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その日、とある新聞社の取材を朝から受けました後、
急いで向島へ撮影用の『桜 餅』をピックアップしまして、
真っ直ぐ両国へ向かいまして、越後屋若狭の生菓子を受け取って横浜タカシマヤへ。
朝からドタバタと激しい一日の幕開けだったのですが、
いやあ、この日の生菓子は、一月ということで、淡い紅色の練切製『福 梅』をお願いし、
一年ぶりの再会を喜んでいたのですが、それ以上に楽しみにしておりましたのが、
今回全くの初めての登場となった『寄生木』だったのです。
まあ、普通ならば、『福 梅』に対しては、松を表現した生菓子、もしくは、
蓬を使った生菓子を相方に選んだ方が、色目として綺麗になるのです。
ですが、ここはどうしても・・・・!!!


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まず、『福 梅』ですが、いつもに比べてややこんもりとしておりまして、
梅の花の型押しが施されているのですが、細い線でしっかりと刻まれています。
これを見つめているだけでも、とっても愛らしい菓子だなあと思わせてくれます。
いつものように、とっても繊細で、きめ細やかな舌触りで、程良い甘さ。
トンと前に当ててくるような甘さもなく、均一に甘みが引き出されて、
ゆっくりと引いていくような、そんな印象なのです。
細長い箱を開けてみますと、仕切られているわけでもなく、
菓子がそのまま礼儀正しく、こっちを見つめているような気がするのです。
ポン、ポン、ポンと3個が、同じ梅の表情を見せて、何とも素敵だ。
これに対して、全く無表情で、どこか無機質にも感じる2個が、
左隅っこに寄り添っているのですが、今回の主役はこちら。

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見た目には、何の飾り気もなく、長方体に切り出されただけ。
舟和本店の『芋ようかん』のようなスタイルをしているのです。
上生菓子というよりは、羊羹のようにしか見えないのですが、
これが同じく、練切であって、この独特の色合いは、着色ではなく、黄な粉なのです。
いやあ、黄な粉をまぶしたり、振り掛けたりすることはありますし、
水飴や砂糖を加えて練り、洲濱のように仕上げるものはありましても、
黄な粉風味の練切というのは、意外にあまり出会わないのです。
いやあ、いつもの口どけで、流れて溶け込むような黄な粉の香り。
優しく、ふわっと浮き上がったかと思うと、ほのかに残る。
ズドーンと強烈な黄な粉一色に染まるわけではなく、どこまでも穏やかな味わい。
あ~あ、想像するだけでも食べたくなってしまって、思わず買ってしまう。

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最後に、その銘となっている『寄生木』は、〝よせぎ〟ではない。
寄生する木と書きまして、〝やどりぎ〟と読みます。
落葉樹に寄生する小さな植物なのですが、早春に黄色い花を咲かせるのです。
その花の色合いを表現しているのかと想像しつつ、もう一つ思いますのは、
あの「源氏物語」の宇治十帖にある巻名でもあり、光源氏亡き後、
その子とされる薫大将の運命をも匂わせているのではないかと深読みしたり、
あまりにもシンプルな拍子木の形であるだけに、その中にどんな世界が織り込まれているのか、
じっと食べる前に見つめ続けて推し量ってみると、とんでもない広がりを見せる。
もはや無重力空間に漂流しているような気分でもある。

 生菓子 寄生木 ・ 福 梅 5個入 税込2,225円

◆ 本 店/ 東京都墨田区千歳1-8-4 TEL: 03-3631-3605
◇ 販売店/ 日本橋・新宿髙島屋(1月:第3水曜日)、横浜髙島屋(1月:第4水曜日
  ※ 本店の注文状況や休業日によっては、別の販売日を設定する場合があります。