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Reuben Brown / Ice Scape

Label: SteepleChase
Rec. Date: Jan. 1994
Personnel: Reuben Brown (p), Rufus Reid (b), Billy Hart (ds)
Brown Reuben_199401_Ice Scape
1. Billy [Brown]
2. Mack the Knife [Kurt Weil]
3. A Night in Tunisia [Dizzy Gillespie]
4. Ice Scape [Brown]
5. Joe [Brown]
6. It's the Night I Like [Brown]
7. Lonely Afternoon [Brown]
8. Twilight at Duke's Place [Brown]
9. Lush Life [Billy Strayhorn]
10. Catania [Brown]

 リーダーのReuben Brownは1939年Wahington D.C.の出身で、ライナーノーツによると地元を中心に活動している(していた?)ピアニストのようです。このアルバムはもう20年以上前に録音されたもので、その後の消息は残念ながら聞こえてきません。

 このピアニストを知るきっかけとなったのは、同じWahington D.C.出身のベテラン・テナー奏者Buck Hillが1981年に録音したSteepleChaseの2枚のアルバム、すなわち「Easy to Love」と「Impressions」(後に2枚がカップリングされて「Northsea Festival」として再発)に参加していたことでした。この2枚は、オランダのジャズフェスティバルでのライブで、ベテランのダンディで豪快なブロウが快調な演奏で、スタンダードやジャズメンオリジナルに混ざって演奏されるReuben Brownの良く出来たオリジナルと、しっかりしたタッチでフレーズをキチンと弾くプレイが印象に残っていました。

 このライブアルバムから十数年後に録音された本作は、ライナーノーツによると「同じ高校に通っていた」というドラムのBilly Hart、それにRufus Reidのベースによるピアノトリオの作品です。なお、同時期に録音された同じSteepleChaseの「Blue and Brown」は、ピアノソロのアルバムで、おそらく現時点で彼のリーダーアルバムはこれら2枚のみということになると思います。

 このアルバムの演奏は、一言で言って、オーソドックスで丁寧なピアノトリオといったサウンドです。時にピックアップを通した増幅音が気になってしまうRufus Reidですが、ここではそういう違和感はなく、上品にリーダーに寄り添っています。
 自身のオリジナル7曲、スタンダード、ジャズメンオリジナル3曲で構成されており、Buck Hill盤でも思いましたが、ピアノソロで演奏されるタイトルチューンの4曲目を筆頭に、このピアニストは本当に「良い曲」を書きます。また、新しさや際立つ個性にはやや乏しいものの、丁寧にフレーズを積み上げて心がこもった演奏だなあ、と聴き手に感じさせるところも、Buck Hill盤での印象と同様です。
 そして何よりもこのアルバムの宝は、2曲目に置かれた"Mack the Knife (Moritat)"です。ここではスローテンポの3/4で演奏しているのですが、これがなかなか聴かせます。Rufus Reid、Billy Hartの好サポートを得て、哀しみを帯びた、まるで「挽歌」のようなムードを醸し出し、普段はお気楽(?)に演奏されるこの曲に新しい生命を吹き込んだ秀逸な演奏に仕上げています。

 耳をそばだたせるような強い個性はないものの、「普通に」上手くて、歌ごころ豊かなピアニストによる丁寧に作られたアルバムです。あのロリンズの「サキコロ」がこのピアニストの頭の中で鳴っていたかはわかりませんが、"Mack the Knife (Moritat)"の見事に再構築された解釈、演奏が強い印象を残すピアノトリオの佳品です。

Bruce Ditmas / What If

Label: Postcards
Rec. Date: Dec. 1994
Personnel: Sam Rivers (ts, ss), John Abercrombie (g), Paul Bley (p, synth), Dominic Richards (b), Bruce Ditmas (ds)
Ditmas Bruce_199412_What If
1. Island Seven [Ditmas]
2. What If [Ditmas]
3. Clever Conversation [Ditmas, Bley]
4. 3348 Big Easy: Deep Blue Sleep [Ditmas]
5. 3348 Big Easy: Tursday Nite Special [Ditmas]
6. 3348 Big Easy: Voodoo Street Beat [Ditmas]
7. Pulp [Ditmas, Abercrombie]
8. Power Surge [Ditmas, Rivers]
9. Don't Wake Me [Ditmas]

 Sam Riversが参加したBruce Ditmasというドラマーのリーダーアルバムです。
 リーダーは初対面だと思って入手したのですが、Steve KuhnとGil Evansの1970年代のリーダーアルバム計4枚に参加していることに入手したあとに気がつきました。これらのアルバムはけっこう聴いた方ですが、全く印象に残っていない、ノーマークのドラマーでした。
 メンバーはSam Rivers、John Abercrombie、それにPaul Bleyというなかなか面白い組み合わせで、Sam Riversと彼ら二人との共演は、おそらく本作のみと思われます。

 ギターのJohn Abercrombieは「人並み」程度しか聴いていないのであまり自信がありませんが、彼にしては珍しいのではないかと思われるハードでアブストラクトなプレイがアルバム全体にわたって前面に露出しており、このバンドのサウンドの特徴になっています。
 ビートは基本的にキープされ、リーダーはドラムを叩き続けて「空間を埋める」プレイに終始します。わかりやすいメロディは出てこないし、メンバーが相互に絡み合うような演奏の形ですが、全くの混沌の世界にも突入しない、微妙なバランスで「意外に聴ける」ものとして成立しているサウンドです。

 我らがSam Riversに焦点を当てて聴いてみますと、John AbercrombieとPaul Bleyとの組み合わせは絶妙であり、彼のキャリアの中でも、こういうギターとピアノとの演奏は珍しい部類に入るのではないかと思います。三人が絡み合って醸し出す何とも形容しがたい少々「抽象的」な「小宇宙」・・・。
 2曲目はテナー、4~6曲目はソプラノ、8曲目は再びテナーを吹きますが、4曲目の出だしのソプラノは何とも言えない味がありますし、8曲目はテナー、ベース、ドラムのトリオによる演奏で、高速4ビートに乗って激しいテナーのブロウを披露します。彼の激しいプレイの中にも、私はいつもの「暖かさ」のようなものを感じてしまいます。

 Sam Rivers、John Abercrombie、Paul Bleyの三人の「組み合わせの妙」(2、4~6の4曲)がこのアルバムの価値であり、成功した要因になっていると思います。
 何とも陽の当たらない、中古盤が安値で叩き売られるようなアルバムですが、この三人の絡み合いは、たまに聴いてみたいと思わせるような魅力があります。

Joe Chambers / Mirrors

Label: Blue Note
Rec. Date: July 1998
Personnel: Eddie Henderson (tp), Vincent Herring (ts, as, ss), Mulgrew Miller (p), Ira Coleman (b), Joe Chambers (ds, vib)
Chambers Joe_199807_Mirrors
1. Tu-Way-Rock-E-Way [Chambers]
2. Mirrors [Chambers]
3. Caravanserai [Chambers]
4. Ruth [Chambers]
5. Mariposa [Chambers]
6. Lady in My Life [Rod Temperton]
7. Circles [Chambers]
8. Come Back to Me [Janet Jackson, James Harris III, Terry Lewis]
9. Ruthless [Chambers]

 なぜこのCDを入手したのか、だいぶ前のことになりますのでほとんど覚えていませんが、たぶんその日は他に目ぼしい出物がなくて、まあこれでいいかというような感じで買ったのではないかと思います。

 リーダーのJoe Chambersは、若い頃繰り返し聴いた1960年代のWayne ShorterのBlue Note諸作(「Etcetera(1965)」「The All Seeing Eye(1965)」「Adam's Apple(1966)」「Schizophrenia(1967)」)に参加していたドラマーですが、同じShorterの作品に参加していたElvin JonesやTony Williamsに比べれば、やはり力負けの感は否めません。
 調べてみると、Joe Chambersは1970年代からリーダーアルバムを発表しており、その数は10タイトルに及びますが、私が所有しているのは本作のみです。
 メンバーはEddie HendersonとVincent Herringという「超二流」の2管フロント、ピアノとベースは私の大好物の後期Tony Williams Quintetのコンビというクインテット編成です。

 取り上げられた楽曲は、6、8曲目を除いてリーダーのオリジナルです。作曲するようなドラマーは総じて「良い曲」を書く・・・Jack DeJohnette、Ralph Peterson、Jeff Wattsあたりが頭に浮かびますが・・・なんとなくそんな印象がありますが、本作のリーダーのオリジナルも、キャッチーで人懐っこい「良い曲」が並び、リーダーを含む「上等」なリズム陣に支えられて、バンドのサウンドは素材を活かしたオーソドックスでクールな新主流派風のテイストです。リーダーはもともと個性際立つというドラマーではないので、ドラマーのリーダーアルバムにしては、ドラムプレイの自己主張はそれほど強くはなく、どちらかと言えばコンポーザー、バンドリーダーとしての役割に重きを置いているように聴こえます。

 フロントの二人についてですが、Vincent Herringは普段はアルトを手にすることが多い(と思われる)プレイヤーで、彼のアルトは「ツボを外した時のキャノンボール」という感じで、どうも「品が無い」という印象でしたが、このアルバムではアルトは4曲目のみで、その他のトラックはテナー、ソプラノを使っており、それほど強い印象を与えるものではありませんが、バンドサウンドに調和した「過不足ない」プレイです。
 もうひとりのEddie Hendersonですが、こちらは、なんとなく彼に抱いていた「パワー不足で少し頼りない」という印象を覆すような、力強く鋭いプレイで、これは意外でした。決して一流になれなかった(或いはなれていない)けれど、しっかりとした主張ができて、それを聴き手に伝える力が備わったラッパ吹きという認識を新たにしたものです。

 6曲目は「Michael Jackson / Thriller」収録のバラードで、リーダーはヴァイブを弾きますが、これが聴かせます。さらに7曲目はリーダーひとりによるドラムとヴァイブの多重録音ですが、メロディも良いし、ヴァイブも上手い、なかなか器用なミュージシャンですね。8曲目は「Janet Jackson / Rhythm Nation 1814」収録曲で、それをいわゆる「新主流派」っぽく料理しているのですが、これはちょっと外したかな?という感じです。終曲はフロント2管はお休みで、ピアノトリオでマイナー・ブルースをストレートに演奏してアルバムを閉じます。

 アルバム全体を通じて少々「ごちゃまぜ感」はあるものの、リーダーの手による魅力的なオリジナルが丁寧に演奏され、かくし芸で終わっていないヴァイブの腕前も披露され、Joe Chambersがこのアルバムでやりたかったことは充分理解でき、共感もできます。
 全く期待しないで入手したものでしたが、「楽しく聴けたアルバムだったな」と思える出来でした。

Billy Drummond / Dubai

Label: Criss Cross
Rec. Date: Dec. 1995
Personnel: Chris Potter (ts, ss, bcl), Walt Weiskopf (ts), Peter Washington (b), Billy Drummond (ds)
drummond billy_Dubai 
1. The Best Thing for You [Irving Berlin]
2. Dubai [Drummond]
3. The Bat [Pat Metheny]
4. Drumhead [Weiskopf]
5. Invisible Sun [Weiskopf]
6. Bananafish [Potter]
7. Day Dream [Duke Ellington]
8. Mushi Mushi [Dewey Redman]

 リーダーのBilly Drummondは1959年生まれ、リーダーアルバムはCriss Crossに3枚(本作は三枚目)ありますが、サイドメンとして数多くのアルバムに参加(Criss Crossにはリーダーアルバムを含め35タイトル、これはPeter Washington、Kenny Washingtonに次いで第三位)しています。ちなみに手元CDでは、Carla Bley、Steve Kuhn、Seamus Blake、Jon Gordon、Donny McCaslin、Chris Potterらのリーダーアルバムに参加しているほか、このblogで取り上げたアルバムではMarty Ehrlich / Line on LoveJohn Tchicai / In Monk's Moodのドラムは彼が担当していました。

 このアルバムは、2サックスがフロントのピアノレス・カルテットで、左チャンネルがChris Potter、右がWalt Weiskopfです。アルバムタイトルのDubaiは「ドバイ」すなわちアラブ首長国連邦の都市のことで、ライナーノーツによるとBilly Drummondは彼の地のジャズフェスティバルで演奏したことがあるとのことです。

 リーダーとベースのPeter Washingtonは、勝手に抱いていた印象としては穏当でコンベンショナルなタイプのプレイヤーと思っていましたが、このアルバムは、このような勝手な印象を覆すようなハードなサウンドです。やはり2サックスのピアノレス・カルテットであるElvin Jonesのバンドを想起させますが、Elvinのそれよりはもう少し洗練されているサウンド、と言えばよいのでしょうか。
 中でも、タイトルチューンの2曲目(7/4のブルース)、ラストのDewey Redman曲"Mushi Mushi"(「Keith Jarrett / Bap-Be(1977、Impulse!)」収録曲)あたりはグッとアブストラクトな展開になって、かなり「フリー」(1960年代のフリージャズっぽいという意味の「フリー」)な演奏です。ここでのBilly Drummondは、これまで聴いた彼のプレイの中でも、最も力強くハードなもののひとつだと思います。
 一方のフロントの二人のサックス奏者。Chris Potterは1971年生まれ、Walt Weiskopfは1959年生まれということで、「一回り」の年の差があるのに今回気がつきました。やはり二人の実力差は歴然ですが、Walt Weiskopfも充分に健闘していると言ってよい演奏です。
 例えばEllingtonの"Day Dream"ですが、このバラードでのWaltの懇ろなソロはなかなか聴かせますし、Chris Potterは一回り年長の先輩を立てて、寄り添っているようにも聴こえます。
 それにしても、このアルバムでのChris Potterはどのトラックもいつものように力強くアイデア豊かなプレイを聴かせます。何も言うことはありません。彼の存在なくしては、このバンドの優れたサウンドは成立していません。2曲目ソプラノ、5曲目バスクラとソプラノ、6曲目ソプラノとテナー以外のプレイも充分にキレています。

 決して破綻しない「折り目正しい」2サックス・フロントのピアノレス・カルテットですが、お行儀よく収まっているだけでなく、四人ががっぷりと絡み合ったハードな演奏で、やはり彼らのイメージの中にElvinのバンドがあったかのかもしれません。
 ポイントは言うまでもなくChris Potterの深みのあるプレイだと思いますが、それだけでなく、Billy Drummondというドラマーの意外な一面を知ることができたアルバムです。

Christof Lauer / Evidence

Label: CMP Records
Rec. Date: Sept. 1994
Personnel: Cristof Lauer (ts, ss), Anthony Cox (b), Daniel Humair (ds)
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1. What's New [Bob Haggart, Johnny Burke]
2. Evidence [Thelonious Monk]
3. In a Sentimental Mood [Duke Ellington]
4. Gravenstein [Humair]
5. Rosemary's Baby [Krzysztof Komeda]
6. Blue in Green [Miles Davis]
7. Take the Coltrane [Duke Ellington]
8. You [Lauer, Cox, Humair]
9. There Will Never be Another You [ Harry Warren, Mack Gordon]

 リーダーのChristof Lauerは1953年ドイツMelsungen生まれのサックス奏者で、ネット情報によると10枚以上のリーダーアルバムを出しており、1994年録音の本作は比較的初期のリーダーアルバムにあたります。なお、本作から4年後のリーダーアルバム「Fragile Network(1998年録音、ACT)」は、異才のフランス人ギタリストMarc Ducretが参加した面白いアルバムでした。

 ベースのAnthony Coxは、手元CDではGeri Allen、Marty Ehrlich、Gary Thomasらのアルバムに参加するアメリカ人、それに贔屓のフランス人ドラマーDaniel Humairが参加する独・米・仏のピアノレストリオのアルバムです。取り上げられた楽曲は4、8曲目を除き、スタンダードやジャズメンのオリジナルです。このアルバムを入手した時点ではリーダーとは初対面でしたが、もちろんDaniel Humairの参加が唯一の入手動機でした。

 まずリズムの二人についてですが、Anthony Coxは「堅実なリズム」「正しい音程」「デカイ音量」・・・Scott Colley / Initial Wisdomの記事で述べましたが、私がベーシストには欠かせないと思う三つの要素を持ち合わせたミュージシャンで、本作でも彼のベーシストとしての実力がバランスよく発揮されています。特に、6曲目"Blue in Green"でのテナーとベースとのデュオを聴けば、彼のベーシストとしての腕の確かさがよくわかります。
 一方のDaniel Humairですが、このようなミニマムな編成での演奏ですので、小技・大技が冴え渡るプレイが圧倒的な存在感を示しています。特に彼の鋭く激しいシンバルワークを聴けることは、私にとって快感以外の何ものでもありません。

 リーダーのChristof Lauerのプレイは、1953年生まれというこの世代では避けようがないColtraneからの影響を感じさせる細かく早いパッセージを連続して繰り出すスタイルですが、私の苦手な「ヨーロッパ臭」はほとんどしませんし、「色気」(或いは「ダンディズム」?)みたいなものを持ち合わせています・・・贔屓目すぎるでしょうか。このアルバムが録音されてから20年以上が経ちますが、今聴いてもその感覚の新しさと力強さ~聴き手に挑んでくるようなパワー~が伝わってきますし、それだけではない上記の「色気」からくる「暖かさ」のようなものも感じます・・・このあたりは極めて個人的な印象ですが。

 切れ味鋭いドラムのイントロから始まるアップテンポ3/4の5曲目"Rosemary's Baby"は、各人がそれぞれに見せ場をつくる熱演、また前に述べましたが、テナーとベースのデュオでしっとりと演奏されるMiles Davisの6曲目"Blue in Green"などはなかなか聴かせます。一方メンバーのオリジナルの8曲目は、ほとんど三人のフリー・インプロによる演奏ですが、三人三様の踏ん張りで、冗長さを感じさせない引き締まったトラックになっています。

 贔屓のプレイヤー~特にドラマーやベーシスト~を聴きたくて初対面のミュージシャンのアルバムに手を出すと、経験上ハズレを引かされることしばしばですが、この初対面のドイツ人サックス奏者のアルバムはアタリでした。スタンダードやジャズメンオリジナル中心の選曲も気が利いており、何よりも鋭いリズムの二人の技に支えられたピアノレストリオの力作と言ってよい出来です。
プロフィール

sin-sky

Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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