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阪神・淡路大震災の教訓、能登の被災地救う糧に

(更新)
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6434人が亡くなった阪神大震災から17日で29年を迎えた。観測史上初めて「震度7」を記録した大災害は、住宅の耐震化や災害医療など多くの教訓を残した。当時の被災者や支援者は自らの経験を糧に、厳しい避難生活が続く能登半島地震の被災地に心を寄せ奔走している。

医療提供、自己完結型で

能登半島地震の被災地には、発生直後から全国の医療従事者が駆けつけた。赤いジャケットに身を包んだ大阪赤十字病院(大阪市)の救護班もこれまで計4班が現地入りし、避難所で被災者のケアに当たっている。

最前線で活動するメンバーを後方から支えるのは、同病院の国際医療救援部長、中出雅治医師(65)。発生直後から情報収集や救護班の編成、医療資機材の準備などで陣頭指揮に立ち、医師や看護師ら約10人で編成されたチームなどを現地に派遣した。

「自己完結型」の医療支援を活動の基本とする。同病院の倉庫には医薬品や発電機、スタッフの非常食や寝具など数千点が保管されており、救護班は4泊5日分の必要物資を大型のバン3台に詰め込んで被災地入りした。

中出さんの原点にあるのは、救護班の一員として神戸市内の避難所で診療に当たった29年前の経験だ。

住宅や道路、医療機関などが大打撃を受け、水や食料の不足にあえぐ被災地。必要な物資は距離的に近い大阪から日々運ぶことができたが、被災地への補給が困難なケースを想定すると「災害時の医療支援は、完全な自己完結型でないとダメだ」と痛感した。

数年にわたって同病院の幹部に掛け合った末、2006年に同部を創設。現地に負担を掛けない「自己完結型」の支援体制を構築するため、様々な資機材の導入や維持管理、訓練に励んできた。今回は出動していないが、外部からの補給無しで5日間活動できるテント型の野外病院施設「ホスピタルdERU(デル)」も完成させた。

災害発生時には事前登録した医師ら約150人から救護班を結成する。能登半島地震の際には発生9分後に登録者に警戒を呼びかけ、翌2日には第1陣を送り出した。「365日準備しているからこそ、災害時に力を発揮できる」

能登半島は道路が寸断されており、点在する避難所を巡回しているが1日数カ所が限界という。「軽傷なら自分で応急手当てできるようにしておくなど、一人ひとりの備えも欠かせない」。定期的に一般向け防災セミナーを開くといった啓蒙活動を続け、市民とともに災害に立ち向かうことを改めて誓う。

(佐野敦子)

住まいの再建 寄り添う

「住み慣れた家や街で暮らし続けられるようにできることをしたい」。16日、神戸市長田区の公共施設で開催された「災害復興支援を考える」と題した講演会。同区の建築士で「NGO国境なき災害支援隊」の曺弘利(チョ・ホンリ)さん(70)は能登半島地震の被災地への思いを口にした。

多数の家屋が損壊した被災地の復旧支援に携わるため、仲間と3月にも現地入りする計画だ。地震で傾いたり水道管が損傷したりした住宅の修理や、雨漏りしないよう屋根にブルーシートをかけるといったボランティア活動を念頭に置く。

1995年1月17日、ベッドから体が浮くほどの激しい揺れに襲われた。神戸市須磨区のビルに構えた事務所は火災に巻き込まれて焼失。友人らとたき火で暖を取りながら1週間ほど野宿を余儀なくされた。

同じく被災した人々の役に立ちたいと、住宅再建のための相談会を開催した。電話が鳴りやまないほど問い合わせが殺到し「限りある資金でなんとか生活を立て直そうとする人々の姿を目の当たりにした」と振り返る。

この年は全国から延べ137万人超が支援に集まり「ボランティア元年」と呼ばれた。自身も「定めというか、自然と体が動くようになった」といい、2002年のイラン北西部地震や04年の新潟県中越地震など国内外の被災地に足を運んできた。

11年の東日本大震災を機に「NGO国境なき災害支援隊」を設立。宮城県や福島県の沿岸部でがれきの撤去作業に参加するなどのボランティアに取り組んだ。

一方、阪神大震災から10年がたった頃から各地の被災地に足を運ぶ傍ら、変わりゆく神戸の姿を形に残そうと、当時の惨状や被害を免れた昔ながらの市場などを水彩画で描き続けてきた。根底にあるのは記憶の風化にあらがいたいとの思いだ。

報道で伝えられる能登の被災地の光景も描き始めた。月内にも冊子にまとめ、連携する支援団体を通じて避難所や学校などでの配布を計画する。「遠く神戸から心を寄せていることを伝えたい」

震災で「自分自身が消えてしまうような喪失感を味わった」という曺さん。そんな経験があるからこそ、ふるさとや生活の再建を急ぐ能登の被災者に寄り添い「復興に向けた火付け役のような役割を果たしたい」と力を込める。

(斎藤さやか)

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阪神大震災

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2024年1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする最大震度7の地震が発生。気象庁は約4時間にわたり大津波警報を発令し、日本海側の広い範囲に津波が到達しました。各地の被害状況など最新ニュースをお届けします。

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