みずほ、会長・社長・頭取の退任発表 金融庁が行政処分
みずほフィナンシャルグループ(FG)は26日、相次いだシステム障害の責任をとって坂井辰史社長とみずほ銀行の藤原弘治頭取が2022年4月1日付で辞任すると発表した。佐藤康博FG会長も退任し、経営陣がいっせいに交代する。障害の頻発を招いた企業風土を変えられず、システムの安定稼働に必要な資源配分ができなかった。26日に記者会見した坂井社長は「痛恨の極み。本質的にすべて経営の問題である」と述べた。
藤原頭取の後任には加藤勝彦副頭取が就く。社長の後任は白紙で指名委員会が選定を急ぐ。坂井社長は「グループトップとして最大の責任を担う私がけじめをつけるべく辞任することが、みずほにとって一番いいと判断した」と述べた。来春まで職務を続けることについては「しっかりとした再発防止策をつくり、風化させないようにする」と説明した。
金融庁は26日、今年8度のシステム障害を起こしたみずほ銀とみずほFGに業務改善命令を出した。「短期間に複数のシステム障害を発生させ、個人・法人の顧客に重大な影響を及ぼした」として経営陣の責任を追及。22年1月17日までに再発防止などの改善計画を提出するよう求めた。
みずほは旧3行の統合時の02年や11年の東日本大震災直後にも大規模な障害を起こし、金融庁はいずれも改善命令を出した。100万件以上の取引に影響した過去2回に比べ今回の影響は限定的だが、「過去の教訓を踏まえた取り組みには継続されていないものがある。自浄作用が十分に機能していない」と指摘。過去に処分を受けてもシステム部門を軽視した経営陣の責任を重くみた。
金融庁の約8カ月にわたる長期検査で浮き彫りになったのは、みずほのIT(情報技術)に関する統治体制の欠陥だ。金融庁は改善命令で「システムにかかるリスクと専門性の軽視」「IT現場の実態軽視」と経営陣の認識の甘さを厳しく指摘した。
みずほが4500億円を投じ、19年に全面稼働した基幹システム「MINORI(みのり)」は複数のベンダーが関わる複雑な構造。運営には相応の人員が必要だったものの、坂井氏が主導する構造改革でシステム部門の人材が大幅に減ったことが「運営態勢を弱体化させている」という。
障害発生時の連携の不備も指摘した。21年2月のATM障害では情報共有や手順確認が不十分で復旧に時間がかかり、顧客への影響を広げた。他の部署に自発的に意見を出しにくい縦割りの企業風土があり、「顧客影響に対する感度の欠如」、「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢」と批判した。
執行部の監視・監督を担う社外を含む取締役の責任にも言及し、構造改革に伴う人員削減や業務量の状況について「十分に審議していない」とした。チェック機能が十分に働いていなかった可能性がある。
直近9月に発生した外国為替取引に関するシステム障害では法令違反も発覚した。マネーロンダリング(資金洗浄)に関係する可能性がないか事前に確認する手続きを省いて海外送金をしていた。財務省は26日にみずほに是正措置命令を出し、12月17日までに再発防止策などを盛り込んだ報告書を提出することを求めた。1998年の改正外為法施行後、初の是正命令となる。
鈴木俊一財務・金融相は26日の閣議後記者会見で「みずほには強い危機意識をもって再発防止に万全を期してもらいたい」と述べた。
金融庁はみずほに対し、システム障害だけで計4回の業務改善命令を出したことになる。だが過去の処分はシステムの安定稼働を最大限重視する企業文化につながらなかった。外部の弁護士らでつくる第三者委員会の調査では18年にみずほ銀でATMがカードを取り込む事例が約1800件発生していたことが判明。みずほは当時公表せず、システム改修など必要な措置も講じなかった。
金融庁が21年9月にみずほのシステムを実質的に管理する改善命令を出した際も、約1週間後に新たな障害が発生。障害が再び起きれば、金融庁の責任も大きくなる。
システム問題はみずほだけにとどまらない。金融庁によると、日本の金融機関全体で20年度に約1500件の障害が発生した。IT投資額も年1兆円にのぼる米銀がある一方、日本の大手行は年2000億円弱にとどまる。国内金融機関は改めてシステムに向き合うことが求められる。
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