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Gary Thomas / Pariah's Pariah

Label: Winter & Winter
Rec. Date: Oct. 1997
Personnel: Gary Thomas (ts, fl), Greg Osby (as), Michael Formanek (b), John Arnold (ds)
Thomas Gary_199710_Pariah
1. Who's in Control?
2. Only Hearsay
3. Pariah's Pariah
4.  Zero Tolerance
5. Vanishing Time
6. For Those Who Still Here the...
7. Is Everything Relative?

 1961年生まれのサックス奏者Gary Thomasが、贔屓のGreg Osbyとコンビを組んで1997年に録音したピアノレス・カルテットのアルバムです。タイトルの"Pariah"とは「(社会の)のけ者」又は「南インドとミャンマーの最下層民」の意らしく、「Pariah's Pariah」となると「下の下」といったニュアンスなのでしょうか。

 最初に少々寄り道になりますが、1997年に録音されたこのアルバムに至るGary ThomasとGreg Osbyの「動向」を整理しておきたいと思います。
 1987年1月録音の「Jack DeJohnette / Irresistible Forces(Impulse!)」、同年2月録音「Wallace Roney / Verses(Muse)」、同年4月録音の初リーダーアルバム「Seventh Quadrant(Enja)」、このあたりがGary Thomasのキャリア最初期のアルバムです。
 その後、彼は本作に至る約10年間に合計10枚のリーダーアルバムを発表していますが、今から20年前の1997年録音のこの「Pariah's Pariah」が、なんと現時点で最新(!)のリーダーアルバムです。
 一方のGreg Osbyですが、彼のキャリア最大の血迷い盤として有名(?)なヒップホップ・アルバム「3-D Lifestyles(1992、Blue Note)」と「Black Book(1994、Blue Note)」を立て続けに発表し、多くのファンを失った(と思う)のですが、その後「Art Forum(1996、Blue Note)」と「Further Ado(1997、Blue Note)」という、今度は彼のキャリアのピークではないかと私が勝手に思っている力作を発表し、ヒップホップ血迷い盤の汚名(?)を完全に晴らした・・・そのような時期に、この「Pariah's Pariah」は録音されました。
 Gery Thomasも似たようなもので、「Pariah's Pariah」の二つ前のリーダーアルバム「Overkill(1994・1995、JMT)」はこれも全曲ヒップホップ路線(これまでのアルバムにもラップ入りの曲は入っていましたが)、次の「Found on Sordid Street(1996、JMT)」で少し持ち直したところで本作を録音・・・そういう状況でした。

 本作「Pariah's Pariah」は、Gary Thomasとしては唯一のピアノレス・カルテットのアルバムで、これまでの彼のアルバムではベースAnthony Cox、ドラムDennis Chambers或いはTerri Lyne Carringtonといったテクニシャン達が常連でしたが、ここでのベースはDave Ballou / Amongst OurselvesMarty Ehrlich / Line on Loveに参加していたMichael Formanek、それにドラムのJohn Arnoldが初登場します。なおJohn Arnoldの参加アルバムは私の手元では本作のみです。

 まず私の「立場」を明らかにしておきますと、私はこのアルバムをGary Thomasの現時点(とは言っても20年前の録音ですが)での最高作と確信するものです。
 このアルバムに至るGary ThomasとGreg Osbyのモチベーションの高まり、それにGary Thomasのアルバムでは過去になかったMichael FormanekとJohn Arnoldという二人の「非メカニカル」なリズムによるピアノレスという編成、これらがうまい具合に作用して、Gary Thomas一世一代の力作がここに生まれた・・・私はそのように思っています。
 ベースのMichael Formanekは、リーダーアルバムを含めて私のコレクションにしばしば登場するベーシストで、彼が堅実なプレイでバンドを支えているのは当然としても、この初対面のJohn Arnoldというドラマーの頑張りがびっくりするくらい効いていて、間違いなくバンドの要の役割を演じています。

 全曲がリーダーのオリジナルで、各楽曲の冒頭に演奏されるテーマはリーダーのテナーと同様に無愛想なのですが、これはフロント二人のアドリブが始まる前の「合図」のようなもの・・・そう思って聴いた方が正解のようです。
 アドリブ・コーラスに入ると、ベースとドラムの二人が叩き出す非メカニカルで「肉感的」と言ってもよいような生々しいリズムをバックに、和製楽器がいない自由なスペースの中を、Gary ThomasとGreg Osbyがこれでもかと言うくらい気合の入ったソロを聴かせます。二人とも、目を瞑ってマウスピースをギュッと強く噛んで、無心に吹きまくっている・・・そういう光景です。
 「名手」Michael Formanekはズ~ンと響く大きな音でバンドを支え、一方「無名」のJohn Arnoldは、フロントの二人にしっかりと反応して、実に攻撃的に、時にヤケクソ気味に二人のソロをプッシュします。Gary Thomasのアルバムに初登場のFormanekとArnoldの二人の起用は、完全にハマっていると思います。特にGary Thomasのいつものようなゴリゴリと無骨で無愛想なテナーが、このリズムをバックにすると実に新鮮に響きます。
 タイトルチューンの3曲目ではGary Thomasはフルートを吹き、Greg Osbyのアルトとウネウネと絡むソロを聴かせます。彼がフルートを手にすると、無骨で無愛想なテナーに比べグッとデリケートなニュアンスが現れ、独自の世界を持っていると私はかねがね思っているところで、この曲の彼のフルートもそういう魅力が感じられます。

 ここまでに書いてきたような色々な条件がうまい具合にかみ合ってGary Thomasの最高作が「奇跡的に」或いは「運良く」生まれたと私は思っています。さらに無名のドラマーJohn Arnoldの熱演がこのアルバムをより魅力あるものとしていることに間違いはありません。
 もうすぐ還暦という年齢ではありますが、彼にはもう一花咲かせてもらいたいものです。

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半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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