iDeCoの受給、75歳まで選択可能 公的年金と組み合わせ
シン・イデコ(4)
2022年は個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」が大きく変化する年なので、「シン・イデコ」と称して新しいiDeCo活用術を考えています。iDeCoは22年4月に受給開始年齢を75歳まで遅らせられるようになりました。今回はこのテーマについて考えてみたいと思います。
「相続目当て」とは見なされない時代
iDeCoや企業型確定拠出年金(企業型DC)は60歳以降に受け取ること(原則、60歳まで解約できない)が基本ですが、遅くもらう方には「70歳まで」に受け取り始めなければならないという制約がありました。
DCの法律をつくった2000年ごろの感覚では「70歳まで受け取らない人は運用益が非課税という税制メリットを活用しながら、実質的に相続財産にする狙いがあるのだろう。これはけしからん」という発想があったからです。
今では人生100年時代といわれるようになりました。DCを年金払いにすると5~20年で受け取ることを求められますが、仮に70歳から90歳まで受け取ったとしても、まだまだ元気な人はたくさんいます。
「70歳までもらわないこと=自分は使うつもりがない」という決めつけは過去のものとなりました。そこで今年の4月からは「受け取り開始年齢を75歳まで遅らせてもよい」となったのです。これはiDeCo、企業型DCの双方に適用されます。
公的年金制度に足並みそろえる
年金制度についてご存じの方は「75歳といえば?」と思いつくところがあるかもしれません。そうです。公的年金の受給開始年齢の「繰り下げ」が75歳までにできるようになったのも同じタイミングです。
国の年金は65歳の受給開始を標準としつつ、60歳から早くもらう「繰り上げ」、66歳以降最大で75歳まで遅くもらい始める「繰り下げ」ができます。こちらも70歳から75歳まで5年遅くできるようになりました。
iDeCoは自分で運用をして増やす時間の増減が受給額に影響しますが、公的年金は機械的に増減率が決まります。1年早くもらい始めれば4.8%ダウン、1年遅くもらい始めれば8.4%アップです。
国の年金が繰り下げの年齢を延ばしても60歳からの繰り上げ受給は廃止していないのと同様に、iDeCoも「60歳からもらう」選択肢は残されました。受給開始年齢は「60~70歳到達」から「60~75歳到達」まで5年拡大し、選択肢が拡大したことになります。ここがミソです。
iDeCoや企業型DCは公的年金と別に考える
一見すると「公的年金もiDeCoも繰り下げをして遅くもらい始めましょう」と誘導しているように見えますが、どのように受け取るのかは私たち自身が選択できます。もちろんiDeCoや企業型DCと、公的年金の受給開始年齢を同じにする必要もありません。
つまり、公私それぞれの制度の受給開始時期を違えて組み合わせてもいいということです。
ただし、公的年金を早くもらい始めて(繰り上げにより減額される)、iDeCoを75歳からもらうというのはあまり意味がありません。考え方としては「公的年金は遅く」することを前提にしつつ「iDeCoの受け取り開始年齢は自由に」ということになります。いくつかのパターンを考えてみましょう。
まず「iDeCoの受給開始を遅らせる」のパターンです。75歳まで現役時代と変わらぬ収入を得られる人は、公的年金も繰り下げをして増額し、iDeCoも完全リタイア後に受け取ればいいでしょう。リタイア後の豊かな生活が約束されます。
株価下落時に「もう少し市場が回復するまで受け取りを遅らせたい」という選択もできます。市場回復が想定以上に遅くなる可能性に注意が必要ですが、75歳まで選択肢が増えたことがメリットになりそうです。
しかし、次のパターンはちょっと工夫をしてみます。「公的年金とiDeCoの受け取り開始時期をずらす」方法です。
あえてiDeCoを早く受け取るWPP理論
日本年金学会などで何度か議論されている話題のひとつに「WPP理論」があります。「長期間の就労による収入(Work Longer)」と「iDeCoを含めた私的資金の取り崩し(Private Pensions)」を積極的に活用し、「公的年金(Public Pensions)」を数年でもいいので繰り下げ・増額を果たして一生涯の安心できる収入源にしようというものです。
例えば「60~64歳までは働く」「65~69歳まではiDeCoや企業型DCを取り崩して暮らす」「70歳から42%アップした公的年金で暮らす」のような形で、先にiDeCoを取り崩してしまいます。
あるいは65歳以降も働くけれど年収が大幅にダウンすることになったので、給与収入とiDeCoの受給を組み合わせ、完全リタイアまで公的年金には手をつけないという選択肢もあります。
「75歳までもらわなくていいiDeCo」をあえて「公的年金より早くにもらいきってしまう」ことが、結果として公的年金の終身増額を実現し「75歳まで繰り下げできる公的年金」のメリットが生まれるというわけです。
「iDeCoの受給開始75歳まで拡大」の法律改正については、あえて逆の見方もしてみると、活用方法の選択肢がぐっと広がってくるかもしれません。
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フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)、「日本版FIRE超入門」(ディスカバー21)など。http://financialwisdom.jp
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