災害関連死、阪神大震災の課題なお 能登の避難所に懸念
能登半島地震の被災地で、避難生活による心身の不調などで亡くなる「災害関連死」への危機感が高まっている。関連死は17日に発生から29年を迎えた阪神大震災を機に認識されるようになり、犠牲者の1割強を占めた。過去の教訓を生かし、被災者が置かれている過酷な環境の改善が急がれる。
毛布にくるまって床に横たわる被災者、その間を土足で移動する人、舞い上がる土ぼこり……。「阪神大震災から変わっていない」。5日に石川県輪島市の避難所を訪れた一般社団法人「日本避難所支援機構」(神戸市)の金田真須美事務局長は目の前の光景にがくぜんとしたという。
小学校の体育館に開設された避難所には約100人が身を寄せていたが、この時点で居住空間を被災者ごとに区切るパーティションはなかった。口内に雑菌がたまると特に高齢者は肺炎リスクが高まるにもかかわらず、歯ブラシもうがい薬も足りていなかった。
29年前に被災し、東日本大震災や熊本地震でも避難所運営などを支援してきた金田さんは「阪神大震災では避難中にインフルエンザで亡くなった人も多かった。命を守るためのノウハウが共有されていないのではないか」と警鐘を鳴らす。
建物倒壊などによる直接死ではなく、災害と死亡の因果関係が認められる「災害関連死」は阪神大震災で知られるようになった。生活環境の悪化やストレスなどが原因とされる。
同震災では、雑魚寝や不衛生なトイレ、暖房のきかない寒い部屋といった悪条件が重なり、関連死は兵庫県内で919人と犠牲者全体の約14%を占めた。
2016年の熊本地震では犠牲となった276人のうち、関連死が221人。熊本県内の218人を分析すると、70歳以上が8割に上った。死因では肺炎や気管支炎といった呼吸器系の疾患、心不全やくも膜下出血などの循環器系の疾患がそれぞれ3割を占めた。
能登半島地震の死者232人のうち、14人(18日時点)が関連死に該当するとされる。石川県内では避難所などで新型コロナウイルスやインフルエンザといった感染症の患者が増えているとの報告もあり「下痢症状を訴える人も目立つ」(支援する医療関係者)。
災害関連死を食い止めるには、避難所環境を改善し、体力や免疫力が落ちている高齢者や持病がある人のきめ細かなケアが欠かせない。
被災地では時間を追うごとに、過去の災害から積み上げてきた取り組みの成果も出始めている。
一つがエコノミークラス症候群やほこりの吸い込みを防ぐ効果が期待される段ボールベッドの活用だ。16年に国がまとめた「避難所運営ガイドライン」にも盛り込まれ、各自治体が備蓄を進めてきた。全国知事会の要請に基づき、これまでに3都県から458個が石川県に送られたという。
被災地の病院や避難所に駆けつけ、医療活動を行う災害派遣医療チーム(DMAT)は阪神大震災を機に2005年に発足した。石川県内には17日までにのべ約650隊が派遣され、負傷者の処置や入院調整などに当たっている。
同県や政府は協力し、ホテルや旅館などを活用した「2次避難所」への移行や、仮設住宅の建設を急ぐ。住環境の改善が期待される一方、住み慣れた街を離れることや、かかりつけの医療機関に通えないなどのストレスで心身の不調につながらないかが懸念される。
兵庫県立大の青田良介教授(被災者支援政策)は「長期の避難生活による心身の負担を少しでも和らげるため、自治体に被災者向けの相談窓口を設置したり、過去に災害支援を経験した専門的なボランティアを受け入れたりして、ニーズに寄り添った支援を行う体制づくりが急務だ」と話す。
簡易ベッドの緊急配備、欧米で浸透
避難所・避難生活学会常任理事を務める新潟大の榛沢和彦特任教授によると、欧米では被災者の健康を保つため、避難所などに家族ごとのテントや簡易ベッドを設置するのが一般的だ。
イタリアでは国の「市民保護局」が大災害時の被災者対応などを担う。300人超の犠牲者を出した2009年のイタリア中部地震の際は、発生から48時間以内に約1万8千人分のテントをはじめ、仮設トイレやキッチン、シャワーを各地の避難所などに配備したという。
榛沢特任教授は、2007年に能登半島で発生し最大震度6強を観測した地震時と比較し、今回は自治体の支援策が十分に追いついていない面もあったと指摘。そのうえで「災害の規模によっては、国が主導的に被災者対応に当たる環境整備も検討すべきだ」と話す。
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2024年1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする最大震度7の地震が発生。気象庁は約4時間にわたり大津波警報を発令し、日本海側の広い範囲に津波が到達しました。各地の被害状況など最新ニュースをお届けします。