韓国国会、韓悳洙首相の弾劾案可決 与野党が激しく対立
【ソウル=甲原潤之介】韓国国会は27日、大統領権限を代行する韓悳洙(ハン・ドクス)首相に対する弾劾訴追案を可決した。最大野党「共に民主党」が憲法裁判所の裁判官の任命を保留した韓首相の弾劾を推進した。与野党があらゆる場面で対立し、政局の混迷が深まっている。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の職務停止に伴う韓首相の代行体制は2週間あまりで幕切れとなった。韓首相は27日夕、国会から弾劾訴追議決書を受け取り職務停止となった。崔相穆(チェ・サンモク)経済副首相兼企画財政相が権限代行に就いた。
政情不安の影響は金融市場にも波及した。27日の外国為替市場では韓国の通貨ウォンが売られ、一時1ドル=1480ウォンを下回り2009年3月以来のウォン安・ドル高水準を付けた。3日の非常戒厳以降、ウォンの下落が続いている。
韓国株式市場では総合株価指数(KOSPI)の終値が前日比24.90ポイント安の2404.77だった。米シティグループは27日付のリポートで「政治的な不確実性がより長期にわたって高まる可能性がある」と指摘した。
韓首相は弾劾案の可決後に「国会の決定を尊重し、これ以上の混乱と不確実性を加えないため、関連法に基づき職務を停止する」と表明したが、与野党の対立は根深い。
憲法で大統領に対する弾劾案の可決ラインは3分の2以上とし、それ以外は過半数と定める。大統領権限を代行する首相の弾劾訴追は前例がなく、明確な規定が存在しない。野党は可決ラインを過半数、与党は3分の2以上と主張した。
野党出身の禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長は採決前に、過半数の可決基準を採ると表明した。与党議員は投票を拒否し、議長席の周りに集まり抗議した。野党議員らが賛成票を投じ、弾劾案は可決した。
与党は国会による弾劾訴追が無効だと訴え、憲法裁に効力停止の仮処分を申請した。
大統領の弾劾訴追による職務停止は3例あるが、権限代行者の首相まで弾劾されるという初の事例に行政当局は混乱している。
崔副首相は採決後、談話を発表した。「国政の混乱を最小限に抑えることが何より重要だ。国政安定に最善を尽くす」と強調した。公務員にそれぞれの責任を果たすよう求め、国民には「成熟した市民意識と政府の責任ある対応が合わされば、危機を乗り越えられると確信する」と訴えた。
韓首相と野党の対立のきっかけとなったのが、尹氏の弾劾審判を進める憲法裁判所の人事だ。裁判官9人のうち国会が選出する3人の枠が空席のため、国会で多数を握る共に民主党は26日、野党単独で人事を進めた。
人事は国会の選出後に大統領が任命する仕組み。韓首相は26日、与党が合意していない人事案を承認できないとして任命を保留した。これに野党が反発し、共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表は27日、韓首相を「内乱勢力」と位置づけた。
野党は憲法裁の裁判官を早期に補充したい考えだ。現在の6人体制は弾劾審判を継続できるギリギリの体制で、1人でも弾劾に反対すると訴追が棄却される可能性があるためだ。権限代行に弾劾をちらつかせ、裁判官を任命するよう引き続き圧力をかけるとみられる。
野党が代行の弾劾を繰り返せば、行政機能を停止させているとして世論の批判を浴びるリスクがある。
与党は尹氏の弾劾に反対した立場から、憲法裁の裁判官補充には消極的だ。経済や外交への影響を考えず野党が弾劾を乱発していると主張し、世論の理解を求める考えだ。
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(更新)
韓国の尹錫悦大統領が12月3日、野党多数の国会が行政をまひさせていると訴え「非常戒厳」を宣言、4日未明に解除されました。韓国国会は14日、宣言が憲法違反だとして野党が提出した弾劾訴追案を可決。尹氏は職務停止となりました。最新ニュースと解説をお伝えします。