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David Liebman / A Tribute to Wayne Shorter

Label: Mama Records
Rec. Date: Feb. 2014
Personnel: David Liebman (ss, fl), Jim Ridl (p), Vic Juris (g), Tony Marino (b), Marko Marcinko (ds), Bob Millikan (tp, flh), Brian Pareschi (tp, flh), Dave Ballou (tp, flh), Danny Cahn (tp, flh), Patrick Dorian (tp, flh), Tim Sessions (tb), Scott Reeves (tb, alto-flh), Jason Jackson (tb), Jeff Nelson (bass-tb), Gunnar Mossblad (director, as, ss, fl), Tom Christensen (as, fl), Dave Riekenberg (ts, fl, cl), Tim Ries (ts, cl), Chris Karlic (bs, cl), Mats Holmquist (arr)
Liebman David_201402_Tribute Shoter
1. Infant Eyes
2. Speak No Evil
3. Yes or No
4. Nefertiti
5. El Gaucho
6. Iris
7. Black Nile
[all compositions by Wayne Shorter]

 今年の『同時代のジャズ』は、我らがデビッド・リーブマンのビッグバンド作『A Tribute to Wayne Shorter』で締めくくりたいと思います。
 リーブマンのレギュラー・バンドにリード及びブラスセクションが加わるビッグバンド(以前取り上げた『David Liebman / Live As Always』と多くのメンバーが重複しています)編成で、Mats Holmquist(マッツ・ホルムキスト、スウェーデン産)という人が全ての楽曲をアレンジしています。

 このウェイン・ショーターに捧げられたアルバムは、ご覧のとおり私たちがよく知っているショーターのオリジナルがズラッと並んでいてそれだけでワクワクしますが、まずこれらの素材(ショーター・オリジナル)がどのように扱われているかというところをみていきたいと思います。

 マッツ・ホルムキストのアレンジは、原曲(初出演奏)のイメージを活かしながら(ここがポイントですが)あまりこねくり回さない、或いは「別の味付け」を加えないストレートな正統派という感じで、これだったらショーターを愛好する我々リスナーにとっては納得できる、そして説得力のあるサウンドと言ってよいでしょう。
 アルバムはショーター究極のバラード”Infant Eyes”でスタートします。リーブマンのソプラノがリードし、バックではブラス・リードセクションがハーモニーを加え、ビッグバンドの特性を活かしつつ、しっとりと、そして上品なバラードに仕上げています。上に書いた正に「説得力のある」演奏です。
 以下の楽曲もこのような方法でスマートに、品良く処理されており、ショーターのヒットパレードということもあって、アルバムを一気に通して聴いてしまいます。

 ここでのリーブマンは(アドリブ・ソロは)ソプラノ一本に絞っており、どのトラックも全体に抑制を効かせたプレイに徹し、このblogでたびたび用いる「ブチ切れ」は影を潜めています。まるでショーターへの敬意から今回のレコーディングはソフトに丁寧にいこう、と決めていたかのようなプレイです。とは言ってもそれが物足りないと感じることは全くありません。ショーターの音楽への理解と共感に裏打ちされた深みのあるプレイ・・・そういう印象です。

 リーブマンのレギュラー・バンドだけの演奏だったらもっと退屈なものになっていたかもしれない、と思わせるくらい彼のバンド(リズムセクション)とビッグバンドが一体となって創り出す優れたショーター集で、リーブマンのビッグバンドものではトップクラスの出来になっていると思います。

最後に恒例の年末ご挨拶です。
『同時代のジャズ』の数少ない読者の方々へ・・・
どうぞ良いお年をお迎えくださいませ。

Beirach, Liebman / Quest for Freedom

Label: Sunnyside
Rec. Date: June 2009
Personnel: Richie Beirach (p), David Liebman (ss, wooden-fl), Jim McNeely (cond), Frankfurt Radio Bigband
Beirach Richie_200906_Quest fot Freedom
1. Pendulum [Beirach]
2. Jung [Liebman]
3. Vendetta [Liebman]
4. Wtc [Liebman]
5. Port Ligat [Liebman]
6. Enfin [Liebman]
7. The Sky is the Limit [McNeely]
[all arrangements by McNeely, except “Wtc” by Heiner Schmitz]

 今回取り上げる『Quest for Freedom』は、デビッド・リーブマンとリッチー・バイラークが過去にしばしば演奏してきたレパートリーを中心に、Jim McNeely(ジム・マクニーリー)アレンジ(ただし4曲目を除く)のフランクフルト・ラジオ・ビッグバンドをバックに二人のソロをフィーチャーしたアルバムです。
 演奏される楽曲のうち1, 7曲目はライブ録音、また6, 7曲目はこのアルバムのために用意されたものと思われます。なおリーブマンは所どころで木製フルートを使いますが、基本的にソプラノのソロがフィーチャーされています。

 ピアニストとしてリーブマンとの共演歴もあるジム・マクニーリーですが、彼のアレンジはどこまでも「生真面目」に素材を扱っているなという印象を受け、そして彼が操るドイツのビッグバンドも複雑で技巧的なアレンジをカチッと隙のなく聴かせるのですが、当然ながら(と言うかなんと言うか)「遊び」の要素は希薄なので、全体として少々「重い」印象を受けます。それに蛇足ながら、どうも選ばれた楽曲(特に2~4曲目あたり)がビッグバンドでやるにはちょっとねえ、という感じがしないでもありません。別に貶している訳ではありませんし、こういうサウンドを彼ら三人(バイラーク、リーブマン、マクニーリー)が目指し、そしてそれが実現しているということなのでしょう。

 ということで、いくつかのトラックを拾ってみていきます。
 オープナーは我々リーブマン・ファンには馴染みの”Pendulum”。言うまでもなく初出は1978年録音の同名アルバム(『今世紀に入って発掘された音源 三題』参照)で、作曲者バイラークも人気盤『Elm』(1979年録音、ECM)で取り上げた佳曲です。
 バイラークのゴリゴリ・ピアノによるイントロから私たちがよく知っているメロディがビッグバンドにより重厚に演奏されます。Tony Lakatos(トニー・ラカトシュ)のテナー、バイラークとソロが繋がれ、複雑なブレイクを経てリーブマン登場です。アブストラクトなアンサンブルとの4バース交換を挟んで徐々にヒートアップしソロの後半ではブチ切れていく・・・リーブマンのリスナーにとっては予定調和な流れではありますが、こういうリーブマンの渾身のプレイには痺れます。
 5曲目”Port Ligat”はリーブマン初期のアルバム『The Opal Heart』(1979年録音、Enja)に初収録され、その後『Time Line』(1989年録音、Owl)ではジム・マクニーリーもピアニストとして加わり演奏したバラードです。
 バイラークの幻想的・思索的なソロはバックのアンサンブルと絡み合いながら何とも言えないムードを醸し出します。続くリーブマンは一音一音確かめるようにソロをスタートさせ、ここでも徐々に熱量を上昇させながら素材の味わいを引き出すようなアドリブを展開していきます。
 ラストはマクニーリーのオリジナル。これまた複雑にメロディが絡み合うテーマ部に続きアップテンポの4ビートに乗ったリーブマンのパワフルかつテクニカルなソロがフィーチャーされます。彼のソロに限れば冒頭曲とともに本作のハイライトでしょう。続いてのバイラークのソロは、ここでもアンサンブルと複雑に絡みながらゴリゴリに攻め立てます。再びリーブマンが登場してエンディングを迎えます。

 ということで、「いくつかのトラックを拾って」と書きましたが、実はこのアルバムは上記の3曲のみ聴いて他の4曲はいつも飛ばしています。今回改めて全曲を聴き通しましたが、やはりこの3曲で充分、特にライブで録音された1, 7曲目の出来は素晴らしいものがあります。
 広く、或いは手放しでお勧めはできませんが、ご興味がおありでしたら(ちょっと辛気臭い)ゴリゴリのビッグバンドをバックに吹くリーブマンを楽しんでみてはいかがでしょうか。

Arturo Sandoval / Hot House

Label: N2K Encoded Music
Released in 1998
Personnel: Arturo Sandoval (tp, flh, synth, vo), solos: Michael Brecker (ts) [1, 3], Patti Austin (vo) [4], John Stephens (p) [5, 10], Ed Calle (ts) [5, 7], Rey Ruiz (vo) [6], Tito Puente (timbales) [6, 11], Rene Toledo (g) [7, 9, 10], Charles McNeill (ts) [8, 9]
Sandoval Arturo_199799_Hot House
1. Funky Cha-cha [Sandoval]
2. Rhythm of Our World [Sandoval]
3. Hot House [Tadd Dameron]
4. Only You (No Se Tu) [Armando Manzanero]
5. Sandunga [Sandoval]
6. Trio [Sandoval]
7. Closely Dancing [Sandoval]
8. Mam-Bop [Sandoval]
9. New Images [Sandoval]
10. Cuban American Medley:
Back Home Again in Indiana [James Hanley, Ballard McDonald] ~ Little Lulu Theme Song [Fred Wise, Buddy Kaye, Sidney Lippman] ~ Take Me Out to the Ballgame [Albert Von Tilzer, Jack Norworth]
11. Brassmen's Holiday [Mario Ruiz Armengol]

 今年最後の「年忘れ歳末特別記事」(?)は、難しいことを言わずに脳ミソの皺を思いっ切り伸ばすアルバムをご紹介という趣旨で、ご存知Arturo Sandoval(アルトゥーロ・サンドバル)が1998年にリリースしたアホらしくも(?)楽しい『Hot House』というアルバムを取り上げたいと思います。
 アルトゥーロ・サンドバルは地元キューバで活動したのち、1990年にアメリカに亡命、渡米後はGRP, Columbia, Concordなどのレーベルからビッグバンドのアルバムを次々に発表し、もちろん全てを聴いているわけではありませんが、私の知る限りどれも彼の持ち味である「突き抜けた陽気さ」が色濃く反映された作品揃いで、今回の『Hot House』もそういうアルバムの中の一枚です。
 なお上記メンバーリストは、ソロをとるミュージシャンのみを記載したもので、バックにはリード及びホーン・セクションと賑やかなパーカス入りのリズム・セクションが参加しています。因みにドラムはWillie Jones III(ウィーリー・ジョーンズ)が全曲叩いています。

 先ほど「アホらしくも楽しい」と軽口をたたいてしまいましたが、本作に限らず彼のビッグバンドのアルバムは~必ずしも充分に練られたアレンジとは申しませんが~彼が表現したかったであろう突き抜けるような陽気さを表現するために、しっかりとしたテクニックに裏打ちされ充分に統制されたアンサンブルを聴かせていて、これは名人芸と言ってもよいくらいです。キューバ出身のミュージシャン(の多く)はこのようになかなか隙を見せません。
 そして、そもそも彼のアルバムについて優劣を論じるたりすることはナンセンスだと思うのですが、このような粒ぞろい(と言うか何と言うか)のアルバムの中から本作『Hot House』を取り上げた理由は、選曲の良さ(楽しさ)と曲の配置の妙ということです。これは本作の選曲が頭抜けているというのでは必ずしもなく、言うまでもなくわたくし個人の好みの問題です。
 特に出だしの3曲、すなわちゴキゲンなチャ・チャ・チャのリズムに乗ってあれよあれよとソロを繋ぐ冒頭曲、一転メランコリックな香りが漂う哀愁のメロディの2曲目、私たちがよく知っているタッド・ダメロンのバップ・チューンを100%アルトゥーロ流に料理した3曲目の流れは、リスナーを一気に引きずり込むような魅力にあふれています。この3曲で勝負はついた、と言ってみたくもなるくらいです。

 4曲目以降もペースダウン、と言うかテンションが下がることなく、16ビートあり(5曲目)、ややクサ目の有名曲をアフロ・キューバン・リズムで編集した曲(10曲目)ありと、バラエティに富んだ楽しい楽曲が演奏されていくわけですが、本アルバムのもう一つのポイントは参加ゲストの存在でしょう。
 まず1, 3曲目でソロをとるマイケル・ブレッカー、彼のソロが始まると空気が一気に変わりますが、私はこの人はこういう少々アホらしいお膳立てで(あまり長くない)見せ場を用意されると俄然本領を発揮するタイプではないか、と言うか私にはそういう場面での彼のプレイがよりシックリときます。
 また、4曲目ではスペイン語も交えてしっとり歌うパティ・オースティンは短いながらも聴かせますし、さらに6, 11曲目での説明不要なティト・プエンテのパーカス(ティンバレス)も文句なしということで、気の利いたゲストが活躍する楽曲の配置が絶妙です。

 という訳でグダグダと書いてしまいましたが、申し上げたいことはただ一つ、ウキウキとした気分になって脳ミソの皺が伸びるアルバムです、どうかご自宅のリスニング・ルームで酒のつまみに、はたまたドライブのお供にお楽しみください。


 最後に恒例の年末ご挨拶です。
 『同時代のジャズ』の数少ない読者の方々へ・・・
 どうぞ良いお年をお迎えくださいませ。

Jerry González / Music for Big Band

Label: Universal Music Spain
Rec. Date: Aug. 2005
Personnel (soloists): Jerry González (tp, per, vo) [all tracks], Norman Hogue (tb) [1, 3], Gorka Benítez (ts, fl) [1, 4], Pep Mendoza (g) [1], Albert Sanz (p) [1, 5], Perico Sambeat (ss) [2], Aleix Tobías (per) [2], Jesús Català (per) [4], José Luis Montón (g) [6], Dani Pérez (g) [4], Jorge Padro (fl) [6, 7], Mariano Díaz (elp) [7], Daniel Almada (vo) [7], Miguel Blanco (arr)
González Jerry_200506_Big Band
1. Fall [Wayne Shorter]
2. El Vito en el Congo [Miguel Blanco]
3. Goodbye Pork Pie Hat [Charles Mingus]
4. Nightfall [Larry Willis]
5. Grana [Enrique Granados, Miguel Blanco]
6. Duende y Aché [Miguel Blanco]
7. Rumba pa’ Kenny [Jerry González, Miguel Blanco]

 前々回前回に引き続いて、ビッグバンドが三回連続になりますが、今回はトランペット、パーカッション奏者Jerry González(ジェリー・ゴンザレス)の『Music for Big Band』というアルバムを取り上げます。

 ジェリー・ゴンザレスは1949年NY出身のプエルトリコ系アメリカ人で、2000年に渡欧し2018年に亡くなるまでスペイン・マドリードを拠点に活動したミュージシャンです。ジェリー・ゴンザレスと言えば彼が率いたthe Fort Apache Band(フォート・アパッチ・バンド)が知られていますが、私の手元でもそのフォート・アパッチ・バンドの(おそらく最初のアルバムの)1982年ベルリンでのライブ盤『The River is Deep』が彼の最も古い録音です。その後のアルバムもつまみ食い程度に聴いていますが、一方でラッパを吹かずにパーカッション奏者のサイドマンとして参加したアルバムも何枚かあって、例えば以前このblogで取り上げた『John Fedchock / New York Big Band』(ビッグバンド 三題)にも参加しています。

 本作『Music for Big Band』は、彼が渡欧してしばらく経った2005年にバルセロナで録音されたアルバムで、この後にもジェリーとのコラボ・アルバムをリリースするMiguel Blanco(ミゲル・ブランコ、スペイン産)が全曲アレンジを担当しています。
 四十名以上のミュージシャンが参加していますので上記メンバーリストはソロイストのみとしましたが、メンバーで私が知っている名前はピアノのAlbert Sanz(アルベルト・サンズ)とサックスのPerico Sambeat(ぺリコ・サンビート)くらいで、その他のメンバーもおそらくスペインのミュージシャンと思われます。
 演奏される楽曲はメンバーのオリジナルの他に、ウェイン・ショーターの“Fall”(彼は他のアルバムでもしばしばショーターを取り上げています)、ミンガスの” Goodbye Pork Pie Hat”(前回のCarla Bley盤でもやっていましたね)、フォート・アパッチ・バンドにも参加したピアニストLarry Willisのオリジナルが選ばれています。

 それほど熱心にジェリーを聴いてきたわけではありませんが、彼のプレイにはカリブ系のミュージシャン(ここで代表選手としてアルトゥーロ・サンドバル氏にご登場いただきます)にしばしばみられるような(少々偏見がありますが)「バカテクを背景とした底抜けの明るさ」みたいなものがあまり、と言うよりほとんど感じられず、誤解を恐れずに言えば70年代ジャズの「ゴリゴリ」を引きずったような頑固で少々不器用なラッパ吹きという印象を持っています。
 本アルバムでのジェリーのプレイを聴いても、その印象は変わりません。
 当然ながらどのトラックもジェリーのラッパがフィーチャーされるのですが、力強く吹くその音色は輝かしく吹き手の強い意志を感じさせる反面、フレージングはやはりどこか洗練されていない(極端に言えば「たどたどしい」)と言うか、滑らかでなくゴツゴツとしていて、こういう個性を持ったラッパ吹きというのは他にはあまり思い浮かびません。再び申し上げますが、私には70年代の(ゴリゴリ)ジャズの匂いがします。

 もう一方の主役ミゲル・ブランコのアレンジについて、私たちがよく知っているショーターの”Fall”とミンガスの” Goodbye Pork Pie Hat”の2曲をみてみます。
 いずれもラテン・パーカッションが賑やかに響くカリブ風、ラテン風のサウンドを装っているのですが、バックの重厚なハーモニー、バック・リフのつけ方やリズムの仕掛け方が実に凝っていて「捻り」が効いています。それでいて原曲のイメージは保たれている、と言うよりも大切にされているのが伝わってくる編曲で、特にこの2曲は多くのリスナーが「これで元は取った」と思うに充分な内容になっているのではないかと思います。
 馴染みの曲だけでなく、その他の楽曲もこのようによく考えられ練られた編曲が施されていて、どちらかと言えば「気合」の方が勝るジェリーのアルバムにあって、ミゲルを迎えてアレンジの妙を聴かせたというところが成功ポイントになっていると思います。

 ミゲル・ブランコのアレンジの捻りが効いて(効きすぎて)いてが何回か聴いてみないと全貌を掴めないようなサウンドですが、充分に考えられ、そして準備されて作られたビッグバンドということは間違いなく伝わってくる力作で、ジェリー・ゴンザレスのアルバムの中でも強く印象に残る一枚になりました。

Carla Bley / Big Band Theory

Carla Bley Big Band Theory
Label: Watt / ECM
Rec. Date: July 1993
Personnel: Alex Balanescu (vln), Lew Soloff (tp), Guy Barker (tp), Claude Deppa (tp), Steve Waterman (tp), Gary Valente (tb), Richard Edwards (tb), Annie Whitehead (tb), Ashley Slater (bass-tb), Roger Jonatta (ss, fl), Wolfgang Puschnig (as, fl), Andy Sheppard (ts, ss), Pete Hurt (ts), Julian Argüelles (bs), Carla Bley (p), Keren Mantler (org), Steve Swallow (b), Dennis Mackrel (ds)
Bley Carla_199307_Theory
1. On the Stage in Chicago [Bley]
2. Birds of Paradise [Bley]
3. Goodbye Pork Pie Hat [Charles Mingus]
4. Fresh Impression [Bley]

 前回の『Julius Hemphill Big Band』に続いて今回もビッグバンドで、キーボード奏者、作編曲家のCarla Bley(カーラ・ブレイ、『Carla Bley, Steve Swallow / Are We There Yet?』『Steve Swallow / Into the Woodwork』で既出)がビッグバンドを率いた『Big Band Theory』というアルバムを取り上げたいと思います。

 カーラの70~80年代のリーダーアルバムは本作より小ぶりのラージ・コンボ編成が主体でしたが、1988年録音の『Fleur Carnivore』(Watt / ECM)あたりから、モダンジャズで標準的に採用されるサイズのビッグバンド編成のアルバムを何枚か発表するようになります。そして本作『Big Band Theory』はその『Fleur Carnivore』から数えて三枚目のビッグバンドのアルバムに当たります。一方で当時は並行して、公私にわたってのパートナーであるSteve Swallow(スティーブ・スワロウ)とのデュオのアルバム(上記『Are We There Yet?』など)も発表していて、デュオからビッグバンドまで、彼女としてはきっと「乗っていた」時期だったのでしょう。

 ビッグバンドのメンバーにはラッパのLew Soloff(ルー・ソロフ)、Guy Barker(ガイ・バーカー)、ボントロのGary Valente(ゲイリー・ヴァランテ)、サックスのWolfgang Puschnig(ウォルフガング・プシュニグ)、Andy Sheppard(アンディ・シェパート)らカーラのアルバムの「常連組」が参加、さらにKaren Mantler(カレン・マントラー)がオルガンを、そしていつものようにSteve Swallow(スティーブ・スワロウ)がベースを弾いています。なお「スペシャル・ゲスト」のAlex Balanescu(アレックス・バラネスク)はwikiによると「ルーマニアのヴァイオリニストでバラネスク弦楽四重奏団の創設者」らしいですが、その筋(どの筋?)では有名な人なんでしょうか?

 カーラのアルバムをけっこう聴いてきた私の感覚で申し上げますと、この人の場合ラージ・コンボでも、或いはもっと小さな編成でも、そして本作のようなビッグバンド編成でも、彼女が創り出すサウンドの「肌触り」はほとんど変わらず(もちろん少々誇張はありますが)、いつものちょっとユーモラスな温かい音が出てきます。そしてこのビッグバンドでの彼女のアレンジはしっかりと作り込まれたかなり複雑なものなのですが、温かみのある「肌触り」の方が勝って、どの楽曲も不思議と技巧的な匂いがしません。これは彼女の個性と言うか才能と言ってよいでしょう。

 本作は4つの長尺トラックからなり、彼女の3曲のオリジナルに加えて、ミンガスの3曲目”Goodbye Pork Pie Hat”を取り上げています。二つのトラックを拾って見ていきましょう。

 最初はミンガスの3曲目です。
 様々なミュージシャンが取り上げるこの曲ですが、ご存じのようにかなり個性的なメロディですので、原曲のイメージを踏まえ(大切にし)ながら、カーラにしては割とストレートに料理しています。冒頭の無伴奏のソロを始め、ゲイリー・ヴァレンテのボントロを大きくフィーチャー(ここは聴きどころです)しながら、ブラス・リード・セクションが重層的なハーモニーを加え、ムード満点にミンガスの世界をカーラなりに描いていく印象的なトラックです。

 二つ目は”Bird of Paradise”というタイトルの2曲目。
 二十分を超えるトラックで、いくつかのパート~イントロ、インタールード、アウトロとしての短いパートを含めて八つのパート~から構成される組曲仕立ての大作です。
 乱暴に言ってしまうとジャズのビッグバンド然としたパートがあったり、クラシック調に響くサウンドがあったり、いずれもリズム・テンポ・調性が異なる各パートを一連の楽曲として扱いきってしまう見事なアレンジで、ここまでやられたら「参りました」と言うしかありません。間違いなく彼女の(作編曲家としての)「頂点」の一つを記録したトラックと言ってよいと思います。
 そして全体にわたって活躍するアレックス・バラネスクのバイオリンは、ジャズの匂いはあまりしないものの、カーラが創り出すサウンドとの違和感は全くありませんし、トラックの中ほど(四つ目のパート)でのガイ・バーカーのラッパや、(五つ目のパートでの)アンディ・シェパートのソロなども良い味が出ており、アレンジだけでなく各プレイヤーの聴きどころが随所に用意されていて、聴き手を惹きつけながらの大作に仕上げています。

 聴き終わってみると何とも言えない「充実感」が得られるビッグバンドの快作、いや力作と言った方がよいかもしれません。特に2曲目のようなスケールの大きいサウンドを鮮やかに実現した作編曲家としてのカーラの手腕とメンバーの力量に心から敬意を表したいと思います。
プロフィール

sin-sky

Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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