ヤフー、欧州でサービス提供中止 法令順守の採算合わず
Zホールディングス傘下のヤフーは1日、英国と欧州経済地域(EEA)で大半のサービスの提供を4月6日以降に中止すると発表した。検索サイト「ヤフージャパン」やニュースサイト「ヤフーニュース」がこれらの地域からは閲覧できなくなる。「コストの観点で、欧州の法令順守を徹底するのが難しくなったため」(ヤフー)としている。
これまでは欧州に滞在する日本人などの利用を想定して、欧州からヤフーのサービスを利用できた。約100ある同社のサービスのうち、無料のメールサービス「ヤフーメール」、クレジットカード「ヤフーカード」、電子書籍サービスを除いて提供をやめる。
欧州からの利用者は全体の1%程度にとどまっていた。ヤフーは「利用者には大変なご不便をおかけして申し訳ない」とコメントしている。現時点で、米国など欧州以外でのサービス提供を中止する予定はないという。
ヤフーはサービス中止の詳細な理由を明言していないが、欧州におけるデータ保護や海外プラットフォーマーに対する規制のさらなる強化を懸念したようだ。欧州連合(EU)は世界で最も厳しいとされる情報管理を企業に求める一般データ保護規則(GDPR)を2018年に施行し、違反には制裁金が科される。
「現段階でGDPRに抵触はしていないが、今後さらに厳しくなることも想定される」(ヤフー関係者)。世界のデータ法制に詳しい杉本武重弁護士は「1月に米グーグルと米メタ(旧フェイスブック)が(ウェブサイトの閲覧履歴を保存する)『クッキー』の規制違反でフランス当局から約270億円の高額の制裁金を科され、GDPRのリスクが格段に上昇したと判断するきっかけになったのでは」と指摘する。
また欧州議会で1月20日に可決された「デジタルサービス法案」は、EU人口の10%に相当する利用者を抱えるなどの条件を満たす企業に対し、違法コンテンツの削除や広告の適正な表示を義務付ける。ヤフーはこの規制の対象外とみられるが、今後さらに海外のIT(情報技術)企業への規制が強まると見て中止を決めたようだ。
規制強化に伴って必要になる可能性があるサービスの再設計、当局との交渉や情報収集にあたる社員の人件費などが膨らむとみて「採算が合わない」(ヤフー)と判断した。
今回の措置はGDPRを基にしてデータ保護ルールを自国で定める英国も対象だが、EUやEEA不参加のスイスは含まれない。ただ「あくまでヤフーは日本の法令を順守し、国内でのサービス提供が主体。規制対応とコストを踏まえ、今後サービス提供の中止を拡大する可能性はある」(関係者)。GDPRなどのデータ保護規制などを念頭に、日本の大手IT企業が欧州でのサービス提供を中止する例は珍しい。
(池下祐磨)
関連企業・業界