がんや脳卒中リスクをAI予測 MDVや住友生命など
健康診断の結果などから人工知能(AI)を用いて疾患リスクを予測するサービスが続々と登場している。AI技術がコモディティー化し、手軽に試せるようになったことが背景にある。AI疾患予測が広がると、利用者はよりデータに基づいて健康管理をするようになり、健康増進や社会全体の医療費削減につながっていく可能性がある。
医療データ分析のメディカル・データ・ビジョン(MDV)は9月27日、がんや脳卒中を含む34の疾患について、3年以内の発症リスクを予測できるサービスを10月31日から開始すると発表した。
スマートフォンで同社が提供するアプリケーション「カルテコ」に健診結果を入力すると、発症リスクや同性同世代平均と比較したときの疾患倍率などが算出される。血圧などのバイタルサインや肝機能、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)などの血液検査値が改善すると、各リスクがどのくらい下がるかといったシミュレーションも可能だ。月額550円で提供する。
MDVのサービスに使われているのが、ソニーグループ傘下の通信会社ソニーネットワークコミュニケーションズが手掛けるAI予測分析ツール「Prediction One(プレディクションワン)」だ。
MDVの取締役事業企画本部長の柳沢卓二氏は「以前は、AIを用いて何かを検証するコストがとても高かったが、AI技術がコモディティー化してトライできる環境が整った。さらに、最近になって健診と疾患のデータをひもづけることができたため、ソニーと連携して実現に至った。データを使って生活習慣の改善を促し、病気から遠ざけるというところに高い価値があると考えている」と話す。
MDVの強みは、質の高い健康・医療データを大量に持っていることだ。MDVが持つ約5000万人という国内最大級の診療データを活用し、それにひもづいた健診結果を持つ人のデータを基に健診時からその後病気になったかどうかを機械学習し、モデルを構築した。
NECソリューションイノベータ(東京・江東)も2024年、健診結果から4年以内の11疾患の発症リスクを予測するAIを開発し、このAIを搭載した製品「NEC健診結果予測シミュレーション」の提供を始めた。匿名化した約45万人分のカルテと約10万人分の定期健診の情報を、AIの学習データとして使用している。
AIを用いた疾患予測サービスを提供するのは、IT(情報技術)系企業にとどまらない。住友生命保険は23年、保険業界初となる自社で保有するデータや日々の活動データを活用したAI疾患予測サービスの提供を開始した。同社の健康増進をサポートする保険「Vitality(バイタリティー)」で利用するアプリに搭載する。健診結果や日々の活動データから2年以内の5疾患の発症リスクを予測する。同社が保有する約100万件のVitality会員の健診結果などのデータを活用した。自社で自由に機能拡張できるメリットを鑑みて、AIは内製という。
住友生命保険 情報システム部AIオフィサーの藤澤陽介氏は「ウエアラブルデバイスなどから取得できる日々の活動データを用いることは保険会社のサービスとしては新しく、他サービスと差別化できるポイントだ」と力を込める。生命保険事業は、疾患予測から健康増進を働きかけ、万が一のときには経済的な補償を提供する一連の流れをつくることができるため、AI疾患予測サービスと親和性があるという。
こうした健康・医療データを活用する動きが広がれば、将来的には今まで相関関係が見られなかった生活習慣や検査値と疾患の関連が新たに判明することにもつながりそうだ。人々はよりデータに基づいて健康管理をするようになり、こうしたセルフケアの発展は健康増進を促し、医療費の削減も期待できる。
健康・医療データ収集に熱視線
AI疾患予測サービスを立ち上げるには、まずは健康・医療データの収集が欠かせない。前述した各社の他、業界横断でもデータ収集に動きを見せている。
例えばNTTドコモ・ベンチャーズと中部電力、YKKAP、大東建託の4社は10月4日、医療系新興企業であるトータルフューチャーヘルスケア(TFH、東京・港)に共同出資し、高齢者の認知症などの兆候を早期発見するプラットフォームを開発すると発表した。建物に設置するセンサーによる転倒検知に加えて、顔画像から血液検査の推定値を手軽に測定できるようにして健康・医療データを収集する。
将来的には、データを蓄積し、NTTドコモが持つ利用者の健康状態や生活習慣などをAIで分析できる基盤を用いて、食事・運動などの予防の提案へ活用したい考えだ。
家庭で計測できるような健康・医療データはウエアラブルデバイスなどを通じて収集できる。だがそれ以外のデータ収集は難易度が高い。
MDVは、03年から病院経営を支援するシステムを提供して医療機関と信頼関係を築いてきた。こうした取り組みによって、匿名加工した大量のデータを病院から得られるようになった。その他の企業は、提供する健康アプリなどに医療・健診データを入力してもらうことで、データを収集しているケースが多い。
経済産業省の調べによると、公的保険外のヘルスケア産業の市場規模は20年時点で18.5兆円のところ、50年には59.9兆円と約3倍に拡大する見込み。企業のAI疾患予測サービスの提供や、健康・医療データ収集の動きはますます過熱していきそうだ。
(日経Gooday 原田寧々)
[日経ビジネス電子版 2024年10月25日の記事を再構成]
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