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阪神大震災29年、経験生かし防災へ誓い 能登と「ともに」

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6434人が亡くなった阪神大震災は17日、発生から29年を迎えた。最大震度7を観測した神戸市では市民らが追悼会場に足を運び、犠牲者を悼んだ。1日には能登半島地震が発生。多くの人々が避難生活を余儀なくされている。「ともに助け合おう」。被災者に寄り添い、震災の経験を生かしていく取り組みが求められる。

神戸と能登「ともに」 灯籠の文字に願い 

犠牲者の名前を刻んだ銘板がある神戸市中央区の公園「東遊園地」には冷え込んだ夜空の下、多くの市民らが集った。地震発生時刻の17日午前5時46分の時報とともに黙とう。周囲は静寂に包まれた。

竹や紙の灯籠でつくられたのは「1995 ともに 1.17」の文字。能登半島地震の被災者に寄り添い、「一人ではない」「ともに助け合おう」といった思いが込められた。

「29年たっても、あの日は忘れられない」。兵庫県西宮市の会社員、大西景継さん(52)は神戸市東灘区にあった自宅が倒壊し、3歳年上の姉、里子さんを失った。

明るい性格で交友関係が広く、震災後もしばらく年賀状が届き続けたと懐かしむ。「どうか安らかに」。姉の名が刻まれた銘板の前でそっと手を合わせた。

高校3年生の孫(18)と訪れた大阪府柏原市の山辺武子さん(78)は灯籠に「哲愛」と書き、長男の哲夫さん(当時22)を悼んだ。震災当時は関西学院大の2年生。下宿先のアパートが倒壊して亡くなった。

陽気なキャラクターで走るのが速く、中学のマラソン大会ではいつも1位だったという哲夫さん。新聞記者になるのが夢だった。「もう一度会いたいという気持ちは変わらない」。愛息子を思い、あふれる涙を拭った。

公園内には能登半島地震の被災者に向けて来場者がメッセージを書き込む幕が設置された。

力強い文字で「共に生きよう」とつづったのは、明石市から訪れた小学校教諭、伊藤裕貴さん(27)。震災後の生まれのため、当時の記憶はない。それでも「子どもたちに震災の教訓を伝えたい」と5年前から参加してきた。「能登半島地震の被災地を勇気づけるため、少しでも力になれたら」と話った。

「29年前に止まった時間、動き出した」

「新たに出会っていく人たちに感謝をして日々生きていきたい」。17日、東遊園地での追悼行事に遺族代表として出席した貿易業、鈴木佑一さん(34)は力強く決意の言葉を述べた。

5歳だった29年前、神戸市内の母子生活支援施設で被災し、母、富代さん(当時44)を失った。生き残った兄は別居中だった父親に引き取られ、自身は児童養護施設に。「その日から私と家族との時計の針は止まった」と振り返る。

学生時代は「自分一人の力で生きていかなければ」との気負いから、不安で眠れない日々を過ごした。母子施設の職員から手紙と富代さんの形見を受け取ったのは、そんな頃だった。

手紙には、こう書かれていた。「寂しい時は鏡を見て笑ってごらん。ゆうちゃんの顔はお母さんそっくりだよ」。初めて母に愛されていたのだと実感できた。

やがて恩師をはじめ、多くの人々との出会いを通じて、人間関係の大切さに気付くようになった。「支えてくれた人たちに感謝し、何か少しでも恩返しをしていくために生きていく」との思いは強まるばかりだ。

3年前、手紙をくれた職員と再会した。一度はつながりを切った家族のルーツを探すようになり、ともに被災した兄とも昨年11月末に再会を果たした。

29回目の命日となったこの日、初めて兄と母の墓参りに行く。「29年前に止まった私の家族の時間が今日やっと動き始めます」

冷え込んだ早朝、涙で言葉を詰まらせながら感謝の言葉を繰り返した。

阪神の経験生かし能登で奔走「恩返しを」

恩返しをしたい――。能登半島地震の被災地では17日、阪神大震災を経験した人が復旧・復興に向けた決意を語った。

「倒壊した家屋を見ると、当時の神戸の景色が思い浮かぶ」。神戸市の保健師、菅澄子さん(56)は石川県輪島市でこう語った。13日から自宅に残る被災者の体調確認や、全国から集まった保健師らの取りまとめに当たってきた。「息の長い支援が必要だ。なんらかの形で貢献していきたい」

29年前も神戸市内の避難所を回り、負傷者の手当てに奔走した。応援に駆けつけてくれた他の自治体職員への感謝の思いは今も消えることはない。「能登の自治体を少しでもサポートし、被災者への支援が届きやすくなれば」と話す。

珠洲市で学校再開の準備や子どもたちの学習支援に参加する兵庫県立芦屋高校の浅堀裕教諭(61)はこの日、地震の発生時刻に合わせて黙とう。「被災地のためにできる限りのことをしたい」との思いを新たにした。

震災当時は別の県立高校で避難所の責任者を務め、被災者のメンタルケアに当たった。これまで東日本大震災の被災地でも活動するなど、経験を積み重ねてきた。1日でも早く子どもたちが学校生活を再開できるよう、力を尽くすつもりだ。

「発生から2週間以上たつが避難所の数は減っていない」と話すのは、阪神大震災の教訓を伝える防災研究機関「人と防災未来センター」(神戸市中央区)の行司高博研究部長(55)。石川県能登町に入り、自治体職員が常駐していない「自主避難所」を巡回している。

避難者の人数や属性を調べ、行政の担当者と綿密に連携をとることで支援の漏れが生じないよう目配りする。復興まで険しい道のりが予想されるが「29年前の支援への恩返しの気持ちを込め、能登を支え続けたい」と力を込める。

戦後初の大都市直下型地震 住家被害63万棟

阪神大震災は1995年1月17日午前5時46分、淡路島北部を震源として発生した。地震の規模を示すマグニチュード(M)は7.3。最大震度7の揺れが襲った。

戦後初の大都市直下型地震で、63万9686棟の住家被害が発生し、阪神高速道路の橋脚が倒壊。兵庫県が推計した経済的被害は約9兆9千億円に上る。

建物の耐震化や木造密集市街地の解消といった防災・減災対策を進める契機となり、災害拠点病院や災害派遣医療チーム(DMAT)の整備をはじめとした災害医療の原点ともなった。

多くの市民が復旧・復興に協力したことから、95年は「ボランティア元年」とも呼ばれ、特定非営利活動促進法(NPO法)の成立につながった。

(佐野敦子、蓑輪星使、結城立浩、松冨千紘、斎藤さやか、野呂清夏)

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阪神大震災

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2024年1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする最大震度7の地震が発生。気象庁は約4時間にわたり大津波警報を発令し、日本海側の広い範囲に津波が到達しました。各地の被害状況など最新ニュースをお届けします。

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