投資用中古マンション、頭打ち傾向強く 都心3区は好調
先日、9月の中古マンションの平均希望売り出し価格が、東京23区で前月比3.9%高の8053万円となったとの報道がありました。東京23区内の居住用中古マンションは値上がり傾向が続いているようですが、投資用マンションはどんな状況なのでしょうか。2023年11月に本連載において筆者が書いた「投資用マンション曲がり角? 利回り低下、金利上昇注意」では、金利動向に注意すべきだと申し上げました。24年3月のマイナス金利解除、7月の利上げを受けて投資用中古マンション市場にどんな変化が生じているか調べてみました。
23区を6つに分けて価格を推定
2019年1月から24年9月末までの賃借人付き中古マンションの成約データ(東京23区内に存する専有面積40平方メートル以内のデータ5858件)を用いて分析しました。今回は、都心3区(千代田区、港区、中央区、1116件)、副都心4区(渋谷区、新宿区、豊島区、文京区、1566件)、城南地区(品川区、目黒区、大田区、821件)、城西地区(世田谷区、杉並区、中野区、840件)、城北地区(練馬区、板橋区、北区、564件)、城東地区(台東区、荒川区、墨田区、江東区、江戸川区、葛飾区、足立区、951件)の6地区にわけて動向を探ります。これらのデータを用いて、6つの地区において、最寄り駅から徒歩5分、専有面積25平方メートル、所在階3階、築25年という主な品質が共通する投資用中古マンション価格に換算して半年毎の価格推移を推定しました。グラフはその結果です。
都心3区が突出、ほかは横ばい
都心3区だけが突出した価格上昇を見せています。金利上昇の影響を受けにくい、資金的に余裕のある層が投資しているのだと思います。あるいは、相続対策で現金を不動産に換えておきたいという人もいると思われます。
一方、城南地区と城西地区は24年前期から早々に横ばい傾向となっています。副都心4区と城東地区は24年後期から横ばい傾向となっています。このエリアは金利上昇に反応した可能性が高いと筆者は考えています。城北地区については今のところ上昇傾向ですが、元々、城北地区と城東地区における価格差はほとんどなかったものの、23年後期から城東地区との格差が広がったことが背景となり、これを追いかけるように城北地区の価格が上昇したと思われます。現在はおおむね同じ程度の水準となっているので、この先は横ばい化する可能性が大きいと見ています。以上から、都心3区以外は横ばい傾向が定着しつつあると言えるのではないでしょうか。
金利0.25%上昇で赤字も
金利上昇とはいえ、上がっても0.25%程度であり、不動産市場に影響を与えるほどではないと考える方も多いでしょう。ここで簡単な計算例を見てみましょう。
1800万円で年間収入90万円という投資用中古マンションを、自己資金100万円、借入金1700万円(金利1.5%、30年元利均等返済)で購入すると想定します。管理費や固定資産税などの運営費用を年間18万円とすると税引き前元利返済前の純収益は72万円となります。金利が1.5%なら毎年の元利返済額は概算で70万8000円となるので、純収益で賄うことが可能です。しかし1.75%になると元利返済額は概算で73万3000円になり、純収益では支払えなくなります。この場合、自己資金を増やすか、購入価格を下げるかしかなくなるので、0.25%の金利上昇でも投資需要は押し下げる効果があると筆者は考えています。
物件選びの眼を磨く
今回、都心3区以外の投資用中古マンション価格は横ばい傾向が顕著になってきたことが分かりました。リーマン・ショック以降、投資用中古マンション価格は上昇傾向が続いていたので、多くの人が一定のもうけを得ることができましたが、今後は物件選びの眼をこれまで以上に磨いていくことが重要になりそうです。
(20代からのマイホーム考 第112回)
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、「あゆみリアルティーサービス」を設立。不動産・相続コンサルティングを軸にした仲介サービスを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」にも参画。
住宅資金は老後資金、教育資金と並ぶ人生三大資金です。20代、30代から考えたい「失敗しないマイホーム選び」について不動産コンサルタントの田中歩氏が解説します。隔週月曜日に掲載します。
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