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ワクチン目当ての米国観光、活発に 外国人客にも提供

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米国で新型コロナウイルスのワクチン接種を観光客に提供する動きが広がっている。接種時に居住地を問わないため、接種を受ける外国人観光客も多い。各国で注目が高まる米国への「ワクチンツアー」は貧富の差を背景とした接種機会の格差を広げるとの懸念もある。

「こんなに早くワクチンを接種できて感謝している。私の国では何カ月も待つのに」。南米コロンビア人の観光客、ステファニ・デルクさん(30)は16日、東部ニューヨーク市のセントラルパーク内で接種を終えた。滞在は1週間の予定で、これから米国内を観光するという。

ニューヨーク市は5月、コロナ禍で打撃を受けた観光業を盛り上げるため観光客へのワクチン提供を始めた。タイムズスクエアといった観光名所に仮設の接種会場を設ける。予約は不要だ。デルクさんもパスポートの提示だけで、米ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンを接種した。

アラスカ州も6月から、州内の主要空港で観光客がワクチンを接種できるようにする。観光シーズンに向けて国内外から観光客を呼び込む狙いだ。ダンリービー知事は「この夏にアラスカを訪れる絶好の理由になる」と期待する。

観光客にワクチンを提供する州が相次ぐのは、国内でワクチン需要が低下しているためだ。米疾病対策センター(CDC)によると、12歳以上人口のうち4割超が接種を完了した。需要を上回る供給が続いており、期限切れのためワクチンを破棄するケースもある。

米カイザー・ファミリー財団(KFF)の18日時点の調査によると、接種に居住条件がない州は50州のうち24州に上る。南部フロリダ州は4月末、居住条件をなくした。不法移民や避暑・避寒目的での短期滞在者へ接種を促すため、多くの州で接種の条件を減らした。結果的に外国人観光客でも接種を受けられるケースが増えた。

ワクチン目当てで各国から観光客が訪れるが、なかでも中南米からが目立つ。行き先は接種に居住条件がなく、中南米から距離が近い米南部の州が多い。

「ワクチン接種のための移動に救われている」。メキシコの首都メキシコシティで旅行会社を営むアレハンドロさんはこう話す。感染拡大で観光需要が落ち込み、人員や保有車両の削減に追い込まれた。それが3月以降は、「ワクチン特需」が支えになり始めた。

メキシコから近い南部テキサス州のダラスやヒューストン、西部アリゾナ州、南部ルイジアナ州などへの航空券がよく売れている。2回の接種のために2往復する人と、一度の訪米ですませるために1カ月近く滞在する人の両方のケースがあるという。

旅行会社の中にはワクチン接種会場への移動や宿泊費をセットにしたパッケージ商品を販売し始めたところもある。メキシコから米国行きの航空券の販売が増えているほか、前日や当日の予約に対応するチャーター便の利用も人気を集めている。チャーター機運営のフライセレクトの場合、7人程度を収容するジェット機でメキシコシティ郊外のトルーカからヒューストンまでは税別で1万2460ドル、サンアントニオまでは1万1880ドルで運航する。

注目が高まるワクチンツアーには懸念も残る。世界保健機関(WHO)は4月、接種されたワクチンのうち9割近くが高所得国に集中していることを明らかにした。富裕層を中心に他国で接種できる状況が広がれば、ワクチンの接種機会を巡る格差の拡大につながるとの見方もある。

ワクチン接種後は免疫ができるまでに1~2週間程度かかるといわれる。急増する観光客がその間、移動すれば感染を広げる可能性もある。ニューヨーク市のデブラシオ市長は記者会見でこの点を問われると明言を避けつつ「世界はつながっており、観光客の接種は長期的に見れば我々の役に立つ」と語った。

ワクチンツアーが今後さらに広がるかどうかは、各国の水際対策も関係する。ワクチン接種などを条件に帰国後の隔離が必要ない場合、ワクチンツアーに参加しやすい。

一方で、日本などワクチン接種の有無にかかわらず隔離が必要な国は帰国後の行動が制限されるため、二の足を踏む人も多い。東京都の会社員(40)はワクチン接種目的での渡米を検討したものの、帰国後の隔離期間や政府が定める形式に基づいたコロナの陰性証明書を現地で取得することなどがネックになり断念したという。

(ニューヨーク=山内菜穂子、メキシコシティ=宮本英威)

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