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球界のリーダー不在…開幕日騒動で浮かんだ課題

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プロ野球は26日の臨時オーナー会議で、セ、パ両リーグとも4月12日に開幕日を延期することを承認した。公式戦日程の見直しの検討を始めた15日の実行委員会から、実に11日後。二転三転したセ・リーグの「迷走」はどうして起きたのか。そして今回の騒動を通して浮かんだプロ野球が抱える課題とは……。

巨人は「野球で元気を」と強調したが…

未曽有の大災害で、プロ野球は何ができるか。「球界の盟主」とされる巨人のとらえ方は明快だった。パ・リーグが4月12日開幕に延期する一方で、セ・リーグが当初予定通りの3月25日開幕を発表した17日、巨人の清武英利球団代表は強調した。「野球人は、野球を通じて利益を上げ、社会に還元したり、義援金を被災地に届けたりすることができる」

巨人のある幹部は「事業面の理由はまったくない。野球をすることで社会に元気を与えたいと考えた」と話す。あくまでもプロ野球の日本における存在価値を念頭に置き、非常時こそ、野球の力が役に立つと見込んだのだ。

巨人の論理に2つの壁

こうした巨人の論理の前には2つの壁が立ちはだかった。1つは、東京電力と東北電力管内で深刻化する電力不足の問題。もう1つは「いまはまだ野球をする時期ではないのでは」と主張する選手会の声だ。これらとどう折り合うか、そこに戦略がないまま突き進んだのが大きな問題だった。

電力事情が悪化している関東・東北で、最も電力を消費する球場が巨人の本拠地、東京ドーム。1試合の電力消費量は一般家庭3500世帯分以上の3万5000キロワット時以上となる。デーゲームは少し照明を落とせるが「それほど消費電力を下げられない」(東京ドーム)という。

東京ドームでの開催をやめ、電力不足の心配のない西日本の他球団の球場や地方球場で試合を行うことにすれば、ある程度の理解は得られたかもしれない。ただ、地方開催は「金がかかる」(関係者)といい、収益を度外視しての興行は選択肢にはなかった。

「野球ができる環境以外では極力節電に努力する」「監督官庁の指示に従い、無理なら中止することもある」。いずれも、セが開催地・時間を従来通りの方針で進めていくことを説明した際の、新純生セ理事長(ヤクルト球団常務)の言葉だ。節電策は「二の次」と考えていると受け取られかねないような発言が、世間の反感を呼んだ。

軌道修正した案も突き返される

翌日の18日、日本野球機構(NPB)では苦情電話が鳴り響き、プロ野球の監督官庁である文部科学省は鈴木寛副大臣名義でNPBの加藤良三コミッショナーに対し、日程の再調整を促す通達を出した。

通達内容は、東京・東北電力管内でのナイターの自粛と同管内以外で試合をする努力。この段階ではあくまでも「野球はいいが、迷惑をかけないように」との指示だった。ただ、世論と同調して選手会が勢いづいたことで、開幕日程の変更も検討課題に浮上した。

19日のセ緊急理事会。前回は根回し不足だったことの反省もあり、今回は事前に文科省側にある程度の相談をしていたという。そして3月29日への開幕延期、電力消費を抑える「減灯ナイター」の実施などを発表した。

しかし、この決定も却下されることになった。22日、加藤コミッショナーが当初から軌道修正したこの案を持って関係省庁を訪ねたが、高木義明文科相から「ナイター実施は国民の理解を得られていないと思う」と突き返された。事前に相談していたのに"はしごを外された"格好。ある球界関係者は「副大臣以上と相談する必要があった」と漏らす。

大臣から選手会にエール

大臣訪問には選手会の新井貴浩会長(阪神)も同席した。高木文科相、蓮舫節電啓発担当相らから「選手会の意思がファンの声」といった"援軍"を送られ、「プロ野球が公共財ならファンの理解、国民の理解を得てやるのが当然」と語気を強めた。

こうなると、巨人が唱えた「野球の意義」の理論もどこかに消えてしまった。「セ・パが同時開幕すればいいのではないか」といった声が世論になる。

「4月9日のセ・パ同時開幕でどうか」。これが最後の抵抗だった。パが開幕を予定する4月12日は巨人―ヤクルトが山口県宇部市で組まれおり、巨人としては地方での開幕を避けたかったのだ。だが、パ側にあえなく断られる。結局セは24日、3月中の開幕を断念、パに合わせる形で4月12日に延期した。

ある球団幹部は今回のドタバタ劇について、こう持論を述べる。「周囲の声に耳を傾けず、野球が絶対的に受け入れられると決めつけた巨人の発想は過去の産物。プロ野球以外の娯楽が少なかった昔は通用したかもしれないが、今は状況が違う」

何ができるかの議論をすべきだった

2010年の巨人戦のテレビ生中継は30試合ほど。視聴率が下がり、スポンサー離れもいわれる中で露出度は激減した。全試合が放送され、テレビ局間で枠の取り合いがあったのは過去の話。プロ野球に向けられる目はもはや、必ずしも羨望(せんぼう)ではない。

野球は未曽有の災害の中、何ができるのか。この議論を、本来は真っ先にすべきだったのだろう。それも、できうる限り迅速に。世間の反発を買いながらも「予定通りの日程ありき」と強行姿勢を崩さなかった巨人を、他球団が力関係で抑えきれないのであれば、調整役ができるのはコミッショナーしかいなかった。

コミッショナーも指導力を発揮せず

しかし、加藤コミッショナーは17日、「気力を振り絞って真剣勝負を見せることがプロ野球人の社会的責務」と巨人に同調。その後も指導力を発揮することはなく、26日になって「(球界が)一体となって進む姿勢が確認された。具体的な姿になるまでこれだけの経過が必要だったのはやむをえない」と12日間の騒動を回顧した。

日本中が協力し合おうとしているとき、セとパが乖離(かいり)し、選手会とも折り合えず、監督官庁の指導でようやくまとまったプロ野球。球界の進むべき方向性を指し示すリーダーがいない――。"コップの中"で繰り広げられた騒動で、そんな課題が改めて浮き彫りになった。

(北西厚一)

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