジャズ演奏の楽しさとサックスの響きの美しさをいっぱいに味わうことができるのが、この「リー・コニッツ・ミーツ・ジミー・ジュフリー」である。』・・・さすがプロですね。このアルバムの内容、魅力を短い文章で簡潔に言い尽くしています。
 この岡崎氏の文章に付け加えることはあまりないのですが、いくつかのトラックを拾って私なりの聴きどころを述べたいと思います。

 初出はコニッツ初期の代表作『Subconscious-Lee』(1949, 50年録音、Prestige)、その後も本人だけでなく多くの(トリスターノ派にシンパシーを抱く)ミュージシャンが好んで取り上げる”Palo Alto”(例えばこのblogで扱ったアルバムでは『Lee Konitz / Parallels』『The International Hashva Orchestra』で取り上げています)でアルバムがスタートします。サックス・セクションのハーモニーとアルトとピアノのユニゾンによる個性的なテーマ提示からコニッツのソロへと繋がれる「他では聴いたことがない」ような”Palo Alto”です。
 3曲目はスタンダードの”When Your Lover Has Gone”で、スマートなアレンジに乗って左チャンネルのコニッツと右チャンネルのウォーン・マーシュとの絡み、続いて二人のソロがフィーチャーされ好き者を喜ばせてくれます。
 4曲目はコニッツ・オリジナルのブルーズで、五人のサックス奏者全員のソロがコニッツ~ウォーン・マーシュ~ジュフリー~マクシック~テッド・ブラウンの順に繋がれ、曲の半ばでは五人が絡み合いながらのコレクティブ・インプロが展開されます。ジュフリーのアレンジはこれでもかと工夫が凝らされていて聴かせるのですが、五人のサックス奏者の腕前と個性の(微妙な)違いを味わうのにも最適なトラックです。
 ラスト9曲目のスタンダード”The Song is You”は、軽快なサックス・アンサンブルを挟んでコニッツ、ウォーン・マーシュがソロを繋ぎ、聴き手を満足させてくれたところでアルバムはエンディングとなります。

 ジミー・ジュフリーがブラス・アンサンブルを巧みに扱った上記①や⑤も全く悪くはない(特に⑤)のですが、ここでのサックス・アンサンブルは粒ぞろいのメンバーということもあり、ジュフリーのアレンジャーとしての手腕が充分に発揮されピリッと張り詰めた空気が漂っています。そして、全体にわたって大きくフィーチャーされるコニッツのアルトは「クールな尖り具合」と「寛ぎ」がうまい具合に調和していて、どのトラックでも洗練されたサックス・アンサンブルとの相性の良さが際立っており、やや「緩く」なってきた50年代後半のコニッツのベスト・プレイ(の一つ)に挙げられるのではないかと思います。

①『Sonny Stitt Plays Jimmy Giuffre Arrangements』
Sonny Stitt

②『 Herb Ellis Meets Jimmy Giuffre』
Herb Ellis

③『Anita O'Day Sings Jimmy Giuffre Arrangements - Cool Heat』
Anita ODay

⑤『Lee Konitz / You and Lee』
You and Lee

音盤クロノロジー 1958: Hank Mobley, Lee Morgan / Peckin’ Time

 2016年の夏にこのblogを初めて七年と八か月、記事更新はようやく三百回に辿り着いたところでそろそろ煮詰まってきた今日この頃です。
 そもそもこのblogでの『同時代のジャズ』とは「私が新譜をリアルタイムで(すなわち新譜としてリリースされて間もない時期、具体的には新譜を熱心に聴き始めた80年代後半以降に)聴いたジャズのアルバム」のことであり、いくつかの例外を除いてそういうアルバム、しかもあまり陽の当たらないと思われるようなアルバムを選んで取り上げてきました。と言うのも、どこかの素性の知れないジジイがジャズの定番、何でもいいのですが例えばマイルスのカインド・オブ・ブルーなんかの感想を書いてみたところで全くお呼びでないですし、そういう定番アルバムに対する「感想文」はそれこそ巷に溢れていますので、リアルタイムで新譜を聴いたリスナーの立場から、あまり話題に上らないような『同時代のジャズ』アルバムを紹介、レビューすることに少しは意味があるのではないかという思いでこのblogを続けてきたわけです。
 一方で、最近は十年前くらいまでのようにそれほど熱心に新譜を聴いていませんので、万策尽きたという処までは行っていないとしても上に書いたようにかなり煮詰まってきておりますし、飛び切りの「とっておき」だった前々回前回のGordon Grdina(ゴードン・グルディナ)を取り上げたあたりでひと段落ついたという感じもします。それに七年以上同じ趣旨で続けてきましたので少々飽きてきたということもあります。
 そこでこのblog当初の趣旨はひとまず置いておいて、今回からは少し古い年代のアルバムも取り上げていきたいと思います。ただしランダムに古いアルバムのことを書いていくのも芸がないので、アルバムの録音年を私の生まれた1958(昭和33)年からスタートして各年一枚、それを一年ずつ新しくしていく・・・どこまで続くかわかりませんが今のところ1980年あたりのゴールを目指して、私の人生(の前半)と重ねたジャズ史の一断面を辿っていこうという企みです。そして今までの「通常運転」の記事と区別するために、新たに「音盤クロノロジー」(chronology、年表)というカテゴリーを作ることとしました。ひとまず、この「音盤クロノロジー」に通常の記事を挟みながらもうしばらくこのblogを続けていこうと思います。


Label: Blue Note
Rec. Date: Feb. 1958
Personnel: Lee Morgan (tp), Hank Mobley (ts), Wynton Kelly (p), Paul Chambers (b), Charlie Persip (ds)
Mobley Hank_195802_Peckin Time
1. High and Flighty [Mobley]
2. Speak Low [Kurt Weill, Ogden Nash]
3. Peckin’ Time [Mobley]
4. Stretchin’ Out [Mobley]
5. Git-Go Blues [Mobley]

 1958(昭和33)年の出来事をランダムにピックアップしてみますと、関門トンネル開通(3月)、売春禁止法施行(4月)、東京タワー竣工(10月)、新一万円札(聖徳太子像)発行(12月)・・・意味のない列記ですがそれはさておき、この新カテゴリー「音盤クロノロジー」の第一弾1958年は、ベタなハードバップのアルバムからスタートしたいと思います。
 ジャケットにはハンク・モブレーとリー・モーガンの二人の名前が併記されていますが、一般にはモブレーのリーダーアルバムとして知られる『Peckin’ Time』です。録音されたのは1958年2月9日、ハードバップ全盛の当時、それこそ毎晩のようにNYのどこかのスタジオで録音されていた星の数ほどあるアルバムのうちの一枚です。もちろん数多あるハードバップのアルバムの中では間違いなく平均点を超える出来とは思いますが、おそらく多くのジャズファンがこういうのをハードバップって言うんだよね、というそのものの音が出てきます。敢えて申し上げるとするならば、ドラムが(ブレイキーでもなければ、アート・テイラー、フィリー・ジョーでもなく、リー・モーガンとの共演も多い)チャーリー・パーシップであることによって、サウンドが幾分か「マイルド」になっている(ように聴こえる)・・・くらいでしょうか。

 ということで話が終わってしまいそうですが、私が本記事で申し上げたいことは、リー・モーガンのキャリア初期の動向と本作における彼のプレイについてです。
 リー・モーガンの初レコーディングは名門Blue Noteへの初リーダー作『Indeed!』(1956年11月録音)であることはよく知られているところですが、これもよく言われているように弱冠十八歳の初録音にして、彼の個性はほぼ確立していました。
 ここで『ジャズ批評No. 87「特集リー・モーガン大全集」(1996年4月)』に掲載された松村正哉氏(リー・モーガンに関する力作ウェブ・サイト「Most Like Lee」を主宰、ただし現在は公開されていないようです)の文章を引用します。

 「さて、それではリー・モーガンの全盛期はどこだろう。リー・モーガンのアルバムを録音日順に聴いてみて、まず驚くのはデビュー時点でそのスタイルがほとんど完成されている、という点だ。そんななかから個人的にあえて選ぶとすれば、最も冴えているのは『キャンディ』『ペッキン・タイム』『サーモン/ジミー・スミス』『ハウス・パーティ/同前』『マイナー・ムーヴ/ティナ・ブルックス』と続くあたり、録音でいうと1958年2月~3月か。」

 少々補足しますと、『キャンディ』には1957年11月録音のトラックが、ジミー・スミスの2枚には1957年8月録音のトラックがそれぞれ収録されていますが、松村氏がリー・モーガン全盛期としているのはいずれも1958年2月に録音されこれらのアルバムに収録されたトラック(前者では”Candy”, “C.T.A.”, “All the Way”, “Who Do You Love, I Hope”、後者ではAu Privave”, “Flamingo”, The Sermon”とCD追加トラックの“Confirmation”)をいいます。
 私もこの松岡氏のご意見に同感で、なるほどデビュー作『Indeed!』に続く彼の最初期のアルバムから『Peckin’ Time』あたりまでを注意深く聴いてみると、彼なりの成長というか成熟が進んでいくプロセスを感じ取ることができます。具体的には、最初期のアルバムに聴かれたゴツゴツと角張った(?)フレージングが徐々に滑らかに洗練されていき、或いは勢いに任せた「ハッタリ」みたいなものがそぎ落とされてバンドのサウンドとの調和を意識するようなプレイへと変化している・・・かなり「好意的」に聴いていくとそのように感じられるのです。そして、これがリー・モーガンの最高にして唯一の頂上かどうかは置いておくとしても、松村氏が指摘したように1958年2~3月においてトランペット奏者として一つのピークに到達した、と言ってもよいと私も思います。

 『Peckin’ Time』に話を戻します・・・と言っても上述のようにあまり書くことはありません。
 全体に、リー・モーガンのアタック(と言うか強めのタンギング)を効かせた小気味の良いフレーズがあれよあれよと連続し、どこかで聴いたことがあるというような「既視感」はいつものことではありますが、有無を言わせずに聴き手を引き込んでしまうような勢いを感じさせるプレイが展開されます。
 唯一のスタンダード・ナンバーの”Speak Low”では、ミディアム・テンポの大らかなビートに乗って、「ケリー節」全開のウィントン・ケリーのソロに続くリー・モーガンは上に書いたような「バンドのサウンドとの調和を意識するような」寛ぎのソロを披露します。本アルバムが多くのリスナーに永く愛好される最大の理由となったベスト・トラック、ベスト・プレイでしょう。

 ここまでに述べましたように本作を含む1958年2~3月あたりでリー・モーガンが(一つの)頂点を極めた、ということにしてしまいましょう。そうなるとこの後の彼のプレイは、この頂点で獲得した表現力をいかに高度化し、或いは抽象化してその幅を広げていくか、ということが期待されたのですが、残念ながらそういう展開にならなかったのは多くのジャズファンの知るところです。そして本作から十数年たった1970年録音の『Live at the Lighthouse』と翌年の『Lee Morgan』(通称「ラストアルバム」)になって、もがきながらもようやく次のステージにステップアップしそうな予感を感じさせたところで、十四歳年上の愛人の凶弾に倒れ三十三年の短い生涯を閉じることになります。

『Lee Motgan / Indeed!』
Indeed.jpg

『Lee Motgan / Candy』
02_Lee Morgan

『Jimmy Smith / The Sermon』
Sermon.jpg

『Jimmy Smith / House Party』
House Party

『Tina Brooks / Minor Move』
Minor Move

『Lee Morgan / Live at the Lighthouse』
Lighthouse.jpg

『Lee Motgan』(Last Album)
Morgan Lee_197109_Last
プロフィール

sin-sky

Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR