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Gábor Gadó / Ungrund

Label: Budapest Music Center Records
Rec. Date: Jan. 2011
Personnel: David Liebman (ts, ss), Matthieu Donarier (ts), Gábor Gadó (g), Sébastien Boisseau (b), Joe Quitzke (ds)
Gado Gabor_201101_Ungrund 
1. Friends Play [Gadó]
2. Pavane Pour Une Infante Défunte [Joseph-Maurice Ravel]
3. Spirale [Gadó]
4. Sanctus [Gadó]
5. Weltraum [Gadó]
6. Eternal Recurrence [Gadó]
7. D. P. [Gadó]

 我らがDavid Liebman(デビッド・リーブマン)が参加したGábor Gadó(ガボール・ガド?)というギタリストのリーダーアルバムです。

 リーブマン以外は馴染みのない名前が並びますが、ネットで調べてみますとリーダーは1957年ハンガリー産、テナーMatthieu Donarier(どう発音するのでしょうか?以下同様)は1976年フランス産、ベースSébastien Boisseauは1974年フランス産、ドラムJoe Quitzkeは1969年スウェーデン産、そしてブダペストでのライブということで、リーブマンが渡欧し当地のミュージシャンと録音した(このblogでも何枚か取り上げた)数ある「単身赴任」アルバムの一枚です。なおCDには記載がないようですが、やや右寄りがリーブマンで、1, 2, 6, 7曲目はソプラノ、その他の3曲はテナーを吹いています。

 結論じみたことを書いてしまいますが、このバンドのサウンドやメンバーのプレイが私にとって充分魅力的かどうかはさておいて、このステージでのリーブマンは実にキレキレで、このことこそが、本作の最大の魅力、というか(あくまで私にとっての)唯一の価値です。
 ハンガリーのジャズ事情というものを私は全く承知していませんし、このアルバムで聴かれるようなサウンドが当地のジャズ・シーンではよくあるパターンなのかどうかもわかりませんが、リーダーのギターはアブストラクトなプレイ、サウンドはハードな展開になったり、或いはノンビートでグニャグニャしたりと、ちょっと捉えどころのない「フリー・ジャズ一歩手前」なのですが、このような逆境(?本人はそうは思ってないでしょうが)にあってもリーブマンは「我が道を行く」渾身のプレイを披露してくれます。
 くどいようですが、このステージではソプラノ、テナーとも、或いはどのトラックでも彼のハードな側面が前面に出た切れ味鋭いプレイを聴かせますが、強いて取り出せば冒頭曲と6曲目のソプラノ、3, 5曲目のテナーあたりは圧巻です。

 悪口まがいのことを既に書いてしまいましたが、これだけリーブマンのプレイが充実していると、やれバンドのサウンドが魅力ないとか、相方のテナーやバックのリズムが弱いね、などと言うのは野暮ですね。
 リーブマンの「単身赴任」アルバムの中で上位の出来とは決して申しませんが、私にとっては忘れられない、或いは放っておけない一枚になりました。

Diego Barber / Calima

Label: Sunnyside
Rec. Date: April 2008
Personnel: Diego B arber (g), Mark Turner (ts), Larry Grenadier (b), Jeff Ballard (ds)
Barber Diego_200804_Calima 
1. Piru
2. 190 East
3. Desierto
4. Catalpa
5. Lanzarote
6. Richi
7. Virgianna
8. Air

 贔屓のサックス奏者Mark Turner(マーク・ターナー)が参加したギタリストDiego Barber(ディエゴ・バーバー)の「Calima」というアルバムです。

 リーダーのDiegoは1978年スペイン・カナリア諸島出身で、欧州でクラシックを学んできたそうです。「Calima」は彼が渡米して最初に発表したリーダーアルバムで、本作の後に4枚のリーダーアルバムを発表しています。

 メンバーは、ベースLarry Grenadier(ラリー・グレナディア、「Jon Gordon / Currents」「Edward Simon」「Steve Cardenas / Panoramic」に参加)、ドラムJeff Ballard(ジェフ・バラード)とのカルテット編成で、リーダーを除く三人(Mark Turner、Larry Grenadier、Jeff Ballard)は、”Fly”というユニットで三枚のアルバムを出しています(アルバム・ジャケットは本記事の最下段に掲載)。正確に言いますと、本作発表時点では最初の一枚が既発、本作はFlyの二枚目「Sky & Country」と同時期に並行して録音されています。

 Fly名義の三枚のアルバムは、Mark Turnerのファンである私にとっても、いささか地味でクローズド(内省的)なそのサウンドを少々持て余してしまうというのが正直なところですが、そこにギタリストが加わることで、どのようなサウンドが出てくるのか、そんなことを思いながらCDをターンテーブルに載せた次第です。

 リーダーのDiegoは全編クラシック・ギター(ガット・ギター?)で通し、全曲リーダーのオリジナルが演奏されているのですが、どれもジャズの匂いが極めて希薄な~思いっきり無責任に言ってしまうと彼の出自である北大西洋に浮かぶカナリー諸島の空気さえ感じさせる~高い透明度のフォークソング調とでも形容したくなるような曲想です。これは、例えばこのアルバムでは最もリズム(16ビート)が躍動して、リーダーの弾くコードがほんの少しジャズっぽくなる4曲目や7曲目も基本的に同様です。上に述べたようなFlyにギターが加わるというのではなく、リーダーが意図したサウンド、音楽性にFlyの三人が(NYコンテンポラリー・サウンドの文法を封印して)忠実に奉仕しその実現に貢献している、と言ったところでしょうか。
 このように、このアルバムはFly本体のそれとはある意味対極にあるようなサウンドにあって、目当てのMark Turnerは、Diego率いるこのバンドでの自分のポジションを意識しながらも、しっかりと自己主張していて、なかなか好調です。Larry Grenadierが参加した「Edward Simon」での、とても「合わない」だろうと思えたラテン・サウンドで見事にフィットしたプレイを聴かせたのと同じように~このアルバムでは、いわゆるジャズの文脈でのインタープレイが展開されるような局面は皆無と言ってもよいサウンドですが~我が道を行く彼のアドリブ・ラインは、Diegoがプロデュースする異国情緒豊かな(?)サウンドにピッタリとハマっている・・・少なくとも私にはそのように聴こえます。くどいようですが、このような不慣れ(?)なサウンドにあっても、Mark Turnerは好調です。
 最後にリーダーのギターですが、こういうプレイヤーに対してジャズのリスナー側からは何とも評価が難しいところです・・・20分超の長尺トラックの終曲での長いギターソロなどを聴くと、充分に鍛え上げられたテクニックの持ち主であるということは伝わってきますが、充分に魅力的かどうかはちょっと保留しておきます。

 ジャズと呼ぶのを躊躇うけれどもどこか心地よいサウンドで、ベースとドラムの二人はさすがにレベルの高いプレイですし、Mark Turnerは朗々と気持ち良さそうに吹いていますし、おまけに録音は良好だし・・・ということで、このblogでは何枚目かになりますが、たっぷり睡眠をとった休日の朝一番などには最適のアルバムです。

『Fly』(2003年録音、Savoy Jazz)
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『Fly / Sky & Country』(2008年録音、ECM)
Fly_200802_Sky Country 

『Fly / Year of the Snake』(2011年録音、ECM)
Fly_201101_Year of the Snake

Dwayne Dolphin / Portrait of Adrian

Lebel: Minor Music
Rec. Date: Dec. 1993
Personnel: Michael Mossman (tp, flh, tb), Ravi Coltrane (ts, ss), Geri Allen (p), Dwayne Dolphin (b), Roger Humphries (ds)
Dolphin Dwayne_199312_Adrian 
1. So What [Miles Davis]
2. Portrait of Adrian [Dolphin]
3. Passion Dance [McCoy Tyner]
4. Pappilion [Dolphin]
5. Fee Fi Fo Fum [Wayne Shoter]
6. Hank’s Blues [Dolphin]
7. Maiden Voyage [Herbie Hancock]
8. Enchantress [Dolphin]
9. Softly, as in a Morning Sunrise [Sigmund Romberg, Oscar Hammerstein II]
10. Lost Souls [Dolphin]
11. Down and Out [Dolphin]

 1963年生まれのベーシストDwayne Dolphin(ドウェイン・ドルフィン)が1993年に録音したリーダーアルバム「Portrait of Adrian」というアルバムで、贔屓のRavi Coltrane(ラヴィ・コルトレーン)、ピアノのGeri Allen(ジェリ・アレン)が参加しています。

 本題に入る前に、このアルバムの発売元であるMinor Musicレーベルについて少々。
 Minor MusicはStephan Meynerという人(たぶんドイツ人)が1984年に興したドイツの「不思議」なレーベルで、本アルバムにも参加しているGeri Allenの初期のリーダーアルバム(特集記事「追悼 Geri Allen」参照)や、贔屓のドラマーBill Stewart(ビル・スチュワート)が参加したJB Hornsのメンバーのアルバム(特集記事「Bill Stewart with JB Horns」参照)は、いずれもMinor Musicのアルバムです。その他にも、本作のリーダーDwayne Dolphinが参加したピアニストPeter Medsen(ピーター・マドセン、「Mario Pavone Double Tenor Quintet / Ancestors」参加)のアルバムや、やはりBill Stewartが30年にわたりレギュラー・トリオとして活動しているオルガンLarry Goldings(ラリー・ゴールディングス)、ギターPeter Bernstein(ピーター・バーンステイン)との初期のアルバムなども出していて、私にとっては「大変お世話になっている」レーベル(のひとつ)です。

 話を「Portrait of Adrian」に戻します。
 フロント2管のアレンジはあまり凝っておらず、リーダーのベースとドラムが刻むリズムも穏当で、ストレートな現代ハードバップの「まずまず」のアルバムといったところではありますが、そうは言ってもやはり聴きどころというのがあるもので、本作の場合は以下の二点が私にとっての「聴きどころ」です。

 まず第一点は、デビュー間もない頃のRavi Coltraneのプレイです。
 Raviの最も古い録音は「Elvin Jones / In Europe(1991年録音、Enja)」、日本制作盤の「Grand Central / Sax Storm(1992年録音、Alfa Jazz)」あたりだと思いますが、1993年に録音された本作も彼のキャリア最初期のアルバムの一枚です。
 贔屓目を抜きにしても、彼の個性の全面的開花の一歩手前といったプレイではありますが、それでも(今度は思いっきり贔屓目で聴いてみますと)2、4曲目で吹くソプラノの方にその後の彼の発芽みたいなものを私は感じます。特にタイトル・チューンとなったリーダー・オリジナルの2曲目では、Geri姐さんのピアノと絡みながら~不謹慎(?)ながら父ジョンのバックで弾くマッコイを思い起こす場面です~力を抑えつつキラッと光るソロを聴かせ、これは本アルバムのベスト・トラックでしょう。
 一方のテナーは、全体にたどたどしさが拭えない印象ではありますが、ハンコックの7目”Maiden Voyage”(処女航海)でのスペースがたっぷりあってゆったりとしたテンポに乗って聴かせるソロはなかなか味があり、テナーのプレイとしては本作中でベストでしょう・・・いずれにしても贔屓のミュージシャンに対しては、こうやって良いところを無理くり探すように聴いてしまうものです。

 本作の二つ目にして最大の聴きどころはGeri Allenです。
 そもそも私がMinor Musicというレーベルを知るきっかけとなったのが、1980年代に録音されたGeriの最初の四枚のリーダーアルバム、すなわち「The Printmakers(1984)」、「Home Grown(1985)」、「Open On All Sides In the Middle(1986)」、「Twylight(1989)」で、特に「The Printmakers」はカタログ番号の一番、つまりこのレーベルが最初に発表した(記念すべき)アルバムです。
 Raviのプレイに対する印象は贔屓目が過ぎたかもしれませんが、ここでのGeriの存在感は頭一つ抜けているという印象です。
 どのトラックも、短いながらも彼女らしい個性的なソロを聴かせてくれ、他のメンバーとの質の違いを見せつけています。初期の彼女のリーダーアルバムでの個性的で尖ったリズム陣とは違って、オーソドックスで穏当な枠組み(ボントロも持ち替えで吹く器用貧乏のラッパとイマジネーション不足のドラム)の中でも、しっかりと自分の「強面」な世界を表現していて、敢えて再び申し上げますが、本作の最大の聴きどころとなっています。まるで、彼女のデビューを後押ししてくれたMinor Musicに恩返しをしているかのような好演です。

 キャリア初期のRavi ColtraneとGeri Allenの参加が、どちらかと言えば凡庸なアルバムにピリッとした味付けを加えてくれました。

プロフィール

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Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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