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Buffalo Collision / (Duck)

Label: Screwgun Records
Released in 2008
Personnel: Tim Berne (as), Ethan Iverson (p), Hank Roberts (cello), Dave King (ds)
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1. 1st of 3>34:&Change
2. 2nd of 4>10:&Change
3. 3rd of 5>22:&Change
 [all songs made up that evening/Buffalo]

 前々回前回に引き続いてのTim Berne(ティム・バーン)で、”Buffalo Collision”(牛の衝突?)というユニット名義による現時点で唯一のアルバム『(Duck)』を取り上げたいと思います。
 ”Buffalo Collision”は、ティムとはしばしば共演するチェロのHank Roberts(ハンク・ロバーツ、『Thomas Agergaard / Little Machines JAZZPAR 2002 Octet』、ティムとのデュオ作『Cause & Reflect』で既出)に、Bad Plus(バッド・プラス)からピアノEthan Iverson(イーサン・アイバーソン、『Ethan Iverson / School Work』『Billy Hart / Quartet』『Christophe Schweizer / Physique』で既出)とドラムDavid King(デビッド・キング、『Craig Taborn 新旧Junk Magic』で既出)が参加する四人組の臨時編成バンドです。
 興味の対象は、何と言ってもティム・バーンとイーサン・アイバーソンの唯一の共演ということになるでしょう。なおティムとデビッド・キングは後にティムの近作で再び共演することになります。

 何やら意味不明の記号が羅列するタイトルの三つのトラックが収録されていて、CDに記載(all songs made up that evening/Buffalo)されているとおり、決まり事がほとんど感じられないフリーなインプロヴィゼーションが展開されていきます。ただし、この曲者四人のことですから、ハッとするような反応合戦が繰り広げられ、長い演奏時間の中で次から次へとシーンが移り変わる刺激的な展開の連続で、それこそ一気に聴かせてしまうパワーを秘めたパフォーマンスです。確かに決め事はないのでしょうが、四人が「何か」を明らかに共有しながら演奏しているということが伝わってきます。

 ティム・バーンのプレイについてはこれまでに下手くそな文章で散々書いてきましたので、ここではティム以外の三人のプレイを見ていきたいと思います。
 最初はピアノのイーサン・アイバーソン。
 本作の録音は極めて良好で、特にイーサンのピアノの音が実にクリアに(やや硬質に、デッドに)捉えられているということをまず申し上げておきます。
 ベースの居ない編成ということもあり、バックに回る場面にあっては、左手の低音部の「強打」を交えながらドラムと一体となってリズミカルにバンドを躍動させるプレイは印象的です。もちろん他の三人の音量がグッと下がってピアノがフィーチャーされるシーンでも、録音の良さも相まってハッとするような輝き、美しさを私は感じます。本作のようにここまでフリーな枠組みでのイーサンのプレイは他にあまりお目にかかりませんが、彼の個性はいかんなく発揮されていると思います。

 二番目はチェロのハンク・ロバーツ。
 彼のプレイについても、このblogで書いたことの繰り返しになってしまいますが、とにかく引き出しの多さ、語彙の豊かさは本作でも随所に聴くことができます。いつものように音量的にも音域的にもダイナミック・レンジが広く、さらにピチカートとアルコを巧みに使い分けたプレイ・・・本作のようなフリーなセッションゆえに、彼の技の豊富さがより一層引き出されたのではないかと思います。

 最後にドラムのデビッド・キング。
 上にも書いたように、イーサンの「左手」と一体化したリズムの提示が本ユニットの特徴のひとつだと思います。どこかとぼけたような温かみのある味わいが感じられるのが彼の持ち味だと私は思っていますが、それはフリーな枠組みの本作でも同様です。また、ティムのユニットのドラマーと言えばTom Rainey(トム・レイニー)ということになりますが、デビッド・キングのプレイはトムとは違う個性ではあっても、「カッチリ押さえている」という点でこれはトムと共通するところで、バンドのサウンドが「崩壊」することなく緊張感を与え、さらにその緊張感を持続させる役割をここでも確かに演じていると思います。

 こういうフリーなセッションは、詰まるところリスナーの好み(感性)にフィットして「投げ出さずに聴いていられる」かどうかということでしょうが、そのバリアを超えることができた(物好きな)リスナーにとっては、四人の優れた演奏家による純度の高い音楽的交感を味わうことのできる得難いアルバムです。


左からHank Roberts, Ethan Iverson, David King, Tim Berne
Buffalo Collision

Tim Berne and the Copenhagen Ensemble / Open, Coma

Label: Screwgun Records
Rec. Date: Sept. 2000
Personnel: Tim Berne (as), Marc Ducret (g), Herb Robertson (tp)
The Copenhagen Art Ensemble: Lotte Anker (ss, ts), Thomas Agergaard (ts, fl), Peter Fuglsang (cl, bcl), Lars Vissing (tp), Kasper Tranberg (cor), Mads Hyhne (tb), Klaus Löhrer (bass-tb. tuba), Thomas Clausen (p, elp), Nils Davisen (b), Anders Mogensen (ds), Ture Larsen (cond)
Berne Tim_200009_Open Coma  
1-1 Open, Coma
1-2 Eye Contact
2-1 The Legend of p-1
2-2 Impacted Wisdom
 [all music composed and arranged by Tim Berne, except track 2-2 arranged by Ture Larsen]

 前回記事に引き続いてのTim Berne(ティム・バーン)ですが、今回は編成がグッと大きくなって、彼がラージ・アンサンブルと共演した総勢13人編成の『Open, Coma』を取り上げたいと思います。
 ティムとともにメインでフィーチャーされるギターのMarc Ducret(マルク・デュクレ)、ラッパのHerb Robertson(ハーブ・ロバートソン)は、しばしばティムと共演してきたお馴染みの「身内」です。一方バックを務めるThe Copenhagen Art Ensembleには、テナー・フルートのThomas Agergaard(トーマス・アガルゴール、『Little Machines JAZZPAR 2002 Octet』で既出)、ピアノのThomas Clausen(トーマス・クラウセン)、ドラムのAnders Mogensen(アンダース・モーゲンセン)あたりの名前が見えますが、おそらく全員がデンマークのミュージシャンだと思われます。

 デンマークとスウェーデンで録音された本作は二枚組、しかも1曲当たりの演奏時間が30~40分前後で全4曲収録というなかなか手強そうな重量級セットです。
 という訳で覚悟を決めてCDをかけてみたのですが、聴く前に予想していた、或いは懸念していた混沌としたフリージャズという感じは希薄です。

 以前『Tim Berne’s Snakeoil / The Fantastic Mrs. 10』の記事の中で書いたことを少し長くなりますが引用してみますと・・・

「リズミカルで比較的(あくまでも比較的)明快なテーマ(コンポジション)の部分から、かなりフリーなアドリブ・コーラス(インプロヴィゼーション)へと流れるように移行して、曲によっては中間部でブリッジのようなコンポジションが現れてさらにアドリブ・コーラスへと繋がり、ラストのコンポジションで曲を閉じる・・・一般的なジャズの演奏ではごく「普通」のことを書いているだけなのですが、このユニットのように「フリー」な演奏にあって、間断なく、その密度が低下する(一息入れる?)ことなくこのようなやり方を貫いているというのは、やはりSnakeoilの大きな特徴でしょう(以下略)。」

・・・本作『Open, Coma』についても全く同じで、このようなティムのユニットの方法論が、そのままこのラージ・アンサンブルにおいても実践されているのですから、これは大したものです。
 さらに、それぞれに長い演奏時間の楽曲の中でリズム・ビートは変化しながらも躍動し続け(例えば1-2では中間部のスロー8ビートから徐々に温度が上昇し16ビートへと移行)、複雑な楽曲をいとも簡単に、とまでは言わないとしても、バンドの熱量を維持しながら演奏しきってしまうこのアンサンブルの技量の高さには舌を巻きます。

 一方、1曲当たりの演奏時間が長いので各メンバーのソロのスペースがたっぷりと用意されており(或いは各メンバーのソロのスペースを確保するために演奏時間が長くなっており?)、結果的に腰を据えてソロを味わえるということに繋がり、これも好ましい方向でしょう。
 各メンバーの聴かせどころはどのトラックにもちゃんと用意されていますが、代表選手を抜き出してみますと、1-1中間部でのマルク・デュクレ(なんとスローテンポのブルーズのコード進行!)、1-2前半のティム(この場面は本作のハイライトでしょう)、2-2出だしのハーブ・ロバートソンのミュート~オープンのソロあたりでしょうが、それだけではもちろんなく、さらに出番はそう多くありませんがThe Copenhagen Art Ensembleのメンバーがとるソロだって全く悪くありません。改めて申し上げますが、アンサンブルの密度も個人のプレイの質も高水準です。

 しばしば聴くというにはいささかヘヴィーな二枚組ですが、重い腰を上げて(?)たまに聴いてみると、何とも言えない満足感と充実感を味わうことができるラージ・アンサンブルの力作です。

Drew Gress / Spin & Drift

Label: Premonition Records
Rec. Date: Jan. 2000
Personnel: Tim Berne (as, bs), Uri Caine (p), Drew Gress (b, pedal steel guitar), Tom Rainey (ds)
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1. Disappearing, Act 1
2. Torque
3. It was After Rain That the Angel Came
4. Jet Precipice
5. Aquamarine
6. The Sledmouth Chronicles
7. Here, at the Bottom of the Sky...
8. Pang
9. New Leaf
 [all compositions and arrangements by Drew Gress]

 ベーシストDrew Gress(ドリュー・グレス、『Angelica Sanchez / Wires & Moss』『Mark Shim / Turbulent Flow』『Ravi Coltrane / Spirit Fiction』『Tony Malaby / Apparitions』『Tony Malaby / Adobe』で既出)のリーダーアルバム『Spin & Drift』を取り上げます。
 メンバーはTim Berne(ティム・バーン)のアルト、バリサクにUri Caine(ユリ・ケイン)のピアノ、そしてTom Rainey(トム・レイニー)のドラムが加わるカルテット編成で、ドリュー・グレスとトム・レイニーはティムとはしばしば共演する「身内」ですが、ユリ・ケインとティムの共演アルバムはおそらく本作のみと思われます。またドリュー・グレスにはティム・バーンが参加したリーダーアルバムが他にもありますが、本作はティムにとって数少ないワンホーン・カルテット(すなわちティムのサックスにピアノトリオのリズム、ただし一部楽曲で多重録音あり)編成のアルバムです。

 収録トラックは全てリーダーのペンによるもので、これは彼の他のアルバムでも同様なのですが、いずれも練られた、作り込まれたオリジナルが演奏されています。
 そしてティム・バーンの参加アルバムにしてはこれまた数少ないタイプだと思いますが、和声・リズムの枠組みが大きくアウトしない穏当なサウンドです。ティムのアルトは相変わらず美しい音色でいつものように攻めてはきますが、おそらく彼としては最右翼の「現代ハードバップ」アルバムと言ってよいでしょう。
 例えばミディアム~アップ・テンポ4ビートの2曲目、骨格そのものは完全ハードバップで、そういう枠組みの中でティムのアルトが切り込み、ユリ・ケインのピアノが硬質なフレーズを畳みかけ、トム・レイニーのドラムソロが弾ける・・・といった展開です。ついでに申し上げておきますと、このアルバムでのユリ・ケインはまさに本領発揮の好演で、普通ですと(?)ここはCraig Taborn(クレイグ・テイボーン)だったでしょうが、このアルバムでのユリの起用は思いのほか好結果を生んでいると思います。
 例えばスローテンポの3曲目、アルトとベースが人懐っこいテーマを演奏した後に、ユリ・ケインとティムが呆れるくらい優しいソロを繋ぎます。同じスローテンポの5曲目も同趣の演奏で、こういう(ティムにしては)ストレートなバラード吹奏を披露するトラックは彼のキャリアの中でもかなり特異な存在でしょう。
 例えばアップテンポの6曲目、ここでのティムの「ハードバップ」なバリサクもなかなか味があるものです。
 最後にもう一点、適度に左右に広がるドラム(特に緩くチューニングされたバスドラはいつ聴いても痺れます)がクリアに捉えられていて、出来るならば諸般の事情が許す限りボリュームを上げてトム・レイニーのドラムを浴びたいものです。

 ティム・バーンにとっては異色作というポジションだと思いますが、極めてオーソドックスかつ穏当なサウンドの中で、やはりティムでしか出せない魅力は溢れていますし、彼を支えるリズム陣の好演も印象に残るアルバムです。
プロフィール

sin-sky

Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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