はてなキーワード: こんにゃくとは
なぜ人類は、この芋を食べようとしたのか。
こんにゃく芋には毒がある。シュウ酸カルシウムの針状結晶が、生のまま口に入れれば粘膜を激しく傷つける。食べた者は喉の奥が腫れ上がり、半日は声も出ない。それが何千年も前から知られていたはずの事実だ。
にもかかわらず、誰かがこの芋を諦めなかった。
灰汁の水で煮ると、毒が消える。固まって、食べられるようになる。その製法が記録に現れたとき——三世紀の中国の文献に、唐突に——それはすでに完成した形をしていた。試行錯誤の痕跡がない。失敗の記録がない。誰が、なぜ、どうやって辿り着いたのか。何も残っていない。
田辺朔がその問いに取り憑かれたのは、食文化史の論文を読んでいたある夜のことだった。
考古学者の田辺朔は、文献を読むのが好きだった。発掘現場よりも、図書館の方が性に合っていると自分でも思っていた。
四川省での調査から戻った夜、積み上げた資料の中にこんにゃくに関する論文があった。読み始めたのは習慣のようなもので、特に期待していたわけではない。
だが途中で、手が止まった。
こんにゃくの製法が文献に登場した時点で、すでに完成した形をしている。試行錯誤の痕跡が見当たらない。
田辺はその一文を三回読んだ。
学術論文が「見当たらない」と書くとき、それは単なる記録の欠落を意味する。資料が失われた、記録されなかった、そういうことは歴史にいくらでもある。だが田辺の頭の中で、何かが引っかかった。
こんにゃく芋は毒だ。誰もが知っているはずの毒だ。それを食べようとした人間が、なぜ灰汁で煮るという発想に辿り着いたのか。
田辺は東京大学の食品科学者、宮本冴に連絡を取った。学部時代の同期で、今は食品素材の物性を研究していた。
「グルコマンナンについて教えてほしい」
「珍しいね、考古学者がこんにゃくの成分を聞いてくるとは」と宮本は言った。「どこまで知りたい?」
「化学的に、全部」
宮本の説明は明快だった。グルコマンナンはこんにゃくの主成分で、アルカリ処理によって脱アセチル化し、不可逆的なゲル状ネットワークを形成する。常温で固まり、熱に強く、生体適合性が高い。そしてアルカリは同時に、シュウ酸カルシウムの針状結晶を溶解させる。
「つまり灰汁処理で、解毒とゲル化が同時に起きる」と田辺は言った。
「それを偶然発見したと思う?」
宮本はしばらく黙った。「……思わない、と言いたいところだけど、歴史的にはそういう偶然はある。でも確かに、この場合は条件が特殊すぎる気はする」
それから三週間、田辺は本来の仕事の合間にこんにゃくの文献を読み続けた。中国語の古典、本草書、食文化史の研究。宮本には追加の質問を送り続けた。
グルコマンナンゲルを調べていたら面白いことがわかった。宇宙線に対して異常なほど安定している。劣化しない。むしろ構造が強化される。こんな有機物、見たことない。あと——特定の周波数の重力波を、特定のパターンで吸収する。これ、もしかして記録してる?
田辺は画面を見つめた。
重力波の記録。
しばらくしてから、もう一通届いた。
なんでこんにゃくを調べ始めたの、って聞いてもいい?
食料として残したのではない。グルコマンナンゲルという素材の製造方法を、人類に習得させるために残した。毒のある植物、灰汁による処理、ゲル化。そのプロセスをまるごと文化に埋め込んで。派手な建造物でも、解読困難な金属板でもなく——食文化として。
もっとも長く、もっとも確実に、もっとも自然に継承される形で。
「でも目的は何だ」と彼は声に出した。
誰も答えなかった。
田辺はしばらく、何も言えなかった。
窓の外では東京の街が普通に動いていた。コンビニのおでんのなかで、こんにゃくが静かに煮られているはずだった。スーパーの棚に、糸こんにゃくが並んでいるはずだった。
グルコマンナンゲルが重力波を記録するなら、何千年分もの記録がすでにある。鍋のなかで、おでんのなかで、精進料理のなかで。
「何を記録させようとしてたんだろう」と田辺はつぶやいた。
それはまだわからない。そもそも、この仮説が正しいかどうかさえわからない。田辺には証明する手段がなかった。土器も、解読不能な文字も、何もない。あるのは記録の空白と、ひとつの食材の異常な物性だけだ。
まず、こんにゃくを買いに行かなければならなかった。
> 参考:グルコマンナンのアルカリによる脱アセチル化とゲル化、およびシュウ酸カルシウム結晶の溶解は実際の食品化学的事実に基づいています。重力波記録特性はフィクションです。たぶん。
群馬県がこんにゃくの生産量日本一(全国シェア90%以上)の理由は、火山灰土壌、中山間地の緩やかな傾斜、夏でも比較的涼しく水はけが良い気候など、こんにゃく芋の栽培に最適な環境が揃っていたからです。また、歴史的に下仁田地方を中心に加工技術が発展したことも大きな要因です。
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具体的な理由は以下の通りです。
適した自然環境: こんにゃく芋は、強い日差しや寒さ、乾燥を嫌うデリケートな植物ですが、群馬県の赤城山や榛名山などの火山灰土壌は水はけが良く、この栽培に適しています。
歴史的背景と技術: 江戸時代から続く伝統があり、明治時代以降、精粉(原料となる粉)の加工技術が進化し、栽培から加工まで一貫した体制が整いました。
品種改良と産地化: 下仁田町を中心とした中山間地域が主産地となり、栽培技術の向上や、より強く収穫が早い品種「みやままさり」などが開発・導入されたことで安定生産が可能になりました。
konnyaku.co.jp
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+8
群馬県は、原料である「こんにゃく芋」の栽培と、それを粉にする「製粉」のどちらも日本一を誇る、文字通りの「こんにゃく王国」です。
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