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大阪の銭湯、壁に富士山なし 黄色のケロリンも小さめ

とことん調査隊

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大阪の銭湯で湯船につかりながら、ふと壁に違和感が。東京の銭湯ではおなじみの富士山がない――。代わりにタイルで描いた金魚の絵があった。富士山のペンキ絵よりタイルを使った装飾が一般的という。大阪の銭湯にはどんな特徴があるのか、調べてみた。

日本銭湯文化協会(東京・千代田)によると、最初に富士山のペンキ絵が東京の銭湯に登場したのは1912年(大正元年)。東京都千代田区にあったキカイ湯が、子どもたちを喜ばせようと、ペンキ絵を依頼。画家が静岡県出身だったため、地元のシンボルである富士山を描いた。利用者から人気を集め、他の銭湯もまねするようになった。

地理的に遠い大阪では、こうした流行が広がらなかった。関西で約200軒の銭湯の建設やメンテナンスを手掛けるナニワ工務店(大阪市)の和田優人さんは「大阪ではペンキ絵の代わりにタイルで壁を飾る銭湯が多い」と話す。

絵付けしたタイルを並べて一つの大きな絵を描く「タイル絵」、色とりどりのタイルを組み合わせモザイク画をつくる「モザイクタイル」の2種類がある。モチーフは動物や歴史的建造物など幅広い。和田さんは「大阪では富士山はメジャーではない」としたうえで、「タイルの壁も全国でみられ、大阪に限ったものではない」という。

では、大阪の銭湯の特徴はなんだろう。皆様温泉(大阪府四條畷市)の店主、土本昇さんは「湯船が浴場の中央にある」と話す。東京では入り口付近から中央にかけてカラン(蛇口)が並ぶ洗い場があり、奥に浴槽があるのが一般的だ。大阪は中央の浴槽を囲むように壁側にカランがある。浴槽の周りは腰をかけやすいよう段差がついている。

源流は大阪の「かけ湯文化」だ。東京では洗い場で先に体を流して湯船につかるのが主流だが、大阪では浴槽のお湯を手桶(おけ)でくみ取り体を流す。より多くの人が使いやすいように浴槽を中央に置く造りになったそうだ。

銭湯といえば、黄色い「ケロリン桶」。実はこれもちょっと違う。関東の直径22.5×高さ11.5センチメートルに対し、かけ湯文化の関西は直径21×高さ10センチメートルと一回り小さく、重さも100グラム軽い。桶を販売する富山めぐみ製薬(富山市)は「片手でも楽に扱えるように」と理由を教えてくれた。皆様温泉の土本さんは「湯船のお湯をあまり多く使われては困るといった説も後付けだがある」と笑う。

他にも、浴場の床から脱衣所の天井、のれんの長さ、番台の高さに至るまで、違いは多い。その理由はよく分からないものも多い。

ただ、こうした伝統的な造りが今なお残る銭湯は少ない。大阪府公衆浴場業生活衛生同業組合(大阪市)によると、戦後から高度経済成長期の昭和40年代ごろに利用者が急増し、府内の銭湯は2300軒を超えピークを迎えた。しかし、一般家庭に風呂が普及すると、銭湯需要は次第に低迷。昭和60年ごろには銭湯の老朽化も進んだ。

せっかく建て直すなら、もっと利用者を増やせないか。大阪で始まったのが銭湯のレジャー化だ。ジャグジーや電気風呂、サウナのある銭湯が登場した。

「楽しんでもらいたいという大阪人の精神から、当時では画期的な機能がたくさん生まれた」(ナニワ工務店の和田さん)。レジャー化は東京にも広がり、東西の銭湯の違いは少なくなった。

銭湯は減少傾向にあり、今は府内に約300軒。最近は若者の間のレトロブームを受けて、タイル絵など伝統的な建築様式を取り入れる新しい銭湯が生まれている。「利用者を楽しませたい」と、時代に合わせて変化し続けてきた銭湯。これからどんな進化を遂げるのだろうか。(大竹初奈)

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