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Mark Whitfield / True Blue

Label: Verve
Rec. Date: June 1994
Personnel: Mark Whitfield (g), Kenny Kirkland (p), Rodney Whitaker (b), Jeff "Tain" Watts (ds), Nicholas Payton (tp) [4, 7, 13], Branford Marsalis (ts, ss) [3, 7]
Whitfield Mark_199406_True Blue 
1. Blues for Davis Alexander [Whitfield]
2. Save Your Love for Me [Buddy Johnson]
3. Immanuel the Redeemer [Whitfield]
4. Quik Pik's Blues [Whitfield]
5. Mr. Syms [John Coltrane]
6. Berkshire Blues [Randy Weston]
7. Blues for Baby Boy [Whitfield]
8. Girl Talk [Neal Hefti, Bobby Troup]
9. Be-Lue Bolivar Ba-Lues-Are [Thelonious Monk]
10. Psalm 91 [Whitfield]
11. The Mystery of Love Everlasting [Whitfield]
12. Blues for Alice [Charlie Parker]
13. John and Mamie [Whitfield]

 1966年ニューヨーク州産のギタリストMark Whitfield(マーク・ホイットフィールド)が1994年に録音したアルバムです。
 本作は彼の四枚目のリーダーアルバムにあたり、第一作「The Marksman(1990年リリース)」はわりと面白く聴けたのですが、第二作「Patrice(1991年リリース)」、第三作「Mark Whitfield(1993年リリース)」が私にはとても残念なアルバムだったので、もう止めようかなと思いつつ、メンバーにつられてこの「True Blue」を入手したことを覚えています。

 マーク・ホイットフィールドはジョージ・ベンソンの後押しでデビューしたとのことで、確かにフルアコを鳴らして正確なピッキングで(新しさはないものの)正攻法のフレーズを奏でるベンソン譲りのスタイルの持ち主です。ただ時にフレーズが「流れて」しまう場面があったりして、どうも「軽いなぁ」という感じがしないでもありませんが、まずまず聴かせるスキルは持っている・・・偉そうな物言いをしましたが、私にとってはそういうポジションのギタリストです。

 さて本作「True Blue」ですが、メンバーはピアノKenny Kirkland(ケニー・カークランド)、ベースRodney Whitaker(ロドニー・ウィタカー)、ドラムJeff "Tain" Watts(ジェフ・テイン・ワッツ)のリズムに、曲によってNIcholas Payton(ニコラス・ペイトン)とBranford Marsalis(ブランフォード・マルサリス)が加わる編成です。
 上に述べたように、私にとっては「まずまず」のギタリストであるリーダーはさておくとして、このアルバムの主眼はなんといっても飛び切りゴキゲンなリズム陣ということになります。

 「拡張した32小節のブルーズ」(彼自身のコメントによる)のオリジナルからアルバムがスタートし、続く2曲目はナンシー・ウィルソンとキャノンボール・アダレーがかつて演奏したバラードが選ばれています。
 ここまでの2曲を聴くと、リズム陣は実に穏当にリーダーに寄り添い、後述するマルサリス兄弟のアルバムでの攻撃的なプレイとは対照的な「優しさ」を感じます。これ以降の曲も、このアルバムにおけるリズム陣の役割は同様で、控え目ながらKenny KirklandとJeff "Tain" Wattsのコンビならではの鋭い「反応」が、あくまでも上品にギター(或いはブランフォードとニコラス・ペイトン)をプッシュしている・・・このような控え目で優しいリズム陣の対応がこのアルバムの最大の特徴だと思います。
 さらに、短いながらもキラッと光るソロを聴かせるKenny Kirklandのプレイは秀逸です。私はこの人のピアノ・プレイに、本人が意識しているかどうかは別として、きちっと組み立てられた「構成美」みたいなものを感じます。与えられたソロのスペースの中で、言うべきことをきちんと並べ揃えながら独自の口調で語っている、とでも言うのでしょうか。それでいて頭でっかちでなく、情緒と言うか、色気さえ感じさせるダンディな語り口で、本作のような比較的穏当なサウンドの中で、このような彼のプレイを「心穏やか」に味わうことができるというのも、本作の魅力でしょう。彼は1998年に43歳の若さで亡くなってしまうのですが、このことは残念というほかに言葉が見つかりません。
 最後にリーダーのギターについてですが、私としてはここまでに述べたように終始リズムを中心にこのアルバムを聴く、というのが正直なところで、少なくとも「リズム鑑賞」の邪魔にはなっていませんし、私は彼のリーダーアルバム第一作「The Marksman」から2004年録音の「Trio Paradise」までを聴いていますが、ここでのプレイはその中で最も好ましいパフォーマンスだと思っています。いずれにしても、素晴らしいリズム陣を従えた本作を我々に届けてくれたのですから感謝しなければなりません。

 Kenny KirklandとJeff "Tain" Wattsのコンビと言えば、Wynton Marsalis(ウィントン・マルサリス)の「Black Codes(1985年録音、CBS)」での弾けまくるリズムが発表当時に話題になりましたが、「マルサリス兄弟の演奏はどうも鼻についてね」と敬遠している私のようなリスナーにとっては、本作「True Blue」は「程よく尖ってはいるけれど、ちょうど良い塩梅に聴きやすい」といった趣きのアルバムで、この二人(KennyとJeff)のプレイをゆっくり味わうには最適な一枚です。

Buck Hill / Impulse

Label: Muse Records
Rec. Date: July 1992
Personnel: Buck Hill (ts, cl), Jon Ozmont (p), Carroll Dashiell (b), Warren Shadd (ds)
Hill Buck_199207_Impulse 
1. Blues in the Closet [Oscar Pettiford]
2. You Taught My Heart to Sing [McCoy Tyner]
3. Random Walk [Hill]
4. Impluse [Hill]
5. In a Sentimental Mood [Duke Ellington, Irving Miles, Manny Kurtz]
6. Sweet Georgia Brown [Ben Bernie, Maceo Pinkard, Kenneth Casey]
7. Solitude [Duke Ellington, Eddie DeLange, Irving Mills]
8. Ottowa Bash [Hill]
9. How Do You Keep the Music Playing [Michel LeGrande, Alan and Marilyn Bergman]
10. Now's the Time [Charlie Parker]

 「Reuben Brown / Ice Scape」の記事で少し触れましたが、ワシントンD.C.出身のベテラン・サックス奏者Buck Hill(バック・ヒル、1927年生まれ)が1992年に録音したリーダーアルバムです。
 今回の記事を書く準備をしているときに知ったのですが、Buck Hillは2017年3月に90歳の生涯を閉じています・・・合掌。

 1950年代後半にギタリストCharlie Byrd(チャーリー・バード)の2枚のアルバムに参加したのが彼のレコード・デビューのようですが、残念ながらこれらのアルバムを私は聴いていません。手元にある彼の最も古い録音は、同郷のトランぺッターAllen Houser(アレン・ハウザー)のなぜか日本盤CDも出ていて、その筋では人気盤らしい「No Samba(1973年リリース、Straight Ahead)」というアルバムで、その後、最初のリーダーアルバム「This is Buck Hill(1978年録音、Steeple Chase)」を録音したのは51歳の時。不遇だった1950、60年代は郵便配達やタクシー・ドライバーをやっていたらしいですが、絵に描いたような「遅咲き」のミュージシャンです。
 因みに彼と同じ1927年生まれというとスタン・ゲッツ、リー・コニッツ、ウォーン・マーシュ、ジェリー・マリガン、一歳年上にジョン・コルトレーン、一歳年下にジョニー・グリフィン・・・特に意図はありませんが、そういう年代のミュージシャンということです。それにしてもリー・コニッツはいまだに現役ですから元気ですね。

 上記「This is Buck Hill」から約10年後、1989年から92年にかけて「Capital Hill」を皮切りにMuseレーベルから4枚のリーダーアルバムを発表、本作「Impulse」はその最後に当たります。メンバーは前作(つまりMuse第三作)の「I'm Beginning to See the Light」と全く同じで、彼をサポートするリズム陣に馴染みの名前はいませんが、三人とも地元ワシントンD.C.のミュージシャンのようです。

 1927年生まれのBuck Hillがビバップの洗礼を受けたのはちょうど二十歳のころになります。そのころに形づくられたであろう彼のサックス奏者としてのスタイルは、その後大きな変質もなく(もちろん色々な面での上達や洗練、成熟はあったでしょうが)、65歳の時に録音された本作でもそのまま発露されている・・・私はこのように勝手に想像しています。
 敢えて(あくまでも「敢えて」ですが)上に掲げた同年代のサックス奏者でたとえるならば、一歳年下のジョニー・グリフィンを「音数を少々間引いて、もっとお上品にした」といったところでしょうか。特に目新しいことをやるのではなく、或いは個性際立つというのではなく、正攻法でダンディなフレーズを繰り出すスタイルの持ち主です。
 アルバムのオープナーはオスカー・ペティフォード作のブルーズで、軽快に、そして快調にブロウを披露し、続くマッコイ・タイナー作の2曲目では寛いだバラード吹奏を聴かせ、既にアルバムの最初の2曲で聴き手はすっかり良い気分になってしまいます。軽快なリズムの彼自身のオリジナル3,4,8曲目とスタンダードの6曲目、またジェイムス・イングラムとパティ・オースティンが歌ったバラードの9曲目も同様で、おおらかで寛いだ語り口は、これは完全に彼の世界でしょう。
 一方、本アルバムでは5,7,10曲目の3曲で、Buck Hillは珍しくクラリネットを吹いているのです(おそらく彼がクラリネットを手にしたアルバムは本作のみと思います)が、これがなかなか聴かせるのです。今回の記事で本作「Impulse」を選んだ理由は、この3曲での彼のクラリネットに他なりません・・・話がだいぶ後先になってしまいましたが。
 5,7曲目は、これまでBuck HIllが自身のアルバムでしばしば取り上げてきたエリントン・ナンバーからの選曲で、この2曲での懇ろにクラリネットを吹くバラード演奏は、テナーとはまた一味違った深みを感じます。テナーを吹く二つのトラックを挟んだ終曲では、まるで彼のクラリネットをもう一度聴きたいという聴衆のアンコールに応えるかのように、チャーリー・パーカーのお馴染みのブルーズをスマートに吹いて、ステージならぬアルバムを締めくくります。

 好不調などとは無縁に、Buck Hillはいつもちゃんと自分を表現しているということが聴き手に伝わってきますし、彼のプレイに私は「本物」の匂いを強く感じます。なかでも3曲で聴かせるクラリネットは「お見事!」と掛け声を発したくなるような演奏で、駄作のない彼のアルバムの中でも、特に記憶に残る作品になりました。

Angelica Sanchez / Wires & Moss

Lebal: clean feed
Rec. Date: Sept. 2011
Personnel: Tony Malaby (ts, ss), Marc Ducret (g), Angelica Sanchez (p), Drew Gress (b), Tom Rainey (ds)
Sanchez Angelica_201109_Wire Moss 
1. Loomed
2. Feathered Light
3. Soaring Piasa
4. Dare
5. Wires & Moss
6. Bushido

 リーダーのAngelica Sanchez(アンジェリカ・サンチェス)は1972年アリゾナ産の女流ピアニストで、このblogでたびたび扱ってきたサックス奏者Tony Malaby(トニー・マラビー)の奥さんです。
 今回取り上げる「Wires & Moss」は彼女の4枚目のリーダーアルバムに当たり、メンバーは夫君のTony Malaby、これまたお馴染みのフランス人の異才ギタリストMarc Ducret(マルク・デュクレ)、このblogでは初登場ですがTony MalabyやTim Berneと共演の多いベーシストDrew Gress(ドリュー・グレス)、「Richard Bonnet / Warrior」「Peter Herborn / Traces of Trane」「特集記事 Tim Berneの三つのユニット」に参加のTom Rainey(トム・レイニー)とのクインテット編成です。

 Angelicaは本作の4年前に、全く同じメンバーで「Life Between(2007年録音、clean feed)」というアルバムを録音しています。さらに少し遡ると、Tony MalabyとMarc DucretはTonyの最初のリーダーアルバム「Sabino(2000年録音、Arabesque)」で共演しています。これらのアルバムは、理想的な、と言うか贔屓のフリー系ミュージシャンの共演ということで、私にとってはどれも文句なしの作品でしたが、今回はこれらの代表選手として、Marc Ducretの活躍が印象に残る本作「Wires & Moss」を選んだ次第です。

 本アルバムでは、全曲リーダーのAngelicaのオリジナルが演奏されています。彼女の作る曲、或いはこのクインテットの演奏は「リズムは明快、テーマやメンバーのアドリブはかなりアブストラクト」・・・非常に乱暴に言ってしまうとこんな感じでしょう。
 「リズムが明快」と感じさせるのは、やはり名手Tom Raineyに負うところが大きいと思います。どの曲も基本的にリズムはキープされるのですが、Tim Berneの特集記事でも述べましたように、この人が、特に本作のようにフリーに傾くようなバンドでタイコを叩くと、サウンドがグッと安定し、骨格が明確になります。しかも左右に音場が広がる良好な録音が、彼のこのようなドラミングを的確に捉えています。

 ここが私にとっての本作の重要ポイントですが、上にも書きましたように、本作でのMarc Ducretは実にキレています。特に1,4,6曲目(なぜか曲名は"Bushido"武士道?)では、彼の持ち味である危険な香りが色濃く漂う変態度全開のソロが炸裂しますし、5曲目冒頭の長い「カデンツァ」(正確な用語ではないかもしれませんが、ここでは無伴奏のソロという意味で使っています)にも痺れます。その他の楽曲も、Tonyをはじめとするメンバーとのカラミでキラッと光るプレイを聴かせており、改めて申し上げますが、このアルバムでのMarcの活躍ぶりは実に印象的です。

 一方のTony Malabyですが、本アルバムのどの楽曲でも彼のドロドロとした~「情念」という言葉が思い浮かぶような~個性がきらめくプレイを聴かせてくれ、ファンとしては大満足といったところです。冒頭曲でのアブストラクトなソロも見事ですが、彼らなりの「哀愁のメロディ」とでも言うべき3曲目では、それこそ「情念」を感じさせる彼のブロウが曲想にピタッとはまっていて、深く理解し合ったTonyとAngelicaによる親密な音楽世界を描き出しています。

 最後にリーダーのAngelica Sanchezですが、これまでblogで扱ってきた例えばGeri AllenやMichele Rosewomanなどの女流ピアニストのようにゴツゴツと攻め立てるタイプではなく、比較的柔らかい(或いは優しい)タッチで淡々と「アウト」する言わば「女性らしい(?)」フリージャズ・ピアニストといったところでしょうか。それでいて「弱さ」を全く感じさせないプレイ・スタイルの持ち主で、Tony MalabyとMarc Ducretという個性のかたまりみたいなミュージシャンとしっかりと渡り合える力強さもこのアルバムでのプレイで証明していると思います。

 Tony MalabyとMarc Ducretという贔屓の共演というだけで私は無条件に受け入れてしまいますが、中でも本アルバムでのMarcのプレイはキレキレに弾けていますし、Tonyのプレイには風格さえ感じさせるスケールの大きさがあり、Tom Raineyの下支えもバッチリと効いていて「良いこと尽くめ」の力作・・・褒めすぎかもしれませんが、それくらい気に入っているアルバムです。
プロフィール

sin-sky

Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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