「疑似中小企業」が税逃れ、減資企業3割増 税収減続く
資本金1億円超の企業が外形標準課税の支払いを逃れるため、減資して「疑似中小企業」となる動きが相次ぐ。2022年度に1億円以下に資本金を減らした企業は21年度より3割増えた。放置すれば税負担の公平性や税収の安定確保が揺らぐ恐れがあり、総務省は対策を急ぐ。
総務省は6日、外形標準課税の新たな基準として資本金と資本剰余金の合計が一定額を超えた場合に課税する方向性をまとめた。
形式的に減資をしても課税対象になるようにする狙いだ。背景には、業績の伸び悩む企業が税負担を軽くするために減資する事例が後を絶たないことがある。
東京商工リサーチによると、23年3月末時点で過去1年間に1億円以下に減資した企業は前の年より29%多い1200社ほどだった。21年度の外形課税の対象法人はおよそ2万社で、ピークの06年度の3分の2程度まで減った。外形課税のみの税収も17年度以降は減少が続く。
23年に入ってからは料理宅配の出前館が5月、資本金を3億7572万円から1億円に減資すると発表した。新型コロナウイルス下では料理宅配が堅調だったが、足元では外食機会が増えて宅配利用は減少した。
経営再建中の後発薬大手、日医工は23年3月に資本金を359億7586万円から1億円に減らした。「いきなり!ステーキ」などを運営するペッパーフードサービスは23年9月、9億2822万円から1000万円に減資すると明らかにした。
すでに1億円以下の中小企業にとっては、資本金を資本剰余金に移す利点はないため影響は小さいとみられる。
外形標準課税は都道府県が企業に課す法人事業税の一部で、変動の大きい所得ではなく資本金の規模などに応じて徴収する。都道府県が安定した税収を得るため、所得への課税よりも景気に左右されにくい方式として04年度に導入した。
企業にとっては赤字でも税金を払うことになるため、負担が増える。東京都の石原慎太郎元知事は2000年、全国に先駆けて大手銀行を対象に外形標準課税を導入した。大手行から地方税法に違反しているなどと訴えられて裁判となった経緯もある。
総務省は15、16年度に法人事業税に占める外形標準課税の割合を段階的に広げ、17年度以降は法人事業税収の5〜6割に上るまで増えた。近年は企業業績が好調なため、所得のみで課税した場合に比べて税収は少ないと試算する。
慶大の土居丈朗教授は「問題視されている企業による減資は外形標準課税を導入し、さらに10年代半ばに拡大したことが拍車をかけた」と指摘する。「今回基準を見直してもいたちごっこになるのではないか」と話す。
総務省は持ち株会社化や分社化による節税にも手を打つ。資本金と資本剰余金の合計が一定額以上の企業が子会社に工場や従業員を移して納税額を減らそうとした場合、100%子会社であれば課税対象にする方針だ。
実際の制度改正に向けた議論は難航も予想される。対象は異なるものの、政府が経済対策の目玉に据えた減税策とちぐはぐな印象を与えかねないためだ。企業の負担増を避けたい日本商工会議所や経済産業省は慎重な姿勢を示している。