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チョコレートの健康効果 注目の意外なきっかけ

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カカオの香りと甘みの奥に広がるほろ苦さがおいしいチョコレート。近年、その健康効果も注目され、世界各地で研究が進められている。日本人を対象とした研究も報告されるようになった。2018年1月に開催された「チョコレートフォーラム」(主催:明治)における愛知学院大学心身科学部健康栄養学科客員教授・大澤俊彦さんの講演をもとに、血圧への効果を中心にチョコレートの健康効果について紹介する。

◇  ◇  ◇

世界最長寿者は週900gのチョコを食べていた!

これまでにチョコレートの健康効果に関する研究は数多く行われてきた。特にカカオポリフェノールに関する研究が進み、脳、膵臓(すいぞう)、肝臓、脂肪、血管、歯、胃、心臓、筋肉と、多岐にわたる健康効果が報告されている。

そもそもチョコレートの健康効果が注目されるきっかけとなったのは、世界の長寿者の中にチョコレートを好む人が多いことが知られるようになったためだ。例えば、122歳まで生きた長寿世界一のジャンヌ=ルイーズ・カルマンさん(1875年2月~1997年8月)は、1週間に2ポンド(約900g)のチョコレートを食べていたという。

「そのため1990年代後半から、どうもチョコレートは健康に寄与するのではないかと考えられるようになったのです」と愛知学院大学の大澤さんは話す。大澤さんは1998年に世界に先駆けてカカオポリフェノールの抗酸化性に関する論文を発表、以来チョコレートの健康効果について研究している。

高塩分摂取の割にクナの人々の血圧が低いワケ

大澤さんによれば、チョコレートの最も有名な研究は、米国ハーバード大学のホレンバーグ教授が行った「パナマ共和国の先住民族クナの研究」だ。

パナマ共和国の北東部、カリブ海沿いにあるサンブラス諸島に住む先住民族のクナは、チョコレートの原料であるカカオの実をすりつぶしてトウモロコシと混ぜた飲料を毎日5~7杯飲む習慣がある。この人たちと、都会のパナマシティに住み、現代の生活をしているクナ出身者を比較調査したところ、島に住んでいる人たちのほうが血圧が低く、心臓病や脳卒中、がんなどの発症率が低いことが判明した[注1][注2]。ところが血圧上昇の原因とされる塩分摂取量は、島に住んでいるクナのほうが多かったのである。というのも、クナの伝統食には塩分が非常に多く使われるからだ。

「この常識とは逆転した結果は、カカオの実を大量摂取したことによるポリフェノールの効果ではないかと考えられました」と大澤さんは話す。

海外で行われた他の研究でも、ダークチョコレート100g(ポリフェノールを約500mg含有)を約2週間継続的に食べた人は、ホワイトチョコレート90g(ポリフェノールを含まない)を食べた人に比べて、血圧が低下する傾向があったという結果が得られている[注3]

高カカオチョコの継続摂取で、体重は増えずに血圧低下

欧米を中心としたチョコレートの健康効果についての研究は数多く行われてきたが、日本人を対象とした研究はまだまだ少ない。そこで、愛知県蒲郡市と菓子メーカーの明治、愛知学院大学が産官学共同で「チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究」を2014年に実施した。

[注1]Bayard V, Hollenberg N K,et al. Int J Med Sci. 2007;4:53-8.

[注2]McCullugh,et al. M.L., J Cardiovasc Phamacol. 2006;47 Suppl 2:S103-9:119-21.

[注3]Grassi D,et al. Am J Clin Nutr. 2005;81(3):611-4.

日本人を対象としたチョコレート研究ではこれが初の大規模研究となった。研究は2014年3月にスタートし、2015年5月に研究グループは最終報告を発表している。

研究内容は、生活習慣病の患者率が愛知県で最も高い愛知県蒲郡市を中心に、45~69歳までの男女347人(男性123人、女性224人)を対象に4週間、カカオポリフェノールを多く含む高カカオチョコレート(カカオ分72%)を1日5枚(約25g)毎日食べてもらい、食べる前後の血圧や血液成分などの体の状態の変化を検証するというもの。

検証の結果、4週間、高カカオチョコレートを食べても体重および肥満度の指標であるBMI(Body Mass Index)に変化はなかった。一方、血圧は4週間後に最高血圧・最低血圧ともに低下。HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)は4週間後に上昇した。また、酸化ストレスの程度の指標となる8-OHdG、炎症の程度の指標であるhs-CRPの数値が、酸化ストレスの程度が高い人、炎症の程度が高い人で改善した。

「蒲郡市の研究報告から、高カカオチョコレートを継続的に食べると、体重は変化することなく、血圧低下、炎症マーカー・酸化マーカーの低下、HDLコレステロール上昇などの健康効果が得られることが実証されました。この結果から、高カカオチョコレートは動脈硬化予防の可能性も期待されます」と大澤さんは示唆する。

また、この蒲郡市の研究では、後に血液検査の結果を追加分析したところ、高カカオチョコレートを4週間食べた後には、脳細胞の増加に必要とされるBDNF(脳由来神経栄養因子)の血清中の濃度が上昇していることが分かった。BDNFはうつ病やアルツハイマー型認知症、記憶、学習など認知機能との関連性が注目されている物質である。

健康効果が期待されるチョコレートだが、市販のチョコレートの食べ過ぎは、カロリーの過剰摂取にもつながるため、気を付けたいところだ。

大澤俊彦さん
 愛知学院大学心身科学部健康栄養学科客員教授。長年、機能性食品の研究に携わり、特に抗酸化食品研究の第一人者として知られる。日本フードファクター学会理事長、日本ゴマ科学会会長、アスタキサンチン研究会会長、日本予防医学会常任理事などを歴任。

(ライター 伊藤左知子、作図 増田真一)

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