あなたの「心のベアリング」は何ですか?
日本精工・市井明俊社長(9月2日)
日本精工(NSK)は、ベアリングを作る会社です。ベアリングは、あらゆる動き、特に回転運動を滑らかにするための部品です。摩擦や抵抗を減らし、少しでも速く、長く、強く、そして静かに動かすために必要不可欠なものです。動力を効率よく伝える役割を担っており、自動車や電車、航空機、家電、工作機械など多くのものに使われています。部品として内蔵されることが多いので外から見えにくいですが、ベアリングはなくてはならない部品なので、機械産業のコメといわれることもあります。
仕事や家庭など、私たちの日常生活の中にも、様々な摩擦や抵抗があります。例えば前例のないことをやろうとする時、反対の声を押し切る時、失敗の可能性がみえる時など、摩擦や抵抗が生まれ、挑戦する気持ちにブレーキがかかります。そんな時、一歩踏み出す勇気や元気を与えてくれるもの、前向きに頑張ろうと思わせてくれるものがあれば、私たちは動き出すことができます。いわばやる気を動かしてくれる「心のベアリング」です。
ある人にとっては、子供など家族の笑顔がそうかもしれません。お客様からの「ありがとう」のひと言が、心のベアリングだという方もおられるでしょう。上司や同僚からの励ましであったり、仕事の合間の1杯のコーヒーがその役割であったり、人には様々な心のベアリングがあります。
NSKという会社にも、心のベアリングがあります。それは何ごともワイワイ、ガヤガヤ話し合う企業風土です。中でもお客様との気兼ねのない対話がNSKにとって大事なプロセスで、こうした楽しいやり取りから、いくつものヒット商品が生まれました。最近の例では、今春実用化した搬送アシストロボットです。医療現場の皆さんと対話を何度も重ね、形にしました。NSKにとって、お客様の期待を形にする心のベアリング、ワイガヤのたまものです。
一見無理やむちゃに思えるお客様の要望や、自らの失敗やエラーが、仕事の障害になることがあります。そんな時、自分の心の中にあるベアリングを動かすことで、再び歩き出すきっかけになります。その結果、停滞していた仕事が完遂し、新しい商品やサービスが生み出されることもあるでしょう。
生成AI(人工知能)の登場で、人間の仕事が失われると心配する声もあります。事務処理などの単純な仕事はAIの方が速く正確かもしれませんが、人間にしかできない仕事もたくさん残っています。心に自分なりのベアリングを持つこと、それを動かすことで目標に向かって進むこと、円滑な動きを止めないこと、そして成果を生み出すこと。これはAIにはできません。
そこで読者の皆さんにお願いです。あなたにとって心のベアリングは何ですか。どんな言葉やどんな瞬間が、あなたのやる気や元気を後押ししてくれますか。きっとお金では買えない、あなただけの貴重なものだと思います。そして心のベアリングが動いたことで、どんな果実を手にすることができましたか。ぜひ教えてください。
編集委員から
インタビューで市井社長にあなたの心のベアリングは何かと尋ねると、少し考えて「私にとってだけでなく、NSKという会社にとって、ワイガヤかな」と返ってきた。100年以上、ベアリングを作り続けるNSKは、職場の仲間と忌憚(きたん)なく話し合うのはもちろん、取引先ともざっくばらんに意見を交わすのが、企業としてのDNAで、それが心のベアリングなのだという。
取材をしながら考えた。筆者にもあるだろうかと。前向きに仕事に取り組むための心のベアリング。脱稿した直後の爽快感、開放感がそれに当たるかもしれない。執筆の最中はうなり、苦しむ。締め切りは容赦なく迫ってくる。ヒリヒリ感を乗り越え、書き上げた時の気持ち良さはたまらない。あの爽快感を味わうために企画を考え、取材し、記事を書いているのかなと思った。動き出すために必要なもの、動き出したらより強く、より早く推し進めてくれるもの。そんな心のベアリングを持つことで、少し強くなれる気がする。(編集委員 鈴木亮)
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今回の課題は「あなたの『心のベアリング』は何ですか?」です。420字程度にまとめた皆さんからの投稿を募集します。締め切りは10日(火)正午です。優れたアイデアをトップが選んで、24日(火)付の未来面や日経電子版の未来面サイト(https://www.nikkei.com/business/future/)で紹介します。投稿は日経電子版で受け付けます。電子版トップページ→ビジネス→未来面とたどり、今回の課題を選んでご応募ください。